「プロジェクト会計」って何だろう?
「会計」とは、会社の支出や業績を利害関係者に説明するための業務です。利害関係者には会社の出資者となる株主や投資家(ファンド)はもちろん、会社の従業員や講義では会社が属する自治体も含まれます。企業は、こうした利害関係者に経営状況を説明する義務があり、会計はそのために存在します。
では、プロジェクト会計とは何か?
一言でいえばそれは「プロジェクトの原価を管理すること」です。プロジェクトの原価とはつまり、成果物が完成するにあたって投じた原材料、購入部品、直接労務費、間接労務費などを指します。
これらの原価をなぜ管理する必要があるのか。第一に、日本では財務諸表作成にあたって正確な情報を提示するために、原価計算基準にのっとって正確な原価を算出することが推奨されています。
「わが国における原価計算は,従来,財務諸表を作成するに当たって真実の原価を正確に算定表示するとともに,価格計算に対して資料を提供することを主たる任務として成立し,発展してきた。」
原価計算基準にのっとった原価管理は義務ではないものの、公正公平な取引を行うため、正確な原価情報をもとに財務諸表を作成することが求められています。
原価管理が必要なもう一つの理由は、正確な原価情報を管理することで無駄なコストを削減し、企業収益を確保するためです。
日本では上場企業からベンチャー企業まで「蓋を開けてみたら赤字だった」プロジェクトが無数に存在します。利益を出すためのプロジェクトだったはずが、気づけば赤字になり、さしたる利益も得られなかったという事例が少なくないのです。
こうしたプロジェクトを排除し、企業収益を確保するためのプロジェクト原価を管理し、そこに投じる資産などを調整します。これがプロジェクト会計です。
プロジェクト会計の勘定科目
プロジェクトにかかる原価を管理するためには、まず勘定科目ごとに費用を計上する必要があります。主な勘定科目は次の通りです。
直接材料費
製造業において商品を製造するために直接的にかかった材料費を指します。主要材料費(原料費)、購入部品費が該当します。
直接労務費
製造ラインに投じた人件費など、商品を製造するにあたって直接的にかかる労務費を指します。
直接経費
外注加工費など、商品を製造するにあたって直接的にかかる経費を指します。
間接材料費
直接的ではないにしろ、商品を製造するにあたって不可欠な材料費を指します。補助材料費、工場消耗品費、消耗工具器具備品費が該当します。
間接労務費
賞与や福利費など製造には無関係なところで人材にかかった費用を指します。間接作業賃金、間接工賃金、手待賃金、休業賃金、給料、従業員賞与手当、退職給与引当金繰入額、福利費(健康保険料負担金等)が該当します。
間接経費
機械設備の減価償却費など、商品の製造に間接的に関わる費用を指します。福利施設負担額、厚生費、減価償却費、賃借料、保険料、修繕料、電力料、ガス代、水道料、租税公課、旅費交通費、通信費、保管料、たな卸減耗費、雑費が該当します。
※原価計算基準「費目別計算における原価要素の分類」より抜粋
もっと見る:原価計算って何?その目的と種類について
プロジェクト会計はサービス業こそ必要
サービス業の多くは複数のプロジェクトから業務を実践しています。
例えばシステムインテグレーターを例にとると材料費や購入部品費かからないがシステムインテグレーションにおいて、なぜSEのプロジェクト会計が必要なのでしょうか?その最たる理由は、システムインテグレーションにかかる経費のほとんどが労務費だということに起因しています。労務費は材料費や購入部品費に比べて視覚化されづらいため、正確な原価計算による管理が必要です。
おそらく、システムインテグレーションほど「蓋を開けてみれば赤字だった」プロジェクトの数が多い業界はないでしょう。労務費以外にも原因はあります。それは「いくらでも人員を投入できること」です。
製造業の場合、製造ラインに投入できる人員の数は限られています。2人での作業が最も効率良く行えるラインに対し、3人4人と人員を投入する意味はないためです。しかしシステムインテグレーションは違います。
納期がギリギリのシステム開発おいて、いよいよ納期に間に合わないぞとなった際に、人員をさらに投入して何とか納期に間に合ったという状況をほとんどのSEが経験しているかと思います。このように、システムインテグレーションでは納期厳守が危うくなったらいくらでも人員を投入できます。実はこれが、赤字プロジェクトが生まれる原因です。
ならば「納期がギリギリにならないよう設定すればいいんじゃない?」と思われるかもしれません。実情としては、顧客の要望や「確実に仕事取りたい」という姿勢から、多くのプロジェクトが納期ギリギリとなってしまいます。
従ってSEおよびPL(プロジェクトリーダー)は、短い納期の中で如何にしてプロジェクトを黒字にするかを、原価管理をもとにして進行する必要があるのです。
もちろんプロジェクト会計が必要な業界はシステムインテグレーションだけではありません。コンサルティング企業、マーケティング企業など、設計事務所などなどプロジェクト単位で事業を行う企業は山のように存在します。
つまり、社内の情報システムにおいてもプロジェクト管理とプロジェクト収支を徹底し、投資対効果の高い社内システム構築が求められます。
プロジェクト会計を徹底するためには?
まずPLやSEにはある程度の簿記知識が必要です。すでに多くの企業では、簿記知識のあるPLやSEに原価管理を実行させ、プロジェクトの収益拡大のための取り組みが進んでいます。
もう一つ必要なのがプロジェクト会計を徹底するためのシステムです。仕入システムや在庫システム、会計システムをまたいで原価情報を管理するための環境が重要となります。そのために、ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)システムの導入が求められます。
ERPとは会計システムをはじめ営業システム、生産システム、人事システムなどを統合した環境であり、それらを一括で提供するソリューションです。ERPを導入することは企業経営に必要な基幹システムの数々を、あらかじめ連携の取れた状態で導入することと同義となります。
たとえばMicrosoftの「Dynamics 365」というサービス。これは、ERPとCRMを統合し、クラウドとして提供するサービスです。Dynamics 365を利用することでプロジェクト会計に不可欠なシステム群をインターネット上に構築し、システム運用不要で利用することができます。
Dynamics 365は「セールス」「カスタマーサービス」「フィールドサービス」「タレント」「ファイナンス&オペレーション」「リテール」「プロジェクトサービスオートメーション」「マーケティング」「カスタマーインサイト」という9つの業務アプリケーションで、企業の様々な業務を支援します。
プロジェクトサービスオートメーションではプロジェクトにかかる人件費や経費を自動的に管理でき、プロジェクトに投じているコストをリアルタイムに把握します
プロジェクト会計で「赤字無しプロジェクト」を
今回、プロジェクト会計についてその概要を説明しました。ただし、プロジェクト会計は人や会社によって若干解釈が異なる場合もあるのでご注意ください。皆さんも徹底したプロジェクト会計に取り組み、赤字無しプロジェクトをぜひ目指してください。