原価計算を一言でいうなれば「製品を作る(サービスを提供する)ためにかかった費用を計算すること」です。このように言えば非常にシンプルなものに思えますが、実際は奥が深く、経営にとって欠かせない業務の一つです。
今回はこの原価計算について概念や基礎を紹介していきます。
原価計算の目的とは?
「原価計算基準」は、今から55年以上前に大蔵省企業会計審議会(現在の財務省)が公表した、日本企業の原価計算に関する基本概念や方法をまとめた資料です。そこには、原価計算の目的を次のように示しています。
1.財務諸表作成
企業はそこに関わるステークホルダーに対して、財務諸表という形で現在の経営状況などの情報を開示する義務があります。その財務諸表を作成するためには原価計算が欠かせません。
2.価格計算
ビジネスとは、製品を制作(サービスを提供)するに至った費用よりも高い値段で提供することです。そのためには制作や提供にいくらの原価がかかった、という計算が必要です。
3.差異分析
現時点での製品(サービス)原価が適正なものかどうかは、基準がなければ判断できません。その基準を作るためには常々の原価計算が重要であり、基準との差異分析によって現時点の原価が適正なものかどうかを判断します。
4.予算管理
計画的な経営のためには、取引先に対して「今年は○○くらい受注する予定です」や銀行に対して「××までにいくら必要です」といった情報を共有しなければなりません。そのためには予算管理によって適切な予算編成を組むことが大切で、その予算編成のために原価計算が必要です。
5.経営の基本計画
経営の基本計画や予算編成によって決まります。ただし、条件を変えてシミュレーションをすれば、予算編成や基本計画も変わってくるでしょう。正確なシミュレーションを行うためには原価計算が必要であり、総じて原価計算は経営に不可欠な業務と言えます。
原価の種類は3つだけ
細かくすれば原価というのは多くの種類があります。しかし大まかには「材料費」「労務費」「経費」という3つの区分しかありません。
材料費
製品を製造するために使用した原材料や部品にかかる費用です。サービスならば、サービスを提供するために使用したモノの費用が該当します。物品の消費に応じて発生します。
労務費
従業員の給与や福利厚生など、製品を製造(サービスを提供)するためにかかる人件費が該当します。
経費
材料費と労務費以外の費用が該当します。しかし販管費は財務費は含まず、主に設備やテナントにかかった費用を指します。
以上の区分に加えて、原価計算には「変動費」と「固定費」という考え方があります。
変動費とは状況の変化に応じて変動する費用です。たとえば、原材料や部品は製造に投入する量が増えるほどそれに比例して費用が増していきます。一方固定費は、人件費など状況が変化しても固定的な費用を指します。
この中でコスト削減に最も関与するのが固定費です。
たとえば製造業において一つの製品を作り上げるためにかかる材料費(変動費)は決まっているため、いくら製品が売れても費用は変わりません。一方、製品一つあたりにかかる人件費などの固定費は、製品が売れた数で割るため売れれば売れるほどコストが削減されます。
薄利多売ビジネスが収益を確保できる理由は、とにかく製品を売ることで固定費を下げて、利益率を高められるからです。
原価計算はなぜ複雑で難しいのか
製造業において原価計算が複雑・難しいと言われている所以は、製造プロセスに関係があります。単一製品を製造している工場ならば、材料費・労務費・経費を合計したものから販売個数をただ割ればいいので原価計算はシンプルです。しかし、そうした工場は非常に稀であり、多くの場合は複数の製品を複合的なプロセスによって製造しています。
たとえば製菓工場にてビスケットとチョコレートビスケット、およびチョコレートケーキの3製品を製造していると仮定します。もしも、これら3つの製品にかかった材料費・労務費・経費の合計から総合販売個数を割ると、各製品の原価はすべて同じになってしまいます。しかしビスケットもチョコレートビスケットも、チョコレートケーキも一部では同じ原材料を使用しても、別の原材料を使用する部分もあるため原価が同じはずはありません。
さらに、これらの3製品を作るためには荷受けから在庫、原材料投入や製造ライン、出荷準備から出荷まであらゆる費用がかかっています。これらのすべての費用を原価として計算しなければならず、経理担当がすべてのプロセスを理解することは難しいので、原価計算は複雑で難しいものとされています。
原価計算を疎かにすると、ビジネスが破綻する
原価計算は複雑で難しい。しかし、原価計算を疎かにするとビジネスが破綻する可能性があります。なぜなら、原価計算を疎かにする企業は正確な損益分岐点を計算できず、正しい収支を管理できないためです。
会社が危機的状況に陥って初めて原価計算に取り組み、なぜビジネスが破綻しかけたのかをそこで理解する経営者は意外と多いでしょう。
本稿を読まれている方の中で「自社は原価計算に取り組んでいない」という状況にある場合、早急に原価計算について知り、取り組むことをおすすめします。
原価計算をITソリューションで
原価計算のためのプロセスは非常に複雑です。特に製造業においては、様々な原価基準を受けて、より正確な原価を導き出す必要があります。しかし、人手ですべてのプロセスを実行して原価を計算するのは至極困難でしょう。そこでITソリューションを活用した原価計算をご検討ください。
たとえばDynamics 365では、ファイナンス&オペレーションというアプリケーションを利用することで、製造業をはじめあらゆる業種での原価計算が可能です。直接原価や間接原価、総合原価や個別原価など複雑な原価計算もITソリューションを行えば、その作業時間を大幅に短縮できます。
さらにデータの正確性も担保できるので、原価データの信頼度も向上します。
Dynamics 365とは
Dynamics 365はMicrosoftが提供する、ERPとCRMを統合したビジネスアプリケーションです。クラウドサービスとして提供されているため、ユーザーはインフラ環境を整えることなくシステムを導入できます。
Dynamics 365を構成するアプリケーションはセールス、カスタマーサービス、フィールドサービス、タレント、ファイナンス&オペレーション、リテール、プロジェクトサービスオートメーション、マーケティング、カスタマーインサイトの9つです。
これらのアプリケーションは統合的に導入するのではなく、スタンドアロンサービスとして個別に導入することもできます。