IT業界の目覚ましい発展の波がフィールドサービス業界にも影響を与えていることをご存じでしょうか?
IoT技術やクラウドサービス、AI技術などが進化したことで、フィールドサービスにも革新的な変化が求められるようになっています。
今回は、フィールドサービスの変化の重要性にスポットライトを当てながら、フィールドサービスとはなにかという根本的な話から、IT技術を取り入れるメリットを効率化や収益化という点に注目しながら解説していきたいと思います。ぜひ最後までご覧ください。
フィールドサービスとは?
フィールドサービス(Field Service)とは、企業や組織が提供する現場でのサービス業務を指します。主に、製造現場、保守点検、修理、設置、配送、インストールなどの作業を対象としています。
IT業界に絞った話をすると、コンピュータやネットワーク機器の設置、メンテナンス、トラブル対応などを現場で行います。高い技術力や現場で臨機応変に対応する力、コミュニケーション能力が必要な職種です。
多様化するフィールドサービス
今までのフィールドサービスといえば「商品が壊れたら修理に来てくれる」、「定期的に安全点検してくれる」、「頼んだモノを配送してくれる」というものが一般的でした。ところが、最近のフィールドサービスは取引先に赴いて、顧客の「困った」を解決することも含まれます。
この「困った」というのは、PCメーカーで例えると分かりやすいでしょう。PCというのは、ソフトウェアが何も入っていなければただの箱です。もちろん、OSやその他最低限必要なアプリケーションは標準装備されているのが当たり前です。しかし、それ以外のソフトウェアに関しては自分でインストールしなければなりません。
インストールするソフトウェアの設定が複雑なものであれば、一人では導入できないユーザーもいるでしょう。そこでフィールドサービスの登場です。「ソフトウェアがインストールできない」という顧客のところに赴き、顧客に合った設定をした上でインストールを助けます。
システム会社なら、顧客の「〇〇のような機能を追加したい」という要望に対応し、取引先に赴いてシステム改修することがあるでしょう。今では、こうした業務もフィールドサービスの内であり、フィールドサービスによって事業をマネタイズ(収益化)する企業もあるほどです。
フィールドサービスの重要性
IT業界でフィールドサービスが求められているのは、トラブルを可能な限り起こさないことと、トラブル発生時に迅速に対応することです。
継続的に安定してサービスやシステムを使うために定期メンテナンスを行い、緊急事態が起きた場合に素早く修復するという2つの点で重要な役割を果たしています。
ここからは、フィールドサービスの重要性についてさらに深掘りしていきます。
顧客が求める「長期に・安全・安心な製品」に応える役割がある
修理・点検・配送といった、従来のフィールドサービスが大切な理由は、製品の品質以上に「長期にわたって安心安全に使用できるモノ」を顧客が求めているからです。
例えば皆さんが家電製品(仮にデジタルカメラとします)を購入する際に、多機能だけど「すぐ壊れる」という口コミが多いカメラAと、機能はシンプルだけど「丈夫で壊れにくい」という口コミが多いカメラBがあるとすれば、どちらを購入しますか?
加えてカメラBには手厚い3年間補償で、万が一故障した際も無償でサポートしてくれます。おそらく、カメラBを購入する人が圧倒的に多いでしょう。
人間は無意識のうちに購入する商品の「費用対効果」を考えてしまうので、機能や性能では多少劣っていても、長く安心して使用できるものを自然と選びます。
従来からある3つのフィールドサービスは、まさに顧客の「安心安全なモノを使用したい」という欲求を叶えるためのものです。故障しても修理してくれる、定期的に点検してくれる、必要なものをすぐ送ってくれる、こうしたフィールドサービスは商品の品質を、間接的に高めているものなのです。
では、顧客の「困った」を解決するフィールドサービスは、なぜ大切なのでしょうか?これを説明するためのポイントが「マネタイズ(収益化)」です。最近フィールドサービスによって事業を収益化する企業が増えていると説明しました。その代表的なものが「ハードウェア・ソフトウェア業界」です。
フィールドサービス業界は変化しつつある
これまでのIT社会を支えていたメインフレームやハードウェアは、今では「売れない時代」に突入しています。調査会社のIDC Japanによれば、2022年のハードウェア市場の支出額は、前年比12.2%増の4820億円と推計したことを発表。
クラウドサービスの台頭によって、「ハードウェアを持たないIT環境」が当たり前になったことで、それに対比してハードウェアへのニーズが徐々に下がっています。
フィールドサービスは、IT化が進む中で生産性の向上やコスト削減、顧客満足度の向上などを目指す方向にシフトしています。
IoT技術を活用して機器の遠隔監視やメンテナンスが可能になったり、AI技術を活用して予防保全を行ったり、クラウドサービスを利用してリアルタイムでのスケジュール管理や作業報告ができるようになったりすることで、フィールドサービスの生産性や効率性が向上すると期待されています。
フィールドサービスは、製造業、エネルギー業界、通信業界、医療業界、流通業界など、さまざまな業界で重要な役割を担っており、現場での効率的な作業を行うための様々な技術やツールが開発されています。
中小企業にもフィールドサービスは必要か?
大手企業ともなれば、フィールドサービス専門部署を設置して、立派な事業として運営できます。しかし、リソースが限られている中小企業にとって、フィールドサービスは負担になることもあり、果たして必要なのでしょうか?
結論から言えば、中小企業にとってもフィールドサービスは「必要」です。
中小企業の中には、修理・点検・配送といったフィールドサービスすら負担と感じ、積極的に展開しない場合があります。しかしそれは、「フィールドサービスは無償で行うもの」という概念が未だに強いためでしょう。
そこで、「フィールドサービスから収益化する」という、逆転の発想を持つことが大切です。例えばシステム会社なら保守サービス以外にも中長期的なフィールドサービス契約を結ぶことで、顧客と長く関係を築き、結果的に収益を増すことができます。
修理・点検・配送も顧客の「困った」を解決する作業も、フィールドサービス契約料のうちとすれば、納得してくれる取引先も多いでしょう。あとは、フィールドサービス業務を如何に効率化して、原価率を下げるかに注力すれば、立派に収益化できます。
フィールドサービスの抱える課題とは?
ここからはフィールドサービスが抱える4つの課題にスポットを当てて紹介していきます。
人材が不足している
フィールドサービスの抱える問題の1つに人材不足が挙げられます。実際に顧客を訪問して対応にあたるフィールドサービスの技術者は、体力的にも精神的にも楽な仕事ではありません。そのため、離職率が高い職種だといわれています。さらに、日本の高齢化に伴い、フィールドサービスも技術者の高齢化が進んでいることも人材不足の原因の一つです。
業務が担当者に属人化しやすい
業務が属人化しやすいのも課題点です。フィールドサービスの特性上、現場に行って直接状況を確認し、メンテナンスやトラブル対応を行う必要があります。
そのため、現場で作業経験のある人しか作業ができず、特定の人だけが説明可能といった属人化する傾向にある問題を抱えています。
依頼への対応が遅れがちになる
フィールドサービスの抱える問題として、依頼への対応の遅さも挙げられます。それには対応できる人手の足りなさ、つまり人材不足が関係しています。
IT技術の複雑化に伴い、システムに発生するトラブルも対応が難しいものになっています。そのため、解決にかかる時間が増えていることも影響しています。
業務の複雑化により必要な資料や機材が増える
業務の複雑化によって資料や機材も増えていくことも課題の1つです。資料が増えることで、顧客への説明に時間がかかったり情報の整理が難しくなります。
また機材が増えることに比例して必要な経費も多くなり、1つの作業を行うだけでも以前より多くの時間と費用が発生するといった現状です。
フィールドサービスを効率化するITの活用
フィールドサービスが抱える問題を挙げましたが、IT技術を使って課題解決するための取り組みも進められています。ここではその概要や事例を紹介します。
情報の一元化
複数の部署間にある情報を統一して管理することを一元管理といい、情報の一元化を行うことでフィールドサービス作業の効率化を図ることができます。
IT技術を使い、情報をクラウド上にあげることでこれまで現場でしか確認できなかった情報をリアルタイムかつ遠隔で確認可能です。一元化によって、スケジュール管理、顧客情報を素早く確認できるといったメリットがあります。
資料とそのアップデートのIT化
これまで紙媒体で管理していたデータや資料を電子化することで、デバイスがあればいつでもどこでも情報が閲覧可能になります。紙の資料を探す手間や重たい資料を運ぶ労力を減らせるため作業効率化を図れます。
データをデータベースに上げて自動化ツールを導入することで、更新頻度や更新内容など設定したルール通りに資料を更新することができます。
現場での反復作業の自動化
情報をIT化するだけでなく、フィールドサービスが行う作業自体もIT化によって効率化を図ることができます。
フィールドサービスは、機器の設置や定期メンテナンスも行いますが、人の手作業にはミスがつきものです。この反復作業のワークフローを、IT技術で自動化することにより、ヒューマンエラーを防ぎ作業員の負担も軽減しています。
修理時期の予測(予知保全)
フィールドサービスの予知保全とは、機器や設備の故障を予測し、その故障を未然に防ぐための保全手法です。この予知保全にもIT技術が活用されています。
予測は機械学習や人工知能を活用して、データを収集・解析することで行われます。
具体的には、センサーなどのデバイスを用いて機器や設備の状態を監視します。故障の予兆を検知することで適切なタイミングで機器や設備のメンテナンスができ、かつ、それらの寿命を延ばすことに役立っています。
フィールドサービスから収益を生む
これまでのフィールドサービスは、故障トラブルや機器の設置で技術を提供し仕事を確立してきました。しかし現場の作業員からは、エンドユーザーが見えにくいという課題が生まれているようです。
ここではフィールドサービスから収益を生む方法について解説していきます。
カスタマー部門や営業部門と連携する
フィールドサービスをマネタイズするポイントは、他部署と連携することです。
顧客情報が一元化されていないことにより、同じ質問を何度も行う無駄なコミュニケーションや、特定の人だけが理解しているという情報の属人化が起きやすい状態になります。
こうした問題を避けるために、フィールドサービスで得られた情報を営業部門やカスタマーサポートに共有することが必要です。
営業に情報が行くことで新規顧客獲得につながり、カスタマーサポートと連携することで顧客満足度の向上につながることが見込まれます。
顔を合わせる機会を活用してアップセルをねらう
フィールドサービスにおけるアップセルとは、既存のお客様に対して、サービスや製品の追加販売を提案することを指します。
フィールドサービスは、顧客の現地でのサポートや修理などを提供するサービスであるため、顧客との信頼関係を深めることができれば、アップセルの提案がしやすいです。
Iotデバイスやクラウドツールを提案することも、フィールドサービスが収益を生む方法の一つになります。
アップセルで顧客にとって無用な提案をすることは、信頼関係を損なうことにつながりかねないため最適なツールを選択しましょう。
フィールドサービス業務を変革した事例
フィールドサービスは、IT技術と組み合わせることでさらなる業務効率化や収益拡大が期待できます。これは理想論ではなく、実際にフィールドサービスとIT技術が融合し、成功した事例があります。
関西電力送配電株式会社
まずは、関西電力送配電株式会社の例を紹介します。
- デジタル化による作業効率化
作業指示や報告書などをタブレット端末を使って行い、作業を紙媒体からデジタル化することで効率化を図りました。 - IoT技術を活用した遠隔監視
送電設備にIoTセンサーを設置し、遠隔で監視することで故障の減少や修理時間の短縮などを実現しました。送電設備の異常や故障の診断にはAI技術も活用されています。
参考:Terrasky
Sky株式会社
続いてSky株式会社の事例です。
- デジタル化による作業効率化
関西電力送配電株式会社と同様にタブレット端末の導入で作業の効率化に成功しました。 - IoT技術を活用したリアルタイムなデータ収集
IoT技術を活用し、顧客先での機器の稼働状況などのデータをリアルタイム管理することでトラブルの早期発見を実現しています。 - AI技術を活用した運用最適化
人工知能による自動スケジューリングにより、作業員のスケジュールを最適化し業務効率化を実現しました。
参考:Dynamics 365 Field Serviceを活用したサポート部門の運用改善事例
株式会社ミマキエンジニアリング
最後に、株式会社ミマキエンジニアリングの事例をご紹介します。
- 情報共有の強化
個別の担当者をつけていた状態から、社内に共通の情報基盤を構築。
顧客情報や設備情報を共有して属人化を防いでいます。 - スマートフォンアプリの導入
スマートフォンで設備情報や作業手順を確認できるようにして、報告や結果の入力もスマートフォンで行い作業の効率化を実現しています。 - AI技術の活用による予防保全の充実
AI技術を活用して状況をリアルタイムに分析し、トラブル発生の予測をすることで顧客満足度の向上につなげています。
参考:フィールドサービスエンジニアが故障による訪問回数を34%削減した理由を解説
参考:HITACHI
まとめ
情報の属人化や作業の効率化など、まさにいまトラブルを抱える企業も多いのではないでしょうか。
Microsoftがクラウドベースのフィールドサービス管理システム、「Dynamics 365 Field Service」を提供しています。
AIやIoTなどの最新技術を活用して、予防保全や遠隔監視、トラブル予測など今回説明した問題を解決可能なツールとなっているため、導入を検討されてみてはいかがでしょうか。