顧客管理分野でのAI活用は拡大しており、主にCRM(Customer Relationship Management)に人工知能を搭載することで、営業が今必要なデータを自動的に抽出して営業活動を効率化する、といった活用方法が取られています。AIを活用すればこれまで人が行ってきた作業の自動化が実現し、大きな生産性の改善をもたらすと共にコア業務への集中という付加価値を生み出しているのです。
ただし、今回ご紹介するAI活用は営業分野に限った話ではありません。製造業における“サービタイゼーション”についてです。サービタイゼーションとは、今まで製造業が行なっていた生産した製品を流通させるのではなく、製品をサービスとして提供する新たなビジネスモデルのことです。今回は、先進的な事例も交えてご紹介していきます。
サービタイゼーションとは?
この言葉に聞き慣れないという方も多いでしょう。サービタイゼーションとは“サービス化”や“サービスの変革”という意味を持ちます。では製造業におけるサービタイゼーションとは何でしょうか?現代の製造業で一体何が起きているのでしょうか?
“クラウドコンピューティング”が世界中のビジネスの中心にあることは皆さんも日々実感していることでしょう。インターネット経由で提供されるインフラやソフトウェアと言ったサービスは、企業規模を問わず今や無くてはならないものです。このクラウドコンピューティングに加え、“IoT(Internet of Things)”が実用段階に入ったり、AI技術が日夜進歩していることで大量のデータを高速に処理し、それをビジネスに活用するための環境がすでに整っています。いわゆる“ビッグデータ活用”が、あらゆる企業で実用可能な時代に突入しているのです。
そうした中、製造業で起こっているサービタイゼーションとは「これまでモノとして提供してきた製品を、サービスとして提供する」というビジネスモデル変革の動きです。つまり「売れば終わり」という従来の考え方から、新しい価値を製品に付加することで、新しいサービスを生み出そうとしているのです。
こうした影響を真っ先に受けている分野が保守やメンテナンスなどを担当する“フィールドサービス”です。製造業のサービタイゼーションが進む中で、モノやその周辺から得られるデータを効率良く活用するための第一歩が、フィールドサービスだと考えられているからです。
AIがもたらしたフィールドサービスの変革
製造業におけるフィールドサービスの業務内容は、主に次のようなものです。
- 顧客から寄せられる機械や設備への疑問に応える
- 機械や設備に対し定期的なメンテナンスを行う
- トラブルが発生すれば現場にかけつけ原因を追究する
- 簡単なトラブルならばその場で対処する
- その場で対処が不可能なトラブルは部品発注などを行い後日対処する
- その日の顧客対応状況を日報として記録する
以上が大まかな業務内容ですが、もちろん細かいところでは資料作成や管理など色々な業務があります。
では、こうしたフィールドサービスにAIやIoTといった技術を用いることでどういった変革をもたらすことができるのでしょうか?
最も大きなインパクトは「フィールドサービスから顧客へ積極的に提案できる」ということです。従来のフィールドサービスとは顧客にモノを販売することで、規定された期間内にメンテナンスやトラブル対処といったリアクティブ(受け身)なサービスを提供するものでした。
しかし、最近ではこのフィールドサービスを顧客エンゲージメントのための積極手段として捉えている企業は少なくありません。そのために活用されているのがAIやIoTといった技術です。たとえば産業機械を製造販売している企業の場合、顧客に販売したモノに多数のセンサーを取り付けてIoT化し、そこからモノやその周辺に関するあらゆるデータを収集します。
そうすると顧客先で稼働している機械が今どういった状況にあるのかを判断するためのデータを収集できます。ここのAI技術を取り入れれば、AIがデータを自動的に処理し、機械の稼働状況だけでなくトラブルの予兆などを察知し、実際にトラブルが発生する前にメンテナンスや部品交換などを実施できます。いわゆる“遠隔稼働監視”や“予兆保全”を実現するのです。
顧客にとって一番困ることは機械トラブルによって生産が一時停止したりすることです。これを未然に防ぐためならば、遠隔稼働監視や予兆保全に高いコストを支払ってでも実行してもらいます。このように製造業がサービタイゼーション化することでメンテナンスや稼働効率向上のための施策をサービスとして提供できるため顧客満足度も収益性も向上するのです。
こうしたフィールドサービスのサービタイゼーションは世界的に進んでおり、日本は後発的な国に分類されます。
事例:Rolls Royceのサービタイゼーション
製造業におけるサービタイゼーションは、フィールドサービス分野に限った話しではありません。ここで英国の航空機エンジンや自動車の製造業であるRolls Royce(ロールスロイス)の先進的事例をご紹介します。
ロールスロイスがAIやIoTといった技術を活用して取り組んだサービタイゼーションとは、航空機エンジンにおけるサービス化です。同社は航空機エンジンにセンサーを取り付け、そこから収集されるデータを航空機エンジンの出力と稼働時間を販売する“Power By The Hour”という従量課金サービスを提供しています。
航空機エンジンを製品として販売するのではなく、航空機エンジンが生み出す“推進力”を販売する、まさに製造業のサービタイゼーションともいうべき事例です。ただし、AIやIoTはサービスを提供するためだけではありません。
ロールスロイスは航空機エンジンを稼働し続けなければ収益化はできないので、IoTから収集したデータをAIで処理し、適切なタイミングでのメンテナンスと交換部品や整備士などのリソース管理を実行しています。つまり航空機エンジンをサービタイゼーションすると共に、フィールドサービスの分野でもそのデータを活用しているのです。
Power By The Hourによるサービス提供はマイクロソフトの“Connected Field Service for Microsoft Dynamics 365”を通じて実現しています。遠隔稼働監視や予兆保全といった分野では、航空機エンジンに限らず様々な分野でConnected Field Service for Microsoft Dynamics 365が利用されサービタイゼーションが実現しています。
サービタイゼーションのための情報システム基盤 Microsoft Dynamics 365
製造業におけるサービタイゼーションは、現在では大企業を中心に展開されている取り組みかもしれません。しかし中小企業もサービタイゼーションに取り組むことで、ビジネスに新しい付加価値を生み出し競合優位性を手に入れられる時代がすぐそこまで来ています。
サービタイゼーションを実現するために欠かせないITソリューションとは“クラウドERP”です。経営活動に欠かせない基幹システムの数々を予め統合したERP(Enterprise Resource Planning)、これをクラウドコンピューティングで提供するのがクラウドERPです。その中でも特にマイクロソフトのDynamics 365は最適なITソリューションだと言えます。
Dynamics 365には一般的なクラウドERPのように営業活動や財務会計を効率化するためのアプリケーションが備わっている他、フィールドサービスを最適化するためのアプリケーションや前述したConnected Field Service for Microsoft Dynamics 365を使用したAIとIoTを活用するための基盤がすでに整っています。あとは企業が目指すサービタイゼーションに向けて、それらのアプリケーションや基盤を最適化するだけです。
そうすることでフィールドサービスから新しい収益を得たり、モノが生み出す付加価値を販売するのではなくサービスとして提供するというビジネスモデルを創り出すこともできます。
製造業などのフィールドサービスにおけるサービタイゼーションへ取り組む際は、マイクロソフトDynamics 365による実現をぜひご検討ください。また、顧客管理におけるAIやIoT活用に関してはDynamics 365パートナーである日立ソリューションまでお問い合わせ下さい。