皆さんは「顧客満足度」について考えたことはありますか?顧客満足が高ければ売上に貢献するなどとなんとなくはわかるかと思います。そして多くの企業が経営活動全般においてこの言葉「顧客満足度向上」をスローガンのように掲げているのです。
しかし、その一方で自社にとっての顧客満足度の定義を明確にして、本当の顧客満足度向上に向けた施策に取り組んでいる企業は意外と少ないことも事実です。
今回は、そんな企業にとっての顧客満足度について改めて考えていただくために、その意味や向上のポイント等についてお話します。
「顧客満足」とは何か?
顧客満足度という言葉の意味をそのまま捉えれば「顧客がどれくらい満足しているか」となるでしょう。
では、顧客はどうなったら満足なのか?これは顧客個人の主観にゆだねられる問題です。ただし一般論では「顧客の期待値を超えること」を顧客満足だとしているところが多いようです。たとえば、以下のような事例をご存知でしょうか?
アメリカ・フロリダ州にあるホテルであるリッツカールトンで、ビーチ係が砂浜にあったビーチチェアを片付けていた時に、一人の宿泊客の男性がやってきて、「今夜ここでプロポーズをしたいから、ビーチチェアを一つ残しておいてくれないか」と頼みました。
当然ながら、普通に接客が行き届いているホテルであれば、「喜んで」とビーチチェアを1つ残しておいて、その場を去るでしょう。もちろん、リッツカールトンのそのスタッフは、一つビーチチェアを残していきました。このスタッフは、ビーチチェアの他にビーチテーブルを一つ残し、そのテーブルに真っ白なテーブルクロスを敷き、お花とシャンパンを飾りました。また、プロポーズの際にその男の人の膝が砂で汚れないように椅子の前にタオルを一つ用意しました。そして、さらに、そのスタッフは、レストランの従業員に頼んでタキシードを借りて、着替え、手には白いクロスをかけて、準備を整えてカップルが来るのを待っていたそうです。
リッツカールトンといえば世界のホテル業界のトップに君臨する存在であり、質の高いサービスによって40%~50%という驚異的なリピーター率を持つ企業です。この事例に「素晴らしい!」を称賛の声を送る人は多いでしょう。実際に、顧客満足度を考えてここまでできる企業は世界的に見ても少ないでしょう。
この男性はまったく想定していない出来事だったでしょうし、それによって顧客満足度が向上したかどうかは定かではありませんが、この事例に感心した人が多いというのは事実です。従ってこの事例から考えれば顧客満足とは「顧客の期待値を超えること」という認識で間違いないでしょう。
顧客の期待値を超える必要はあるのか?
上記の事例以外にもリッツカールトンや、その他企業による顧客満足度に関する事例はたくさんあります。それらの中には、上記のように顧客の期待値を超えるような行動によって顧客満足度を高めたという内容が少なくありません。
しかしながら、顧客の期待値を超えるような行動をとる必要性は本当にあるのでしょうか?
上記事例で考え方を変えてみると、男性客は本当はプロポーズする相手と2人きりでその時間を過ごしたかったかもしれません。男性客の予定とは違ったことで、想定していたようなプロポーズができなかったかもしれません。つまりスタッフのその行動は、男性客にとっておせっかいだったかもしれないということです。
そもそも、顧客の期待値を満たすことができれば、顧客は満足したことになるのではないでしょうか?顧客のためを考えたり、顧客満足度の向上を狙って取った行動が、顧客にとっては迷惑になることもあります。
だからこそ「自社にとって顧客満足度とは何か?」ということをしっかりと議論し、定義し、それを企業全体で共有した上でビジネスを推し進めていくということが大切だと考えます。
顧客満足度を向上するポイント
ポイント1. やるべき事をきっちりやる
顧客満足度を向上するポイントとしてまず強調したいのが「やるべき事をきっちりやる」ことです。リッツカールトンの事例のように、スタッフの突発的な考えで顧客満足を意識した行動を起こすことは、そのための予算さえあれば簡単です。それよりも難しいことは、企業が顧客に対して果たすべき責任を、継続的にきっちりと果たすことです。
どんな大企業でも、このポイントを実行できずに顧客満足を落としてしまうことはあります。
「やるべき事」というのは提供する商品やサービスによって違うますので、これに関しては企業ごとに考えていただくとして、その「やるべき事」をきっちりとやることは顧客満足度向上への一番の近道だということを理解しておきましょう。
ポイント2. 顧客の心情を読み取る
顧客を考えて、顧客が要求する以上の行動をする際は、顧客の心情を丁寧に読み取った上でどういった行動を取るかを真剣に考えることが大切です。自分がよかれと思って取った行動が、顧客からすれば迷惑に感じるかもしれませんし、「そんなこといいからやる事きっちりやってくれ」と考えるかもしれません。
顧客満足度を向上するための行動は、自己中心的でも利己的でもいけないというわけです。
ポイント3. 顧客満足度調査を定期的に行う
顧客満足度を定期的に調査することは、自分たちが知り得なかった情報を客観的に収集するという意味で必要なことです。このとき注意していただきたいのが、調査対象となる顧客についてです。
ビジネスでは2割の顧客が売上の半数以上を占めると言われています。ということは、企業にとってロイヤリティの高い顧客は全体の2割程度にとどまります。顧客満足度を向上するにあたって「ロイヤリティの高い顧客ほど歯に衣着せない意見が聞ける」ということで、そうした顧客を調査対象にすることが多いでしょう。
しかしながら、ロイヤリティの高い顧客というのは結局はその企業に対して肯定的な意見を持っている人達なので、かなり企業寄りの視点からの意見しか聞けません。その調査結果から顧客満足度向上の施策に取り組んでも、ロイヤリティの高い顧客がさらに満足するだけ、という結果になります。
顧客満足度調査を実行する際は、ロイヤリティの高い顧客はもちろんそうでない顧客までまんべんなく対象として実行することが大切です。
ポイント4. 顧客満足の定義について共有する
企業にとって「顧客満足」とはなにか?これを組織全体で共有することは、顧客満足度を向上するためにとても大切です。この共有が不完全だと商品やサービスに一貫性が生まれず、一貫性が無いとうことは顧客にとっての不信感が生まれるということです。顧客満足についての明確な定義があるのならば、必ず組織全体で共有しましょう。
ポイント5. 「採算度外視の行動=顧客満足度」ではない
顧客満足度向上の事例を見ると、採算を度外視した行動こそが顧客満足度を向上させるためのものだと誤認するような記述がたくさんあります。しかしながらそれが間違いです。採算度外視の行動を取ったからといって、それに顧客が満足するとは限りません。
リッツカールトンのような事例は世界的企業であり、そこの大きな資本があるからこそできるものです。中小企業が常にそうした行動を取ればたちまち経営状況が悪化するでしょう。ただし会社の利益ばかりを追求すると、それはまた顧客から反感を買うことになるので、バランスを考慮した施策に取り組みましょう。
以上、顧客満足度と、顧客満足度を向上するためのポイントについてご紹介しました。