グローバル・ビジネスの促進や働き方改革。すべての企業は今、大きな変革が求められています。実際に2019年4月より働き方改革関連法案が順次施行され、罰金付きの残業規制が初めて適応されるなど、今までにないビジネス環境の変化が起きています。
そこで改めて注目されているのが“BPR(Business Process Re-engineering:ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)”です。抜本的に実行する業務改革を意味するBPRは、一般的に取り組まれている業務改善とは何が違うのでしょうか?本稿ではその基礎と、進め方について紹介しています。
BPRってなに?
改めて、BPRとはBusiness Process Re-engineering(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)の略称となります。Re-engineering(リエンジニアリング)とは組織の業務・体制・戦略を抜本的に見直し、再構築することを意味します。その目的は、ビジネス目標を達成するために、企業活動や組織構造、業務フローを再構築することにあります。
BPRは業務プロセス改革とも呼ばれており、「業務改善と果たして何が違うのか?」という疑問を持たれている方も多いでしょう。まず、改革と改善では意味が大きく異なり、改善とは「現状を肯定した上で悪い部分を是正すること」を意味します。一方で改革とは「現状を否定し、従来のプロセスや制度を改めること」を指します。
「業務改善とは」の詳細はこちらでもっとご参考にしてください。
具体的にどういった取り組みを行うかというと、業務改善ではヒト(従業員、顧客、パートナーなど)、モノ(動産、不動産、その他の所有物)、プロセス(業務手順、作業手順など)、または情報(IT)を対象に、“無理と無駄”を省くことで業務効率を向上することを目指します。
その一方で、BPRは社内の業務プロセス全体を見直すとともに、製造・研究開発・品質管理・製品やサービスの供給、人事表などすべての企業活動を顧客志向に首尾一貫した業務プロセスとして再編成・再構築することを目指します。この“顧客志向”というのが重要なポイントであり、BPRと業務改善の大きな違いは、前提に顧客志向があるか否かが大きなポイントになります。
BPRの起源
BPRは1990年初頭、米国における長期不況によって深刻化した企業経営を見直し、立て直すための革新として、その原型となる概念が提唱されました。元マサチューセッツ工科大学教授のマイケル・ハマー博士と、経営コンサルタントのジェイムス・チャンピーによる共著『リエンジニアリング革命』がそれにあたります。同著が大ベストセラーになったことで、BPRの考え方が世界的に普及されました。
日本では1991年~1993年でバブル崩壊が起き、崩壊後と日本において革新的なBPRが歓迎されたことがきっかけで一次BPRブームが起きます。国や地方公共団体、民間企業が組織改革の手法として参考にしました。しかし、バブル崩壊期の日本におけるBPRは、リストラを助長したり、それに伴う混乱が生じたり、日本における一次BPRブームは失敗に終わったと言ってよいでしょう。
働き方改革によってふたたびBPRブームに
近年になって再びBPRが注目されている背景には、政府主体となって推進されている“働き方改革”が大きな要因として挙げられます。働き方改革は、安倍内閣総理大臣が提唱する一億総活躍社会※の実現に向けた重要施策の1つであり、2016年に第一回となる働き方改革実現会議が開催されてから、以降10回にわたって会議が開催され、2018年4月にその内容をとりまとめた働き方改革関連法案が国会へ提出されています。同年6月には可決・成立し、具体的な法案が順次施行されていく予定です。
働き方改革関連法案の大きな柱として存在しているのが「残業時間の上限規制」です。労働基準法では1日8時間以上・週40時間以上の労働を原則として禁止しています。これを超えて労働させる場合は、労働時間に応じた割増賃金(残業代)を支払う必要があり、また残業時間に関しても月間45時間未満、年間360未満という規定があります。
しかしながら、労使が同意の上で行う「36(サブロク)協定」という法制度によって、実質的にいくら時間外労働をさせてもよいことになっており、残業時間の上限規制は青天井というのが従来の労働基準法でした。
これが2019年4月より順次施行されている法案によって、初めて罰則付きの残業時間の上限規制が設けられ、これまで仕事量にまかせて時間外労働を習慣化していた企業では、抜本的な業務改革を実施して残業時間を大幅に削減する必要性に迫られています。
以上の理由やその他細かい理由によって、BPRは再び大きなブームになりつつあります。また、BPRを本格的に実施するためのツールも多数提供されるようになったことから、多くの企業にとってBPRの実施が現実的になっている、という理由もあるでしょう。
BPRを進めていくためのポイント
では、BPRを推進するにあたって企業はどういったポイントに着目すればよいのでしょうか?
- 業務フローを可視化
BPRは業務改善と違い、業務プロセスはもちろん組織構造や経営戦略といった広範囲に及ぶ改革です。そのため、まずは組織全体を俯瞰できるように業務フローを可能な限り可視化する必要があります。 - モデル図の作成
可視化した業務フローを参考にモデル図を作成していきます。多くの場合は、世界標準にもなっているBPMN(Business Process Model Notation)が採用されています。標準規格を採用することで、関係者全員が共通認識のもと業務フローを理解することができます。 - 従業員満足度の調査
BPRは業務プロセス等を改革し、生産性を向上して顧客志向を実現するための改革です。そのため、現状として従業員が業務プロセスや組織構造、人事評価などにどれくらい満足しているかを把握することが大切です。 - 顧客満足度の調査
顧客満足度は現状の業務プロセスや組織構造などを色濃く反映するものなので、顧客満足度を調査することによって自社環境を客観的に整理することができます。 - 問題点の抽出
ここまでのポイントで整理した情報やモデル図を参照しながら、業務プロセス等に隠れている問題点について抽出します。 - 原因分析
各問題点に対して本質的な原因を分析していきます。分析方法によっては間違った原因を特定してしまう可能性があるため、注意しましょう。 - 改善策の立案
原因をもとに改善策を立案していきます。その際は、解決優先度の高い問題点から取り組んでいくことがポイントです。 - 改革スケジュール
改善策をもとに改革スケジュールを組んでいきます。予算や施策の妥当性・現実性などを考慮した上で、実現可能なスケジュールを組むことが大切です。 - 改革実施
実際にBPRを実施していきます。時にはシステム導入が必要になる場合もあるので、実施期間は企業ごとに異なるでしょう。 - 効果検証
最後はBPRの効果検証で終わります。その結果として生産性が向上したとしても、BPRの余地をどんどん探して継続的に施策を実施していくことでBPRの効果を最大化できます。
いかがでしょうか?BPRに取り組むことで組織全体の労働生産性を向上したり、顧客満足度を向上したり、劇的に変化するビジネス環境を対応するための改革を実施してみましょう。