あらゆる企業が業務改善に取り組んでいると言っても過言ではありません。本稿では業務改善の意味やその手法、進め方について一般的な情報をまとめたいと思います。
最初に業務改善についてご紹介する前に「業務」と「改善」の意味から業務改善の本質を理解することが重要です。
- 業務…ヒト/モノ/カネの3大経営資源と情報を投じて、消費者や顧客に対して製品やサービスを提供するためのプロセス全般
- 改善…問題の認識と原因の究明を通じて、現状の悪い部分を良くしようとする活動全般
業務とは製品やサービスを提供するまでとその後のプロセスを意味します。そのため会社や組織で行われている全ての作業が業務と言えます。業務改善は「問題/課題の認識→原因究明→対策立案→施策実行→経過観察」というサイクルを通じて業務を改善し、最終的に消費者や顧客に提供できる付加価値を大きくするための取り組みです。そのためデスク上の整理整頓のために週1でクリーンアップデイを設けるなどの変化は本質的な業務改善とは言えないわけです。
これを念頭に置きながら、業務改善手法と進め方についてご紹介します。
業務改善の最終目標はQCDを満たすこと
QCDは製造業を中心に広がった考え方であり「Quality(品質)」「Cost(予算)」「Delivery(納期)」の言葉の、それぞれの頭文字を取った言葉です。このQCDを最適化することが消費者や顧客に対して最大限の付加価値を提供する要件と言えます。そのことから業務改善の最終的な目標は企業ごとに掲げるQCDを最適化することであると言えます。
<業務改善におけるQCDの考え方>
- Quality…問題の解決により、業務プロセスごとの成果物の品質を向上させ、最終的なアウトプットの品質向上へとつなげる
- Cost…問題のある業務プロセスを改善(簡略化や自動化など)させ、そこにかかるコスト(費用だけでなく生産性も含む)を削減する
- Delivery…業務プロセスにかかる時間を短縮させ、製品やサービスを提供するプロセス全体のリードタイムを短縮する。
業務改善を取り組むにあたり、関係者全員がこうしたQCDへの意識を高める必要があります。ちなみに、ビジネスが違えば業務プロセスが異なるようにQCDの定義も三者三様と言えるため、
業務改善手法を整理する
業務改善の手法は大きく分けると「トップダウン方式」と「ボトムアップ方式」に分類されます。トップダウン方式とは企業の経営層や業務改善の専門組織により、各部門単位などで目標を設定し現場部門はその指示に従って改善に取り組むモノです。一方ボトムアップ方式では、現場部門が主体となって業務改善へと取り組んでいきます。それぞれのメリット・デメリットを確認していきましょう。
トップダウン方式
<メリット>
- 組織的に一貫性のある業務改善に取り組める
- 強制力が強く組織一体となって業務改善が進められる
- 専門的な経験・ノウハウをもとに改善できる
- 指標を用いることで経過観察が行いやすい
<デメリット>
- 現場部門が改善施策に対して不満を持つ可能性がある
- 現場部門が正しく施策に取り組んでいるかどうかが見えづらい
- 現場の実態を考慮していない改善になることがある
ボトムアップ方式
<メリット>
- 業務を熟知した現場部門が主体となって改善に取り組める
- 部門ごとに効果の高い施策が期待できる
- 部門同士の相乗効果によって大きな改善につながる可能性がある
<デメリット>
- 部門ごとの個別最適化に陥る危険性が高い
- 組織的に業務改善に対する認識がバラバラになる
- 「何をもってゴールなのか?」が判断しづらい
このように、業務改善ではトップダウン方式でもボトムアップ方式でもそれぞれメリットとデメリットがあります。一概にどちらの方が良いとは言えませんし、それこそ企業が取り組む業務改善によって異なります。ただし、多くの企業では「トップダウン方式」寄りで考えながらも「ボトムアップ方式」との組み合わせで業務改善を進めることが多いようです。
要するに、経営層や業務改善の専門組織からの指示を基準にしながら、現場部門でも積極的に業務改善案を立案しながら組織一体となって業務改善へと取り組むという姿勢です。
業務改善手法をさらに分類していくと、BPR(業務プロセス改革)やERP(経営情報計画)導入などがあります。BPRは既存の業務プロセスを一度崩し、全体の見直しを行いながら最適化された業務プロセスを構築する手法です。ERPは経営情報の集約化を根底に置きながら、システム導入も交えつつ業務プロセスの最適化を実施していきます。
業務改善の進め方
業務改善ではプロジェクトの大きさにかかわらず、同じプロセスによって改善を進めることになります。
モデル図や作業分解図などを用いて現場把握
業務改善へ取り組むにあたり、既存の業務プロセスを整理できていない企業は少なくありません。まずはBPMN(業務プロセスモデリング表記)や作業分解図などの手法を用いながら、現場の業務プロセスを可視化した現場実態を把握することが重要です。経営層や業務改善の専門組織は、現場部門への積極的なヒアリングと観察を通じて業務理解を深めることも大切です。
②問題点や課題の抽出と原因究明
業務プロセスが俯瞰できるようになると、問題点や課題が見えてくるようになります。この時注意したいのが、表面的な問題に惑わされないことです。業務プロセスというのは個々に成り立っているのではなく、多くのケースにおいて全てが複雑に絡み合っています。そのため、Aのプロセスで起きている問題の原因がそこにあるとは限らないのです。これを念頭に置きながら原因究明を実施し、本当に解決すべき問題点や課題を見つけ出します。
③改善施策と計画の作成とその実施
改善施策を考える際に参考になるのが「ECRS」です。「Eliminate(排除)」「Combine(結合と分離)」「Rearrange(入替えと代替)」「Simplify(簡素化)」の頭文字を取っており、先頭から順番に改善施策を考えると効率的に有効な施策を立案できます。施策計画を立てる際は、期待している具体的な効果とそれを評価するための指標、実施期間などを定量的に表すことを意識しましょう。
④実施した施策の経過観察と評価
施策を実施したらそれで完了ではなく、継続的な経過観察が必要です。また、業務改善の施策によって即効性が低い場合もあるので、事前の計画に従って観察を続けましょう。設定した指標の可視化も意識しながら施策効果を評価していきます。
⑤評価結果をもとにした新しい改善計画の立案
改善サイクルの最後では、評価結果をもとにしながら必要に応じて新しい改善計画を立案します。業務改善で何よりも大切なのは継続的に取り組むという姿勢であり、プロジェクトが単発で終わらないように意識していきましょう。
ビジネス力の向上につながる業務改善を始めよう
業務改善は、決して簡単なものではありません。特に注意したいのは、「毎月1つは業務改善案を提出するように」と強制的に業務改善を実施しようとすることです。これはビジネスのQCDを満たすどころか、組織全体の生産性と仕事に対するモチベーションを下げる原因になると言われています。常にQCDへ繋がることを意識しながら、本質的な業務改善に取り組んでいきましょう。