基幹システムを刷新するにあたり、ERP(Enterprise Resource Planning:エンタープライズ・リソース・プランニング)パッケージの導入を採用するケースが増えています。ERPのライセンスコストや運用コストはDynamics 365などのクラウドERPの台頭により20年前に比べて格段に安くなりましたし、業界全体で導入方法論が確立されてきたことから以前よりも導入しやすくなっています。
しかしながら、ERPパッケージを導入するすべての企業がプロジェクトに成功しているわけではありません。中には失敗するケースも少なくないでしょう。その際に、失敗原因を探り改善を試みようとしますが、実はRFPの段階で失敗に向かっているという企業も存在します。
本稿では、なぜERPのRFPに問題が多いのか?その課題と改善策をご紹介します。
RFPとは?
RFPは「Request for Proposal(リクエスト・フォー・プロポーサル)」の略であり、日本語では「提案依頼書」といいます。文字通り、提案を依頼するための書類です。ユーザー企業はERPを導入するにあたり、ERPベンダーやシステムインテグレータ各社にRFPを提出し、RFPの内容に従って提案を受けます。その上で各社製品を比較検討し、自社にとって最適な製品を選定し、導入パートナーを選びます。RFPでは、主に以下の項目を記載します。
RFPの趣旨
なぜERPを導入したいのか?なぜRFPを送付するに至ったのか?などの経緯をRFPの趣旨として説明する。
システム構築方針
システム構築の際に会社が取っている方針などがあれば、それも漏らさず伝える。
現状抱えている課題
現状として、どういった経営課題や業務課題を抱えているのか?RFPを作成する前に課題の洗い出しを行い、解決優先度の高い課題についていくつか説明する。
機能要件
「ERPにこんな機能を実装したい」というクライアントの要望です。
導入要件
「When(いつ?)」「Who(誰が?)」「What(何を?)」「Where(どこで?)」「How(どうやって?)」という「4W1H」の視点で説明する。
インターフェース要件
導入するERP製品が、周辺システムとどういったデータ連携を実現したいのか?データの内容、連携方法、連携の頻度などを明確にしておく。
利用環境
サーバーの種類とOS、クライアントの種類とOS、利用可能なブラウザ、セキュリティシステムの有無など、細かい利用環境を記載する。
情報開示範囲と秘密保持契約
どこまで情報を開示するのかの範囲をしっかりと決めておき、重要な情報に関しては機密保持契約を交わす。
なぜ、ERPのRFPには問題が多いのか?
ERPパッケージ導入にあたり作成するRFPには数々の問題があります。なぜそうした問題が発生するのか?その理由を明確にし、良い提案を受けるためのRFPを作成していきましょう。
1.ERPパッケージ導入の目的や目標の記載がない、あるいは曖昧
ERPパッケージ導入の目的が曖昧だと、どの点に留意してどの方向でERPパッケージを導入して行けばよいのか、プロジェクトの基本指針が不明になります。新システムとなるERPに求める現行システムとの違いが不明確になることから、現行システムの機能要件に頼りがちになります。
2.現行システムの機能要件をRFPに取り入れている
現行システムの機能要件をRFPに取り入れている企業は少なくありません。こうしたRFPにもとづいてERPパッケージを導入しても、現行システムの焼き直しになるだけであり、新しい技術基盤の上に同じ機能が作られるだけです。現行システムが抱える問題点や、改善点を記載しておけばある程度現行システムとの差別化は図れますが、改善方向が曖昧なので想定とは違った方向に開発が進む可能性があります。
3.業務フローが一切記載されていない
新しいシステムに実装させたい機能に関する要件は記載されていても、どのタイミングと状況で、その機能が使用されるかがERPベンダーは判断できません。「こんな機能を実装したいのですが、可能ですか?」と聞かれれば、「No」と答えるERPベンダーはありません。標準的な業務の多くはERPの標準機能で対応できますし、カスタマイズやアドオン次第でどんな機能も実装できるからです。突き詰めて考えるとカスタマイズやアドオンが肥大化するというケースも少なくないでしょう。
4.ERPの概念・機能を考慮せずに、システム要件が整理されている
新しく構築する機関システムの目的や目標が明記され、システム構築の基本方針や新しい業務のフローなどが記載されていれば良しとされるケースが多いですが、実際は違います。ERPが持つ概念を無視したシステム要件や業務要件を作成すると、現実とのギャップが大きくなりERP適合率が悪くなります。
以上のように、ERPパッケージ導入において作成されるRFPには問題が多く、RFPを作成した時点で失敗に向かっているというケースは決して少なくありません。こうしたRFPも問題が発生する原因は、主に以下のようなものだと考えられます。
- RFPをまとめる担当者やコンサルタントに、業務の見直しができるスキルレベルや経験がない
- RFPをまとめる担当者やコンサルタントに能力はあっても、実務にあたる業務担当者が時間を割かないため、現行システムに合わせて要件をまとめざるを得ない
- 現行システムと同じことができれば良しとして、ユーザー企業のシステム担当者が現行システムの機能一覧をベースに要件をまとめている
良いRFPを作成するためには?
RFPの目的は「ERPベンダー各社から正確かつ良い提案を受けること」です。システム要件や業務要件をまとめて、業務実態を捉えたRFPを作成することで、現実とのギャップを少なくした提案を受けることができます。そうして初めてERPの比較検討が正しく行えるため、ERPパッケージ導入を検討しているユーザー企業は、RFP作成を慎重に行う必要があります。
良いRFPを作成するための確実な方法は、スキルや経験が豊富なコンサルタントにRFP作成依頼を出すことです。コンサルタントに依頼することで、自社の現行システムや業務フローを客観的に見てもらい、新しい基幹システムを構築する目的と合わせて正しいRFPが作成できます。もちろんそのためには、ERPパッケージを導入するユーザー企業の力も必要です。RFP作成を丸投げするのではなく、必ずコンサルタントと一緒になって作成にあたりましょう。
RFPを独自に作成する場合は、左記にご紹介したRFPの記載事項と問題を踏まえて、正しいRFP作成を実施してみましょう。システム要件をまとめる際は、現行システムをベースにするのではなく、新しい基幹システムに期待する効果からシステム要件をまとめて、新しい業務フロー等も明示しておきます。ERPベンダーにとって「提案しやすいRFP」を作成することで、正確な提案を受けて比較検討を実施していきましょう。