ERP導入検討中の皆さんに問います。「RFP」という言葉をご存知ですか?知らないという方は、ぜひ本稿でその内容を理解し、今後のERP検討にご活用ください。ERP導入においてRFPはとても大切な存在であり、良いRFP無くして、ERP導入の成功も無いと言っても過言ではありません。それではRFPとは何なのか?さっそく解説していきます。
RFPって何?
RFPは「Request for Proposal」の頭文字を取った言葉であり、日本語では「提案依頼書」という意味になります。
それでは「提案を依頼するための書類」とはどういうことでしょうか?
現在、ERP市場では国内製品だけを数えても20種類近くの製品が存在し、一部の業務アプリケーションを統合した広義のERPを含めれば、もっと多く存在します。もちろん、主流である海外製品も有力候補としてリストアップされるので、会社にとって最適なERPを選ぶだけでも一苦労でしょう。
そうした中で効率良く自社の戦略に適合するERPを選ぶためには、ERPベンダー各社から提案を受けて、こちらのニーズに適合可能な製品を選択するという方法があります。そこで欠かせない書類がRFP(提案依頼書)です。
RFPには「ERPを導入したら、こういう課題を解決したいんだ!」「こういった機能は備えられないか?」などなど、ERPに対する会社の要望を記載し、それに対してERPベンダーからの提案を提出してもらいます。RFPを受け取ったERPベンダーの提案では「同社製品ならこういった形で御社の要望を実現できます」といった具合に、要望に対してどこまで応えられるか、どう対応するのかなどの内容が書かれています。
そうしてERPベンダー各社から受け取った提案書を精査して、会社にとって最適な製品を選択すれば、数ある製品から最適なものを効率良く選べるというわけです。
しかし、言葉で説明するほど簡単なものではない…
「なんだ、RFPを活用すればERP選びなんて簡単なものじゃないか」と思われた方も多いかもしれません。しかし、油断は禁物、ERP製品を効率良く選ぶためのRFPも一筋縄で行くものではないのです。
たとえばこんなケースを想定してみてください。
貴社は、いくつかピックアップした製品の提案書を依頼するためにRFPを作成し、ERPベンダー各社に送付しました。RFPの内容には、ERPに実装したい機能要件の一覧表を作成し、その対応可否について情報を求めました。「時間をかけて作ったし、これなら会社に最適な製品が分かるはず」と期待したものの、ERPベンダー各社から返送された提案書には、ほとんどの機能要件に対して「対応可能」と記載されています。これでは、会社にとって一体どの製品が最適なのか判断に困りますね。「これはおかしい…」と思った時にはもう遅いのです。
RFPでこうした失敗が起きる原因は何か?
それは、ERPベンダー各社の、提案の軸がぶれてしまうようなRFPを作ってしまったことにあります。
ERPに実装したい機能要件の一覧表を作成しても、それを受け取ったERPベンダーはそれぞれのプライオリティ(優先度)までは把握できません。そのため、必然的にほとんどの機能に対して「対応可能」としか回答するしかないのです。事実、多くのERPは対応次第で複雑な機能も実装できます。しかしその中には、カスタマイズやアドオン開発が必要だったり、運用で回避したりと、会社の要望に沿った形ではない可能性もあります。
だからこそ、RFPを作成する側としてERPベンダー各社の、提案の軸をブレさせないような「良い提案を受けるためのRFP(提案依頼書)」を作ることに努力しなければいけないのです。
良い提案を受けるためRFPを作るには?
「良い提案を受けるためのRFP」と表現しましたが、そもそもRFPはERPベンダー各社から良い提案を受けて、その提案をもとに会社に最適な製品を選ぶためのツールです。この点をしっかりと意識していないと、いくらRFPを作り込んでもERPベンダー各社から良い提案を受けることはできません。
「でも、会社には情報システム人材はいないし、RFPってどうやって作ったらいいの?」という方向けに、ここではRFPに含んでおきたい情報についてご紹介します。
1.RFP(提案依頼書)の趣旨
なぜERPを導入したいのか?そして、なぜRFPを送付するに至ったかの経緯などをRFPの趣旨として説明すると、ERPベンダー各社はERPが必要になった背景を読み取ることができます。
2.システム構築方針
システム構築の際に会社が取っている方針などがあれば、それも漏らさず伝えることでより要望に沿った提案ができます。
3.現状抱えている課題
現状としてどういった経営課題や業務課題を抱えているのか?RFPを作成する前に課題の棚卸しをしてから、解決優先度の高い課題についていくつか説明することで、その課題に沿った提案が受けられます。
4. 業務フロー
現状の業務プロセス図を作成し、業務の流れを理解してもらいます。業務フローを作成すれば、現場で何が起きているのか、そして提案ではどのように変更するのかなどをイメージしやすくなります。
5.機能要件
機能要件とは「ERPにこんな機能を実装したい」という要望です。ただし注意が必要なのは、To-Beモデル(理想型)ではなくCan-Beモデル(現実型)の機能要件を提示することです。To-Beモデルとは、部門ユーザーの要望を一気に吸い上げて、それを機能要件に反映させたようなタイプのもので、この場合、アドオン開発が膨れ上がり開発コストが高額になる可能性があります。Can-Beモデルとは吸い上げた要望から優先順位や業務プロセスの繋がりを考慮して、必要な機能要件だけをまとめたものです。機能要件を作る際はCan-Beモデルを意識しましょう。
6.導入要件
導入要件は「When(いつ?)」「Who(誰が?)」「What(何を?)」「Where(どこで?)」「How(どうやって?)」導入するかをまとめたもので、このように4W1Hで説明するとまとまりが良く、分かりやすく説明できます。ただし、導入要件があまりに企業都合だと、何らかのトレードオフ(要件をクリアするための犠牲)が必要になるため、この点をしっかりと考慮しないと良い提案は受けられません。
7.インターフェース要件
導入するERPで、周辺システムとどういったデータ連携を実現したいのか?データの内容、連携方法、連携の頻度などを明確にしておくと、システム環境を総合的に捉えた提案を受けられます。
8.帳票一覧やマスター一覧など
必要な帳票や帳票イメージを準備します。また、業務を遂行する際の基礎情報などマスターデータをまとめます。
9.利用環境
これから導入するERPは、当然ながら会社の環境に適合したものでないといけないため、サーバーの種類とOS、クライアントの種類とOS、利用可能なブラウザ、セキュリティシステムの有無など細かい利用環境を記載しましょう。
10.情報開示範囲と秘密保持契約
RFPの送付は、ERPベンダー各社の会社の機密情報を少なからず伝えることになります。そのため、どこまで情報を開示するのかの範囲をしっかりと決めて置き、重要な情報に関しては機密保持契約を交わすことが欠かせません。
以上のポイントを守ってRFPを作成すれば、ERP導入は初めて、情報システム人材がいなくて困っているという企業でも、ERPベンダー各社から良い提案を受けることができます。ちなみに、製品ごとに複数の導入パートナーが存在する場合は、導入パートナーごとにも要件が変わってくるため、RFPを送付するERPベンダーは事前に調べた上で適切なベンダーに送付しましょう。良いRFPで、良いERP導入をぜひ実現させてください。
いかがでしたでしょうか?
RFPは、ベンダー企業の提案や見積りのために存在しますから、詳細であればあるほどコストなども含めたプロジェクト計画の精度も向上します。逆に粗いRFPの場合には、お互いの齟齬が発生する可能性が高くなるため、スケジュールや見積り金額などプロジェクト開始後に要件が膨らみコストが発生するということになりかねません。
RFPは、企業とベンダーの共通言語的な意味合いを持つためしっかりと取り組むことをお勧めいたします。