Power Platformというローコード開発ツールを導入すれば、業務に役立つアプリを自分たちの手で簡単に開発できるようになります。この記事では、Power Platformの導入で失敗しないように、あらかじめ知っておくべきことを解説するとともに、Power Platformによる業務改善事例をご紹介します。
Microsoft 365 × ローコード開発ツール Power Platform
「Power Platform」とは、現場の視点で業務上あると嬉しいさまざまな機能を持つアプリが、ローコードで簡単に作れるMicrosoft社のクラウドサービスです。ローコードとは、必要最小限のソースコードの記述で済むアプリ開発手法をいい、Power Platformでアプリ開発する場合には、簡単なものであればソースコードの記述は要りません。
Microsoft 365が導入済みの企業なら、その保有ライセンスでPower PlatformやTeamsを利用でき、業務と社内のコミュニケーションがつながります。
Power Platformはプログラミングの知識がなくても、ExcelやPowerPointを普段から使っている人であれば直感的に操作できるので、悩むことなく簡単なアプリを作れるでしょう。もちろん、プログラミングスキルがあれば、ソースコードを記述して思い通りの機能を追加することで、より高度なアプリが作れます。
ローコード開発が求められる背景
ローコード開発が求められるようになった背景には、新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって、リモートワークが急速に普及し、クラウドサービスの利用が促進されたことなどがあります。このようなビジネス環境の変化に伴って、「自社の業務に特化したアプリが今すぐに欲しい」というビジネスニーズへの対応が急務となりました。
そこで、プログラミングの専門知識を持たない人でも効率的にアプリ開発ができるローコード開発を積極的に取り入れて、このニーズに対応しようとする企業が増えています。
ローコード開発のメリット
ローコード開発のメリットは、自社で定めた要件に基づいてアプリを開発でき、欲しい機能をあとから思いついたときにも、迅速かつ柔軟に対応できることです。また、ローコード開発なら習得すべき技術が少ないので、比較的簡単に必要なスキルを習得できます。したがって、実際にアプリ開発ができるようになるまで、人材を育て上げるコストを低く抑えられるでしょう。
業務に使うアプリが欲しい場合には、ローコード開発以外にも選択肢が2つあります。既製品のアプリを購入して利用するという選択肢と、自社で決めた要件に基づいて、ゼロから完全にオリジナルのアプリを作る「スクラッチ開発」を行うという選択肢です。
既製品のアプリ購入は、パッケージを導入するだけでよいという手っ取り早さがメリットですが、機能をあとから加えるのは困難で、柔軟さに欠けます。一方、スクラッチ開発は柔軟にアプリ開発ができるものの、高度な専門知識を持つITエンジニアを確保して、じっくり長い時間をかけて開発しなければならず、ローコード開発のようにスピード感のある開発はできません。
Power Platform の導入に向け知っておくべきこと
Power Platformというローコード開発ツールを導入する前に、特に知っておくべきことは以下の3つです。
Power Platformで出来る範囲
Power Platformは、「Power BI(データ分析)」「Power Apps(アプリ開発)」「Power Automate(業務フローの自動化)」「Power Virtual Agents(チャットボット作成)」「Power Pages(Webサイト制作)」という5つのサービスで構成されます。このツールで可能なことを簡単に示すと、以下の通りです。
Power BI
データベースなどに保存されたデータを用いて、元データを更新・削除することなく分析・グラフ化し、整理した情報をダッシュボードに表示するなどして、一目でわかるように可視化できます。
Power Apps
プログラミングの専門知識がなくてコードが書けない人でも、ドラッグ&ドロップという簡単な操作でアプリの開発が可能です。
Power Automate
アプリやサービスを連携して、決まりきった作業を自動化できます。
Power Virtual Agents
簡単な操作でチャットボットを作って、問い合わせ対応などにかかるコストの削減が可能です。
Power Pages
セキュアな業務用Webサイトが簡単に制作できます。
Power Platformはクラウドサービスで、PCだけでなくモバイル端末にも対応しており、使用する場所を選びません。さらにメール・チャット・Web会議・ファイル共有など、Microsoft 365に含まれる多様なアプリと連携して、コミュニケーション機能を補強できます。
知らないとハマってしまう落とし穴
知らないとハマってしまう落とし穴としては、Power Platformを利用すれば、アプリ開発の全工程が効率化できるのではないか、という期待や思い込みがあります。Power Platformで短縮されるのは、詳細設計・プログラミング・単体テストといった開発工程の部分のみです。ローコード開発であっても、要件定義・基本設計・開発工程後に行うべき総合テストの工程は、工数を減らせません。したがって、工程を省略できるのは、あくまでも開発工程のみであることを認識しておく必要があります。
社内でPower Platformの利用を広げる方法
全社にPower Platformの利用を広げるには、各部門にPower Platformに精通するパワーユーザーを配置できるよう、人材を育てることが重要です。そのうえで、Power Platformを社内に普及させるアンバサダーを育成し、好事例を広め、アイデアやナレッジを社内で共有するようにし、利用の輪を広げていきましょう。
Microsoft 365 × Power Platformで実現した改善事例
最後に、Microsoft 365とPower Platformを連携して実現した、代表的な改善事例を2つご紹介します。
営業担当からの依頼・タスク作成を自動化
営業アシスタントは、営業担当者から業務タスクの依頼をメールやチャットで受けて対応するのが仕事ですが、タスクの受付や対応状況が明確に管理されず、ほかのメンバーの状況を把握できないという課題がありました。
この課題を解決するために開発されたのが、アサイン依頼フォームというアプリです。このアプリによって、業務依頼の内容をフォーマット化し、依頼はFormsから行うように業務依頼方法を統一して、Plannerでタスクの登録を行い、Power AutomateとTeamsで対応状況の共有までを自動化することで業務が改善されました。
複合機のトナー補充依頼を自動化
複合機のトナー切れでトナー交換の表示が出た際、トナーの交換者が廃トナーを担当部門まで持ち込んで新しいトナーを受け取り、それを配置する方法を採っていたところ、担当者が不在の場合には交換に支障が出るという課題がありました。
この課題を解決するために開発されたのが、Power AutomateとTeamsを連携したトナー補充依頼アプリです。このアプリによって、スマホでQRコードを読み取り、フローボタンをタップするだけで担当部門への依頼が完了するので、交換者によるトナーの持ち込みも受け取りも不要になりました。
ユーザーが増えるとメリットも増えるPower Platform
Power Platformは、利用する人数が多ければ多いほど、メリットを享受できるパイが増え、アイデアと価値が創出されていきます。身近なことから試して小さなところから改善し、それを継続していく文化を醸成することが、Power Platformを利用して企業が成功をおさめる鍵となるでしょう。そのような文化を醸成するためには、Power Platformをどのように使い始めればよいのか、という迷いを解消することが大切です。
JBSの動画セミナーでは「いまさら聞けないローコードとは?」の説明から、Power Platformの導入事例をもとに、企業に浸透させるために必要なことまで解説していますので、ぜひご覧ください。