ERPは中小企業の抱えるさまざまな問題を解決することから、中小企業での導入が増えつつあります。しかし、ERPは製品の数が多く、搭載されている機能も多岐にわたるため、自社にマッチした製品を選ぶのは一苦労です。そこで本記事では、中小企業におけるERPの選びかたと注意すべきポイントを解説します。
中小企業におけるERPとは
ERPは、企業経営の柱となる人材・物・資産に関する情報を一元的に管理するシステムです。業務システムごとに分断されていたデータを統括し、それらをビッグデータ化することで、経営に関する意思決定の迅速化や経営資源の有効活用に役立てます。顧客管理・在庫管理など従来の基幹システムが業務の省力化や効率化を目的としているのに対し、ERPは経営者目線のシステムであり、業務や事業の革新に重きを置いているのが特徴です。
現在、ERPの導入は大企業が主流となっており、中小企業における導入はさほど進んでいません。これはシステムの構築や運用にかかる手間およびコストの負担が大きいためで、大企業と比べて人材や資金が限られる中小企業にとって、従来型のオンプレミスのERPを構築することは難しいといえます。
そんな中、近年はクラウド型のERPが普及してきたことにより、中小企業でも比較的安価に、かつ短期間でERPを利用できるようになりました。ただし、ERPは製品によってさまざまな機能があります。企業がERPの導入を検討する際には、自社の要件に最適な製品を選定することが大切です。
中小企業におけるERPの選びかた
企業によって現行システムの問題点や業務内容が異なるため、導入すべきERPも異なります。そこで中小企業が自社に合ったERPを選択するために考えておくべきポイントをいくつかご紹介します。
自社に必要な機能を備えているか
前述しているようにERPにもさまざまな製品があるため、導入を考えている製品が自社の要件に合致した機能を備えているか事前に確かめておかなければなりません。ERPはその機能性や対応範囲により、基幹業務システムの全てをカバーする「統合型」、特定業務のみに対応した「業務ソフト型」、必要に応じて機能を選択・追加できる「コンポーネント型」の3種類に大別されます。
統合型は数あるERPの中でも上位製品に位置付けられ、機能が豊富で拡張性が高く、企業ごとの細かい要件にも対応しやすい点を強みとしています。一方で、中小企業にとっては高価格で機能が多すぎるといった問題点もあります。したがってコストを抑えるのであれば業務ソフト型もしくはコンポーネント型といった中位製品が選択肢に入ってくるでしょう。
中位製品は上位製品と比較して機能が少なく、カスタマイズにも制限がありますが、その分コストを抑えられ、短期間での導入が可能です。
サポートやセキュリティは整備されているのか
ERPは企業のデータを一元管理するため、サイバー攻撃による情報漏洩のリスクが高いという特徴があります。内部不正による顧客情報流出の可能性もあることから、ERPには高性能なセキュリティ機能が求められます。
クラウド型のERPは、システムの運用管理をベンダーが担っているため、セキュリティレベルもベンダーの体制に依存することになります。顧客情報など重要度の高い情報を扱う場合、セキュリティ機能の充実した製品を選ぶことが重要です。
具体的には、複数の拠点にバックアップサイトを設けて自動バックアップ体制を整えている製品や、シングルサインオン機能、データ暗号化機能、ログ管理機能などを搭載している製品など、なるべく安全性の高い製品を選びましょう。クラウドのセキュリティを評価する国際基準「SOC」や「ISO」、個人情報の取り扱いにおける信頼性を証明する制度「TRUSTe(トラストイー)」といった外部機関による認証の有無も参考になります。
また、サポート体制も重要です。システム障害が発生した際、24時間365日対応のサポートデスクが用意されていれば万が一の場面でも困りません。ERPの導入から運用まで一貫して支援してくれるベンダーであれば、初めてERPを採用する企業でも安心です。
既存業務に適合しているか
業種によって必要な機能は大きく異なるため、自社の業務に合ったERPを選択しなければなりません。例えば製造業向けのERPは、グローバル展開を視野に開発されているため、複数の言語や通貨に対応しており、各拠点間でのデータ共有がスムーズに行えるようになっています。生産拠点を拡大する可能性のある企業も、このような特徴を備えたERPを活用することで経営管理がしやすくなるでしょう。
一方、建設業に特化したERPには、工事の見積や精算、原価管理、人員管理といった機能が搭載されています。工事に関連する業務全般をスムーズに管理できるため、効率的な経営が可能です。
各製品が自社の業務に適合しているかどうかを判断するためには、業務内容やワークフロー、既存システムの課題を明確にしておかなければなりません。その上で同業他社での導入実績なども参考にしながら、自社の業務に必要な機能を備えた製品を選ぶとよいでしょう。
中小企業がERP導入の際に注意すべきポイント
新たにERPを導入しようとすればそれなりのコストがかかる上、業務フローを変更しなければならない場合には従業員への負担が生じます。わざわざコストをかけて導入しても、現場の従業員が機能を使いこなせなかったり、最大の利点であるデータの連携が上手くいかなかったりしては意味がありません。中小企業がERPの導入する際、どのような点に注意しなければならないのでしょうか。
ERPの運用体制
ERPの安定稼働を実現するためには、IT担当者の不在時にも問題なく運用できる体制を整えておくことが大切です。ERPの機能が多すぎたり直感的に操作できなかったりすると、やがて活用されなくなる可能性があります。そのような事態を避けるためにも、ERP導入前にIT部門の担当者や現場責任者などで構成するプロジェクトチームを結成し、必要な機能の洗い出しや、操作性を確認した上で製品を選びましょう。
ERP導入後、従業員が適切にシステムを使いこなせるようになるためにはトレーニングも必要です。ベンダーによってはシステムの操作方法や機能に関する教育支援を行っていることもあるため、これを活用するか、もしくは自社でトレーニングを組むのもよいでしょう。
その際、ERPの導入による業務プロセスの変化を現行の業務プロセスと関連付けて従業員に説明する必要があります。トレーニングは授業形式で行うだけでなく、社内マニュアルやよくある質問に対する回答をまとめたチートシートを作成して従業員に配布したり、体験型シミュレーションといった学習ツールを活用したりするのも効果的です。
ERPの導入目的
ERPを導入する際には、自社の業務を洗い出して改善すべき課題を明らかにし、ERPの導入によってどのような効果が期待できるのか、何のためにERPを導入するのかをあらかじめ明確にしておかなければなりません。
なお、一般的なERPの導入目的としては、業務の効率化、コスト削減、内部統制、データの有効活用、経営における意思決定の迅速化などが挙げられます。
費用対効果
買い切り型ERPの場合、初期費用や運用コストが高額なため、業務改善に成功したとしても、中小企業にとっては費用対効果的にマイナスになるケースが少なくありません。また、機能重視で統合型のERPを導入しても、使わない機能が多ければ投資がムダになってしまうでしょう。ERPの選定時には、機能の充実度だけでなく費用対効果も意識し、自社業務の実態に即した製品を選ぶことが大切です。
まとめ
ERPは製品ごとに搭載している機能やセキュリティ体制が異なります。中小企業におけるERPの選定では、事前に自社の業務フローや必要な機能、現行システムの課題を明確にしておく必要があります。また、機能が多すぎないか、操作性に問題がないかなども考慮し、費用対効果に見合った製品を選ぶことが大切です。