日本企業の海外進出への士気が高まっています。JETRO(日本貿易振興機構)が2018年3月に発表したデータによれば、海外事業において「さらに拡大を図る」とした企業が全体の67.8%と高水準が続いています。少し古いデータになりますが、海外子会社を有する企業は年々増加傾向にあり、中小企業は2011年時点で13.4%の割合に達し、製造業に限定して見れば18.9%に達しています。
そうした中、重要性が高まっているのが「ERPのグローバル展開」です。企業に欠かせない業務アプリケーションを統合し、情報活用環境を整えるERP(Enterprise Resource Planning)を国内で運用する企業は増えましたが、これを海外進出に合わせてグローバル展開するとなると、とたんに難しい問題になります。
ただし海外子会社を含めて財務情報や経営情報をリアルタイムに可視化できることは、大変魅力的なのです。そこで本稿では、ERPをグローバル展開するときのポイントについてご紹介します。
最初に、海外進出にどういった問題が発生しやすいのかを確認しましょう。
海外進出時に発生しやすい問題
- 世界規模でのリアルタイムな情報共有が難しい
- 拠点独自の管理、システム運用で非効率がまかり通っている
- 低コストかつ短期間で無駄のない海外進出がしたい
- 現地の法規制、会計制度、税務報告書、言語、通貨へ対応しなければならない
- 拠点のコンプライアンス問題を本社が把握できない
- 事業・拠点拡大に合わせて拡張可能なシステムが必要
- 海外拠点を含めたグループ全体の販売状況を可視化したい
- 複数通貨をまたいだ決算処理を高速にしたい
- 顧客サポートを世界規模で管理し、顧客満足度を向上したい
海外進出を行うということは、少なからず現地の商習慣に合わせなければならず、国内で培ってきたビジネスをそのまま流用することはリスクを伴います。システム面においてもそれは同じことで、国内運用のERPをそのまま現地に適用できる可能性はかなり低いでしょう。通貨の問題、言語の問題、税制など法律的な問題、商習慣の問題などなど、それぞれを意識しないといけません。そのためグローバル展開に応じたERPに形を探らなくてはならないのです。
ERPをグローバル展開するポイント
上記でご紹介した問題を踏まえて、ERPをグローバル展開するときのポイントについて解説します。
Point 1.コードを統一する
ERPのグローバル展開においてまず検討すべきは「コードの統一」です。これが統一されていない場合、海外各社からデータを収集する際にコード変換が必要であり、変換が無いと連結での正確な数字を把握できません。システム面では各社ごとに個別のコードと共通コードのマッピングがあれば、変換をしてからデータ集計することは可能です。しかし開発コストやマスタ管理にかかる手間を考慮すると、グループ全体で同一コードを管理することが合理的でしょう。
ただしM&Aによって海外グループが拡大した場合、コード統一が難しい傾向にあるので別の対策を考える必要があります。
Point 2.計上ルールを統一する
海外子会社を含めた連結決算において、グループ間における計上ルールを統一しておくことが大切です。たとえば売上や原価について発生主義を採用するか現実主義を採用するかによって、その結果は大きく異なるでしょう。
売上計上や原価計算のルール、収集される各種実績データが同じルールの下で算出されたものでなければ、経営管理に結びつくような会計を実現することはできません。
もっと見る:原価計算って何?その目的と種類について
Point 3.経営指標と会議資料を統一する
海外子会社の経営に関して本社人材が出向する場合、人材の定期的なローテーションが生じます。その都度経営指標や会議資料に変更が生じてしまうと、前任者からの引継ぎの際に情報伝達が上手くいかず非効率性が多く残ってしまいます。
グループ全体で統一された経営指標や会議資料があれば、新しいマネージャーが赴任した際も海外子会社の経営状況を瞬時に把握することができます。さらに、赴任したマネージャーと現地スタッフの言語の壁によるコミュニケーション不足に関しては、業務をある程度標準化しておけば意思疎通が図りやすくなります。
Point 4.リアルタイムデータ収集
ERPのグローバル展開において最も重要なのが、海外子会社を含めてグループ全体でリアルタイムにデータを取集できる基盤を整えることです。理想はグローバルで統一されたシステムを導入し、物理的に1つのデータベースで一元管理することですが、現実的に考えると現地要件への対応などにより異なるシステムを導入するケースが大半です。
そうした中で、システムが完全に統合されていなくても海外子会社のデータをリアルタイムに収集し、グローバルでの需要や在庫状況、生産進捗等を把握できる環境があるとよいでしょう。
このようにERPのグローバル展開ではそれを成功させるためのポイントはあるのですが、実現できている企業は少ないのが現状です。そこで、これらのポイントをクリアする「2層ERP」をおすすめします。
2層ERPとは?
本社のERPを海外子会社に展開することが最も簡単な方法になります。ただし、その本社で利用しているERPが海外に対応していることが大前提です。もし、それをクリアしたとしてもコストの問題や導入期間の問題などが発生する可能性があります。
そのような場合に第二の選択肢として「2層ERP」があります。これは、本社で稼働しているシステムをコアERPとして、その上にグローバル環境で柔軟性が高いERPをサブ的に導入することで、海外子会社とのシステム統合を図るというものです。一般的にはインターネット経由で簡単に共有できるクラウドERPを2層ERPとして導入します。
2層ERPのメリットは、大規模なシステム開発を必要とせずに海外子会社と本社、またはグループ全体のシステム統合が可能になるという点です。クラウドERPならインターネット経由で提供されるので、特別なインフラ構築は不要ですし、コアERPと比べて中小規模の企業にもフィットされるように設計されているので、海外子会社と本社でシステム面でのギャップが生じることはありません。
さらに、世界各国の現地要件に対応したクラウドERPならばグローバル展開をさらにスムーズに進めることができます。マイクロソフトが提供するクラウドERP「Dynamics 365」は2層ERPを可能にするソリューションの1つです。
Dynamics 365は世界2万3,000社以上が使用するクラウドERPであり、世界各国のビジネス要件に対応するための機能を多く備えています。そのため、2層ERPとして最適なソリューションであり、世界中のビジネスパーソンが使い慣れたマイクロソフト社製のインターフェースはそのままなので、使い勝手にも優れています。
ERPのグローバル展開を実行する際はDynamics 365による2層ERPの実現をぜひご検討ください。