顧客情報はこれまでも各企業で収集され、主にExcelなどで管理されてきました。しかし、基本的な情報のみを断片的に管理するだけでは、ビジネスの発展に繋がりません。そこで昨今は、「顧客関係を管理する」という考え方のもと、一元的に情報管理を行うCRM(顧客管理システム)を導入する企業が増えています。本記事では、顧客管理の基本から始め、CRMを導入することで得られるメリット、導入する際に注目したいポイントについて解説します。
顧客管理とは?
今日、多くの企業が顧客管理に取り組んでいますが、その定義は実にさまざまです。単に顧客情報を管理することを指す場合もあれば、その上でビジネスの成長に貢献するような活動を指す場合もあります。どちらも間違っていませんし、企業ごとに自分たちにとって適切な顧客管理を定義すればよいでしょう。
しかし、ビジネスの世界に身を置いている以上、単に顧客情報を管理するのはもったいないというのが実情です。商品やサービスの品質改善、顧客満足度アップは顧客管理で実現できます。
よって、現代ビジネスにおける顧客管理とは、顧客情報を管理して、それらの情報から顧客の課題や心情を読み取り、これから会社が進むべき方向性を定めたり、品質改善、顧客満足度アップ、ひいては利益拡大に繋がったりするような取り組みを指しています。
顧客“関係”管理という考え方
近年特に浸透しているのが、企業と顧客の関係を維持・向上させることに焦点を当てた「顧客関係維持」という考え方です。CRM(Customer Relationship Management)戦略、とも呼ばれています。
ビジネスにおいて、企業が顧客と良好な関係を築くことで顧客満足度アップや利益拡大が果たされることは、多くの調査ですでに明らかになっています。たとえば営業において、担当者の売上実績は顧客とコミュニケーションを取る時間に比例してアップする、という話は有名ですね。
これまで意識してはいなかったものの、当然といえば当然のことです。ビジネスを行っているのは機械ではなく人間同士ですし、そこには少なからず私情が入り込みます。誰だって自分が気に入った人間とビジネスを交わしたいですし、日々気持ちよくビジネスがしたいと考えているはずです。
従って、顧客関係管理を実施して顧客と良好な関係を構築・維持できれば、ビジネスの拡大は難しくありません。
顧客管理の重要性
これまでもビジネスにおいて、顧客との良好な関係を築く重要性は理解されてきました。ただ近年、顧客関係を管理することで、ビジネスを発展させようとする動きがより活発になってきています。その主な理由として、以下の2つが挙げられます。
新規顧客獲得が難しいため
日本は人口減少傾向が続いています。総務省統計局が2022年11月21日に公表した、2022年6月の人口推計(確定値)によると、総人口は1億2,510万4,000人で、前年同月に比べて61万8,000人減少しています。また、65歳以上人口が前年同月から8万7,000人増加しているのに対し、15歳未満人口は26万8,000人減少しており、少子高齢化も急速に進んでいます。この傾向は今後も続く見込みで、マーケット縮小は確実視されています。
さらに、人々の価値観が多様化し、消費行動も各人によってばらつきが見られるようになりました。従来のように画一的なプロモーションでは新規顧客獲得が難しく、そのためのコストも上がっています。こうした事情を背景として、各企業はこれまで以上に、既存顧客との関係強化のための施策を実行する必要性が増しています。
顧客ニーズの把握のため
顧客管理には顧客の属性や購買履歴などを適切に管理することも含まれますが、単に「収集した顧客情報を管理すること」にとどまりません。顧客情報からさまざまなデータを抽出、分析し、顧客がどのようなニーズを持って行動しているのかを把握するために活用されています。顧客の真のニーズがどこにあるのかを予測できれば、それを叶えるための商品やサービスを開発し、的確に提供可能です。ひいては、業績向上に繋がり、企業の成長も期待できます。
このように現代の顧客管理は、新しいビジネスモデルのヒントになる要素を含んでいることから、改めて注目を集めています。
顧客と良好な関係を構築するには?
「良好な関係」といっても、多くの世間話をして毎週のように飲みに行き、親睦を深めるのが顧客関係管理ではありません。ビジネスの世界ではそうした付き合いを大切にする場合もありますが、ここでいう良好な関係とは「顧客のことを深く理解し、顧客が欲しているものを提供し、顧客もそれを受け入れている」という信頼関係のことです。
あなたは製造系中小企業の経営者で、生産管理プロセスが分断的で生産リードタイムが長期化しているという経営課題を持っているとします。解決のためには、仕入・在庫・製造・販売・出荷のプロセスを統合的に管理するシステムを導入し、リーンな(極力無駄を排除した)生産管理を可能にする必要があります。
生産管理システムを1から構築するのには膨大な時間とコストがかかることから、あなたはパッケージソフトウェア製品を導入し、自社要件に合わせてちょっとしたカスタマイズを加えたいと考えました。そして製品を2つピックアップし、各ソフトウェアベンダーに相談します。
ベンダーAはあなたの話を聞いて、「わが社の生産管理システムなら問題をすべて解決できます!あれもこれも必要な機能は揃っていますし、カスタマイズも問題ありません!」と自信満々に説明しました。そしてベンダーBは、「当社の生産管理システムならあなたが求める要件に対応できます。しかし、話を聞く限り〇〇のような課題を持っているのではないか?と感じたのですが、いかがでしょうか?そうなると、当初予定しているカスタマイズでは経営課題をうまく解決できない可能性があります。」と説明してくれました。
ベンダーAもベンダーBも言っていることは事実ですし、無理に言いくるめて製品を販売しようとはしていません。しかし、ベンダーBはあなたが抱えている潜在的なニーズに意識を傾けて、顧客に寄り添った考え方ができています。多くの方はベンダーBを信頼して仕事を任せますし、その後良好な関係を築ける可能性も高いでしょう。
このように、顧客関係管理を実施するためにはまず「顧客に寄り添って考える」という姿勢がとても大切です。顧客の口から語られる表面的なニーズだけを見るのではなく、会話の中や現状から潜在的なニーズをくみ取り、顧客が本当に解決したがっている課題を明確にして、その上で最適なソリューション(解決策)を提案するのが、顧客との信頼関係を築くことに繋がります。
Excelでの顧客管理が不十分な理由
顧客管理を実施するにあたり、多くの企業がExcelを使っています。Excelは大変すばらしいツールですが、顧客との関係性を管理するには、いくつか問題があります。
まずExcelのメリットは、ほとんどの企業で導入していることから、追加コストが発生しないことです。普段から慣れ親しんだツールを使用すれば、教育コストも少なく済むでしょう。
一方でExcelのデメリットは、複数人でファイルを同時に更新できない点にあります。たとえば営業担当者Aが顧客情報を入力している最中に、顧客担当者Bはそのファイルを開けません。後から入力しようと考えても忘れてしまいがちで、もしも営業担当者Aがファイルを開きっぱなしなら、他すべての営業担当者に迷惑がかかります。
簡単に削除できたり、古いファイルで誤って上書きできたり、メールやUSBメモリなどで簡単に持ち出せる点もExcelのデメリットです。大切な顧客情報を失う、情報漏えいに繋がる危険性が大いにあります。
さらに、同じようなファイルが乱立して、どれが最新版なのか分からなくなってしまう状況も考えられます。このように、Excelで顧客管理を行うにはさまざまなデメリットがあるので、適切なシステムを導入するのがベターです。
CRM(顧客管理システム)導入のメリット
顧客管理をExcelではなく、それに特化したシステムを導入するのがおすすめだとしても、導入にはハードルを感じられるかもしれません。「CRM」と呼ばれる顧客管理システムには、さまざまなメリットがあります。ここでは代表的な四つのポイントを紹介します。
業務効率の向上
Excelなどの表計算ソフトは複数人での同時編集が不可能であったり、簡単に上書きできてしまったりするなど、顧客の大切な個人情報を扱う点では心もとなく、効率面でも最善とは言えません。
一方でCRMは、顧客にまつわる情報を一元的に管理できるのが強みです。蓄積された膨大なデータの中から、必要な情報を検索し抽出しやすくなります。複数のファイルを使う場合、どこに何の情報が格納されているのかを把握した上で、個別のファイルを確認しなければなりませんが、CRMならこのような手間が減ります。Excelなどで個別に情報を管理する場合と比べて情報漏えいリスクも減るため、本業に専念しやすくなり、業務効率性が格段にアップするでしょう。
リアルタイムの情報共有
Excelでは誰かが入力している間、そのファイルを他の人が触れられないため、情報伝達面ではどうしてもタイムラグが発生しがちです。たとえば何らかのトラブルや問題が起きたとき、一秒を争う状況で初動が遅れてしまうと、大きな損失になりかねません。
その点、CRMなら同時に閲覧、編集が可能で、リアルタイムに情報共有できるメリットがあります。トラブル時にはもちろん、異動や退職などで引き継ぎを行わなければならないときも、別途引き継ぎ資料を作ったり、メールやチャットで送ったりする必要はありません。
部署をまたいで関係するメンバーがスピーディーに状況を把握し、最適な次の手を打てるため、会社としての対応力が上がり、ビジネスの回転も速まります。どんどん改善しながらよりよいサービスを提供できることから、競合他社と差別化を図れるようにもなるでしょう。
マーケティング施策への活用
収集した顧客情報は、ただ管理しているだけでは意味がありません。それらを可視化し、分析することで、顧客の価値観や考え方、行動特性などを予測することが大切です。一人ひとりの行動から、全体のマクロな視点に変えて考えれば、企業としてのマーケティング戦略に活かすことも可能です。たとえば、ある製品の購入過程で顧客の心が揺れ動きやすい箇所に注目し、別の製品でも同様の考え方でプロモーションを打ってみるなど、新しい戦略も立てられるようになります。
これまでは経験や勘のみで施策を講じていたのが、顧客にまつわる膨大なデータに基づいて立案できるようになることで、より的確なマーケティングが可能になるのは大きなメリットです。
顧客満足度の向上
CRMを導入して企業が顧客管理を一元的に行えるようになると、顧客への理解が進みます。CRMでは氏名や住所、電話番号といった基本的な情報のみならず、家族構成や趣味嗜好、ライフスタイルなど、一歩踏み込んだ情報も、基本情報に紐付けて管理することが可能です。
そうしたさまざまな情報を基にすれば、顧客が何を求めているのか、何があれば満足するのかがおのずと見えてくるため、ニーズに応じて最適なサービスを提供できるようになります。
顧客は、自身の情報を提供する代わりに、企業からは自身のニーズに合ったサービスを提供してもらえるといったwin-winの関係を築けるようになります。コミュニケーションがよりスムーズになり、厚い信頼関係を築けるでしょう。このように、顧客管理を適切に行えると、顧客満足度が向上します。顧客満足度が上がれば、ファンの獲得や売上アップに期待できます。
CRM(顧客管理システム)選定のポイント
現在、CRM(顧客管理システム)は、さまざまなベンダーからサービスが提供されています。そのため、自社にどのCRMが適しているのかがよく分からず結局導入に踏み切れない、といった状況になりがちです。そこで以下では、CRMを導入する際に注目すべきポイントについて解説します。
操作性、使用感
まず、社内でCRMを実際に使う現場の担当者が「使いやすいかどうか」が大切です。どれほど素晴らしい機能やスペックがあっても、日々業務で使うのに操作性が悪かったり、動きがスムーズでなかったり、どこに何があるのか分からないのでその都度マニュアルをみる必要があったりすれば意味がありません。
とはいえ、優れたUI(ユーザーインターフェース)かどうかは、実際使ってみなければ分からないこともあるでしょう。トライアルで使える期間が設けられている製品なら、試してみた後に契約できるため安心です。まずはテストとして導入してみるのがよいでしょう。
連携
CRMを導入するとしても、他のシステムやツールと並行して運用していく場合も多いでしょう。その場合、CRMと連携させたい他のツールがうまく対応していないと、結局二度手間の作業が増える可能性があるため注意が必要です。たとえば、一般的にCRMは営業支援システム(SFA)と連携させるケースが多くあります。それぞれが別個のシステムとして連携させても問題はないものの、最初から一体的に使えるようなシステムであれば、手間がかかりません。
システム同士の連携が可能か、どのように連携させていくのかについては、導入前にしっかりと確認しておくことが大切です。
機能性
CRMは多くの種類があり、機能性もそれぞれ異なります。機能性を確認する際には、最初に「なぜ自社に導入するのか」といった目的を明確化しておくことが重要なポイントです。「他社も導入しているから何となく」など、あいまいな導入目的であれば、実際に抱えている課題を解決できるかどうか分かりません。逆に、「このシステムの機能なら自社の課題を解決できる」と判断できれば、導入を前向きに検討してもよいでしょう。
自社の課題をはっきりとさせ、目的を達成するためにはどのような機能が必要かを確認すれば、自社にとって最適なCRMをおのずと絞り込めるはずです。
コスト
ここまで解説した条件にぴったりのCRMに出会えたとしても、コストをしっかりと確認しておく必要があります。使う部署や使う人数の規模などもあらかじめ確認した上で、予算に適したコストのCRMを選びましょう。コストにも、導入時に必要なイニシャルコストと継続運用に必要なランニングコストがあります。また、高価なシステムならよいというわけではなく、不要な機能が多数あれば自社にはオーバースペックになってしまう可能性もあるでしょう。コストについて不明点があれば、システムを提供しているベンダーへ相談するのもよい方法です。
まとめ
顧客の行動が変容し、価値観も多様化している現代では、一元管理が可能なCRM(顧客管理システム)をいかに活用できるかが重要です。CRMが持つ顧客分析機能などをうまく使えば、顧客について深く理解し、良好な関係を築けるようになります。また、CRMを選ぶ際には、機能性はもちろん、操作性や他システムとの連携、コストなどを総合的に見て判断することが大切です。単なる基本情報のみの管理から脱却し、顧客のニーズを的確に把握した上で、よりよい商品やサービスを提供し、顧客満足度向上を目指しましょう。