サイロ化とは?
ビジネスの世界におけるサイロ化とは、組織内の各部署でシステムやデータが孤立し、うまく連携できていない状態を指します。語源の「サイロ」とは、農業用の穀物貯蔵庫として建設されることの多い、縦型の貯蔵建築物のことです。農場や牧場などでは、複数のサイロが連なって建設されていることも少なくありません。ただ、これらのサイロはそれぞれが独立した貯蔵庫であり、単体での利用がメインです。企業の各部署でシステムやデータが孤立し、連携できていない状況がこれに似ていることから、サイロ化と呼ばれるようになりました。
近年、企業のサイロ化が問題視されています。データ活用がしにくいうえに、スピーディーな意思決定やDXの推進も阻害するためです。DXは国の後押しもあり、多くの企業で取り組みが進められていますが、サイロ化が発生していると実現は困難です。
サイロ化の原因
サイロ化の解消は、組織にさまざまなメリットをもたらし、DXの推進にもつながります。サイロ化を解消するには、原因の把握が先決です。原因はさまざまあり、組織構造やアプリ、システムの問題などが挙げられます。組織構造の問題
日本では、縦割り構造の組織を多く目にします。縦割り組織とは、複数の部門を組織内に立ち上げ、個々の部門に細分化した業務を専門的に遂行させる組織形態です。部門ごとにトップが設けられ、トップが指示を出しながら業務を遂行します。縦割り組織では、細分化された業務へ専門的に取り組むため、業務品質や作業速度の向上が期待できます。また、指揮命令系統が明確であることから、従業員は指示のもと速やかに業務へ取り組めるのもメリットです。
一方、縦割り組織にはデメリットもあります。それが、サイロ化の発生です。縦割り組織では、個々の部門が独立的に業務を遂行します。部門に属する従業員がチームとなって業務に取り組み、他部門とのコミュニケーションをほとんどとらない、といったケースも少なくありません。
また、独立した体制で業務に取り組んでいると、その部門ならではの業務フローや用語などが誕生することもあります。これも、サイロ化が加速化してしまう原因のひとつです。
アプリやシステムの問題
各部門が独自のアプリやシステムを導入しているケースでは、サイロ化が発生しやすい傾向にあります。特に、縦割り組織では各部門の独立性が高いため、業務を遂行しやすいよう独自のシステムを構築するケースが少なくありません。独自のシステムを構築してしまうと、他部門とのデータ連携ができません。うまく情報共有ができず、意思決定のスピード低下や作業の漏れ、納期の遅延などさまざまなデメリットが発生します。
実は、このようなケースはそれほど珍しくありません。同一の拠点であっても、部門ごとに異なるシステムを構築し、情報が社内に分散している例は間々あります。たとえば、営業とマーケティング、販売など各部門のシステムが連携できず、それぞれが独自に顧客情報を管理している、といった状況も考えられます。
サイロ化の弊害
企業のサイロ化は百害あって一利なしです。さまざまなコストが発生するだけでなく、サービス品質やCXの低下を招き、計画の分断や意思決定の遅れ、機会損失、DX推進の阻害など、多くの弊害が生じるため、企業は積極的な改善に努めなくてはなりません。運用コストが嵩む
サイロ化が発生していると、さまざまなコストが発生し、経営を圧迫するおそれがあります。たとえば、コミュニケーションコストです。システムが連携できず、データをオンラインで共有できないとなれば、別途コミュニケーションの場を設けなくてはなりません。無駄なミーティングなどが増え、余計な時間的コストが発生するのがデメリットです。また、拠点ごとに異なるECサイトやマーケティングシステムを利用しているケースでも、情報共有に時間と手間がかかります。さらに、サイロ化によって他部門とコミュニケーションをスムーズにとれない状況が続くと、業務効率や生産性が低下し、運用コストの増加につながります。
スムーズにコミュニケーションをとれる環境であれば、専門的な知識やノウハウを要するシーンでも、速やかに情報共有をして問題解決が可能です。サイロ化していると、他部門の従業員に意見を求めることも難しく、自身で解決策を模索しなければならないため非効率です。
サービス品質とCXが下がる
システムのサイロ化は、サービス品質とCX(カスタマーエクスペリエンス)低下の原因になり得ます。たとえば、営業とマーケティング、サービス関連部門でそれぞれのシステムが独自に構築されているとしましょう。この場合、各部門は顧客情報も共有できていないため、問い合わせをしてきた顧客に対し何度も同じことを聞いたり、必要以上に待たせたりといったことが起こりかねません。また、フロントオフィスとバックオフィスのシステムが異なると、顧客や取引先を待たせてしまうおそれがあります。「納期や在庫の確認をしたい」と顧客がフロントオフィスへ問い合わせしてきても、バックオフィスのシステムと連携できていないため情報をスムーズに共有できず、確認までに多大な時間を要してしまいます。
さらに、サイロ化していると一貫した顧客対応ができません。営業とマーケティング、アフターサービスなど、それぞれが独自の対応をしてしまい、顧客にネガティブな印象を与えるおそれがあります。
このように、顧客を必要以上に待たせたり、一貫した対応ができなかったりすると、ネガティブな印象を与えCXも低下します。企業イメージも悪くなり、顧客離れも招きかねません。
計画が分断したり意思決定が遅れたりする
サイロ化は、意思決定の遅れを招く点にも注意が必要です。サイロ化が発生していると、リアルタイムで最新のデータを共有できません。重要な情報が特定の部門で止まっており、共有が遅くなった結果、意思決定も遅れてしまい機会損失を招くおそれがあります。現代ビジネスにおいてスピードは重要です。現在ではインターネットが普及し、誰もがスピーディーにさまざまな情報を取得できるようになりました。ただ、利益に直結する情報を入手できても、それを速やかに共有できなければビジネスに活かせません。サイロ化は、スピード感あるビジネスも阻害します。
また、各部門で管理している数値データが異なり、共通の認識を抱けない問題もあります。経営層と経理部、各事業部が異なるデータを閲覧していると、認識違いが生じてしまい、のちのち大きなトラブルにも発展しかねません。
データ活用ができないことで機会を逃す
サイロ化が発生していると、ビッグデータをビジネスに活用できません。有益なデータを膨大に蓄積していたとしても、連携ができないとどのようなデータが眠っているのかも把握できず、宝の持ち腐れになってしまいます。ビッグデータの活用は、ビジネスにさまざまなメリットをもたらします。たとえば、データから来客や需要の予測ができるほか、市場動向も把握しやすくなるため、市場の動きやニーズにマッチしたビジネスの展開が可能です。
また、過去に開拓した顧客の情報を、いつまでも眠らせたままにしてしまう、といったことも起こり得ます。過去には案件化できなかった顧客でも、良好な関係を構築してアプローチを継続すれば、優良顧客になってくれるかもしれません。しかし、サイロ化してビッグデータの活用ができない状況では、案件化できなかった顧客情報の掘り起こしができず、利益にもつながりません。
DX推進を妨げる
近年、多くの企業がDXへの取り組みを進めています。日本の少子高齢化は著しく、人口の減少にも歯止めがききません。そこで求められているのがDXです。最先端のデジタル技術やAIなどを導入し、DXを進めれば人手不足の解消にもつながります。ただ、DXを推進するにあたって、サイロ化は大きな阻害要因となります。DXを成功させるには、データ活用できる環境の構築が必須です。各部門が独立したシステムを利用し、データの連携もできていないような状況では、DXも推進できません。
サイロ化の改善策
サイロ化したままの状態ではDXの推進もできず、業務品質や生産性が低下するのを待つばかりです。組織力を高め、競合に打ち勝つためにも、改善への取り組みを進め現状を打破しましょう。「組織のサイロ化」は、コミュニケーションで解消
組織のサイロ化を解決するアイデアとして、コミュニケーションの活性化が挙げられます。特に、縦割り構造の企業は各部門の独立性が強い傾向にあり、部門同士のコミュニケーションも多くありません。このような状況では、スムーズな情報共有や情報交換などもできないため、まずはこうした状況の改善を進めていきましょう。具体的な取り組み方としては、部門間で連携しやすい雰囲気の醸成が有効です。部門横断的にメンバーを集めたプロジェクトを発足させたり、各部門の従業員が交流できる社内イベントを開催したり、といったアイデアが考えられます。
従業員が「部門横断的にコミュニケーションをとりたい」と思えるような施策を打ち出すのもひとつの手です。たとえば、別部門の従業員と一緒に食事などへ出かけたときには、費用の一部を負担する、といった制度を用意するのもよいかもしれません。
「情報のサイロ化」は、データの連携と統合で解消
情報のサイロ化を解消するために、データ連携と統合を進めましょう。データの連携や統合には、ITツールの導入が欠かせません。データ統合と一元管理が可能なシステムの導入を検討しましょう。データ統合システムを導入すると、データを登録するだけで共通の形式で蓄積できます。情報共有もスピーディーに行え、マネジメント担当者の負担軽減につながるのもメリットです。
社内システムを最適化する際には、CXを第一に考えましょう。どうすれば顧客が喜んでくれるのか、顧客の満足度を高めるためには何をすべきか、といったことを念頭に置いたうえで最適化を図ります。
サイロ化を解消するメリット
サイロ化が発生した状態を放置しても、企業にとってよいことは何ひとつありません。むしろ、サイロ化はデメリットしか生まないため、少しでも早く改善すべきです。サイロ化の解消によってさまざまなメリットを享受でき、売上や利益の拡大にもつながります。作業が効率化し、運用コストが下がる
サイロ化の解消によって得られるメリットのひとつが、運用コストの削減です。サイロ化が解消し、部門間でスムーズに連携できるようになれば、これまでのように無駄なコミュニケーションコストも発生しません。すでに登録されているデータを他部門が再度入力しようとする、といった事態の発生も回避でき、無駄な作業がなくなるため業務も効率化します。サイロ化を解消するプロセスのなかで、業務フローも最適化できます。これまで気づかなかった無駄なプロセスが抽出されるため、業務フローの改善につながり、ひいては生産性の向上につながる点がメリットです。
業務効率化が進めば、従業員は効率よく業務を遂行できるようになるため、余計なコストも削減できます。これまでよりも少ないリソースで最大限の成果を得られるようになり、利益の最大化も実現できます。
サービス品質の向上でCXが上がる
サイロ化を解消し、顧客情報を一元管理できる体制が整えば、一貫性のある顧客対応を行えます。部門や担当者ごとに対応が異なる、といったことがなくなるため、顧客満足度の向上につながります。また、スピーディーな顧客対応が実現するのもメリットです。サイロ化が発生している状態では、顧客情報も分断されているため、他部門で管理している顧客情報を入手するのに多大な時間を要してしまいます。情報取得の遅れにより顧客を待たせてしまい、顧客満足度の低下やクレームにつながる可能性もありました。顧客情報を一元管理すれば、こうした事態も回避できます。
さらに、統一感のあるブランディングを実現できるのも魅力です。サイロ化が進んでいると、拠点間でWebサイトやマーケティングシステムが異なる、といったことも珍しくありません。サイロ化を解消して一貫性をもたせれば、統一感のあるブランディングが可能です。
計画の実行と意思決定がスムーズになる
現代は情報社会であり、ビジネスにはスピードが求められます。生き馬の目を抜くようなビジネスの世界で生き残るには、スピーディーな意思決定が欠かせません。サイロ化の解消は、スピーディーな意思決定を実現する第一歩です。組織内であらゆるデータを一元管理できるようになれば、経営層も重要な情報をリアルタイムで取得できます。その結果、速やかに意思決定を行えるようになり、機会損失も回避できます。
また、サイロ化を解消すればビッグデータも活用できるようになるため、より的確な意思決定が可能です。ビッグデータの分析から有益な情報を得られるため、それらを経営判断に活用することで、さらにスピーディーかつ高精度な意思決定を行えます。
データ活用で機会が拡大する
ビッグデータを活用できれば、ビジネスチャンスも拡大します。ビッグデータを分析すれば、市場動向や顧客の行動パターンなども把握でき、そこから新たなヒントを得たり、ビジネスチャンスを掴めたりするメリットがあります。ビッグデータの活用は、休眠顧客の開拓にも有効です。過去に開拓した顧客の膨大なリストを保有していても、活用できていなければ意味がありません。ビッグデータを集約し、過去にアプローチしたことがある顧客や、接点をもったことがある顧客を掘り起こせば、低コストで顧客を増やせます。
また、ビッグデータは需要予測や来客予測などにも活用できます。あらかじめどの程度の需要があるのかを把握できれば、それに基づいた施策を打ち出せるため、機会損失の回避が可能です。
DXを推進する
サイロ化が発生している状況では、DXを実現したくてもできません。逆をいえば、サイロ化を解消できればDXの阻害要因を排除できるため、スムーズにDXの取り組みを進められます。サイロ化を解消してDXを推進できれば、さらなる生産性の向上を見込めるだけでなく、コスト削減や新規ビジネスの展開などにもつながります。組織力や競争力のさらなる強化にも寄与するため、効果的にサイロ化を解消し、DXを進めていきましょう。
ただ、「DXに取り組んではいるものの、なかなか成果につながらない」という企業が多いのも事実です。サイロ化を解消しただけでは、DX成功とはならないため、正しい手順や方法のもと取り組みを進めていかねばなりません。
特に、DX推進を指揮するDX人材の存在は必須です。「サイロ化を解消したあとは、速やかにDXへと舵を切りたい」と考えているのなら、今からDX人材の獲得も視野に入れておきましょう。DX人材は外部から確保する方法もありますが、自社にめぼしい人材がいる場合は育成するのもひとつの手です。