IoTやAIなど最新のテクノロジーを活用し、生産性を高める先進的な工場としてスマート工場が注目されています。しかしながら、多くのIT部門担当者がスマート工場の仕組みやその導入メリットについて適切に理解していないのが現状です。ここでは、スマート工場の概要や、導入するメリットについて詳しく解説していきます。
スマート工場とは
スマート工場とは、生産設備をIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)と接続し、ネットワーク管理することで業務効率の最適化に取り組む工場を意味します。IoT・AI・ロボットといった最先端テクノロジーとの融合により、情報管理の効率化や生産ラインの生産性の最大化を目指します。スマート工場の目的を端的に言うなら「製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)」です。IoTやAIを駆使してビジネスモデルや組織を変革し、企業の競争優位性を確立するのがスマート工場の目的です。
スマート工場は、ドイツ政府が提唱する「インダストリー4.0」という概念のもとに誕生しました。インダストリー4.0とは「第4次産業革命」を意味する言葉です。第1次産業革命は蒸気機関の誕生です。石油と電力による大量生産の始まりが第2次産業革命、IT技術を活用し始めたのが第3次産業革命。そして、IoTやAIを駆使するスマート工場の実現が、第4次産業革命と位置付けられています。
スマート工場で解決できる課題
スマート工場を実現するインダストリー4.0は、現在の製造業が抱えている深刻な課題を解決へと導くことができると期待されています。製造業を営む多くの企業が抱えている課題とは「人手不足」「技術継承」「生産性向上」の3つです。ここでは、この3つの課題について解説するとともに、工場のスマート化によってどのように解決するのかを見ていきます。
人手不足
慢性的な人手不足は、製造業において最も深刻な課題のひとつです。経済産業省の「製造業における人手不足の現状、および外国人材の活用について」によると、94%以上の企業が「人手不足に陥っている」と回答しています。さらに32%以上の企業が「経営に影響が出ている」と回答していることから、製造業において人手不足はいかに深刻な状況であるかがわかります。人手不足という課題の背景にあるのは、人口の減少と少子高齢化でしょう。現在、日本の人口は減少の一途をたどっており、少子高齢化も相まって、製造業は今後さらに深刻な人手不足になると予測されています。
こうした問題を解決へと導くのがスマート工場の実現です。IoTやAIといったテクノロジーを活用することで、工場内のさまざまな業務が効率化・自動化します。たとえば、生産設備を常時ネットワーク接続することで、リアルタイムで情報管理と進捗管理できるようになるでしょう。また、製品検査や故障感知、在庫管理といった業務もデジタル管理され、生産性の向上や品質の安定につながります。つまり、スマート工場の実現により、人の手で行っていたあらゆる業務が効率化・自動化され、人員が減っても労働力を補うことが可能になるのです。
技術継承
日本は世界でもトップレベルの産業技術を誇る国です。しかし、その高い技術力が若い技術者に継承できないという問題が顕在化しています。高度経済成長時代の日本は終身雇用制度によって長期的な雇用が保証されており、長期的なスパンで人材育成に取り組むことができました。ところが、終身雇用の崩壊と雇用形態の多様化によって人材の入れ替わりが激しくなり、熟練工の技術の継承が困難になっています。
この問題を解決する方法は暗黙知を形式知へと変換することです。IoTセンサー技術やデータ可視化技術を活用することで「熟練のスキル(暗黙知)」を「言語化・マニュアル化(形式知)」へと変換し、組織全体での共有が可能になります。ベテランの暗黙知を共有することで従業員一人ひとりの労働生産性が高まり、ひいては企業全体の競争力向上へとつながるでしょう。
生産性向上
IT技術の発達により、あらゆる産業が進歩・発展を遂げました。一方でシステムはどんどん複雑化し、保守・管理するエンジニアの負担が増加しています。深刻な人手不足と相まって技術者が減少するなか、求められる知識やスキルは高まる一方です。また、情報化社会になったことで顧客やユーザーのニーズも多様化し、品質レベルに対する要求が年々高くなっています。
そこで求められるのが労働生産性の最大化です。スマート工場を実現することで、工場内の生産設備や従業員の稼働が最適化され、無駄のない生産体制の構築が可能になります。さまざまな業務がIoTやAIによって最適化・自動化されることで、組織全体の労働生産性の向上につながるでしょう。
スマート工場導入のメリット
スマート工場の導入で得られる最大のメリットは、人間の自助努力では到達できない領域の業務をカバーできる点です。たとえば機器の故障予知や、画像認証によって不良品を検知するなど、従来は目視確認でしか対応できなかった問題を事前に察知できます。また、バーチャル技術を駆使した人材育成など教育分野に活用できるのも大きなメリットです。ここでは、こうした人間では成し得るのが困難な、スマート工場導入のメリットについて解説します。
故障の事前予知
工場の機器とIoTをネットワーク接続することで、故障の事前予知が可能です。さまざまな生産設備が稼働している工場において、機器の故障は避けられません。しかし、生産設備の故障は業務効率を著しく低下させ、最悪の場合、業務遂行が不可能となるケースもあるでしょう。そのような事態を避けるためには、稼働状況を逐一確認し、故障した場合の予備機器を用意するといった対策が必要であり、多くの手間とコストを要します。
スマート工場では、生産設備とIoTを接続し機器のリアルタイムデータを管理できます。工場全体の機器や設備を一元管理し、故障の確率を予測したり、異常箇所の検出をしたりといったことも可能です。これにより、生産設備の故障に備えられるのはもちろん、人間による機器の監視業務が不要になるためコスト削減にもつながります。
画像認識による不良品検知
製造業において製品の品質クオリティは、企業価値を左右する重要な要素です。しかし、どれだけ生産ラインの改善や品質管理を徹底しても、不良品の混在は避けられません。不良品を市場に流通させないためには、厳格な検品検査を行う必要があり、多大な労働力やコストを必要とします。したがって、製造業では不良品率をいかに低下させるかが課題となっています。
こうした不良品の検知もIoTやAIの得意とする分野です。AIの深層学習(ディープラーニング)に製品の画像データを読み込ませることで不良品の検知が行えるのです。大量の画像データを読み込ませて特定のパターンを検出し、人間の目視よりもはるかに高い確率で不良品検知が可能となり、クオリティの均一化にもつながるでしょう。
VRによる人材育成
VRやARといったバーチャル技術を活用することで、生産現場の様子を体感・体験できます。仮想現実や拡張現実で実践に近い業務トレーニングを行えるため、人材育成に生かすことが可能です。たとえば、大手自動車メーカーはVRとAR技術を取り入れた、車体の組み立てトレーニングを導入しています。従来であればテスト用の実車でトレーニングを行う必要がありました。バーチャル技術を導入することで、より実践的なトレーニングを行うことが可能になったのです。
その他の事例として、印刷現場で起こりうる、巻き込まれ事故を擬似体験できるシステムを設置している印刷会社もあります。事故現場を疑似体験することで、従業員一人ひとりの危機管理意識の向上を促すことが可能です。このような、VRやAR技術を活用した取り組みは、これからの製造業においてスタンダードな手法になっていくと予測されます。
まとめ
工場のスマート化は、製造業が抱える人材不足などのあらゆる課題を解決し、更なる飛躍を望めます。これらを後押しするツールに「Microsoft Dynamics 365」があります。クラウド上でCRM・ERP領域のあらゆるプロセスやデータをつなげ、経営効率の向上に役立てられます。この機会に検討してみてはいかがでしょうか。