ERP導入プロジェクトを推進するにあたり、必須と言える作業が「RFP(提案依頼書)」と「RFI(情報提供依頼書)」という2つの書類作成です。
RFPは、ERPに求めるシステム構築要件を踏まえながら、それに沿った提案をERPベンダー各社に依頼するための書類です。RFPを受けた企業は、それぞれの技術や製品の特徴から、要望に沿ったシステムをどう構築するか?大体の費用はいくらか?プロジェクト期間はどれくらいか?などの情報を提案します。
RFIは、ERPベンダー各社に基本的な会社情報/技術情報/製品情報などの提示を求めるための書類です。あらゆる基本情報を求める正式な書類なので、ホームページ等には記載されていない技術情報や製品情報を得ることができ、具体的な検討を進めることができます。
本稿では、これらRFPとRFIの違いをより詳しく説明し、具体的に何をすればよいのかを解説していきますので、ERP導入プロジェクトに役立てていただけたら幸いです。
RFPは「良い提案」を受けるための書類
ERPというシステムは全社に関わる巨大なプロジェクトであり、これまで個々に運用してきた基幹系システムを巻き込んで、統合的なシステム環境を作ります。その特徴から、業務の合理化や運用面の簡素化を図ることができますが、システム構成が複雑になることから、独自の判断でERP製品を選ぶのは難しいという特徴があることはいうまでもありません。だからこそ、RFPを作成してERPベンダー各社から提案を受ける必要があるのです。
ただし注意すべきなのは、「ERPベンダー各社から良い提案を受けるためにRFPを作る」ことです。ERP導入プロジェクトでは、以下のようなケースが度々発生します。
A社のRFP事例
A社はERP導入にあたり、いくつかピックアップしたERP製品の提案を受けるためにRFPを作成。ERPベンダー各社に送付しました。RFPの内容には、ERPに実装したい機能要件の一覧表を作成し、その対応可否について情報を求めました。「時間をかけて作ったし、これならERP製品選定が効率よく進むだろう」と考えました。ところがほとんどの提案書には、すべての機能要件に対して「対応可能」と記載されています。A社は、「我が社にとって、一体どの製品が最適なのだろう?」と、判断に困ってしまう結果になりました。
なぜこのようなことが起きるのでしょうか?それは、「ERPベンダー各社は機能要件一覧表を見ただけでは、機能ごとのプライオリティ(優先度)を把握できない」ことと、「大体の機能はアドオンや運用次第で実装可能」だからです。
要するに、単純な機能要件一覧表を作っただけでは、各社製品を細かく比較することはできません。そこで大切になるのが「良い提案を受けるためのRFP作成」です。
良い提案とは、ERPベンダー各社がRFP作成者の経営課題や、ERP導入に至った経緯や背景、現在の業務プロセスと目指すべき姿などをくみ取った上で、機能要件に対して対応可否を回答するだけでなく、どういった方法で対応できるかなどの情報を含み、時にはRFP作成者の環境を考慮して機能要件の添削などを含めた提案を指します。
「良い提案」を受けるためのRFPづくり
それでは実際に、「良い対案」を受けるためにできるRFPづくりのポイントをご紹介します。
1.RFPの趣旨
なぜERPを導入するのか?なぜRFPを作成するのか?など、RFPの趣旨を説明することでERPが必要になった理由や背景を読み取ってもらいます。
2.システム構築方針
システム構築の際に会社で取っている方針があれば、それを漏らさず記入しましょう。特に方針を設けていない場合は、特別に記載しなくてもERPベンダーがその他の情報から最適な構築方法を提案します。
3.現状課題
今現在抱えている経営課題や業務課題は何か?RFPを作成する前に全社的な課題を洗い出し、優先度の高い課題について説明しましょう。
4.機能要件
「ERPにこんな機能を実装したい」という要望が機能要件です。ただし、事業部門ユーザーの要望を単純に吸い上げた機能要件(To-Beモデル)はあくまで理想型なので、そのまま実現しようとなるとアドオン開発が膨れ上がります。To-Beモデルから優先順位や業務プロセスのつながりを考慮しつつ、必要な機能要件だけをまとめた現実型(Can-Beモデル)を意識してください。
5.導入要件
「いつ?誰が?何を?どこで?どうやって?」という「4H1W」の視点から導入要件について説明しましょう。この要件が企業都合になるほどトレードオフ(要件をクリアするための犠牲)が必要になるので、慎重に考慮する必要があります。
6.インターフェース要件
ERPにて周辺システムとどういったデータ連携を実現したいのか?という情報を、データの内容/連携方法/連携頻度などを含めて説明しておくと、システム環境を総合的に捉えた提案が受けられます。
7.利用環境
現在利用しているシステムにおけるサーバーの種類とOS、クライアントの種類とOS、利用可能なブラウザ、セキュリティシステムの有無など細かい利用環境を記載しましょう。
上記では代表的な項目をご紹介しましたが、最低限おさえておきたいポイントということでご理解ください。
RFIを作成するポイント
RFPに対し、基本情報をも解けるRFIはもっと簡単に作成できる書類です。ただし、ちょっとしたポイントを押させることでERP検討時に有益な情報を入手できます。たとえば、RFIにてシステム構築実績やERPパッケージ導入実績などの情報を求める際は、ある条件を提示し、その条件にマッチした実績について尋ねてみます。
例)製造業で売上高5億円以上10億円未満の、システム構築及びERPパッケージ導入実績
このように業種や事業規模にちょっとした条件を加えるだけで、目的の情報を効率よく入手することができます。この他にも、RFI作成に際に押さえておきたいポイントは以下の通りです。
RFIに完全性を求めない
RFIを作成するにあたり、有益な情報を入手したいがあまりに内容を詳細に、具体的に書きたくなってしまうものです。ただし、RFIはあくまで参考情報を得るためのものなので、内容を詳細にしてしまうと作業工数が膨らむ作成期間が長くなることで、情報提出のタイミングを逃してしまうことがあります。
要件は曖昧でも求めている回答が何かを示す
RFIに記載する条件や前提に、曖昧な点があっても問題はありません。ただし、ERPベンダーに回答してもらう内容については、明確に提示する必要があります。たとえば「システムの概算費用を提示してください」という質問では、初期費用は含むか、ハードウェア費用は含むかなど様々な角度で考えられます。そのため、回答してもらう内容を絞ることで、ERPベンダー各社の回答基準を統一できるため、より具体的な検討が行えます。
RFPもRFIもポイントをしっかりと押さえれば、誰でも簡単に作れます。ERP導入プロジェクトを効率よく推進する際は、ぜひ参考にしてください。