近年、多くの企業でAIの普及が進んでいます。AIは高度な学習機能と分析機能を備えることから、さまざまな業務に取り入れられており、業務効率を高める働きが期待されています。そこで本記事では、営業現場で活躍するAIの種類や活用方法について解説していきます。
国内企業でのAI普及は、ここ数年で着実に拡大
日本のオフィスにおけるAI導入状況は、他国と比べ低い水準にあると言われています。ところが近年では、日本でもAIの導入が急激に増加しています。AIは自動運転やセルフレジ、音声翻訳、インターネットの検索ツールなど、さまざまな用途に使用可能です。オフィスに限っていえば、通常のOCRよりも文字の認識精度が高いAI OCRや、売上や支払金額などの動きから不正を発見する不正検知など、業務効率化を助けるために幅広く活用されています。
総務省発行の『令和2年版 情報通信白書』によると、平成28年における国内企業のAI普及率は5%だったのに対し、令和元年では14.1%まで上昇しており、実に3倍近くAIの利用が増加していることがわかります。また同書では、国内のIoT・AIなどのシステム・サービス導入企業および導入予定企業は、全体の約2割を占めると報告されています。ここ数年の成長に鑑みるに、今後もAIの普及は広がっていくと考えられるでしょう。
日本企業でのAIの活かされ方
現在、多くの日本企業ではAI技術を活用し、業務の効率化を図る取り組みが行われています。AIが有する文字情報の自動チェックや画像認識、音声分析といった機能は、時間がかかるさまざまな作業の自動化を実現します。以下では、これらが具体的にどのような形で活用されているのかを見ていきましょう。
文字情報の自動チェック
「文字情報の自動チェック」とは、AIの「自然言語処理」を用いた技術です。「自然言語」とは人間が日常会話などで使っている言葉で、数値と異なり曖昧な部分を多く含むため、コンピューターによる分析は難しいとされていました。
しかし、AIの言語処理能力を持ってすれば、こうした文章の自動チェックが可能です。文章を区切って単語を判別する「形態素解析」や、単語の並びを明らかにする「構文解析」などにより、文章の意味や文脈を細かく分析・処理します。学習すれば方言や業界特有の言い回しなどにも対応できるため、その用途は多岐に渡ります。
近年のビジネスシーンでは、主にメールやチャットボットなどで活用されています。毎日大量に届くメールやメッセージの内容をAIが解析・判別し、早急な返信をレコメンドしたり、自動で返信したりします。また、文章の質を重んじる新聞社ですら、記事の要約作業にAIの自動チェック機能を活用するケースまで見られるのです。これは、AIが高性能になってきていることを実感させてくれる事例と言えるでしょう。
画像認識AIの活用
「画像認識」とは、画像に映っているものを認識し、そこから対象物を検知する技術のことです。主に検品や点検作業で用いられています。
これまで建設・鉄道・飛行機などの点検作業を行う現場では、作業員の置き忘れた工具が原因で、しばしば大きな事故に発展するケースが見られていました。こうした現場では入退場時に工具などの持ち物確認が行われますが、現在ではAIによる画像認識が活用され、この確認作業の効率化が図られています。これにより、工具の置き忘れや取り間違いといったトラブルの発生を、入退場時の持ち物の違いから検知できます。
また、画像認識技術はコンサート会場における来場者の本人確認や、高齢者向け施設の利用者の安全確認などにも応用が可能です。
音声分析
「音声分析」は、先述の自然言語処理を人の声に対し行う技術です。音声をテキストに変換し解析することで、文章に使われる単語や言葉遣い、表現などから、話者の現在の心理状態をポジティブ/ネガティブで判別します。さらに、「テキストマイニング」によって頻出語や文章の特徴、傾向を抽出・分析することで、より高精度な感情分析やニーズの把握が可能です。
AIを使った音声分析は、主にコールセンターなどで活用されています。顧客からの問い合わせには気軽な質問から厳しいクレームまで、さまざまなものがあります。オペレーターはこれらの問い合わせに適切に対応しなければならない都合、ストレスを溜め込みやすく、離職率の高い仕事です。
AIの音声分析を用いれば、顧客の心理状態に適した対応を取れるうえ、オペレーターのストレスチェックにも役立ちます。また、マニュアル対応の自動化も図れるため、オペレーターの負担を軽減しつつ大幅な業務効率化が期待できます。
営業現場から人間がいらなくなることはない
AIの進歩は、営業現場にも大きな変化をもたらしました。営業といえば、「商品知識を備えた営業担当者が顧客と直接やり取りして、売買契約に結びつける」という仕事を行っているイメージが強いかもしれません。しかし実際には、顧客管理やスケジュール管理などの事務作業もこなさなければなりません。AIはこれらの作業を自動化・効率化し、営業担当者が顧客とのやり取りに専念できるようサポートしてくれます。
また、データに基づいた画一的な商品説明であればAIでも可能なため、対面営業における活躍もいくらかは見られます。とはいえ、AIと人間とでは、やはりカバーできる分野が異なります。直接的なやり取りを通じて顧客の感情の機微を察知し、顧客一人ひとりにパーソナライズした対応を取れるのは、経験豊富な営業担当者ならではの強みと言えるのです。
営業現場においてAIは、営業担当者の代わりとなるのではなく、あくまで営業活動に付随する作業負担を軽減し、営業担当者の業務効率を最大化するための活用が適しています。これからの営業現場では、このAIによるサポートを活かした活動展開が求められるでしょう。
営業現場でのAI活用
営業現場でAIが必要とされているのは、基本的に「SFA(営業支援システム)」の高効率化を目的としてのことです。AIを導入するなら、この点を基軸に捉えて検討するのがよいでしょう。以下では、AIの営業現場における具体的な活用シーンを紹介します。
訪問先を自動で導出
従来の営業活動では、営業担当者の経験や勘を頼りに訪問先を決めるケースが少なくありませんでした。しかし、このやり方では確度に欠けるうえ、新人の早期的な戦力化も見込めないため非効率と言わざるを得ません。
AIを活用することで、これまでの販売実績や地域データ、外部統計データなどを集約・分析し、訪問に適した取引先を導き出せます。地図アプリケーションとAIを連携すれば、より効率的な訪問ルートの検索も可能です。
ディープラーニングを活かし的確にアドバイス
「ディープラーニング(深層学習)」とはAIに用いられる機械学習方法の1つで、人間が自然に行っているタスクを学習し、人間同様に実行できるようにする技術です。先述した自然言語処理や画像認識、音声分析もこれにあたります。
ディープラーニングで好成績者の行動をAIに学習させると、好成績者に通じる特徴などをAIが分析し、営業実績を上げるための方法をAI自ら考えます。優秀なセールスパーソンにならい、最適な訪問頻度やメールの文面、確度の高い見込み顧客への対応などを導出・提案してくれるため、営業部全体の品質向上が期待できます。
日立ソリューションズの営業支援AI
日立ソリューションズ(HISOL)ではAI・IoTを用いて、Microsoft AzureやDynamics 365などのMicrosoft製品に関するさまざまな営業支援を提供しています。
同社は2018年、AIを用いた実証実験にて、製品情報照会の大幅な時短に成功しました。本実験は、Azureが提供するAIサービス「Cognitive Services」の画像認識機能とDynamics 365のデータベースを連携し、スマートフォンで撮った画像から製品情報を照会するというものです。以下では、本実験から見る同社の営業支援AIについて解説します。
チャットを参照し、必要な情報を提出
従来、営業担当者は自社の製品・サービスを顧客にアピールするため、売り込みに必要な情報を得るにあたり、さまざまな資料を集めなければなりませんでした。また、資料の場所がわからなければ管理者に尋ねたり、情報が乏しければ売り込む製品・サービスに詳しい人に聞いたりするなど、場合によっては人探しの手間まで要していたのです。
日立ソリューションズのAIアシスタントは、AIが社内のリソースから必要な情報を検索・抽出し、業務で使用しているビジネスチャットを介して提供してくれます。実際、同社が行った実証実験では、それまで5分~30分かかっていたとされる「探す」ための時間が、わずか1分に縮まったとの結果が報告されています。
資料探しや人探しにかかる時間を削減できれば、そのぶん営業担当者の負担が減り、より人相手の営業に集中しやすくなります。本実験は、AIが営業活動にもたらす確かな実効性と有用性を示したものと言えます。
Microsoft Dynamics 365との連携
本実験の要となったのは、日立ソリューションズが得意とするAI(Cognitive Services)とDynamics 365の連携です。これにより画像認識とデータベースの照合が可能となり、スマートフォンで撮影した画像からでも詳細な製品情報を引き出せるようになっています。
また、製品に付いた製品番号ラベルなどを撮影することで、それを文字情報として認識できるのもポイントです。それを基に製品ユーザーや修理履歴、導入時の担当者などをスムーズに特定していくことで、営業時の確認作業の大幅な効率化につながります。
そのほか、他言語での問い合わせを自動通訳してくれるなどのメリットもあります。このように、AIとDynamics 365との連携は幅広い用途を可能にし、営業活動そのものにさまざまな付加価値を生み出せます。それを証明した本実験は、まさにAIとDynamics 365に精通した同社ならではの試みと言えるでしょう。
AI導入のコツは「少しずつ」
AI機能はDynamics 365自体にもどんどん組み込まれていきます。しかし、新しい機能が出たからといってAIをすべて導入していくのではなく、自社で必要なものだけを少しずつ取り入れていくことが大切です。
スモールスタートでAIを導入することにより、大規模な設備投資などのリスクを負うことなく営業活動の効率化が図れるため、コストカットにつながります。またAIの導入は、少なからず既存の業務の変更を生じさせますが、計画的に導入していけば現場の反発も少ないでしょう。
まとめ
近年の日本企業においては、AIの普及率が急激に上昇しています。AIなどのシステム・サービスを導入予定としている企業も全体の約2割はあるとされており、まだまだAIの利用は増加が続く見込みです。
営業は顧客を獲得するうえで欠かせない仕事ですが、担当者への負担が大きい面があることも否定できません。AI導入によって営業担当者の負担を軽減すれば、より効率的・本質的な営業活動が可能となり、さらなる顧客獲得が期待できるでしょう。