社内に点在する情報をひとつに集約し、業務の効率化とスピーディな経営の意思決定を可能にするのがERPです。しかしながら、実務を担う社員からは不安の声が多く、ERPの導入に対して現場の理解を得られないケースもあります。そこで本記事では、ERPの導入が反対される理由と、導入を成功させるポイントを解説します。
ERP導入はなぜ困難なのか?
ERPはさまざまな業務に関する情報を可視化して一元管理できることから、経営層が意思決定に必要な情報を得るためのツールとして活用されています。しかし、ERPを導入するとなると、各部署において業務手順が変更されるなどの影響があるため、実務に携わる社員の理解と協力が不可欠となります。
ERPの導入は一朝一夕で実現できるものではなく、企画から本格稼働までには半年から一年程度を要します。基本的には「企画・準備」、「設計」、「構築・テスト」、「移行・研修」、「本格稼働」といった順序で進んでいきます。
ERP導入のプロジェクトは企業のトップが主導で立ち上げるケースが多く、当初の検討会議では導入に前向きな雰囲気が漂っていることもあります。しかしながら、プロジェクトの進行が中盤に差し掛かると、現場から反対の声があがってくるということもありえます。
反対意見を主張するのは、多くの場合が各部門の責任者です。なぜなら実際にERPを導入してから安定稼働に至るまでに、各部門における業務の負担増加が懸念され、現場従業員が不利益を被るリスクをともなっているからです。
反対派を説得できずにプロジェクトが難航してしまうと、プロジェクトメンバーが全社的に情報を発信する機会も次第に減っていくようになります。社内での認知が進まない限り、導入計画は進めることができません。このように、ERP導入プロジェクトを発足したとしても、経営者側の意図通りには簡単に進まないというのが現実なのです。
現場におけるERP採用の不安
現場で働く従業員たちは、ERPの導入にどのような不安を抱えているのでしょうか。部署や業務別に説明していきます。
経理・事務スタッフの不安
ERPを最も利用するのは、主に経理や事務を担当する従業員です。経理・事務分野ではシステムの機能や使い勝手によって仕事の効率に大きな影響が出るため、システムが変更されるだけで作業にかかる時間が大幅に増加し、深夜までの残業を余儀なくされるケースもあり得えます。
企業はバックオフィスに最小限の人員しか配置しない傾向があることから、通常業務だけでも忙しいところにシステム変更によって余計な手間をかけさせられるのは嫌だ、という理由でERPの導入に反対される可能性があります。
情報・システム部の不安
情報・システム部門の従業員も、ERPの導入に難色を示すことがあります。システム部門においても間接部門と同様、システムの変更はリプレースの手間を増やすので、オペレーションも変更しなければなりません。
また、従来のシステムが安定して稼働していた場合には、システムの入れ替えによるトラブル発生のリスクが懸念されることから、ERP導入の必要性が理解されないこともあります。さらに、業務の効率化にともなって人員を減らされることや、セキュリティ上問題を心配して、抵抗感を抱く従業員が現れるのもよくあるパターンです。
しかしながら、ERPの導入にはシステム部門の協力が必要不可欠です。考えられる不安要素を抽出し、それらを解消していく努力が求められるでしょう。
一般社員の不安
ERPのなかには、交通費や経費の精算に使う伝票を現場で入力できるものがあります。新しいシステムの使い方がわからないと会社全体の業務に支障をきたすことになるため、現場で伝票を入力させるのであれば、経理・事務、システム管理部門に従事する社員だけでなく、ほぼ全社員の理解が必要となるでしょう。
ERP導入はどうして反対されるのか?
ここからは、ERP導入が反対される理由について、より踏み込んで解説していきます。
システムや業務手順の変更に伴う対応が煩わしい
新しいシステムを導入するとなれば、業務フローをはじめ、画面レイアウト、操作手順、画面に表示されるメッセージなどが変わります。今までとやり方が変われば、従業員が戸惑うのも当然です。
システムを変更する目的は、現状の課題を解決して業務を効率化することですが、一時的とはいえ実際に大きな変化が生じることとなります。システムを使う従業員側からすると、新たに操作方法を覚えるのは面倒に感じられることでしょう。
現場の従業員の負担を軽減するためには、カスタマイズやアドオン機能を追加して対応すればよいのではないかと考えたくなりますが、それらは必ずしも得策とはいえません。なぜなら、初期投資やランニングコストがかさむうえ、バージョンアップの難易度も上がってしまうからです。システムの規模が大きくなることから、不具合も起きやすくなるというデメリットもあります。
セキュリティ対策への不安
新たにERPを導入すると、セキュリティや品質の面で不便が生じる可能性があります。想定されるのは以下のような事態です。
- 今まであった機能がなくなる
- 機能に制限がかかる
- システムトラブルが発生する
- 処理スピードが低下する
これらは元のシステムにも共通する問題かもしれませんが、現状で特に不都合を感じていない場合、現場の従業員としてはあえてシステムを新しくする必要性を感じないはずです。
ERPの導入が抵抗を受ける理由の一つとして、セキュリティに関するリスクへの懸念も挙げられます。特にこれまでに利用経験のないサービス事業者やベンダーの場合、明確な理由はなくとも不安視され、抵抗される可能性があります。品質やセキュリティについて絶対的な安心を保証することも難しいため、こうした問題に対して確たる回答を求められた際に説明するのが容易ではないことも、ERPの導入を難しくする要因の一つといえるでしょう。
仕事がなくなる可能性
ERPは業務効率化のためのシステムです。今まで丸一日かかっていた業務を数時間で終わらせ、そのうえで高い品質を維持することなどが期待できます。
これは企業にとっては喜ばしい利点ですが、これまでその業務を長年担当していた従業員からすれば、自分の仕事を機械に奪われることに他なりません。時間に余裕ができたことを理由に新たな仕事を任されるならまだしも、仕事そのものがなくなってしまうことによる配置換えや転勤、悪いケースでは雇用自体が危ぶまれる可能性もあります。そうした背景から、自分の雇用や立場を維持しようとして抵抗する人も出てくるでしょう。
現場の支持を得てERPを導入するために押さえておきたいポイント
上述したように、企業にとってはメリットの多いERPの導入も、現場で働く従業員からすると不利益を被るものになりやすい側面があります。現場の理解を得られないまま導入を進めようとしても、システム部が協力してくれなければ計画自体が頓挫する可能性も考えられますし、導入できたとしても誰にも利用されないものとなってしまうかもしれません。
そうした事態に陥らないためには、どのような工夫が求められるのでしょうか。
ここからは、現場の支持を得てERPの導入を実現させるポイントをご紹介します。
ERP導入目的の明確化
ERPのスムーズな導入を実現するためには、導入の目的を明確化することが肝心です。たとえば、現行システムのサポート期限が迫っているといった消極的な理由であっても、明確な目的があれば検討に値すると認められやすいでしょう。
目的が明確になると、ERPで合理化すべき範囲も明確になります。これは、費用対効果の観点からも非常に重要です。ベンダーの提案通りに全ての機能を追加してしまうと、初期投資だけでなくランニングコストも跳ね上がります。そのため、現状の課題を精査し、どの機能を優先的に搭載すべきか考えることが重要です。
仮に現場の支持を得られずアドオンやカスタマイズを施す場合、外部のシステムと連携する必要が出てくるために機能が複雑化します。その分、システムの保守や運用に労力とコストがかかり、トラブルが増加するリスクもあるため注意が必要です。
経営者(経営層)の理解と強いリーダーシップ
ERPは経営に直結するシステムであると同時に、会社全体の業務に関わるシステムでもあります。導入のための調整業務をシステム部門や経理部に放任すると、他の部署の理解を得られず、導入が進まなかったり、計画自体が暗礁に乗り上げてしまったりする可能性もあるでしょう。
導入によって影響を受ける人が全社におよぶ以上、特定の部署に任せるのではなく、経営層が当事者意識を持つことが重要です。経営層には、必ず社員の理解を得てERP導入を実現し、経営に役立てるという強い覚悟が求められます。経営層が本気度を示して粘り強く説得すれば、現場からの抵抗を受けたとしても、最終的にERPの導入を成功させることができるでしょう。
反対に、経営層がリーダーシップを欠いた態度を見せてしまうと、導入が上手くいかない可能性が高くなってしまうかもしれません。
現場の理解と協力
いくら経営上のメリットを謳っても、それだけではERPの導入を成功させることは困難です。現場の従業員の理解を得るためには、現場が抱えている課題を解決できるものでなければなりません。
予算との兼ね合いなどを考慮すると、全ての課題をクリアにすることはできないかもしれませんが、計画の初期段階で現場の従業員にヒアリングを行い、できるだけ現場の意向を叶えられるようにする姿勢と努力が求められます。
現場のキーパーソンを説得する
どの部署であっても、役員以外に業務上で重要な立場にある人物がいるはずです。ERPの導入成功のためには、こうしたキーパーソンを説得できるかどうかも鍵を握っています。現場へのメリットを提示してキーパーソンを味方にできれば、たとえ反対意見があっても部署内での説得に協力してもらえるはずです。
それに加え、ステークホルダーを集めた意見交換の場を設けることも有効です。無理やり導入を押し切るのではなく、反対派の声にも真摯に耳を傾けて可能な限り現場へのマイナス要素を払拭することが、ERPの導入を成功に導くポイントとなるでしょう。
ERPは、財務を含めたあらゆる業務を最適化し、会社の業務改善や現場の課題解決に役立つ有効なシステムです。データに基づく意思決定の質を一層向上させることは、日々の業務改善にとどまらず、会社の将来的な成長につながります。
ERPの導入は一大プロジェクトです。企画段階からポイントをしっかり押さえて進めていきましょう。
まとめ
ERPの導入を成功させるには、反対派の意見にもきちんと耳を傾け、経営者の立場からだけでなく現場の声も反映させることが不可欠です。プロジェクトの発足から実現までは少なくとも半年程度を要します。その間、経営層がリーダーシップを発揮し、地道な調整によって現場の理解を得ていくことがERPの導入のコツといえるでしょう。