「モダナイゼーション(Modernization)」という言葉をよく耳にするようになりました。特に情報システム界隈では、ちょっとしたホットワードになっています。といっても、モダナイゼーションは新しい技術やICTトレンドを指す言葉ではありません。長年経営している日本企業の多くは、すでにモダナイゼーションを経験しています。
本稿では、近年重要視されている「基幹システムのモダナイゼーション」について解説しています。モダナイゼーションとは何なのか?なぜ必要なのか?この機会に、理解を深めていきましょう。
「モダナイゼーション」ってなに?
モダナイゼーションという言葉の意味は「近代化」です。情報システムにおける「近代化」とは果たして何でしょうか?すでにお察しの方も多いかもしれませんが、当然、情報システムにおけるモダナイゼーションとはICTシステムの近代化を意味します。ただし、この説明だけではまだあやふやなので、具体例を挙げたいと思います。
皆さんは「2000年問題」や「2007年問題」の記憶は残っているでしょうか?「2000年問題」は西暦が1999年から2000年に変わる際に、コンピューターが年変更を正しく行えば誤作動を起こすのではないかという問題です。「2007年問題」は、メインフレーム技術者が大量に定年引退することで、ICTシステムを正しく扱える技術者がいなくなったり、暗黙知が失われたりするという問題です。
いずれの問題でも、多くの企業な基幹システムのモダナイゼーションによってそれらの問題を乗り越えてきました。
現代ビジネスにおけるモダナイゼーションとは何か?
2000年問題、2007年問題に続き、現代ビジネスではどういった問題が起きようとしており、なぜモダナイゼーションが必要とされているのか?その答えは、長年稼働し続けてきた「レガシーシステム」にあります。
レガシーシステムとは一般的に、長い歴史を持つメインフレームとその上で稼働する機関システムを指します。ただしそれだけではなく、「基幹システムが旧式・旧型であるために、最新のビジネスモデルに対応できない」という意味も込められています。このレガシーシステムこそ、現代ビジネスにおけるモダナイゼーションの対象です。
ビジネスニーズの変化に対応することが困難な基幹システムは「技術的負債(Technical Debt)」と呼ばれます。レガシーシステムはまさに技術的負債の1つであり、長年多くのビジネスを支えてきた基幹システムでも、そろそろ引退の時を迎えているのです。
レガシーシステムが持つ問題
モダナイゼーションが必要とされている、ということは、レガシーシステムにはビジネスを阻害するような問題があるということです。その問題を一覧で確認してみましょう。
テクノロジーの問題
- 該当プラットフォームに対する投資をベンダーが辞めている
- 使用中の製品のサポート期限が迫っている
- ユーザー数が少なく採算性が低いため、ベンダーがライセンス費用を上げている
- 市場が小さく、他製品へのマイグレーションツールが存在しない
- OSおよびミドルウェアが業界標準に対応しておらず、他プラットフォームとの間で互換運用性や移植性が実現できない
- 維持にコストがかかりすぎる
アプリケーション資産の問題
- 新しいシステム稼働後は最新状態だったが、保守運用に入り体制が縮小したため、ドキュメントを更新する余裕がない
- 他メンバーが書いたソースコードを入手する際に、ロジック全体を理解する余裕がないため修正ロジックをただ追加する
- 小さな変更でも本番リリースまでに1ヵ月かかる
- 要件変更に対する影響調査を人手で行うため、手間と時間がかかる
- 調査漏れがありエラーや誤作動につながる
「人」に起因する問題
- ドキュメントがなく、プログラムのソースコードが唯一の情報であるため属人的になる
- メインフレームのアセンブラーを読み書きできるエンジニアが退職し、保守運用が困難になる
- 旧式テクノロジーの習得に対するモチベーションが全体的に低い
- 新人社員のキャリアを考慮すると、旧式テクノロジーを長期間経験させられない
- 開発経験が無いまま運用保守を担当するため、当該システムの設計思想を理解できず、ユースケースまで想像力が及ばないことでシステム全体を見る視点が持てない
これらの問題は情報システムにとって非常に深刻です。にもかかわらず、経営視点で見ると、いずれの問題の解決もシェア拡大・売上増・コスト削減に関係せず、問題改善の意義や必要性が理解されにくいのです。
モダナイゼーションが必要とされている理由とは?
現代ビジネスにおいてモダナイゼーションが必要とされている理由はやはり、メインフレーム上で稼働し、様々な問題を乗り越えてきた基幹システムも、ビジネスニーズの変化に追いつかなくなり変革が求められていることです。
昨今のビジネスでは、顧客ごとのニーズを明確に把握した上で、それぞれに合った商品やサービスを提供し、顧客満足度を高めつつ顧客との関係性を気付いていくことが重要とされています。それにいち早く気が付いた企業は、クラウドプラットフォーム等を活用して素早く新しい基幹システムを構築し、顧客とのコミュニケーションを深めています。
しかも、顧客の購買行動は日々変化している時代なので、都度ビジネスニーズに即した基幹システムを構築しなくてはいけません。そうした現代ビジネスにおいて、レガシーシステムは「負の遺産」になりつつあり、モダナイゼーションが求められているのです。
モダナイゼーションが失敗する2つの原因
現代ビジネスにおいて重視されているモダナイゼーションですが、取り組んだ企業のすべてが基幹システムを現代ビジネスに即した環境にできているわけではありません。モダナイゼーションでは、次の2つの原因で失敗することがよくあります。
メインフレームやオフコンをベースにした日本型基幹システムへの理解不足
日本企業のレガシーシステムによくみられる原因であり、「SoR(System of Record:記録のためのシステム)」と「SoE(System of Engagement:関係構築のためのシステム)」の混在に起因しています。多くの日本企業では個別要件のためのアプリケーションをメインフレームやオフコン、1990年代のERPに実装し、標準化や柔軟性を阻害しています。従ってカスタム開発を含むモダナイゼーションが選択されますが、移行対象の膨大さにより失敗します。
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無謀なモダナイゼーション
無理が多く、無謀なモダナイゼーション計画も失敗原因の一つです。社内稟議を通すために、モダナイゼーションの投資対効果を課題に見積もったり、移行プロセスの予測に甘さが有ったり、非現実的な計画がモダナイゼーションを破綻させています。たとえば下記のようなモダナイゼーションの計画は要注意です。
- 現行仕様の担保が前提になっている
- 基盤インフラのみの最新化
- ITコストのさらなる削減に向けた機能の統廃合
モダナイゼーションは多くの企業にとって必要なことですが、失敗も後を絶ちません。企業ごとに最適なモダナイゼーションについて熟考してみましょう!