統合された業務システム環境をブラウザ経由で整えられるのがクラウドERPです。中小企業を中心に導入が進み大変利点の多いシステムですが、導入に失敗するケースも少なからずあるのも事実です。その原因の一つとして「クラウドERPのメリットを正確に捉えられず適切な運用ができなかった」という理由が挙げられます。
ERP市場をパッケージとクラウドで分けると依然としてパッケージのシェア率が約8割程度あるものの、クラウドでの導入が急速に拡大していることがITRの調査で分かっています。2021年にはクラウド市場がERP市場の45%に達すると予測されています。
今後、ERPによる統合環境を整えたいと考えている企業の多くがクラウドでの導入を検討することでしょう。
そこで今回は、クラウドERP導入で失敗しないために誤解されがちなクラウドERPのメリットを紹介すると共に、クラウドERP導入のポイントをご紹介します。
間違えたくないクラウドERPのメリット
それではクラウドERPのメリットからご紹介します。
①サーバー調達、インフラ整備が無く迅速な導入ができる
クラウドERPはブラウザ経由で利用するシステムなので、当然サーバー調達やインフラ整備などパッケージERPにあるような導入のための初期準備は要りません。必要なのはパソコンとインターネット接続環境のみです。そのため導入が非常に迅速で、規模や環境によっては1ヵ月程度でカットオーバーに至るケースもあります。
ただし、導入初期のパラメーター設定やアカウント設定などは業務に応じて必要です。そのため必ずしも1ヵ月程度で本格稼働に移行できるというわけではありません。
②システム運用に関する業務が少なく生産性が向上する
手元にサーバーやインフラが無いクラウドERPの運用を行っているのはシステムを提供するERPベンダーです。なのでユーザー企業としてはシステム運用にほとんど関わることなくクラウドERPを利用し続けることができます。その代わり障害発生時に自分たちで対応することもできないので、ERPベンダーの信頼性を十分に評価してから導入することが大切です。
③バージョンアップに都度対応しなくても常に最新のシステム
パッケージERPにおいてバージョンアップは非常に負担の大きな作業です。そもそも大規模なシステム環境を構築している上で、バージョンアップ中は業務をストップしなければならない可能性があります。加えてバージョンアップの都度多大な費用がかかるので経済的にも負担は大きくなります。
それに対してクラウドERPは常に最新システムを提供し、別途バージョンアップに対応する必要もありません。
④ブラウザ経由で社外からのアクセスも簡単にできる
クラウドERPはブラウザ経由で利用するシステムということで、社外のどこにいてもインターネット環境さえあれば同じシステムにアクセスできます。たとえば営業先からリアルタイムな在庫状況を確認して納期回答することも可能です。
パッケージERPでも社外からのアクセスはできます。そのためには、VPN(仮想プライベートネットワーク)などの構築が必要になります。
⑤月額固定の費用で予算計画が立てやすい
クラウドERPの料金形態の基本は毎月固定の費用を支払っていくものです。料金はユーザー数に応じて変動する場合が多く、増減も自由に行えます。クラウドERPに対する毎月の支出が明確になるので、パッケージERPの運用よりも予算計画が立てやすいというメリットがあります。
ただしパッケージ製品よりもコスト削減になるかといえば、必ずしもそうではありません。ですのでコスト削減だけを目的にしてしまうとクラウドERPのメリットを生かせず、期待と異なる結果となり、導入に失敗する可能性が高まるので注意しましょう。
⑥自然と災害時のBCP(事業継続計画)が立つ
自然災害が多いここ日本において災害発生時のBCP策定は欠かせません。しかし、業務システムを運用するデータセンター自体が被災すれば被害は甚大ですし、また事務所以外からも利用できるようにVPNなどの通信網を確保しておく必要があります。その点クラウドERPなら堅牢なデータセンターで運用されており、地理的にも冗長化されているのが一般的で、かつブラウザ経由でシステムを利用できるので自然とBCPに対応した環境になるでしょう。
⑦堅牢なセキュリティで第三者による情報流出を防止できる
クラウドERP導入にあたってセキュリティ面を懸念する方も多いでしょう。しかし実際には意外かもしれないですがセキュリティ強化になるケースが多いようです。そもそも企業独自にクラウドベンダーと同等の堅牢なセキュリティ対策を取ると多大なコストと労力がかかります。クラウドERPを導入した方が少ないコストと労力で堅牢なセキュリティを享受できます。
⑧ほとんどの経営資源を可視化しコントロールできる
クラウドERPはヒト、モノ、カネといった情報を一元管理するためのシステムです。各業務システムで生成された情報は単一データベースで管理され、いつでも好きな情報を把握することができます。これらの経営資源を可視化することに成功すれば、今まで以上に経営をコントロールしていけるでしょう。
ただし、その情報を活用してビッグデータ解析のようなことをしたいのであれば別途ビジネスインテリジェンス(BI)ツールなどが必要になります。
⑨複雑な二重作業などが無くなり組織全体の業務効率が上がる
営業支援システム、顧客管理システム、人事管理システム、財務会計システムなどこれらの業務システムは通常分断された環境で稼働しています。そのため、業務システム同士の繋がりがなく同じデータを異なる業務システムに入力する手間などが生じていました。一方クラウドERPはこれらのデータが一つに繋がるので、自然とデータが共有された二重作業などの手間が大幅に削減されます。
⑩経営レポートで意思決定を迅速にする
経営レポートとは、経営者が意思決定を下すために欲しい情報をリアルタイムに入手するための機能です。デザイン性良く設計された画面で情報を確認できるので、経営状況を直感的に判断し意思決定を迅速にします。
クラウドERP導入で失敗しないために
ここまで紹介したクラウドERPのメリットを踏まえて、導入で失敗しないためのポイントを考えてみましょう。それはまず導入目的を明確にすることです。何のためのクラウドERPなのか?目的が明確になっているか否かでは導入すべきクラウドERPがかなり違ってきます。
その上で自社独自の機能要件をハッキリと定義してきましょう。その際は情報システムや導入担当者の独断で進めていくのではなく、ユーザー部門を巻き込んで定義していくことをおすすめします。現実にはクラウドERPに最も触れるユーザーは営業や経理などの部門なので、情報システムや導入担当者の独断で機能要件を定義してしまうと現場に即さないクラウドERPを導入してしまいます。
最後にクラウドERP導入によるイノベーションを受け入れることです。クラウドERPはパッケージERPと違って最初から完成形なので、ある程度機能が決まっています。カスタマイズが可能な部分はあるものの、クラウドERPのメリットを損なってしまいます。そのため「業務をシステムに合わせる」という作業が必要になり、いわば組織にイノベーションが生まれます。これを受けいれられるか否かで導入成否は大きく変わるでしょう。
これからクラウドERP導入に臨まれる皆さんは、本稿の内容を参考に失敗しない導入を目指していただきたいと思います。