近年では、ERP導入により業務の効率化を図る企業が増えています。食品業界にもERPの導入が欠かせないものとなっていますが、それぞれの業界にあった機能を備えているERPを選ぶ必要があります。そこで本記事では、食品業界で必要とするERPの機能とERPの導入で得られるメリットについて解説します。
食品業界で求められるERPとは
ERPを導入する際は、その業界に合った製品を選択しなければいけません。たとえば、食品業界では安全で質の高い製品を提供するために、品質保証や衛生管理を徹底する必要があります。製品には賞味期限があるため、ロットごとに賞味期限を設定し品質の保証を行う必要があります。また、徹底した品質管理には、トレーサビリティへの対応が求められます。さらにロット管理、原価計算、在庫引当管理など、在庫や物流に関するシステムが必要な場合もあるでしょう。
また、近年の食品業界では、流通する商品が増えたことで製品の多様化が進んでいます。消費者のニーズも変化しやすく、企業は素早く売れ筋を把握して経営戦略を立てなければいけません。そのためには、販売計画や売れ行きなどのデータから需要のリアルタイム予測が必要です。
しかし、食品業界の問題として「飲料、ヘルスケア、医薬品」など、食品以外の事業を抱えていることがあります。このような業態では、各事業が独自にシステムを構築していることがあり、データ連携が難しいのです。
そこで各システムの連携ができ、同時に独自の機能が利用できる食品業界向けのERPシステムの導入が必要です。業界対応のERPを導入することで、データの一元管理ができ、業界特有の作業・管理に対応したシステム運用が可能です。
食品業界のERPに必要な機能
食品業界には、管理業務に他の業界とは違う多くの特徴があります。そのため、ERPにも食品業界の管理に対応した機能がさまざまに付属しています。
一元管理機能
ERPの根本的な機能である一元管理機能は、各業務のデータを連携して管理するシステムです。従来別々だったデータが連携されることによって、業務フローがわかりやすくなり情報が見える化されます。売れ行きなどの情報も素早くキャッチできるため、リアルタイムでの経営判断に役立てられるのです。
さらに同じデータの入力が別々の管理で発生する場合、一度の入力で他の管理システムにも反映されます。これにより作業の効率化が可能です。
食品業界のERPシステムでは、「製造、購買、販売、店舗、EC、在庫」などの管理システムが備わっています。そのため、食品業界の一連の流れである、「生産計画→製造→出荷→販売」が一つのパッケージシステムの中で一元管理が可能です。
荷姿管理機能
食品業界では、荷姿が変化する製品を扱うことがほとんどです。たとえば、りんごの出荷では、「箱・ケース」「重量」「個数」といったようにいくつかの荷姿があります。ケースでの出荷や重量による出荷など、状況によって異なることもあるでしょう。このような状態で「りんご 23」と入力した場合、23箱、23Kg、23個のどれかわからず、ミスの発生や効率の悪化を招くのです。
そこで食品業界向けのERPには、荷姿管理機能が付いています。この機能は品目によって複数の荷姿を設定できるので、状況によって単位を変更できます。さらに複数の荷姿入力も可能なので、複数単位からの正確な数の把握が可能です。
一見すると数を正確に計算するだけの機能ですが、食品業界ではとても重要です。個数計算で全ての荷姿に対応する場合、必ず計算式が発生します。在庫数が増える分、計算も発生するため、大きな手間となります。こうした手間やミスを防ぐために、荷造管理機能が必須といえるのです。
出荷ロット逆転防止機能
食品では、ほとんどの製品に賞味期限があるため、期限を考えた在庫管理をしなければいけません。管理者は在庫の賞味期限を把握して、先入れ先出しを守った出荷計画の作成などを適切にする必要があるのです。
もし、ずさんな管理をしていた場合は、古い在庫が出荷されてしまったり、無駄な不良在庫を抱えてしまったりするリスクがあります。しかし、こうした管理を人力で行うには、負担が大きくミスも起きがちです。
そのため、食品業界向けのERPには、出荷ロット逆転防止機能が付属しています。賞味期限による在庫管理ができるだけでなく、出荷計画作成の際に前回よりも古いロットを入力した場合にアラートが表示されます。これにより在庫の賞味期限を適切に管理でき、出荷のミスを防げます。また、作業が簡易するため、管理作業の効率化が期待できます。
在庫引当機能
在庫管理の時には、受注と出荷のタイムラグに気を付けなければいけません。たとえば、100個ある商品のうち60個の製品を受注すると、残りの商品は40個です。しかし、出荷までの間は100個の商品が手元にあるので、他の担当者が勘違いすることがあります。場合によっては、「追加で50個の商品を受注」といったミスが発生する可能性があるのです。
このようなトラブルを防ぐために、製造業や小売業では在庫引当を行います。在庫を現在手元にある「実在個数」、出荷予定の「引当在庫数」、左記二つを引いた「有効在庫数」の3つにわけてミスを防ぎます。
このとき企業の規模が大きくなるにつれて、引当在庫の管理が複雑になります。手動の場合は、本当に在庫があるのかを目視したり、遠くに商品がある場合は電話での確認などの手間が発生したりするでしょう。
この手間を失くすために、食品向けのERPには在庫引当機能が搭載されています。この機能では、リアルタイムでの引当やバッチ単位での引当が可能となり、正確な在庫数が即座に把握できます。
ERPの導入で実現できること
ここではERPを導入することにより、業務がどのように改善されるのかを解説します。
食品業界の商習慣に的確に対応
食品業界には、独自の商習慣が存在します。「不定貫在庫による荷姿の変化」「賞味期限の管理」「品質管理のためのトレーサビリティ」「在庫引当数の管理」など、複数の事柄に対応しなければいけません。
食品関連のERPでは、これら独自の商習慣に対応した機能が付属しており、全てのシステム化が可能です。最近ではクラウド型のERP製品も数多くあるため、時間をかけずに低コストで導入ができます。
これまで作業が手動や独自のシステムとなっていた場合は、ミスの発生や複雑な管理による作業効率の低下が起きていた企業もあるでしょう。こうしたミスやロスも、適切な販売・生産・原価管理によって軽減します。作業効率の向上にも寄与するため、生産性を上げることも可能です。
業務の属人化を解消
業務の属人化は、特定の担当者しか行えない作業がある場合や、業務レベルが作業者によって変化することを指します。複雑な作業ほど属人化しやすく、多くの問題が生まれます。属人化のトラブルでよくあるのが、担当者が休暇になると作業が回らなくなることです。
また、その従業員が退職してしまうと、引き継ぎが難しく苦労します。作業のレベルが高い場合には、後任が同じ作業をできないこともあるのです。こうした問題を失くすには、作業をマニュアル化して、どの従業員にもできる業務にする必要があります。そこで、業務のシステム化や管理データの連携が可能なERPシステムが利用できます。
ERPによってシステムが連携されるため、各種データは即座に反映されます。在庫管理では、ロット単位での賞味期限管理、荷姿対応、引当在庫管理といった作業を簡単に行えます。
業務が簡易化できることで、マニュアル化しやすく属人化を防ぐことが可能です。さらに従業員全体の作業レベルを均一にできるため、作業効率を上げることも可能です。また、一元的なデータ入力と管理によって、必要な情報を素早く閲覧、照会することが可能になり、顧客対応力の向上も期待できます。
統合的な業績把握
調達、生産、管理、販売のシステム化は、従業員だけでなく経営者にも効果的です。データが一元的に管理されて、リアルタイムに反映されることで、素早い経営判断に役立てられます。
先述したように近年は顧客のニーズが複雑化していて、急激な変化が発生しやすくなっています。そのため、企業もこうした動きに合わせて、柔軟な経営戦略を立てなければいけません。
ERPを導入することによりPDCAサイクルを活用して、データによる計画、評価による分析・改善が可能です。これら一連の流れを効率よく回せるため、市場の変化に合わせた商品開発が期待できます。
さらに業績管理にも役立ちます。業績管理で重要なのは、売上高・営業費・利益の把握、適切な人事評価、損失の分析などです。ERPではこうしたデータが把握しやすく、年度決算の早期予測や決算見込みが立てられます。
また、現場の判断能力が向上するため、売上機会を逃したりや過剰在庫を抱えたりするといった問題点を解決するのにも役立ちます。
まとめ
食品業界には、「賞味期限の管理」「荷姿の変化」など、独自の商習慣が存在します。通常のERPでは、これらを管理するシステムがないことがあるため、食品業界の特徴に合わせたパッケージを選択する必要があります。
ERPを導入すれば、調達から販売までの流れをシステム化できます。これにより業務の効率化や素早い経営判断が可能です。