加速するビジネススピードや不安定な社会情勢など、企業にとって現代は高い適応力を求められる時代であるといわれています。こうしたビジネス環境の激しい変化に対応するため注目されているのが、ICT活用によるビジネスプロセスの変革「DX」です。そこで本記事では、DXの概要や注目される背景、メリットなどをご紹介します。
近年注目されている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは?
そもそも「DX」とは、一体どのような概念でしょうか。まずはDXの概要や注目されている背景について解説していきます。
DXの定義
DXとは“Digital Transformation”の略称で、直訳すると「デジタルによる変革」を意味します。デジタルによって「何を」変革するのかというと、その定義は一義的ではありません。
たとえば、2004年に初めてDXの概念を提唱したエリック・ストルターマン氏は、そこに「人々の生活」をあてがいました。他方、マイケル・ウェイド氏らが2010年代に行った定義では、DXとは「組織」を変革させ、業績を改善させることだとしています。そして、2018年には日本の経済産業省がこれを再定義し、「製品」「サービス」「ビジネスモデル」「業務そのもの」「企業文化」などの変革により、競争上の優位を得ることをDXの要件として掲げています。
いずれにせよ留意すべきことは、単に手作業をパソコン作業に置き換えたり、古いシステムを刷新したりするだけでは、DXと呼ぶには物足りないということです。それらの行為は、あくまでDX実現に通じるプロセスのひとつに過ぎません。DXとは、それらの過程のさらに先にある、新しい何かを生み出すために取り組むことなのです。
注目されている理由
DXの概念が日本で注目されるようになったのは、2018年に経済産業省が「DXレポート」にて提唱した「2025年の崖」問題が背景にあります。2025年の崖とは、老朽化してブラックボックス化したシステム(レガシーシステム)を使い続ける弊害として、2025年以降、日本全体で最大12兆円の経済損失がもたらされるという仮説です。この仮説は、日本全体に衝撃と危機感を与え、これを皮切りにDXやITモダナイゼーション(ITの近代化)などの言葉が企業社会で飛び交うようになりました。
また、日本は今後もさらに少子高齢化が進み、IT人材を含む労働人口全体の不足が見込まれていますが、こうした人手不足を補いながら生産性を維持していく手段としても、DXは注目を集めています。この場合、DXは「働き方改革」における一施策として行われることになります。
さらに、2019年に発生した新型コロナウイルスのパンデミックにより、DXは社会全体で取り組まなければならない喫緊の課題として認知されるに至りました。コロナ禍においては、政府から外出自粛要請が繰り返し発出され、企業にもテレワーク対応が強く要求されています。このような状況下で、私たちは従来のような対面でのコミュニケーションや、物理的接触を前提とした生活スタイルやビジネス様式を見直す必要に迫られており、それに代わる対応としてICTの活用、ひいてはDXが求められているのです。
このように、日本社会はさまざまな側面からDXを早急に必要としており、現代はまさに「DX時代」ともいうべき様相を呈しています。
DXを推進するメリット
DXを進めることで、企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。以下では、DXを推進するメリットをご紹介します。
生産性が向上する
DXのメリットとして第一に挙げられるのは、業務効率の改善や無駄の削減などによる生産性向上です。たとえば、これまで手作業で行っていた単純な反復作業をRPAなどにより自動化・効率化すれば、空いた分の時間と労力を、より価値のある仕事に充てられるようになります。
また、工場の検品作業などをAI(人工知能)によって自動化すれば、目視では確認できないような微細な不具合も検出し、人件費を削減しつつ品質の向上を図ることも可能です。
環境の変化に適応できる
DXは、環境への適応能力を上げる効果もあります。たとえば、自然災害などによって交通機関が麻痺しているような状況でも、テレワークの運用体制が整っていれば、事業をそのまま継続しやすくなるでしょう。
現代は国家間の緊張や相次ぐ自然災害、新型コロナウイルスのパンデミックなど、先行きが不透明な不確実性の高い時代といわれています。ICTの活用は、企業の内外を取り巻くこうしたリスク要因による被害を最小限に抑えられるため、BCPの観点からも重要視されています。
レガシーシステムの弊害を回避できる
DXにおいて最新のシステムなどを取り入れることは、先に述べたレガシーシステムの弊害を回避する効果もあります。レガシーシステムの主な問題点としては、システムが老朽化・複雑化しているうえ、それをメンテナンスできる技術者が不足しており、コストや人材の面で維持が難しくなっていることが挙げられます。また、システムの根本の古さから新しい技術に対応しづらく、生産性や業務効率を損ねていることも見過ごせません。DXを進め、こうしたシステムを見直すことで、事業の最適化を図れるのです。
DXを推進する上でのポイント
DXでよい成果を出すには、いくつかのポイントを押さえておくことが大事です。そこで続いては、DXを推進するうえでのポイントを解説していきます。
DXを推進する目的を明確化する
1つ目のポイントは、DXの目的をはっきりさせることです。冒頭で述べたように、DXで何を変革させるのか、その定義はさまざまです。現実的な問題としても、DXによって何を変革・改善するのかは、各企業が抱える課題に沿って考えなければなりません。この最初の目的設定を疎かにしてしまうと、自社にとって特段必要でもない無駄なシステムを導入してしまいかねません。
手作業のデジタル化や最新システムへの移行は、DXのための「手段」であって「目的」ではありません。DXの目的を明確化する際は、いま自社が何を課題としているのか、DXによってどのように新たな事業展開をしていくのかなど、さまざまな観点から考えることが大切です。
社内全体を巻き込んだ改革を行う
2つ目のポイントは、社内全体を巻き込んだ改革を行うことです。DXの具体的内容が何であれ、一部の部署だけによる取り組みは限定的な効果しか生みません。企業の業務は通常、一部署だけで完結するものではなく、他部署との連動により果たされるものだからです。
部署を越えて全社的にDXを推進するには、強力な権限とリーダーシップが必要です。それゆえDXを行う際は、企業のトップ自らもDXの意義や価値を十分に理解し、トップダウン方式で精力的に取り組んでいくことが求められます。
一貫性のあるシステムを導入する
3つ目のポイントは、一貫性のあるシステムを導入することです。DXを実施する過程では、新たなITツールの導入も予想されるでしょう。しかし、その導入に際しては、現在すでに自社が使用しているシステムとの連携性はもちろん、自社が取り組むべき課題なども俯瞰して、一貫性のあるシステムを選ばなければなりません。この点をしっかり押さえていないと、システム間の連携が取りづらくなってしまい、DXが失敗に終わってしまう可能性もあり得ます。
まとめ
DXを進めるうえでは、まず自社の課題を見つめ直し、「何を変革すべきなのか」という目的を明確にすることが大切です。また、DXの過程において新しいシステムを導入する場合は、既存システムとの一貫性や連携性にも注意しなければなりません。
それゆえDXに取り組む際は、ERPシステムを導入するのがおすすめです。ERPは複数のシステムを統合しているので、システム間の連携が取りやすく、DXを推進するのに適しています。たとえばMicrosoft社では、DXを加速させるERPソリューション「Microsoft Dynamics 365」を提供しています。DX時代に対応するためにも、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。