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DXを支える市民開発とは?定義・デメリットや事例を解説

DXを支える市民開発とは?定義・デメリットや事例を解説

「DXについて調べていたら市民開発という言葉を見た」「市民開発を進められれば、社内メンバーだけでも効率的に業務改善できるかもしれない」

当記事をお読みの方は、上記の考えをお持ちではないでしょうか。当記事では市民開発の概要やメリット、デメリット、事例を解説します。市民開発を始めるに当たりおすすめのツール「Microsoft Power Apps」についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。

Microsoft PowerApps はじめてのアプリ開発

市民開発の基本的な定義

市民開発の基本的な定義

当項では以下の通り、市民開発の定義や似ている言葉の関係を解説します。

  • 市民開発とは?
  • 市民開発を行わない場合はベンダー委託が基本
  • 市民開発とEUCの違い

市民開発とは?

市民開発(Citizen Developer)とは、非エンジニアが行う社内の業務効率化や業務改善を目指した開発のことです。開発といえば、従来はエンジニアやプログラマーなどの専門技術、知識を持った人材が行うことが一般的でした。しかし、高い技術を持った人材の確保が難しいことや、人手不足により、エンジニア以外の社員が業務効率化に取り組む必要性が高まっています。市民開発は人材確保の難しさや、非エンジニアでも開発業務に取り組みやすい環境が整ったことで取り組みを検討する企業が増えています。

また、専門知識が少なくても簡易的な開発に取り組めるツールがたくさん登場していることも、市民開発の発展を後押ししているでしょう。例としてノーコードツールのように、プログラミングを行わずともフローチャートを組み立てることで開発が可能です。

DX推進のためにも、技術者の不足を非エンジニアによる市民開発で補う必要があります。詳しくは以下の記事をご覧ください。

★詳しくはこちら:
日本や世界のDX市場規模・推移や予測から分かるDXの現状と今後の動向

市民開発を行わない場合はベンダー委託が基本

市民開発を行わない場合、開発業務は専門知識、技術を持った人材を多く抱えるベンダーへの委託が基本です。

ベンダーへ委託することで、以下のメリットがあります。

  • 自社の社員が専門知識、技術を習得するコストを節約できる
  • 運用やトラブル発生時にもベンダーが対応してくれる

このため、自社としては開発してもらったシステムを利用し、必要に応じて連絡をするだけですむことが多いです。システムを利用し、新たな利益の創出に集中できるため、開発業務はベンダーへの委託が主流となっていました。

一方で、ベンダーへの委託には以下のデメリットがあります。

  • システムがブラックボックスとなり、中身について自社で理解できない
  • 委託費が高い

ベンダーへ開発業務を委託すると、開発されたシステムを利用する以外の業務はベンダーへ丸投げするケースが多いです。このため自社の社員だけではシステムへの理解が足りず、急なトラブルに対応できないというデメリットがあります。またベンダーへ委託をすれば相応の委託費用がかかるため、委託費用が高騰すると痛い支出となってしまう点も頭に入れておかなければなりません。

市民開発とEUCの違い

市民開発とEUC(End User Computing)の違いは、取り組みの規模や概念です。EUCとは、簡単なソフトウェアや自動化システムをユーザー自身が開発することです。しかし、EUCは自身や担当業務内で利用するために行われることが一般的で、「他部署で利用できるように」という考えは備わっていません。
一方で市民開発は「他部署でも利用できるように」「汎用性高く」といった概念があり、社内全体で取り組むことが多いです。取り組みの概念や規模がEUCとの違いといえます。

市民開発の6つのメリット

市民開発の6つのメリット

市民開発には以下の6つのメリットがあります。

  • 開発の専門知識がなくても実施できる
  • 業務効率や生産性の向上を期待できる
  • コスト削減につながりやすい
  • 短期間での開発が可能
  • アップデートや保守運用をしやすい
  • 社員のスキルアップやモチベーションアップにつながる

メリット1|開発の専門知識がなくても実施できる

市民開発にはプログラミングや開発環境など、開発業務における専門知識がなくても実施できます。

市民開発で用いるツールとしては、ノーコードやローコードツール、RPAなどのロボットが挙げられます。ノーコードやローコード、RPAについて解説した記事も、併せてご覧ください。

★詳しくはこちら:
ノーコード・ローコードとは?メリット・デメリットやツールも解説

RPAで何ができる?仕組みやツール、導入するメリットも解説

これらはプログラミングを行わなくても、分かりやすいインタフェースでフローチャートを組み上げることで、行いたい自動化を実現可能です。業務改善したいポイントと、ツールの使い方さえ分かっていれば、非エンジニアで専門知識がない社員でも開発業務をできるメリットがあります。

メリット2|業務効率や生産性の向上を期待できる

市民開発は、業務効率化や生産性の向上が期待できます。先述の通り、市民開発は業務改善したいポイントを持った非エンジニアが取り組む業務です。業務改善のポイントは明確化されているため、市民開発が成功すれば業務効率化や生産性向上を達成できる可能性が高くなります。

例えば、とある業務の担当者が「A項目を100行入力する業務だけ効率化したい」と考えていても、開発担当者は「何を入力するのか、どこに入力するのか」が分かりません。正確に改善したいポイントの言語化は案外難しいものです。しかし、業務担当者が開発を行えば、言語化をしなくても業務改善できるため、言語化の難しさから解放されます。

上記のように業務担当者が業務改善を直接行うため、効率化や生産性向上を実現しやすいことが市民開発のメリットです。

メリット3|コスト削減につながりやすい

市民開発はコスト削減につながりやすいメリットがあります。

従来の開発業務はベンダーに委託することが多く、開発や保守運用を委託する費用が必要でした。また委託する場合は、開発環境やソフトウェアも委託先の指定通りに整備するケースがあり、多くの費用が必要となります。

市民開発であれば、担当業務を持つ自社の社員が取り組むため、外部委託費ほどの金額にならないケースが大半です。また市民開発を行う環境も、自社がすでに利用しているグループウェア内のツールを利用すれば、新たに用意する必要がない可能性もあります。

市民開発と従来の開発で必要となるコストが大きく異なるため、市民開発の方が支出が低くなる点がメリットです。

メリット4|短期間での開発が可能

市民開発は短期間での開発が可能です。

市民開発は自身が担当している業務の改善や効率化のために自身で実施します。このため開発担当者とコミュニケーションを取り合って、改善ポイントや開発後のイメージを共有する必要がありません。また市民開発でツールを利用すればプログラミングの必要がなく、従来の開発業務よりも短時間ですむことが多いです。

開発にかかる期間が短いほど、より多くの時間を創出できます。別の業務に利用できる時間が増えやすいことも市民開発のメリットです。

メリット5|アップデートや保守運用をしやすい

市民開発されたシステムやツールは、アップデートや保守運用をしやすいです。

開発時点からベンダーへの委託をした場合、アップデートや保守運用もベンダーへ委託するケースが多いでしょう。理由は、自社の社員では中身が分からず、アップデートや保守のしようがないためです。また、ベンダーで担当していた社員が異動・転職した場合にはアップデートが滞ってしまう可能性も考えられます。

しかし市民開発であれば、自社の社員で開発を行っているため、上記の事態を防ぎやすいことがメリットです。

メリット6|社員のスキルアップやモチベーションアップにつながる

市民開発は、社員のスキルやモチベーションの向上につながりやすいです。

「開発といえばエンジニア」という意識では、開発のスキルはもちろん、概念や考え方も任せっきりになります。しかし、市民開発では簡易的な開発業務を行うことになるため、丸投げすることなく、開発業務のスキルや考え方が身に付きます。

また市民開発は「自分で業務改善できた」という成功体験をもたらします。成功体験をした社員は自信がつき、モチベーションアップにつながる可能性が高いです。

市民開発への取り組みは、開発スキルやモチベーションの向上につながることで、業務効率化以上の効果をもたらすでしょう。

市民開発の3つのデメリット

市民開発の3つのデメリット

一方で、市民開発には以下のデメリットもあります。

  • 開発に向けた研鑽(けんさん)が必要
  • 社内で類似システムが複数作られる可能性がある
  • 新たな業務の負担が増える可能性がある

デメリット1|開発に向けた学習が必要

市民開発でも、開発に向けた学習が必要というデメリットがあります。

市民開発のメリットで、専門知識が不要と述べました。しかし、開発について何も知らないまま市民開発に取り組めるわけではありません。市民開発を行うに当たり、開発したいポイントを押さえる方法や、利用するツールの使い方を覚える必要があるためです。「勉強や覚えることが嫌いだから、市民開発ならできそうだ」と考えていた場合には、意識を改め直す必要があります。

従来の開発業務ほどの学習量ではないにせよ、市民開発でも開発業務やツールについて勉強が必要でしょう。

デメリット2|社内で類似システムが複数作られる可能性がある

市民開発が社内で発展してくると、社内で類似システムが複数作られてしまう可能性がデメリットとしてあります。

多くの社員が市民開発に取り組めるようになること自体は素晴らしいことです。しかし、類似システムが複数作られることは、自社にとってプラスとはいえません。類似システムが生まれにくいように、全社的にシステムを共有できるハブを持つ、市民開発に取り組む前に使えそうなシステムがないのか確認する、などの運用が必要です。

類似システムが複数作られるデメリットを避けながら、全社的に市民開発に取り組めることが望ましいです。

デメリット3|新たな業務の負担が増える可能性がある

市民開発によって、新たな業務の負担が増えてしまう可能性があります。

業務改善のためとはいえ、市民開発に取り組む間は現業に加えて開発業務に取り組まなければなりません。またシステム開発後も、アップデートの対応や、周囲の社員からの質問に開発者として答える必要があるでしょう。自身の業務効率化のために市民開発を行った結果、効率化はできたものの、取り組む業務の負担が大きくなってしまった、という社員が出てくるかもしれません。

アップデートや保守運用を1人の社員に背負わせることがないよう配慮をした上で、市民開発を社内で広めていくべきです。

企業における市民開発の事例紹介

企業における市民開発の事例紹介

企業における市民開発の事例として、以下の3社の取り組みを紹介します。

  • トヨタ
  • ジャトコ
  • カルビー

事例1|トヨタ

トヨタでは市民開発への取り組みを推進し、非エンジニアによる小さな業務改善に迅速に対応できる仕組みを構築しています。Microsoft Power Platformについて知った社員が社内コミュニティーを立ち上げ、市民活動を広めていきました。次第にコミュニティーの人数は増えていき、数千人が参加するコミュニティーが形成されています。

トヨタが市民開発によって作成したアプリとして「とまっち。」があります。遊休設備(現在稼働していない部品製作の設備)を多く抱えていることに気がつき、有効活用したいという背景があったことから開発に着手しました。遊休設備を必要としている工場とマッチングさせる機能や、工場が保有する設備を可視化する機能を持ち、遊休設備の有効活用を実現しています。

今後トヨタでは、市民開発のさらなる社内普及と業務改善を実現していくビジョンを立てています。

参考:Microsoft

関連記事:
最近話題の「Power Platform」とは?なにができるのか解説

事例2|ジャトコ

自動車部品製造を行うジャトコはRPAに着目し、UiPathを導入しました。UiPathの導入当初はRPA専任のチームを立ち上げていましたが、RPAを本格的に活用していくためには市民開発の形式をとっていくべきだと方針を転換しています。

市民開発を効率よく推進するため、各部署にRPAに詳しいリーダーを置くことで、専任チームや情報システム部門に頼らない縦割りの市民開発体制が整いました。結果としてUiPathによる750本の自動化プロセスが開発され、20万時間の稼働削減が実現しています。

参考:UiPath

関連記事:
RPAで何ができる?仕組みやツール、導入するメリットも解説

事例3|カルビー

カルビーは、今後DXに取り組む必要があると考え、業務プラットフォームをServiceNowへ移行しました。同社は理想のDX環境として「DXに対応した働き方を実現できること」「生産性を飛躍的に向上させること」を掲げています。理想の実現には、基幹系システムと開発用プラットフォームをひもづけられることが重要な要素だと考えた結果、ServiceNowを選定したのです。

ServiceNowは最新テクノロジーに対応し、視覚的で分かりやすい環境で簡単にアプリの作成が可能です。結果、市民開発も促進され、社員が開発に取り組むスキルやモチベーションアップにもつながっています。

参考:Servicenow

市民開発を始めるにはMicrosoft Power Appsがおすすめ

市民開発を始めるにはMicrosoft Power Appsがおすすめ

ここまで読んで「自社でも市民開発に取り組んでいきたい」と考えたのではないでしょうか。そこで、市民開発実施時におすすめのローコードツール「Microsoft  Power Apps」について解説します。

  • Power Appsを用いるメリット
  • Power Appsは無料でも利用可能

Power Appsについては下記の記事でも詳しく解説していますので参考にしてください。

「Power Apps」入門編!機能一覧や使い方を画像付きで徹底解説

Power Appsを用いるメリット

Power Appsを用いるメリットは以下の通りです。

  • 専門知識やプログラミングスキルがほとんど必要
    ない
  • 開発環境を用意する必要がない
  • さまざまなデータソースとの接続が可能

Power Appsを用いることでプログラミングをほとんどすることなく、アプリケーション開発が可能です。またアプリ上で開発を完結できるため、開発環境としてハイスペックなパソコンや開発用ソフトウェアも必要ありません。

また、Power AppsはエクセルやPower BIなどのMicrosoftのアプリや、データベースとの接続が可能です。接続にも専門的な知識が不要なため、市民開発でも問題なくデータソースと連携したアプリを開発できます。

上記のメリットを享受しながら市民開発をできるため、Power Appsは市民開発におすすめのツールといえるでしょう。

Power Appsは無料でも利用可能

先述の通り、Power Appsは市民開発に必要な機能を利用できます。またPower Appsは、Microsoft 365のサブスクリプションを契約していれば、無料で利用可能です。サブスクリプションを利用していない場合でも、Microsoftの公式サイトから30日間は無料で利用を開始できます。

市民開発をするツールを検討していてPower Appsに興味を持ったら、利用してみてはいかがでしょうか。

★詳しくはこちら:
Power Platformの有償版ライセンスと無償版との違い

まとめ

まとめ

市民開発とは、開発用の専門知識を持たない非エンジニアが行う、簡易的な開発業務のことです。市民開発に取り組むことで、開発のコスト削減や、社員のスキルアップなど多くのメリットがあります。DXの取り組みとして業務効率化が欠かせませんが、エンジニアだけでは手が回らないケースが大半です。非エンジニアが市民開発を行うことで、より重要な業務に時間を使えるようになります。
市民開発への第一歩として、無料のPower Appsを用いた開発をぜひ検討してみましょう。

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