「Power Platform」とは、Microsoftから提供されているクラウドサービスで、ローコードアプリ作成など多彩な機能を持っています。Power Platformの概要から、有償版ライセンスの導入がおすすめのケースなどについてまで解説します。運用管理のポイントについても紹介しますので、参考にしてください。
Power Platform有償版ライセンスと無償版との違い
Microsoft 365 Enterpriseライセンス、すなわちMicrosoft 365 E3・E5・F3には、無償版「Power Platform」のライセンスも付属しています。またOffice 365の大企業版(E1・E3・E5)を契約しても、同無償版が使用可能です。Power Platformには、業務効率化や作業管理に適した各ツールがセットになっています。
上記のMicrosoft 365 のライセンスを持っていれば、Power Platformの無償版が使用可能です。それで不足の場合などには、有償版Power Platformのライセンスを購入することもできます。
無償版ライセンスでも、一部を除いたPower Platformの基本機能は不自由なく利用できるため、まずは試用してみるとよいでしょう。ただ有償版ライセンスを契約すればすべての機能が使用可能となり、利用上の制約も緩和されます。
無償版ライセンスはMicrosoft 365ライセンスの金額に包括されています。有償版はツールごとに定められた金額が発生します。
Power Platformライセンスに含まれる製品は、以下のように四つあります。
- Power Apps(ローコードアプリ開発)
- Power Automate(業務フローの自動化)
- Power BI(データ分析)
- Power Virtual Agents(チャットボット分析)
例えば、「Power Apps」や「Power Automate」でデータを蓄積し、「Power BI」や「Power Virtual Agents」などでそれらデータの利活用を進めることが一般的です。
なお、Power Pages(ビジネスWebサイトの構築)もPower Platformに含まれます。
Power Platform有償版ライセンスの導入を推奨するケース
ここでは「有償版ライセンスの導入を検討すべきかどうか」を自社で見定める際に、基準となるポイントを紹介します。
処理回数はどのくらいか
例えば、各従業員からExcelデータで勤務表を提出してもらい、Exchangeで共有メールボックスへ蓄積していたとします。この場合、人事担当者がそれぞれのメールを開封し、添付されている勤務表ファイルをShare Pointへアップロードすることになるでしょう。このアップロード作業は非常に負荷が高くなります。この点でPower Platformを導入すれば、以下のような3つの作業を自動化できます。
- メールを受信し添付ファイルを開く
- メールアドレスからファイルの保管先を判定
- ファイルをShare Point Onlineに保管
これにより、人事部のファイル取得・保管業務は大幅に効率化します。もし従業員数が3,000人いるなら、それぞれの処理を3,000回、つまり合計9,000回の作業が毎日必要ですが、これらが自動化されるからです。
なお無償ライセンスの処理回数は、1実行ユーザーあたり6,000回/日が限界と決められています。この限界数を超えた処理を行いたい場合は、有償版の導入が推奨されます。
環境を分離する必要があるか
同一のMicrosoft 365 テナントを利用中の各社が、それぞれ自社固有のPower Platformを利用してアプリを作成したい場合を考えてみましょう。この場合、Power Platformへのアクセスが同じ環境になり、「作成中のアプリがお互いに見えてしまう」といったデメリットがあります。
Power Platformの「環境」を分離させることで、同一のMicrosoft 365 テナントであっても互いのアプリを見られないようにしたいなら、有償版ライセンスが必要です。
データ量はどのくらいになるか
従業員の勤怠管理として、毎日5回の報告メールを送信するルールがあるとしましょう。管理者は多くのメールの中から当該メールを見つけ、確認しなくてはなりません。管理者にとってこれは大きな負担です。また従業員たちが、月次での勤務表を総務部へ送っているとしましょう。仮に総務部でそれらの勤務表をつぶさに見ていたとしても、正確な勤怠管理は難しいのが一般的です。
こうした状況の解決として、Power PlatformのPower Appsで勤怠管理アプリを作成し、導入することが有効です。従業員たちはメールではなくこの専用アプリで状況報告を行います。管理者・総務部は同アプリでその報告を効率的にチェック可能です。
毎回Share Point Onlineへデータを格納していると、定期的なアーカイブ作業が発生します。もし格納数が20,000件を超える場合は、有償版Power Platformで使用可能になるDataverseの導入がおすすめです。これにより格納数の上限が大きくアップし、メンテナンス作業などについてもさらなる効率化を図れます。
M365以外のサービスにアクセスするか
例えば「社内から法務相談を受けた法務部が、その相談に応えるために、外部サービスに保管されている過去の契約書を確認する」というケースを考えましょう。基本的に、Power Platformから外部クラウドサービスなどへアクセスする場合、「コネクタ」を経由します。コネクタにはShare Pointなどの「標準的コネクタ」のほか、SQL Serverなどの「プレミアムコネクタ」、「カスタムコネクタ」といった3種類があるものの、無償版では「標準的コネクタ」しか使えません。
近年は利用目的別に各クラウドサービスを導入している企業も少なくありません。もしさまざまなコネクタを使い、それら外部クラウドサービスへ快適にアクセス可能な状況を整えたいなら、有償版を検討しましょう。
オンプレミスサーバーにアクセスするか
「社内の勤務状況を把握するために、社内のオンプレミスファイルサーバーから勤務データを取得し、人事・総務関係者間で共有する」というケースもよく見られます。有償版Power Platformを利用すればこうした作業も効率化可能です。
具体的には、オンプレミスサーバー上のデータが更新されると、有償版ライセンスで提供される「オンプレミスデータゲートウェイ」が自動で検知します。その後は、Power AutomateからShare Point Onlineへ自動登録させたり、担当スタッフへメール送付させたりできます。
このように、オンプレミスシステムやファイルサーバーへのアクセスを含む作業を効率化したい場合、「オンプレミスデータゲートウェイ」が使える有償版を利用するのがおすすめです。
Power Platformの運用管理プロセス
Power Platformの有償版にはさまざまなメリットがあるものの、適切に運用管理できなければ、リスクの発生にもつながるため注意してください。ここでは特に気をつけるべき点について解説します。
Power Platformの運用管理が必要な理由
運用管理について担当者やルールを定めないままPower Platformを導入してしまうと、各種リスクが増大します。まず「想定外のコスト」がかかる恐れが高まります。例えば管理者不在で各ツールやデータが放置されていれば、将来的にメンテナンスコストがかさみやすくなるでしょう。またリソース管理を適切に行っておらず、絶えずその場しのぎでリソースを追加していれば、課金額増大や管理の煩雑化などを招きます。
こうした状況が続けば、セキュリティ事故の可能性も高まります。セキュリティホールへの対応が後手になり、サイバー攻撃の被害に遭えば、企業としての信用失墜にすらつながり得ます。
Power Platformの運用管理手順
Power Platformを運用管理するためには、3つの柱を常に意識します。
ひとつめに検討すべきことは「利用方針」、つまり「誰がどのような業務に使うのか」を決めることです。社内インタビューなども用いて現場の声を広い、利用方法を洗い出していきましょう。それにフィットするツールや使用方法を見極めます。
2つめは「基盤の設定」です。これは使用環境やコネクタ、ライセンスなどを検討します。初期設定の組み方や、積極的に利用すべき機能・利用を制限する機能なども定めます。
最後に「運用内容」を決めます。例えば、どのように棚卸しするか、追加機能をどう制御するか、基盤リソースをどう監視するかなどを検討します。
これら3軸に則り、自社なりに運用管理手順を固めておくことが、Power Platform導入を成功させる鍵です。
まとめ
Power Platformの有償版を導入するかは、「処理回数」「環境の用意」「データ量」「外部サービスへの接続」「オンプレミスサーバーへのアクセス」などを軸にチェックすると判断しやすいです。コストを適正化しつつ、セキュアに運用管理するための手順も確認した上で、導入を進めていきましょう。