1970年代のMRP(マテリアルリソースプランニング:資材所要量計画)に端を発し、1990年代から2000年代初頭にかけて一気に導入が浸透したのがERP(エンタープライズリソースプランニング:統合基幹システム)です。
普及当時のERPと言えば導入コストや年間保守コストに数千万~数億円かかるシステムであったため、大手企業が中心に導入するソリューションというイメージが強かったのではないかと思います。
現在でも、ERPに対しそうしたイメージを持っている方が多いのではないでしょうか?
しかし時代は変わり、今では中小企業やスタートアップといった小規模な組織においてもERPを導入することが一般化されました。低価格帯製品の登場やコモディティ化、特にクラウドERPの登場が現在のERPブームに火を付けたと言ってもいいでしょう。
今回解説するのは、そんなERPが持つ以下5つの基本的なメリットについてです。
- データベース統合で横断的にデータを可視化
- システム連携により業務効率性がアップ
- リアルタイムなデータ活用で経営を支援する
- 成功企業のベストプラクティスを取り入れる
- 内部統制に強くなる
皆さんが企業が抱える経営課題と照らし合わせて読み進めていただければ、自社にとってERPは必要なソリューションなのかどうかが判断できるのではないかと思います。
ERP導入のメリット
データベース統合で横断的にデータを可視化
そもそもERPとは、経営に欠かせない複数の業務システムを統合的に提供し、システム間で相互連携の取れた環境を構築するためのソリューションです。イメージとしては会計システムや販売システムなど、それぞれが単独で稼働していたシステム群がすべてネットワークで繋げられているようなものです。
そして第一のメリットは、データベースが統合されることで横断的にデータを可視化できるというもの。
ERPを導入すると会計データや販売データなど、各システムから生成されるデータ整理された上で一つに集約されます。つまり、部門間をまたいで全ての経営情報を可視化できるようになるということです。
従来の環境では各データを統合することは非常に難しい作業でした。まず各システムからのデータ収集を行いデータベースに取り込む、さらにデータを整理するためにかなりの時間を費やしていたのではないかと思います。
対してERPならば極端な言い方をすればデータ収集は「一瞬」です。データは予め統合的に管理されているので、各システムからデータ収集を行う必要はありません。
システム連携により業務効率性がアップ
システム同士が総合連携されていることで発生するメリットは他にもあります。それは、各システムが連携していることで、無駄な業務を発生させずに業務効率性をアップできるというメリットです。
例えば顧客から営業が顧客から製品注文を受けた段階で在庫状況を確認する場合、一度顧客からの連絡を保留にして在庫担当者に確認するという光景がよく見られます。あるいは、営業自身が倉庫に赴き在庫状況を確認するというケースもあるでしょう。
これらの業務は明らかにタイムロスであり、ほんの少しの時間が顧客満足度を下げてしまう現認にもなるのです。
ERPを導入すればこうしたタイムロスは皆無です。販売データが入力された時点で在庫データに反映されるため常にリアルタイムの在庫状況を確認でき、営業はシステム上での在庫確認のみで顧客へのレスポンスを迅速化することができます。
この他にも2重3重のデータ入力作業がなくなったり、無駄な業務を効率化しつつ業務ミスも減少させることができるのです。
リアルタイムなデータ活用で経営を支援する
ERPを構成するシステムから生成されるデータは、ダッシュボードなどに集約されいつでも確認できるようになります。ERPはよく「経営視点のソリューション」と言われていますが、その所以がリアルタイムなデータ活用です。
導入したERPにBI(ビジネスインテリジェンス)が組み込まれていたり、BIとの連携が取れる場合、情報システムにデータ分析を依頼することもなくなります。ダッシュボードには常にフレッシュなデータ分析結果が表示され、経営者はそのデータを参照にしながら経営戦略を立てていくことができるのです。
近年「データドリブン(データを基準とした)経営」は、次世代のビジネス社会を生き残るために必要な要素だと言われていますが、ERPを導入することでそうしたデータドリブンな基盤を構築できるということになります。
成功企業のベストプラクティスを取り入れる
1990年代後半から2000年代に初頭にかけて国内で普及したERPの合言葉は、「成功企業のベストプラクティスを導入できる」というものでした。この言葉に魅力を感じた多くの企業がERPを導入し、理想と現実のギャップに打ちのめされたのではないかと思います。
それ以来、ERPがベストプラクティスと呼ばれることは無くなりました、「ベストプラクティスでなくなったしまった」わけではないのです。
ERPは今でも成功企業のノウハウを蓄積したベストプラクティスであることには間違いありません。問題なのは、他社のベストプラクティスが自社のベストプラクティスとは限らないという点です。
国内でのERP普及期ではベンダーの言葉を鵜呑みにし、海外企業のベストプラクティスが国内企業には適用されないという「当たり前のこと」に目を向けられなかったことが多くに失敗要因でもあります。
しかし現在では、海外進出企業も増え海外企業と国内企業のギャップも埋まりつつあり、さらには国内企業のベストプラクティスを意識したERPを多く提供されています。選択さ誤らなければ、ERPでベストプラクティスを導入できることは間違いないのです。
内部統制に強くなる
2002年に発生したエンロン事件()は米国企業全体のコーポレートガバナンスを揺るがす事件であり、企業の不祥事を厳しく罰するために米SOX法が誕生しました。さらに日本では2006年に米SOX法を基準にしたJ-SOX法が制定され、現在に至るまで内部統制の重要性が叫ばれています。
内部統制を行うことは企業の不祥事が減少し信頼性を維持できるという大きなメリットがある反面、運用負荷が大きいという課題もありました。ERPを導入すると、こうした内部統制の運用を大きく支援します。
ERPの管理機能では承認フロー、電子申請、アクセス権限管理といった、データの正確性や業務の確実性、システムの安全性を確保するような機能が備わっています。さらに各システムの操作ログを取得する製品もあり、企業の内部統制監視の負担を大きく軽減してくれるのです。
まとめ
ERPのメリットと聞くとデータベースの統合などがパッと頭に浮かぶ方は多いでしょうが、内部統制のことまで考慮してERP導入を検討するという企業は少ないと思います。しかしERPが内部統制に強くなることは事実であり、その他のメリットにより企業経営を強く支援してくれるでしょう。
もちろん、ERPを導入しただけでこれらのメリットの全てを享受できるというわけではありまえん。大切なのは最適な製品選定と、如何に運用を進めていくかが大切になります。
正しい選択と正しい運用ができれば、ERPは皆さんの企業にとって強力な経営支援ソリューションになるでしょう。