近年、テクノロジーの進歩に伴って、モノのインターネット化が進展しています。そんななか、先進企業の間で導入が進んでいるのが、高度な情報処理能力を備えたオフィス空間「スマートオフィス」です。本記事では、スマートオフィスの概要について解説するとともに、具体的なメリットや実際の導入事例をご紹介します。
スマートオフィスとは?
「スマートオフィス」とは、AIやIoTといったインテリジェントなシステムを活用した、最新鋭の次世代型オフィスです。スマートオフィスでは、建物内の各種設備とネットワーク接続されたIoTセンサーが、オフィスのあらゆるデータを自律的に収集・分析し、空調システムや照明機器などを自動的に制御します。この特性によりオフィス環境を最適化された状態に保てるため、従業員一人ひとりのパフォーマンスが高まり、組織全体における労働生産性の向上が期待できます。
現状、国内でオフィスのスマート化を推進している企業は、決して多くはありません。しかし、世界のスマートオフィス市場は着実に拡大の一途を辿っています。海外のマーケティングリサーチ会社「BlueWeave Consulting」が2021年7月に発行した調査レポートによると、その市場規模は2020年の310億2,979万米ドルから、2027年までに731億967万米ドルにまで拡大すると予測されています。
スマートオフィス化するメリット
スマートオフィスの実現を目指すうえで欠かせないのが、「デジタルワークプレイス」の構築です。デジタルワークプレイスとは、クラウドコンピューティングサービスやコラボレーションツールなどを活用し、デジタル空間に構築された労働環境を指します。スマートオフィス化によってデジタルワークプレイスを構築することで、企業は主に以下の3つのメリットが得られます。
- テレワークに対応可能
- 従業員のストレス緩和と生産性向上
- 社員に合わせた快適な職場を実現できる
テレワークに対応可能
スマートオフィス化によって得られる大きなメリットのひとつが、時間や場所にとらわれない働き方が可能になる点です。近年、新型コロナウイルスや働き方改革関連法の影響も相まって、テレワーク制度を導入する企業が増加傾向にあります。とくに新型コロナウイルスの影響は大きく、国土交通省が2021年3月に公表したデータによると、2019年度に9.8%だったテレワーク実施率が、2020年度には19.7%と約2倍にまで増大しています。
生産性の高いテレワーク環境を整備するためには、デジタル空間で業務プロセスを完結できる仕組みを構築しなくてはなりません。また、オフィス外で業務に取り組むというテレワークの性質上、デバイスの紛失や盗難といったリスクがあるため、セキュリティの脆弱性も懸念されます。そこで求められるのが、デジタル空間に労働環境を構築するデジタルワークプレイスです。
オンラインストレージやチャットツール、Web会議システムやプロジェクト管理システムなどのクラウドコンピューティングサービスを活用することで、最適なデジタルワークプレイスの整備が可能となります。スマートオフィス化によってデジタルワークプレイスを整備できれば、生産的かつセキュアなテレワークが実施できるようになるため、柔軟なワークスタイルの確立に寄与します。
従業員のストレス緩和と生産性向上
スマートオフィス化によってテレワーク環境を整備できれば、基本的に従業員はオフィスに出社する必要がなくなります。その結果、通勤ラッシュに巻き込まれることがなくなり、精神的なストレスの軽減が期待できます。ストレスが軽減されれば心身の健全化に寄与し、業務に対するモチベーションや貢献意欲の向上につながるでしょう。
また、従業員一人ひとりの勤労意識が高まることで、出社と退社に要していた時間を自己投資に充てるようになれば、将来的に組織力の強化が期待できます。さらに、従業員が出社する必要がないため交通費も不要になり、同時にオフィススペースも縮小できるため、大幅なコスト削減につながる点もスマートオフィス化の大きなメリットです。
社員に合わせた快適な職場を実現できる
冒頭でも述べたように、スマートオフィスはAIやIoTが空調システムや照明機器などを自律的に制御し、オフィス環境を最適化された状態に保ちます。たとえば室内の温度や湿度、照明などを最も生産性の高い状態に制御し、オフィス業務の効率化や省力化に寄与します。また、顔認証や網膜スキャンなどの生体認証によってセキュリティを強化しつつ、ウェアラブルセンサーで従業員の体調や心理状態を分析することも可能です。
現代日本では少子高齢化の進展と生産年齢人口の減少が深刻な社会問題となっており、その影響も相まって、多くの企業が人材不足という経営課題を抱えています。スマートオフィスなら従業員一人ひとりに最適化された労働環境を整備できるため、エンゲージメントやロイヤルティの向上に寄与し、離職率の改善と人材の確保につながります。
スマートオフィスの導入事例
最後に、実際にスマートオフィスを導入した企業事例について見ていきましょう。世界最高峰のスマートビルと称される「The Edge」と、日本マイクロソフトが取り組んだオフィスのスマート化についてそれぞれ詳しく解説します。
The Edge(オランダ)の事例
The Edgeは、オランダのアムステルダムにある、欧州で最高レベルのワークスペースを提供するオフィスビルです。世界で最もスマートなオフィスビルと呼ばれており、ビル内に埋め込まれた数万個のIoTセンサーが、快適な照明と温度の調節、従業員の位置情報や行動履歴の管理、スケジュール管理や会議室の手配などを支援します。
The Edgeは最先端テクノロジーが搭載されたスマートビルでありながら、世界で最も緑の多いビルともいわれており、まるで森の中にいるかのような開放感を得られる構造となっている点も特徴です。オフィス内に緑が多いほど従業員の幸福度と生産性が向上するという研究結果もあり、The Edgeはフロアの各所に緑豊かな植物が配置されています。
また、先進的な機能を備えているのはもちろん、外面に設置されたソーラーパネルが再生可能エネルギーを創出し、二酸化炭素の排出量ゼロを実現している点も特徴的です。さらに、回収された雨水をトイレの洗浄水やガーデンの撒水に利用するなど、環境問題に対して徹底的に配慮された設計となっています。
日本マイクロソフトの事例
日本マイクロソフト株式会社は、新型コロナウイルスがパンデミック認定される以前から、テレワークを推進している企業として知られています。また、働き方改革が推進される以前から多様なワークスタイルの確立に取り組んでいる企業でもあり、2019年には「週勤4日週休3日」という勤務形態を導入して大きな話題となりました。
同社が業績向上を実現しつつ、このようなワークスタイルを確立できた背景にあるのが、オフィスのスマート化です。たとえば、会議室の予約や照明機器の調整などをスマートフォンから実行できるオフィス環境を構築し、業務プロセスの効率化に取り組んでいます。また、フリーアドレスや集中スペースの導入によって、従業員が自由に働ける環境を整備し、それぞれに適したワークスタイルを確立することで、組織全体における生産性の向上を実現しています。
まとめ
スマートフォンが携帯電話の在り方に革命をもたらしたように、高度な情報処理能力や制御機能を備えたスマートオフィスは、ワークスタイルと労働環境に変革をもたらす技術として注目を集めています。今回ご紹介した事例なども参考にして、ぜひオフィスのスマート化に取り組んでみてください。