「スマートホーム」や「スマートシティ」という言葉を耳にする機会が増えてきた昨今ですが、Microsoftは現在、IoT技術を活用したオフィス空間「スマートビルディング」の実現に取り組んでいます。本記事では、このスマートビルディングの概要や、その実現に向けたMicrosoftの取り組みについて解説します。
スマートビルディングとは?
そもそもスマートビルディングとは、センサー類を始めとする電子部品にIoT(モノのインターネット)技術を搭載し、保守管理の効率性や利用者の利便性を高めたオフィスやショッピング施設などの建物を意味します。その使い道は目的によってさまざまですが、例えば人感センサー等を利用することで、お店や各施設の混雑状況を可視化するといったことも可能です。これは利用者のお店選びに活用できるほか、新型コロナウイルス対策において重要な3密回避にも寄与します。
ICT技術のさまざまな活用法を模索している日本マイクロソフトは、「Microsoft CityNext」プロジェクトの一環として、こうしたスマートビルディングにもソリューションを提供しています。「Microsoft CityNext」プロジェクトとは、現在各国政府も注目している「スマートシティ」の実現に向けた取り組みで、「デジタルシティ」「安全・安心」「ヘルスケア」「教育」「公共交通」「環境」といった分野での貢献を目指すものです。
「スペースを含めた人中心」のビジネス
スマートビルディングの実現に向けて、Microsoftは「Smart Buildings & Spaces」を掲げ、「facilities centric(施設中心)」でなく、「people centric(人間中心)」へと発想を転回させる重要性を強調しています。これは、従来のビルが施設管理や保守業務などの「設備」中心の発想から考えられていたのに対し、施設に関わる「人」のニーズを迅速に満たす、空間(スペース)を対象としたビジネスへ転換することとして説明されます。ICTの活用を通して、施設管理の効率化を図りつつ、同時に利用者の利便性を向上させることで建物に付加価値を付与するのがその目的です。この「人間中心」という考え方は、日本政府が現在掲げている「Society 5.0」の基本理念、つまり「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させるシステムによって、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」という理念にも共通するものです。
Microsoftの5つの取り組み
スマートビルディングの実現に向けて、Microsoftは主に5つの方向からアプローチしています。
構築
IoTは建物が完成する前、建築段階においても有用な技術です。IoT活用により データを収集して分析することで、品質、安全性、効率性、生産性を向上させるなどして、スマートビルディングの構築プロセスを改善できます。Microsoftは、現場の情報提供、物理環境のモデル化、適切なデータの視覚化が可能になるデバイスを建設会社が利用できるよう、さまざまな一体型サービスを提供しています。
建物の運営管理
スマートビルディングの主要なビジネス目標は、設備や運用コストの削減や収益性の向上などです。それに伴い、Microsoftパートナー企業は、データ分析などによりコスト削減を含めた建物の運営管理にソリューションを提供しています。例えば、その貢献分野としてはエネルギー効率の管理、資産のセキュリティと監視の強化、エンドユーザーエクスペリエンスの向上、建物の運営管理の改善、予測メンテナンス、運営コストの大幅な削減などが挙げられます。
空間活用
空間活用ができていないと賃借料の無駄が多くなり、光熱費とメンテナンスのコストばかりがかかってしまいます。Microsoftパートナー企業は、空間活用データを収集し、より効果的な職場のための実用的な分析情報に変換する機能を提供しています。
居住者の住み心地
建物の居住者は、使いやすく、かつ生産性向上に寄与するような建物を希求します。そのため、スマートビルディングの所有者や運営管理者も必然、居住者の住み心地を重視する場合が大半です。Microsoftパートナーは、例えばスケジュール管理、各種サービス依頼、経路案内、壁面緑化の成果が最適になるシステムを提供するなどして、建物の入居者にとって住み心地のよい環境を構築するためのソリューションを提供しています。
デバイスのセキュリティ
スマートビルディングのリスクとして、「デバイス自体の乗っ取りや、なりすましに対するセキュリティが不十分な場合が多いこと」「建物のネットワークにおいて予期していない動作が生じうること」が挙げられます。Microsoftはパートナー企業と連携して、セキュリティを高める取り組みをしています。
内田洋行はMicrosoftのオフィス移転をサポート
日本マイクロソフトは、2011年に品川に新本社オフィスを移転しました。その際に新オフィスの環境整備をサポートしたのが、ICTを活用したオフィス関連事業を手掛ける内田洋行です。
Microsoftはオフィス移転に伴い、従業員に固定席を設けないフリーアドレス制を導入しましたが、効率化の反面、従業員同士のコミュニケーション不足やグループ感の希薄化を懸念していました。それに対して、User Centered Design(ユーザーセンタードデザイン、UCD)を実践する内田洋行は、「Smartlnfill (スマートインフィル)」というサービスを提供することで、その課題解決に貢献しました。
Smartlnfillとは、ICT空間を容易に構築するためのシステムユニットで、個室型のワークブースのようなものです。Smartlnfillは建物の躯体から独立して設置可能なため、ビル設備への影響が少なく、解体や変更がフレキシブルに実行していけるという特長があります。大掛かりな躯体工事が不要なので、コストパフォーマンスも抜群です。
Smartlnfillには個室タイプから会議室タイプまで、あるいはクローズドタイプからオープンタイプまでが存在し、多様なニーズに対応できます。Microsoftでは、各部署に1力所あたり50~60人で共有するSmartlnfillを設置し、そこを共有空間「ハブコミュニケーションスペース」として活用することで、フリーアドレス制を残しつつも、必要に応じて従業員間の交流を促進できるフィス環境を実現しました。
まとめ
スマートビルディングはIoTを始めとするICT技術を活用し、ビル管理者による管理業務の効率化やコスト削減、あるいはビル利用者の利便性を向上させる建物です。Microsoftは「人間中心のスペース活用」というコンセプトも下、このスマートビルディングの実現に積極的に取り組んでいます。