「営放システム」は、放送業界では当たり前のように使用されている基幹システムですが、それ以外の業界の方にはあまり馴染みがありません。そこで本記事では、放送業界と新しく取引をしたいと考えている企業の方向けに、営放システムの役割や機能、仕組みを解説します。併せて、代表的なメーカーの提供する営放システムもご紹介します。
営放システムの役割と機能
「営業放送システム(営放システム)」とは、民間の放送局で利用される業務基幹システムのことで、「EDPS(Electronic Data Processing System)」とも呼ばれます。番組の放送時間やCMの挿入タイミング、スポンサー企業情報や売り上げなど、テレビ放送に必要な情報をまとめて管理する、放送局にとって必須といえるシステムです。
業務内容の多くを1つのシステムに集約して管理することで、生産性の向上や経営効率化につながります。また、長期的には経営情報を蓄積するシステムとしての役割も期待されています。
営放システムには多様な機能性が求められ、また放送業界の中核を担うことから、開発には深い業務知識が必要です。そのため、新規参入する企業はほとんどなく、日本国内では数社しか開発していません。以下ではまず、営放システムの主な機能を4つご紹介します。
番組編成の管理機能
営放システムの機能で代表的なものに、番組の編成機能があります。これは、24時間365日の放送スケジュールを管理するというものです。あらかじめ設定された番組の放送はもちろん、スポーツ中継時の延長や早終に対応する際も、スムーズなタイムテーブルの変更を可能とします。ほかにも、広報担当が作成した番組解説内容を受け取って、電子番組表に自動で反映する機能もあります。
営業情報の管理機能
営放システムでは、営業情報の管理もできます。「営業情報」とは、主に営業実績や売上、契約内容、またこれらから導き出される全体評価などを指します。一括管理している情報の中から、目的に応じた検索条件の指定も可能です。こうした内部情報を蓄積できることから、長期的に利用できるシステムとして重用とされています。
CM管理機能
営放システムにおいては、放送局にとって収入源となるCMに関する機能も重要です。たとえば、営放システムではCM枠の販売秒数の在庫管理を行えます。一般に、複数の広告主がいる中で、手動で最適な広告枠を設定することは容易ではありません。しかし、このCM管理機能により、システム的に秒数を切り分けて販売してくれるため、効率的な収益の確保が可能です。
また営放システムは、CMの放送順やCM素材の指定も行ってくれます。これにより、CM関連の業務について大幅な負担軽減が期待できます。
放送スケジュール管理機能
営放システムでは、生放送とVTR放送の切り替えもシステム上で行えます。また、災害や事故などによって、放送内容に急な変更が起きた際の緊急対応にも活用可能です。何らかの障害が発生した場合のエラー検知機能や、放送事故防止のためのチェック機能もシステム内に含まれます。
営放システムの仕組みは?
営放システムでは、はじめに「番組編成機能」で放送する番組の内容や分量、順番を決定します。タイムテーブルが完成したら、「営業情報の管理機能」でCMの契約・販売を管理し、「CM管理機能」でCMの在庫管理や進行を決定。「放送スケジュール管理機能」へ渡し管理します。これら4つの工程を経て、放送準備が完了します。
最後に、オンエアリストとして統合された映像は、営放システムから放送設備へと放出されます。放送設備に届いた映像は、送信設備やアンテナを介して、視聴者のもとへ送信・配信されるという流れです。
ただし、この仕組みは一般的なシステム利用における一例にすぎません。放送局ごとの事業形態や、利用している営放システムによって実際の運用方法はさまざまです。
営放システム主要ベンダー3社を紹介
基本的な役割や機能、仕組みは上記の通りですが、ベンダーによってサービス内容には少しずつ差異があります。ここでは、営放システムの開発を手掛ける代表的なベンダー3社について、会社概要やシステムの特徴を見ていきましょう。
ユニゾンシステムズ
「ユニゾンシステムズ」は、1991年創業のミドルウェアおよびソフトウェア開発を手掛ける企業です。主な販売商品は放送ビジネスに関する業務ソフトウェアで、テレビ局やインターネット放送局など映像関係の企業と取引しています。
ユニゾンシステムズの主力商品である「d.HOX」は、日本で唯一、全放送局に対応する営放システムです。地上波ローカル局においても、各局業務の違いに合わせたワンソースでの実装が可能なため、導入コスト・ランニングコストの削減につながります。
また、独自開発のミドルウェアを使用することで、OSに依存しないシステムを構築している点も特徴的です。これにより、レスポンス速度が向上しているほか、操作性やパフォーマンス面において自由度の高い拡張性を有します。レスポンスのよさや操作性のチューニングにより、少人数での運用を可能とした営放システムです。
そのほか、システム上で放送事故防止用のチェック機能を備えているため、少人数運用による不安がやわらぎ、さらなる作業効率性も実現しています。加えて、商品設計や製造・導入に至るまで、すべてユニゾンシステムが行っているため、万全のサポート体制が整っている点も利用者目線では安心です。
2012年からは、ITサービス大手「インテック」と共同で、放送業界向けクラウドサービス「Next-HOX シリーズ」や、放送局向けERP パッケージ「Bach(勤怠・人事・給与・会計)シリーズ」の開発・販売も開始しています。
NEC
「NEC」は、1899年創業のITソリューション・ネットワークシステムを提供する企業です。営放システムの販売は1978年から行っており、40年以上の実績があります。地上デジタル放送開始に合わせて2003年に販売を開始した「S-CMWIN」は、52局に採用され業界トップシェアを獲得しました。2011年には、地上デジタル放送に必要な機能に特化した、「S-CMWIN II」の販売を開始しました。こちらの営放システムは改修を重ねられながら、現在でも継続して運用されています。
「S-CMWIN II」は、Windowsの機能をフルに活用した、使いやすいインターフェースが特長です。また、長年の開発経験から、さまざまな運用方法を想定したシステムを構築しており、実際の運用に合わせた多彩な機能を備えます。高い処理能力により、編成・営業・放送などの番組放映に関わる各業務を並行して運用できるものポイントです。こうした使い勝手のよさから、作業待ち時間の削減に寄与し、業務効率化につながります。
2021年現在、従来の営業放送システムにおけるすべての機能を、クラウドベースで運用できるよう開発が進められています。クラウド化が実用化されれば、社外から営放システムの利用が可能となります。これにより、災害時の業務継続や感染症対策などに効果が期待されます。また、サーバーをNECが管理することで、放送局側の管理負担やコストが削減されるのもメリットです。系列局間との連携機能の強化も計画されており、この機能が実装されれば、さらなる業務負担の軽減が見込めるでしょう。
合弁会社フィンズ
「合弁会社フィンズ」は、「フジミック(フジ・メディア・ホールディングスの完全子会社)」「日本IBM」「西日本コンピュータ」の共同出資により、2011年に設立された企業です。フジテレビをキー局とする全国23社の地上放送ネットワーク「FNS(Fuji Network System)」向けに、営放システムをクラウドサービスとして提供しています。
FNSでは2000年より、各局で個別に営放システムを運用するのではなく、共同開発・運用により標準化する動き「FNS標準営放システム」が進められていました。2013年からは、系列局を結ぶプライベートクラウド基盤を構築することで、営放システムを含む放送業務に必要なシステムを集約する「FNS標準営放システムV2」が稼働しています。こうしたFNS標準営放システムや、IT戦略を推進することがフィンズの役割です。
FNS標準営放システムの上記2サービスとの違いは、すでに完全なクラウド化がなされている点です。また、対象をFNS系列局に絞ることで、コスト効率のよい営放サービスとなっています。さらにFNS標準営放システムでは、従来の営放システムの基本機能に加え、イントラネット「FNSネットコム」を利用した情報連携機能が整備されているのも特徴的です。キー局と系列局との連携強化により、さらなる業務効率化を可能としています。
まとめ
営放システムは番組編成やCM、営業情報を一元的に管理する、テレビ放送局には欠かせないものです。日本では参入難度の高さから、営放システムの開発・販売を行うベンダーは多くありません。本記事でご紹介した主要3ベンダーは、基本機能以外にそれぞれ異なった強みがあります。これらの情報を、ぜひ放送業界との取引にご活用ください。