近年、消費者の志向が「モノ消費」から「コト消費」に移行するにつれ、商品の価値だけでなく、購入からアフターサービスまでの全体を通した顧客体験が重視されるようになっています。本記事では、顧客体験について解説した上で、顧客体験を向上させる方法や、オンラインとオフラインを融合したOMOマーケティングについてもご紹介します。
顧客体験(CX)とは
顧客体験とは、顧客が商品やサービスに興味を持つ段階から、それを購入・利用し続ける間に得られる一連の体験を指します。アフターサポートが付随する商品であれば、それらも顧客体験に含まれます。顧客体験を英語で言うと、Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)となります。
例えば、SNSで美味しそうなスイーツを見付け、それを実際お店に行って購入したとしましょう。その場合、顧客体験とはSNSの閲覧から始まり、お店に足を運んで商品を受け取り、自宅で食べるまでのすべての行動が含まれます。
顧客体験は、視覚や味覚などの「Sense(感覚的価値)」、感情に働きかける「Feel(情緒的価値)」、知的好奇心や創造性を刺激する「Think(創造的・知的価値)」、行動にまつわる新しい価値を提供する「Act(行動・ライフスタイルにかかわる価値)」、特定の集団に属することで得られる「Relate(準拠集団への帰属価値・社会的経験価値)」の5つに分類されます。
顧客が商品やサービスに接する際、純粋な物の価値だけでなく、上記のような優れた顧客体験を提供できれば、商品やサービスへのロイヤルティは向上するでしょう。顧客にとって替えのきかないものとなることで、リピート率や定着率の増加も期待できます。
顧客体験は、近年日本国内においても重要視されるようになりつつあり、C Space Japan社が「顧客体験価値ランキング」を調査・公開しています。上位には著名企業が名を連ねていますが、ここで言う顧客体験価値とはイコール顧客体験(CX)を示すと考えていただいて問題ありません。
なぜ今、顧客体験(CX)が重要なのか?
ではなぜ今、顧客体験がこれほど重要視されるようになっているのでしょうか。主な理由は3つあります。以下にくわしく説明します。
消費者による情報発信の増加
インターネットが普及する以前は、商品の価値やサービスの価値について、広告やCMなど企業側の発信からしか情報を得られませんでした。しかし、今はSNSやブログ、口コミサイトなどで消費者一人ひとりが商品やサービスについて発信できる時代です。個人のSNSがきっかけで商品がヒットした例は枚挙にいとまがなく、お店や宿などを決める時、口コミサイトを参考にする人も少なくありません。
もはや企業は、個人の発信力を軽視できない時代です。そのため、企業と消費者との信頼関係はこれまで以上に重要になっており、どの企業も顧客体験の充実に力を入れるようになっているのです。
企業と顧客の接点の増加
また、インターネットやSNSなどの普及により、企業と顧客との接点が増加したことも、顧客体験が重視される大きな要因の一つです。以前は企業と顧客との接点は、店舗や営業マンの訪問ぐらいしかありませんでしたが、今はSNSやホームページ、スマートフォンのアプリやメールなどさまざまなツールから商品やサービスの情報にアクセスでき、企業側からも顧客に働きかけることができます。
企業と顧客のコミュニケーションが密になり、情報にアクセスしやすくなったのは便利ではありますが、より選択肢が多くなり、顧客の行動が複雑化している一面もあります。その中からリピートし続けてもらうには、商品以外のところで付加価値を付けることが必要になっているのです。
モノから体験への価値の変化
近年は物やサービスの供給過多が顕著となりつつあり、純粋な商品やサービスの内容だけでは差別化しづらくなっています。加えて「コト消費」や「トキ消費」と言われるように、消費者が物そのものの価値より、それを利用することで得られる精神的な充足の方をより重視するようになりました。
そうした時代の流れを反映し、これまでの「売って終わり」ではない継続型のビジネスモデルも増えています。具体的な事例としては、定額制のシェアリングサービスや、サブスクリプション制サービスなどが挙げられます。
顧客中心に考えたサービスで、継続的な関係を築いてゆくことこそが今後生き残ってゆくビジネスモデルのポイントだと言えるでしょう。
顧客体験(CX)を向上させるポイント
では、顧客体験を向上させるには、どのような対策が必要になるのでしょうか。以下に重要なポイントを3つ紹介します。
顧客体験を整理する
顧客体験を効果的に向上させるためには、ただ漠然と対策を立てるのではなく、顧客の傾向やニーズを的確に把握し、分析する必要があります。そのための第一歩が、顧客体験の整理です。
まずは、既存商品や既存サービスが顧客とどのような接点を持っているか細かく洗い出し、時系列で並べてみましょう。さらに、その接点ごとの顧客の行動や思考プロセスも細分化して書き出していきます。
これを図表で示したものをカスタマージャーニーマップと呼び、顧客の行動と感情の関係性や、意識の流れを可視化するのに大変有効な手段です。これによりチームで共通認識を持つことができ、より効果的な対策を立てやすくなります。
データを活用して課題を特定する
近年はデジタル化により、さまざまな接点において顧客から膨大なデータを収集できるようになりました。Webサイトのアクセス解析や顧客アンケート、ユーザーレビューやカスタマーサポートに寄せられた声などにより、顧客の反応や傾向を可視化・数値化できます。
集められたデータをカスタマージャーニーマップに反映することで、サービスや商品、顧客体験に足りないものや、見えない顧客の要望や傾向など、現状を改善するための課題も色々と見えてきます。そこで特定できた課題をクリアし、さらなる顧客体験の向上につなげることが大切です。
課題改善に向けた仮説検証を行う
現状の課題が洗い出せたら、改善のために具体的な対策を立て、実行していきます。ただ、浮き彫りになった課題は仮説にすぎないため、その改善策が実際に顧客の意に沿ったものであるかは、その都度検証する必要があります。
課題を明確にするには、ユーザーインタビューやアンケートなど、顧客の意見を直接聞く手段が有効でしょう。また、改善案を実行した際も、データだけでは分かりづらい場合があるので、店舗や会場などに直接足を運び、顧客の反応を直接見ることも大切です。
そうして仮説と検証を繰り返し、変化を確認しながら対策を修正していくことで、より顧客の目線に立った体験を提供することが可能になります。
こうしたCXへの取り組みは会社全体で行う場合もあります。なぜなら顧客体験は、商品に興味を持つところからアフターサービスにいたるまで全体を通したものだからです。例えば、店舗のスタッフの対応がよかったとしても、カスタマーサービスの対応が悪ければ顧客が離れることもあり得ます。そのため、部署や拠点をまたぐ対応が必要な場合は、全社で認識を共有しておくことが求められます。
顧客体験(CX)を最大化させるOMOマーケティングとは
顧客体験がより重視される時代にあって、注目されているマーケティング手法が「OMO(Online Merges with Offline)」です。OMOマーケティングは、ネットショップなどのオンラインと実店舗などのオフラインを融合することで、顧客体験を最大化することを目的としています。具体的には、店舗にいる時のように質問ができるチャットボットを活用したECサイトや、デジタルサイネージによる自動接客を導入した店舗、リアル店舗をサイバー空間上で再現する取り組みなどが挙げられます。
現代では多くの人がスマートフォンを所有し、情報収集や発信、購買や決済など生活のあらゆるシーンで、インターネットを活用する時代です。昔のようにオンラインとオフラインを住み分け、ばらばらにマーケティングを行っても顕著な効果は得られないでしょう。
これからはオンラインをベースにしながらも、ネット内外それぞれのメリットを取り入れ、垣根のない柔軟なサービスを行うことがスタンダードになっていくと考えられます。その中でOMOはより重要な役割を果たしていくでしょう。
まとめ
商品やサービスがあふれる現代、消費者に選ばれるためには、より充実した顧客体験の提供が求められます。それを最大化させるのに有効な手段がOMOです。オンラインとオフライン双方のメリットを活用しながら、顧客が満足する体験を提供するには、各企業も積極的にデジタルトランスフォーメーションを進めていく必要があるでしょう。