ビルメンテナンス業界に従事している一方、自分の担当業務以外の仕事内容について詳しく知らないケースもあるでしょう。本記事では、ビルメンテナンス業界の全体像を把握できるよう、主な業務内容や言葉の意味、昨今のビルメンテナンス業界の市場動向、今後の予測や働き方の変化などを交えながら解説します。
ビルメンテナナンスとは?どのような仕事か
ビルメンテナンスとは、オフィスビルや商業施設、ホテルや病院、マンションなどの建物の維持管理をする業務を指します。つまり、ビルで労働する人や住人、客などがいつも快適にビルを利用できるよう、衛生面や設備面などの保守管理を行うのが重要な仕事です。また、ビルを適切に管理できれば資産価値を守ることにもつながります。このように、ビルメンテナンスは利用者の利便性や快適性を維持するだけでなく、不動産としての価値も保全する重要な業務と言えます。
ビルメンテナンスの主な業務内容
ビルメンテナンスの主な業務は、大きく分けると以下の4つに分かれます。それぞれの具体的な業務内容を説明します。
衛生管理業務について
衛生管理業務は、ビルの中や建物の外周りの環境・衛生を保つのが仕事です。衛生的な状態の判断の指針として「建築物環境衛生管理基準」に基づき、項目別に分類した基準の数値が設けられています。各項目の基準を下回らないよう点検・維持しなければなりません。
衛生管理に付随する項目としてまず清掃があります。建物の美観を損ねないよう、建物の壁や床に使われる材質の特徴を理解し、適切な方法での清掃が求められます。
また、ビル内の空気環境についても徹底した管理が必要です。温度や相対湿度の調整だけでなく、空中に浮遊する粉じんの量や、一酸化炭素や二酸化炭素の含有率、気流やホルムアルデヒドの量などを測定します。
さらに、飲料水についても定められた期間ごとに水質検査を行い、安全な飲用が可能かを精査します。ねずみや昆虫など、人の健康を害するおそれのある生物を防除するための必要な措置も行います。
設備管理業務について
設備管理業務とは、建物の設備機器が問題なく正常に作動しているかを確認する業務です。
設備とは、電気や水道、空調やエレベーターなどの建物に設置されている機器や、消火設備、警報設備、避難設備などを指します。
オフィスビルや病院に限らず、電気設備に不具合が起きたときは、停電が業務や人命に大きな支障をきたす恐れがあります。エレベーターが故障すれば、中に人が閉じ込められてしまう危険性もあるでしょう。給排水設備にしても、水漏れなどの異常があれば階下の精密機器や商品などに損害を与えてしまうこともあります。
これらの事態を未然に防ぐべく、電気通信設備や空調設備などの監視や点検、記録および分析、整備や保全などを行います。
建物・設備保全業務について
建物・設備保全業務と、すでに説明した設備管理業務との違いは、建築基準法で定められた定期点検や調査などを通じて、建物を長期的に保全する目的で業務を行う点です。
建築物定期検査では、建物の構造や劣化の有無・程度などを調査分析し、今後起こりうる故障や消耗などを未然に防ぐ努力をします。よって、建物・設備保全業務は建物自体の資産価値を長期的に維持するために欠かせない業務と言えます。
具体的には、屋根防水の劣化の有無、外壁タイルの亀裂や落下の危険性の確認などの任意点検や、エレベーターやエスカレーターの法定点検などを通じて、安全性や耐久性を保全します。建物の点検記録の内容をもとに、劣化箇所や消耗などの状況に応じて補修や改装計画が立てられるため、建物の価値の保全や新技術や性能へのアップデートも可能になるわけです。
警備・防災業務について
警備業務は、建物と人の安全を守る業務です。建物の出入り口や監視カメラなどをチェックして不審者の侵入を防いだり、夜間の見回りで異常や危険がないかを確認したりします。
また、防災や防火に対する管理体制に不備がないか、火災が起きたときに火災報知器が鳴るか、防火シャッターが閉まるかなど、消防設備の作動を点検するのも大切な業務です。防火管理業務は、消防法に基づいた消防設備の点検や維持管理が必要です。
建物だけでなく駐車場の管理や運営も行います。24時間常時管理可能な機械警備システムで、駐車場の防犯や監視、機器トラブルなどもネットワークにより管理しています。
ビルメンテナンス業界の市場動向について
ビルメンテナンス業界は、日本のバブル期の好景気の影響もあり、1990年代の前半頃までは安定した成長率で推移していました。その後、都市部の再開発事業の需要増やリーマンショックなどの日本の景気とともに成長率は増大や減少、横ばいなどを繰り返し、2009年からは一転して毎年堅実に右肩上がりに上昇しています。さらに、今後も好調に成長を維持すると予想されています。
しかし、一方でビルメンテナンス業界の働き手の人手不足が問題視されています。若年層の就職率の低下や、就職しても離職する人が多いなどの理由が挙げられます。これらの問題に対し、今まではマンパワーに頼っていた状況から、AI(人工知能)や、IoT(Internet of Things)などの最新テクノロジーを取り入れることにより、人手不足解消の解決策となることが期待されています。設備機器などがインターネットとつながれば、監視や点検業務が遠隔でコントロールできるため大きな効率化が可能です。
また、人為的なミスも減らせるため業務の精度向上にもつながります。さらに、危険を伴う高所作業などではドローンを操作して点検業務を行うなどの試みも広がっています。実際に、既に清掃業務のリモート操作の動きを学習したAIを持つロボットが、労働者に変わって清掃作業や消耗品の補充などに従事しているケースもあります。このようにビルメンテナンス業界では、テクノロジーを駆使して機械と人間との協働が可能になり、今後は人材の有効活用ができるとともに、働き方改革の一助となるでしょう。
まとめ
ビルメンテナンス業界は右肩上がりに成長している産業ですが、人材不足が深刻化しています。しかし、最新テクノロジーを導入することにより、人手に依存していた業務の機械化や自動化が進めば、近い将来人材不足もカバーされるでしょう。また、従来にはないサービスの提供や技術者の雇用を生むきっかけにもなりえます。