近年、国内のさまざまな企業で重要課題となっているテーマとして「DX」が挙げられます。しかし、DXの推進に取り組むものの、いわゆるIT化の領域にとどまり、実現に至っていない企業が少なくありません。そこで本記事では、DXの概要やIT化との違いについて詳しく解説します。DXの実現を推進している企業は、ぜひ参考にしてください。
DXとIT化の違いを知る前に押さえておきたいDXの概要について
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」とは、「デジタル技術の活用による変革」を意味する概念です。20世紀後半から21世紀初頭にかけて起きたIT革命によってさまざまな産業が発展し、現代の人々は人類史上類を見ないほどの豊かさと利便性を享受しています。しかし、社会や経済の発展は苛烈な競争原理の上に成り立っているといっても過言ではなく、市場の競争性は激化の一途を辿っているのが実情です。
このような時代のなかで企業が市場の競争優位性を確立するためには、古い経営体制からの脱却を図るとともに、新しい時代に即した経営改革を推進していかなくてはなりません。そこで必要となるのが、デジタル技術の活用による経営体制の抜本的な変革、つまりDXの実現です。DXとIT化の違いを正しく理解するためにも、まずはDXの定義について再確認しておきましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の意味を再確認
DXには「社会的な文脈で語られるDX」と「企業経営の文脈におけるDX」という2つの側面があります。まずDXという概念が誕生したのは2004年のことであり、当時ウメオ大学の教授であったエリック・ストルターマン氏が発表した論文のなかで提唱されました。ストルターマン氏は論文「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」において、DXを以下のように定義しています。
“The digital transformation can be understood as the changes that the digital technology causes or influences in all aspects of human life.”
この言葉を簡単に和訳すると「デジタル技術の浸透が人々の暮らしを豊かにしていく」という意味合いとなります。つまり、IT機器や情報通信技術の進歩・発展が社会構造に変革をもたらすという、社会的な意味合いをもつ概念として提唱されました。これが「社会的な文脈で語られるDX」です。
このように、DXという概念が誕生したのは2000年代の前半ですが、国内で大きな注目を集めるようになったのは2010年代の後半頃といわれています。その契機となったのが、2018年に経済産業省が発表した「DXレポート」です。経済産業省はDXレポートのなかで、企業が老朽化したITシステムを抱え続けるリスクについて言及しており、レガシーシステムを保有し続けることで予想される2025年以降の経済的損失は、最大で年間12兆円規模になるであろうと発表しました。
事実、IT革命の潮流に乗って多くの企業がデジタル化を推進したものの、それから約20年経過した現在ではメインフレームや基幹系システムの老朽化・ブラックボックス化に頭を悩ませている企業も少なくありません。経済産業省はDXレポート内でこれを「2025年の崖」として警鐘を鳴らしており、DXを以下のように定義した上で、その重要性や方向性を取りまとめています。
“企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。”
引用元:DX推進ガイドライン|経済産業省
これが「企業経営の文脈におけるDX」であり、近年語られているDXの定義といえるでしょう。エリック・ストルターマン氏が提唱するDXは社会構造の変革を意味する概念ですが、現在は経済産業省の定義するビジネス領域のDXが一般的な意味合いとして捉えられています。つまり、現代におけるDXとは、「デジタル技術の活用によって経営体制そのものに変革をもたらし、市場における競争優位性を確立すること」と定義できます。
DXを推進するメリット
DXの実現を推進する上で欠かせないのが、AIやIoT、クラウドコンピューティングといったデジタル技術の戦略的活用です。たとえば、老朽化したメインフレームや基幹系システムをクラウドマイグレーションできれば、2025年の崖を回避できると同時に業務効率化やヒューマンエラーの軽減に寄与します。さらに請求書の作成や伝票の記帳といったノンコア業務を省人化することで、コア業務にリソースを集中できるため、イノベーションを創出する機会を得やすくなります。
また、コラボレーションツールやグループウェアなどを活用することで、時間や場所にとらわれない労働環境を構築できるため、「働き方改革」の実現に寄与する点もDXを推進するメリットです。柔軟な働き方が可能になれば、多様な人材を確保する機会の創出につながります。育児や介護などの事情を抱える人材に合わせた柔軟な働き方が可能となることで、離職率や定着率の改善につながり、結果として経営基盤の総合的な強化が期待できます。
間違われやすいDXとIT化の違い
DXとIT化の決定的な違いは、その目的にあります。先述したように、DXとはデジタル技術の活用によって変革をもたらすことであり、その本質的な目的は経営体制の抜本的な変革による市場競争力の強化です。一方でIT化は業務プロセスのデジタル化を目指す施策であり、業務の効率化や労働生産性の向上がその目的といえるでしょう。
DXは経営体制に変革をもたらすことで企業の「全体最適」を図る戦略であるのに対し、IT化は既存業務の効率化にとどまる「部分最適」でしかありません。たとえば、ワークフローシステムの導入による申請・承認業務の自動化やペーパーレス化はIT化の領域です。DXの領域では、ワークフローシステムの導入を通して申請・承認業務を自動化するとともに、アナログな古い経営体制からの脱却を図ることで経営基盤の総合的な強化を目的とします。
IT化はあくまでも業務の効率化を目的とした施策であり、組織構造や事業形態の抜本的な変革を目指すDXとは本質的な目的が大きく異なります。IT化はDXを実現する手段のひとつでしかありません。そのため、DXを実現するためには単にデジタル技術を導入するだけではなく、その活用を通して競合他社にはない付加価値をいかにして創出するかが重要な課題となるでしょう。
DXを成功させるために押さえておきたいポイント
DXの重要性や必要性について理解しながらも、IT化の領域にとどまってしまう企業は少なくありません。その原因として挙げられるのが、DXを推進するビジョンの欠落です。DXは一人の力で成し得るものではなく、組織全体がビジョンを共有して同じ方向に向かって進まなくては実現できません。何のためにDXを推進するのかという明確なビジョンや理念を経営層が打ち出し、理想とする姿を明確化する必要があります。
そして、ERPのように全社横断的な情報共有や業務連携を可能にするITシステムを導入するといった施策も重要です。しかし、大規模なIT投資は相応のリスクをはらんでいるため、現場に近いオペレーションの領域から着手すると進めやすいといえます。また、DXを実現するためにはデジタル技術の導入だけでなく、マネジメントやマーケティングの領域に関して深い知見をもつ人材が必要となるため、人材育成の仕組みや研修制度の整備も求められます。
まとめ
DXとは、デジタル技術の活用によって経営体制に変革をもたらし、市場の競争優位性を確立することと定義される概念です。DXを実現するためにはレガシーシステムからの脱却とシステム環境のモダナイズが欠かせません。DXの実現を目指してクラウド移行に取り組みたい企業は、Microsoft Azureの導入をご検討ください。