サービタイゼーションとは
サービタイゼーションとは、製品を売るだけでなく、サービスの提供によって継続的な利益を得ようとするビジネスモデルです。
従来の製造業は、製品を購入してもらうことで利益を得る売り切り型のビジネスモデルでした。しかし、近年は市場や消費者の需要が大きく変化し、従来のビジネスモデルだけでは生き残りが難しくなっています。
そこで、製品すらサービスの一環として提供し、継続的に利益を得るサービタイゼーションが注目されるようになりました。企業はサービタイゼーションを実現することで、他社との差別化を図り、顧客との長期的な信頼関係を構築できます。
サービタイゼーションの必要性
ビジネスを取り巻く環境は大きく変化し、製造業においても先端技術を組み込んだデジタル機器が普及しつつあります。現代の製造業が競争力を強化するためにはサービタイゼーションが必要です。モノからコト消費への変化
人々の消費傾向は大きく変わっています。従来は、商品そのものに価値を感じ、手に入れようとするモノ消費が一般的でした。しかし近年は、モノではなく、体験や感動に価値を求めるコト消費へと変化しています。現代はモノが溢れている時代です。インターネットの普及により、誰もが容易にさまざまな情報を取得できるようになり、求めるモノもスピーディーに手に入れられるようになりました。
その結果、消費者は製品そのものを欲しがるのではなく、体験に価値を見いだすようになりました。したがって、製造業を営む企業が顧客から選ばれるためには、単にモノ(製品)を売るだけではなく、体験や感動を組み合わせた付加価値の高いサービスを提供する必要があります。
IoTなどを組み込んだデジタル製品の普及
近年はIoTやAIなどのテクノロジーがさまざまなシーンで活用され始めており、製造業も例外ではありません。IoTやAIを組み込んだデジタル機器を活用すれば、多様なデータの取得や分析が可能となり、顧客のニーズに応じて最適なサービスを提供できます。IoT技術などを活用したデジタル機器の普及により、これまでは難しかったこともできるようになりました。たとえば、製品の異常検知や故障予測です。センサーによる稼働状況のチェックや取得したデータの分析などにより、高精度な異常検知や故障予測が可能となり、トラブルが発生する前のメンテナンスも可能です。これらの実現は、製品の品質向上だけでなく、故障が発生した場合の迅速な対応を可能とし、顧客満足や信頼度、企業価値の向上につながります。
ニューノーマルな時代への対応
地政学的リスクや気候変動、パンデミックなど、世界中であらゆるリスクが発生しています。従来の常識が通用しないニューノーマルな時代に突入しており、企業は時代に対応できなければ市場における優位性を確立できず、淘汰されるおそれがあります。新たなビジネスモデルとしてサービタイゼーションが常識となりつつあるなかで、自社も遅れをとらぬよう対応を進めていかねばなりません。
企業を取り巻く環境は、日々刻々と変化しています。しかも、環境の変化が激しいため、企業はスピード感を重視しつつ変化に対応していくことが必要です。
次々と変化する環境へ適応するには、企業競争力の強化が不可欠です。そのためには、自社の強みを把握し、デジタル化やデータ活用を伴う企業変革に取り組む必要があります。また、異なるジャンルのノウハウや技術を積極的に導入する、小さな改善を繰り返すなども企業競争力の強化に有効です。
サービタイゼーションを推進させる技術
サービタイゼーションの取り組みには、AIやIoTなどのIT技術が欠かせません。これらの技術を活用することで、製品の稼働状況をモニタリングしたり、収集したデータを分析したりといったことが可能となり、これまでになかった新たなサービスの提供が可能です。IoTなどの活用により実現可能なこととして、製品や機械の操作が挙げられます。たとえば、遠方から機械の電源を切ることができます。遠隔地から製品のバッテリー残量を把握する、稼働状況を検知する、特定の条件がそろったときに設定した動作を起こす、といったことも可能です。
また、5G通信もサービタイゼーションの推進に有効です。5Gは次世代の高速通信システムであり、大容量のデータでもスムーズにやり取りできる点が魅力です。多接続、低遅延も5Gの強みであり、リアルタイムで生産ラインの監視や制御を行い、製品からデータを取得する際にもスピーディーかつスムーズに実行できます。
サービタイゼーションの種類
サービタイゼーションの推進を検討しているのなら、どのような種類があるのかを理解しておきましょう。代表的な種類として、サブスクリプションや遠隔監視、保守作業、アフターサービスなどが挙げられます。サブスクリプションモデル
サブスクリプションはサービタイゼーションの一種で、近年におけるトレンドとも言えるビジネスモデルです。顧客は定額の料金を月々支払うことで、動画が見放題だったり、音楽を好きなだけ聴けたりといったサービスを受けられます。製造業でも、近年ではサブスクリプションサービスを提供する企業が増えてきました。たとえば大手自動車メーカーは、初期費用不要かつ月額料金で自動車をマイカーのように利用できるサブスクリプションサービスを提供しています。
ほかには、製造現場の可視化や分析を行うためのソフトウェアライセンスを提供する、設備投資のコスト負担などに対応するための中古工作機械を提供する、といったサブスクリプションサービスがあります。
遠隔監視サービス
IoTやAIなどの先端技術の活用により、遠隔監視サービスの提供が可能です。製品にIoTやAIなどを組み込むことで、稼働状況のモニタリングや一元管理を行えます。製品の稼働状況などを遠隔監視できれば、大幅な業務効率化につながります。従来のように、技術スタッフが頻繁に現場へ足を運ぶ必要がなくなり効率的です。稼働状況を常時モニタリングすることで、製品の異変をいち早く察知でき、遠隔地からスピーディーに適切な対応や指示を行えるのも魅力です。
IoTを活用した保守作業
IoTを活用した保守作業を行う企業も増えています。機械や製品の異常が発生した場合に遠隔地から対応することを目的とする遠隔監視サービスに対し、保守作業は現場での早期対応を目的としています。IoTによって機械や製品の状況をリアルタイムに把握することで、異常が発生した場合に速やかな対応を実現できます。また、IoTを活用すれば、販売した製品からデータを取得、蓄積し、分析まで行うことで故障の予測が可能です。いつ、どのようなトラブルが発生しそうかを事前に把握できれば、故障する前にそのときどきの状況にあわせた適切な対応を行えます。生産ラインを停止させることなく、安定した稼働が実現できます。
トラブルが発生しそうなタイミングを予測することで、保守の計画を立てやすくなるのもメリットです。スケジュールの組み立てがしやすく、適材適所な人材配置も行えます。メンテナンスのタイミングが最適化されるため、定期点検の工数も削減可能です。
アフターサービスの充実
サービタイゼーションの一環として、商品やサービスの購入にいたった顧客に対するアフターサービスを充実させるのもひとつの方法です。たとえば、問い合わせやクレーム対応、商品の返品、交換、修理などの対応が挙げられます。製造業であれば、製品の組み立てや据え付け、保守、点検といったアフターサービスを提供するケースも珍しくありません。アフターサービスを充実させれば、他社との差別化にもつながり、自社のイメージアップや利益拡大にもつながります。
近年のトレンドは、個々の顧客にパーソナライズしたアフターサービスです。一人ひとりにマッチした最適なアフターサービスを提供するには、CRMによる顧客情報の一元管理なども求められます。
サービタイゼーションのメリット
サービタイゼーションに取り組む企業が増えている理由は、さまざまなメリットを得られるためです。代表的なメリットとしては、競合との差別化や顧客満足度の向上が挙げられます。競合との差別化
ビジネスで競合よりも優位に立つには、差別化戦略が必要です。現代はモノが溢れている時代であり、似たような商品は数多く市場に出まわっています。このような状況のなかで、消費者から自社を選んでもらうには、差別化を進めて自社やブランドに魅力を感じてもらうことが大切です。サービタイゼーションは、競合との差別化に有効です。製品そのものだけではなく、製品を介して提供するサービスによってさまざまな価値を付加することで、他社との差別化を図れます。自社の強みを活かしつつ、組み合わせやカスタマイズによって競合にはない価値を提供できれば、ブランドイメージが向上し、継続的に利益をもたらしてくれる可能性があります。新規顧客の獲得や市場シェアの拡大にもつながります。
顧客満足度の向上
サービタイゼーションは、サブスクリプションサービスとして提供するケースが多くを占めています。サブスクリプションは必然的に長期的な利用になることが多く、顧客との良好な関係の構築や維持に有効です。長期的に利用してもらっているなかで、顧客のニーズを汲んだ価値の高いサービスを提供すれば、顧客満足度の向上につながります。顧客満足度が高まれば、企業やブランドにも愛着を抱いてもらえ、末永く自社の製品を使用し続けてくれる可能性があります。
顧客満足度が高まり、企業によい印象を抱いてもらえれば、リピーターや新規顧客の獲得にもつながります。顧客満足度が高まり企業のファンとなった顧客がSNSなどで企業やブランドの魅力を発信してくれれば、そこから集客につなげることが可能です。
サービタイゼーションの企業事例
サービタイゼーションに取り組んでみたいものの何から着手すればよいのかわからない場合は、サービタイゼーションを推進している企業の事例を参考にしてみましょう。医療機器メーカーの事例
ヨーロッパに本社を構える医療機器メーカーは、大量のデジタル製品を販売および管理していたため、管理の煩雑さやマニュアル作業の多さが課題として顕在化していました。このような課題を解決するため、同メーカーはグローバルソフトウェア収益化プラットフォームの導入を推進しています。当該プラットフォームは、多様なダウンストリームプロセスを実現し、ソフトウェアの収益化を支援します。たとえば、サブスクリプションやアップグレードといったソフトウェア販売、ライセンスキーの生成などです。併せて、スムーズな課題解決につながるよう、子会社へのサポートサービスも提供しています。
農業メーカーの事例
ある農業メーカーでは、農機を販売するだけでなく、農業経営に関する課題解決をサポートするサービスの提供を始めました。このサービスでは、農機に通信機器を搭載することで、さまざまな情報を収集でき、農業経営の課題解決に役立てることが可能です。たとえば、センサーを搭載したコンバインから刈り取りしたデータ(たんぱく含有率・水分率・収量)を取得し、圃場ごとの成績を客観的にチェックできます。収量が少ない圃場、多い圃場などがデータでわかるため、分析を行い品質向上にもつながります。
また、ドローン連携も可能です。近年、農業の世界でもドローンを活用するシーンが増えてきました。農業用ドローンは、肥料や農薬を散布できるタイプが多く、安全に配慮しつつ効率的に散布作業を行えます。同メーカーが提供しているサービスでは、ドローンと連携していつどこで農薬を散布したのか、自動で日誌の作成が可能です。どのような軌跡で飛行したかも画像データでチェックできるため、必要な場所すべてに散布できているかどうかも容易に把握できます。
ほかにも、作業の進捗具合を可視化できる機能などもあるため、現状でどこまで進んでいるのか、作業漏れはないのかといったことの把握も可能です。
空調メーカーの事例
ある空調メーカーは、IoTプラットフォームを構築し、販売した空調機器の稼働状況をモニタリングしています。世界中の空調機器をネットワークで接続し、販売から保守、更新など商品のライフサイクルにあわせたサポートサービスを提供している点が特徴です。同メーカーは、インターネットでつなげた空調機器からデータを収集し、分析にも役立てています。集計した膨大なデータはBIツールによって可視化し、そこから表面化していない課題の発見や新たなサービスの開発などにつなげようとしています。
収集したデータの活用によって、顧客満足度の向上につなげられる点がメリットです。たとえば、収集したデータを分析し、「ほとんどのユーザーが自動運転を利用していない」といったことがわかったとしましょう。このような情報を把握できれば、多くのユーザーが利用しない機能を排除し、よりユーザーに寄り添った新機能の実装が可能です。
電機メーカーの事例
ある電機メーカーは、金融機関のATMをはじめとした機器の製造に携わっています。同メーカーは、自社がこれまで事業で培ってきたノウハウを活かした、電子機器製造受託サービスを立ち上げました。最大の特徴は、機器の設計から実装、組み立て、保守まで一貫したサポートを提供している点です。これにより、サービスの利用者は商品企画や販売など、利益に直結するコア業務へより多くのリソースを分配できます。
サービスの利用によって、思い描いていた新商品のアイデアを早い段階で形にできる点が魅力です。不足している技術や知見を補完してもらえるため、サポートを受けつつ新商品を開発できます。また、ノンコア業務を移管することでコア業務にのみ注力できる環境が整い、コスト削減にもつながります。
まとめ
サービタイゼーションは、製品もサービスの一種とみなして継続的に収益を得るビジネスモデルです。消費者の消費傾向が変化したことで、製造業にもサービタイゼーションが求められるようになりました。
サービタイゼーションには、サブスクリプションサービスや遠隔監視、アフターサービスなどがあり、取り組みによって競合他社との差別化も実現します。また、顧客満足度の向上にもつながるため、顧客をファン化し利益の拡大も実現できます。
モノと情報が溢れる時代において、製造業で企業が生き残るにはサービタイゼーションへの取り組みが不可欠です。今後も企業として継続的な成長と発展を実現するため、正しい方法で取り組みを始めてみましょう。