近年、個人情報保護の観点からCookieの規制強化が進められ、「ファーストパーティデータ(1st Party Data)」という言葉を耳にする機会が増えました。本記事では、ファーストパーティデータの概要をはじめ、その他のデータとの違いや重要性、収集方法、注意点などについて解説します。
ファーストパーティデータとは
ファーストパーティデータとは、第三者を介さずに自社で取得した顧客データを指します。自社のWebサイトが発行したCookie(ファーストパーティCookie)やECサイト、アプリから取得した顧客の氏名や住所、メールアドレス、電話番号などの個人情報や顧客の行動履歴、SNSでの顧客とのやり取りなどが該当します。
ファーストパーティデータが重要視されている理由
ファーストパーティデータは、自社で収集・管理していることから、プライバシーリスクが低く、費用をかけずとも信頼性の高いデータという特長があり、以前からマーケティングやビジネス戦略を練る際に注目されていました。さらに近年、サードパーティCookieを規制する動きが世界的に進められていることから、今まで以上にファーストパーティデータの重要性が増しています。
サードパーティCookieが規制されているから
近年、個人情報保護の観点から、サードパーティCookieを規制する働きが強まっており、AppleのSafariやMozillaのFirefoxでは、すでにデフォルトで全面的にブロックされ、GoogleのChromeも数年以内に段階的な廃止を予告しています。
そもそも「Cookie(クッキー)」とは、Webサイトを閲覧したユーザーの情報を一時保存する仕組みのことで、Webサイトの利便性を向上する目的で開発されました。たとえば、ユーザーが一度ログインしたECサイトから離脱し、再度訪れたときにスムーズにログインができたり、買い物かごに商品が入ったままになっていたりするのは、Cookieのおかげです。
Cookieは、主に2種類あり、訪問したWebサイトのドメインから発行されるCookieを「ファーストパーティCookie」、閲覧したWebサイトの広告配信サーバーから発行されるCookieを「サードパーティCookie」と呼びます。
前述したWebサイトに再度訪問した際にスムーズにログインできるのはファーストパーティCookieによるものです。一方、サードパーティCookieは、ユーザーの興味や関心度の高い広告を訴求できるリターゲティング広告やアトリビューション分析などで使える点がメリットですが、個人の閲覧情報を収集しすぎてしまうことが以前より問題視されていました。
そのため、ユーザーのプライバシー保護の観点からサードパーティCookieの規制がどんどん強化され、それに伴い、自社で取得するファーストパーティデータの重要性が増しています。
費用がかかりにくいから
ファーストパーティデータは、自社で収集するデータです。自社で導入したツールや構築したシステムなどを用いて収集したデータであるため、顧客データを他社から購入するよりも基本的にコストを抑えられます。
また、データは鮮度が命ゆえに次々と最新のデータを他社から購入しようものなら、多大な維持費が必要です。しかし、自社で顧客データを収集・蓄積できる仕組みさえ構築しておけば、最新情報の収集も低コストで行えます。
さらに、ファーストパーティデータは、コンプライアンス違反を犯すリスクが低いのもメリットです。自社で収集したデータゆえに信頼性が高く、意図せず他人のプライバシーを侵害してしまうようなリスクを軽減できます。近年は、企業に向けられる目がより厳しくなっているため、コンプライアンス違反が組織を窮地に立たせるリスクも少なからずありますが、ファーストパーティデータならその心配がありません。
情報の質が高いから
ファーストパーティデータは、自社で収集したデータゆえに情報の出どころが確かです。どこの誰から、いつ入手したのかが明確なため、質の高いデータといえます。
また、自社WebサイトやECサイトへアクセスしてくれた自社商品やサービスに興味をもっているユーザーや、アンケート調査で回答してくれた顧客など、自社と直接的なかかわりがある人から取得したデータのため、ビジネスに活用しやすく、成果につながりやすいのもメリットです。
その他のデータとの違い
企業のマーケティングに活用できるデータは、ファーストパーティデータだけではありません。ほかのデータとの違いをきちんと把握しておきましょう。
ゼロパーティデータとの違い
ゼロパーティデータとは、情報を求める企業に対して顧客が意図的かつ積極的に提供したデータのことです。ファーストパーティデータのように、自社が収集するのではなく、顧客が望んで企業と共有して得られるデータを指します。
ゼロパーティデータの主な取得方法は、アンケートをはじめ、プレゼントや懸賞に応募してもらう、イベントやキャンペーンなどに参加してもらう、ホワイトペーパーや資料をWebサイトからダウンロードしてもらうなどです。
ファーストパーティデータがWebサイトの利用履歴や個人情報などの基本的なデータであるのに比べ、ゼロパーティデータはユーザー自らの意思でさまざまな情報を提供してもらえ、なおかつその情報の信頼性や正確性が非常に高いのが特徴です。
セカンドパーティデータとの違い
セカンドパーティデータとは、他社のWebサイトのアクセス履歴や会員登録データ、ソーシャルデータなどを指します。つまり、他社のファーストパーティデータのことです。
セカンドパーティは、一般的に特定の他社から購入したり、共有したりすることで取得します。自社で取得したファーストパーティデータと違い、セカンドパーティデータには自社で獲得できなかった顧客情報も含まれます。そのため、セカンドパーティデータでアプローチする顧客の数を増やし、ビジネスチャンスを広げることが可能です。
ただし、セカンドパーティデータは他社が取得した情報であるため、入手するのにコストが必要です。しかも、ファーストパーティデータよりも情報の信頼性や正確性が低く、活用方法に制限がかかることもあります。
サードパーティデータとの違い
サードパーティデータとは、ゼロパーティデータ、セカンドパーティデータ、そして自社でも収集できない、第三者が集めて提供している情報のことです。つまり、ユーザーと直接的な関係をもたない企業が収集しているデータを指します。たとえば、データの収集をなりわいとするリサーチ会社が提供している情報、国や自治体などが公表しているデータなどが該当します。
ファーストパーティデータの収集方法
ファーストパーティデータの収集や活用に取り組みたいと考えているのなら、どのようなデータの収集方法があるのかを把握しておきましょう。代表的な方法は、トラッキングピクセルの配置とCRM・DMP・CDPそれぞれの活用の4つです。
トラッキングピクセルの配置
トラッキングピクセルとは、1×1ピクセルとほとんど目に見えない、小さな画像のことです。データ収集を目的としてWebサイト、ECサイト、InstagramやTwitterなどのSNSのプロフィール、メールなどに埋め込まれ、ユーザーがアクションを起こす頻度に関するデータを取得できます。
CRMの活用
CRMとは、「Customer Relationship Management(カスタマーリレーションシップマネジメント)」の略で、日本語では「顧客関係管理」と訳されます。顧客と良好な関係を構築、維持するための取り組み、もしくはそのために用いるプラットフォームやシステムのことです。メールや電話、SNS、Webサイト、チャットなどで行われる顧客とのやり取りを通じてデータを収集・蓄積します。
また、CRMツールには、顧客の氏名や住所、年齢などの顧客情報を管理するデータベース機能や、顧客にメールを配信する機能、蓄積したデータの分析、可視化を行える機能などが実装しています。
つまり、CRMで顧客情報を一元管理すれば、誕生日が近い顧客にお祝いメールやクーポンを送る、休眠顧客にメッセージを送って来店を促す、といった顧客とのコミュニケーションが取れます。
ファーストパーティデータの収集と管理だけでなく、顧客との良好な関係構築にも取り組みたいと考えているのなら、SAPの「カスタマーデータソリューション」を検討してみましょう。クラウドサービスゆえに導入が容易であり、すべての顧客データを統合して管理ができます。さらにファーストパーティやセカンドパーティなどのデータも統合できるほか、顧客インサイトへもリアルタイムにアクセス可能です。
DMPの活用
DMPとは、「Data Management Platform(データマネジメントプラットフォーム)」の略で、インターネット上のデータを一元管理できるプラットフォームです。主にCookie、デバイスID、IPアドレスなどの多数のソースから匿名データを収集・管理します。管理されたデータは分類され、キャンペーン時などに最適なユーザーセグメントにメールを配信するといったマーケティングで使用されます。
DMPは第三者が提供するデータを収集・管理する「オープンDMP」と、外部データも含めて自社のデータも収集・管理する「プライベートDMP」の2種類があります。
先ほど紹介したCRMで顧客情報を運用するためには、顧客の氏名や住所、メールアドレスなど、個人を特定する情報が必要ですが、DMPはサードパーティCookieを使うことで、顧客のWebサイト以外の行動が把握でき、広告配信によって潜在顧客層に対してアプローチが可能です。そのため、サイト訪問前からリード獲得、ロイヤルカスタマーまで、顧客の変容を一気に管理できます。しかし、今後サードパーティCookieの規制が進むと、オープンDMPを活用したターゲティングができなくなる可能性があるため、注意が必要です。
CDPの活用
CDPとは、「Customer Data Platform(カスタマーデータプラットフォーム)」の略で、ファーストパーティデータの収集や管理を行えるツールです。外部ツールやアプリと連携すればサードパーティデータの管理もでき、顧客の氏名や住所といった基本情報、店舗への来店履歴、Webサイトでの購買履歴、自社サイト内の行動データなどの顧客データを一元管理できます。
CDPの導入を検討しているのなら、「SAP Customer Data Platform」を検討してみましょう。SAP社がリリースしたCDPツールは、組織内に散在しているあらゆるデータを収集、一元管理できます。
ファーストパーティデータの活用方法
ファーストパーティデータは、収集するだけでは意味がありません。収集したデータをビジネスに活用し、成果につなげてこそ意味があります。データの活用方法としては、既存サービスの改善や顧客ニーズの理解度を高める、広告運用の最適化などが挙げられます。
既存サービスの改善
収集したファーストパーティデータを分析することで、今まで見えてこなかったものが見えてくるかもしれません。顧客が真に何を求めているのか、どうすれば喜んでもらえるのか、といったことが浮き彫りになり、既存サービスの改善につながります。既存サービスを改善できれば、売り上げや利益の拡大が期待できます。
顧客ニーズの理解度向上
収集したデータを分析すれば、顧客のことをより深く理解できます。自社の商品やサービスをもっとも気に入ってくれているのはどの層なのか、どういった製品が求められているのか、といったことが明確になれば、今後のマーケティングにいかせます。
顧客が何を求めているのか理解していない状態で、商品やサービスをリリースしてもいたずらにコストが増大するのみです。むしろ、顧客のことをまったく理解してくれない企業、とのレッテルを貼られてしまうかもしれません。取得したファーストパーティデータを活用し、顧客のことをより深く理解できるようになれば、このようなリスクも回避できます。
広告運用の最適化
広告を打ち出すためには、商品やサービスのメインターゲットとなる層を明確にしなくてはなりません。ファーストパーティデータを活用すれば、顧客の属性が浮かび上がり、それに合わせた広告運用ができます。たとえば、ファーストパーティデータを分析した結果、20代前半の女性がもっとも購入していると分かったら、Instagramなど若い世代が利用するSNSを使った広告を打ち出す、といった判断ができます。このようにファーストパーティデータを分析し、広告に用いることで、コストを抑えながら効率的な広告運用が可能になります。
ファーストパーティデータ活用の注意点
ファーストパーティデータを活用すれば、顧客のニーズをより正確に把握でき、売り上げや利益の拡大につながります。ただし、ファーストパーティデータを活用するには、専門的な人材が必要である、データ収集をしにくい可能性がある、などいくつか注意しておきたい点があります。
専門的な人材が必要である
データはただ収集するだけでなく、分析してこそ活用が可能です。ただ、膨大なデータを分析するとなると、専門的な知識や技術を有する人材が欠かせません。
自社にデータ活用を得意とする人材がいないのであれば、外部から採用する、または人材を扱う企業から専門人材を派遣してもらうなど、対策を講じる必要があります。社内の人材を育成するのもひとつの手ではあるものの、時間とコストがかかることを理解しておきましょう。
データを収集しにくい可能性がある
ファーストパーティデータは、自社のみで収集するデータであるため、運営している自社WebサイトやECサイトのアクセスが少ない場合、十分な量のデータが集まらない可能性があります。
収集できるデータが少ないとなれば、分析の精度が低下するおそれがあります。データがうまく集まらないのなら、まずはSEOをはじめとした施策でアクセス数を増やす努力をするなどしてみましょう。
より効果的な活用のために一元管理を行う
社内にさまざまなデータが散在していると、必要なときスムーズに取得できません。必要なデータがどこで管理されているのか分からない、すぐに抽出できないとなれば、意思決定のスピードも低下してビジネスチャンスを逃すおそれもあります。
このような事態を回避するため、データの一元管理が必要不可欠です。あらゆるデータを一元管理すれば、顧客のフェーズに応じた適切なアプローチを行うのにも役立ちます。
社内にデータが散在している状態なら、データを一元管理できるツールやソリューションシステムを導入する、データの管理や運用に関するルールを定めるなど、そこから改善してみましょう。
まとめ
ファーストパーティデータとは、自社で収集する顧客データのことであり、低コストで質の高い情報を得られるところがメリットです。近い将来、サードパーティCookieが廃止されることは決定事項のため、今後、さらにファーストパーティデータの重要性が増すと考えられます。
そのため、企業ではファーストパーティデータを使った運用や活用の戦略を練り上げ、運用に必要な人材やツールを確保するなど、十分な準備をしてから、自社のビジネスにファーストパーティデータを役立てましょう。