顧客体験(CX)

デジタル戦略とは?戦略の3段階とそれぞれの進め方のポイント

ビジネスを推進するためにデジタルの活用が不可欠である時代において、企業は従来のIT戦略だけでなく、デジタル戦略を立案し実行していくことが求められています。なぜデジタル戦略が重要なのでしょうか。また、企業はどのようにデジタル戦略を立案・実行していけばよいのでしょうか?この記事では、デジタル戦略の基本や時代背景、デジタル戦略の3つの段階などについて詳しく解説します。

1.デジタル戦略とは

はじめに、デジタル戦略の定義を解説します。

デジタル戦略とは、組織や企業がデジタル技術やツールを活用して、ビジネス目標や組織の目的を達成するための計画やアプローチのことです。

デジタル化を実現するためには、単にAIやRPAなどのデジタルツールを導入するだけでは不十分です。企業としてデジタル戦略を策定したうえで、戦略に基づき投資や技術ノウハウを獲得し、デジタルを活用したビジネスポートフォリオを実現していくことが求められます。

2.デジタル戦略の重要性

この章では、なぜ今デジタル戦略の重要性が叫ばれているのか、その背景を紹介します。

急速な技術進化

AI、IoT、クラウドなどをはじめとしたデジタル関連技術は急速に進化・普及しています。デジタルの活用有無が企業の競争力に直結する時代となっており、技術の進歩に合わせて、ビジネスモデルやサービスの提供方法など、ビジネスの根幹のあり方を見直す必要があります。

求められるCXの変化

技術の進化に伴い、顧客が求める体験も変化しています。より簡単に、より快適に、より便利にサービスや製品を利用できるように、ユーザー体験の向上が求められています。

優れた体験を提供できない企業からは一瞬で顧客が離れてしまう状況にあり、CX向上という観点からも企業にはデジタル戦略が必要です。

別業界からの新規参入

テクノロジー企業やスタートアップが、従来にないビジネスモデルや技術をもとにした新しい価値提供をもって既存市場に参入するケースも増えています。ビックテックによる書籍・音楽・動画などの市場変化はその一例といえます。

デジタル技術の活用により、このような環境変化にも対応していく必要があるでしょう。

ビジネスモデルの変化

サブスクリプションやシェアリングエコノミーなど、従来と異なるモデルが顧客に評価されるようになっています。顧客ニーズの変化にあわせて、企業も柔軟に変化する必要があります。ビジネスモデルの変化に対応していくためにも、デジタル戦略が重要です。

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3.デジタル戦略の目的

デジタル戦略の目的として、大きくは「新規ビジネスへの拡大」と「既存ビジネスの改善」という2つの要素が存在します。また、これらを実現していく上では、全社的なデータ活用基盤が求められます。ここでは、これらの計3つの要素について解説します。

新市場・新ビジネスモデルの創出

デジタル戦略における目的の一つは、デジタル技術を活用して新しいビジネスを探索・開拓していくことです。既存参入市場のシェア・人的スキル・設備などの既存の自社ビジネス資源をもとに、デジタルの活用も加味してどの市場を狙っていくかを検討し、その市場において価値を提供するためにはどのようなデジタル活用が必要か立案します。

既存ビジネスの改善

もう一つは、既存ビジネスの改善というアプローチです。デジタル技術を活用することで、既存ビジネスにおける顧客体験の向上や顧客ニーズに寄り添ったサービス・商品の提供、顧客とのコミュニケーションやエンゲージメントの強化などを実現することができます。

また、コスト削減や業務効率化という観点でもデジタル技術の活用が有効です。自動化、クラウド化、AIの導入などで業務プロセス効率化やコスト削減を実現し、業務のスピードや精度を向上させます。

データ活用基盤の構築

デジタル戦略の重要な要素として外せないのがデータ活用基盤の構築です。デジタル技術の活用とは、データの活用と言い換えても良いくらいに、データはデジタル戦略を実行していく上で不可欠な要素です。データ活用は新ビジネス・既存ビジネス共通で必要な観点でもあります。

社内外に存在するデータの収集や蓄積、データ分析ツールの導入や利用促進な、さらにはそれらの下支えとなるデータガバナンスの推進まで、データ活用基盤の構築をデジタル戦略として定め、実行していくことは重要な要素となります。

4.デジタル戦略とIT戦略の違い

これまでIT戦略を立案し、自社のIT戦略に沿ってIT投資を進めてきた企業にとって、デジタル戦略はIT戦略と何が違うのか疑問に思うかもしれません。どこまでデジタル戦略とし、どこからIT戦略とするかに明確な定義はないものの、両者を別々のものとして扱うケースは多いといえます。

よくある区別は、IT戦略では「ラン・ザ・ビジネス」の範囲をサポートし、デジタル戦略では「バリューアップ」を対象とするものです。ビジネスを動かしていくためには、IT基盤として基幹系システムの運用保守やPC・電話環境の整備、セキュリティ対応、ITガバナンスなど、さまざまな取り組みが必要です。IT戦略ではこれらの長期的な方向性を定義します。

一方で、デジタル戦略ではデジタル技術の活用や新規ビジネス実現に向けたPoC推進、デジタル人材の育成など、企業の競争力強化やビジネスの多角化などを推進するための長期的な施策を定義します。

5.デジタル戦略の3つの段階とは

マインド面やケイパビリティ面での変革が必要である自社のデジタル化は、長期的なロードマップを定めたうえで段階的に取り組むべきです。各企業の現状により定めるべきロードマップはさまざまですが、ここでは一例として自社のデジタル化における3段階の取り組みについてご紹介します。

単一業務の変革

これまでデジタル化が進んでいなかった企業においては、まず成功事例を作ることを最初の目標とします。たとえば「属人的に行なっていた店舗の売上データの集計を定時に自動集計・ダッシュボード化し、経営層に自動送信する」など、取り組みやすい既存業務を対象にして業務プロセスをデジタル化し、業務の効率性や質、顧客体験を向上させます。

取り組む際のポイント

昨今は、特定の業務領域をデジタル化するSaaSなどのツールが多数登場しています。このような取り組みを行う際には、自社業務にマッチするソリューションを選び「ソリューションの仕様に業務を合わせる」ことがポイントとなります。システムを自社業務へ過剰にフィットさせることは、長期的な保守コスト増やシステムのブラックボックス化など、デメリットが大きいものとなります。

複数業務間の変革

次のステップとして、複数の部門をまたぐ横断的な業務プロセスの最適化、もしくは連携の強化をターゲットとします。たとえば、ERP導入による一連の業務プロセスのデジタル化は有効な選択肢となります。これにより、複数の業務間および部門間におけるデータの一貫性・整合性を確保することができ、また自社データの一元化により業務のスピードと質の向上も実現できます。

取り組む際のポイント

ERPの導入は複数業務における変革を進めるためのキーとなります。ERP製品の選定や導入においては、以下の観点を意識することが重要です。

・ERPに一元的に蓄積されたデータの活用推進も視野に入れる
・ERPの業務プロセスに自社の業務を合わせ、標準化・効率化を進める
・ERPによりデータのリアルタイム性が向上する。経営報告の見直しなど、業務改善も併せて検討する。
・クラウド活用など、スケーラビリティの向上を意識する
・内部統制、コンプライアンス対応などを合わせて進める
・機密性の高いデータを扱うERPでは、セキュリティ面の強化も重要となる。

なお、業務プロセスの標準化について、日本の場合は独自のプロセスや商習慣からパッケージに業務を合わせることが困難なケースもあります。そのような場合は、統合型のERPではなく「ポストモダンERP」の概念にも注目してみると良いでしょう。

EndToEndプロセスの変革(業務プロセスと顧客プロセスの融合)

最終的には、顧客接点から最終的な製品・サービスの提供、アフターサービスに至るまでの一連のプロセスをデジタル技術で最適化・効率化することを目標とします。一連のプロセスのデジタル化にはさまざまなアプローチがありますが、ここでは代表的な例として「業務プロセスと顧客の購買意思決定プロセス(顧客プロセス)の融合」を紹介します。

一般的に、消費者は問題認識、情報探索、代替品の評価などさまざまなプロセスを経て購買意思を決定することが知られています。この各顧客プロセスにおいて、デジタル技術を活用した適切なアプローチを行うことで、顧客への手厚いサポートを実現します。たとえば、CRMの顧客データとERPの購入履歴をもとに顧客の嗜好を分析し、顧客ごとに適したキャンペーンやコンテンツ提供を行う取り組みはその一例です。

このように各顧客プロセスにおいてデジタルを活用したアプローチを行うことで、顧客満足度の向上や業務の効率化、新しいビジネスモデルの創出などを実現します。

取り組む際のポイント

業務プロセスと顧客プロセスを融合していくためには、フロントオフィスとバックオフィスにおける「プロセス」「データ」「システム」のシームレスな連携が必要です。たとえば、CRMとERPの連携は代表的な例です。

一方で、従来のシステムではCRMとERPの連携を実現するためには中間データベースの構築や複雑なI/Fなどの開発、継続的なメンテナンスなど多大な労力が必要となるケースが多かったといえます。

このような中、近年ではEndToEndプロセスの融合を目指すソリューションも登場しつつあり、EndToEndプロセスの改革に取り組みやすい環境が用意されつつあります。

6.SAPが提唱する「OneOffice」とは

最後に、SAPが提唱する「OneOffice」の概念を紹介します。

2023年、SAPでは新しいビジョンとしてフロントオフィスとバックオフィスにおけるプロセス、データ、システムをシームレスに連携させ、企業全体のビジネスプロセスの最適化の支援を目指す「OneOffice」というコンセプトを発表しました。

このコンセプトを実行することで、顧客とのタッチポイントを提供するフロントシステムと経営を可視化させるバックエンドシステムとがシームレスにつながり、企業全体で業務プロセスやシステムコストを最適化し、新製品やサービスの市場への投入スピードの向上、TCOの削減を実現します。

SAPでは、フロントオフィス向けのSAP Customer Experienceソリューションとバックオフィス向けのSAPS/4HANA、SAP Business Technology Platformなどのソリューション間において、1000以上の標準連携シナリオを提供しています。これにより、フロントオフィスとバックオフィス間において、マスタの連携やデータ、プロセスの連携を簡単に実装することができます。

SAPが提供する標準シナリオを活用することにより以下のような効果を生み出すことも確認されています。

  • ビジネスプロセス間のエラーを63%削減
  • プロジェクト完了までの期間を31%短縮
  • 開発チームの生産性を19%工場

※参考:The Business Value of SAP Business Technology Platform

このようにSAP製品に用意された連携シナリオを活用することで、OneOfficeのコンセプトを実現することができるのです。

まとめ

この記事でご紹介した通り、デジタル戦略においては「単一業務の変革」「複数業務間の変革」「EndToEndプロセスの変革」という3ステップでの取り組みを進めていくことが有効です。EndToEndプロセスの変革を実現するためには、フロントオフィスとバックオフィスの連携が重要ですが、SAPのソリューション活用により、両者の連携を効率的に実現することができます。今後、企業のデジタル戦略を進めていく上で「OneOffice」というコンセプトは有効な武器となるでしょう。

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