現代ビジネス、とりわけWebサービス界隈においてはほとんどの企業がフリーミアムでサービスを展開しています。特にまだ体力のないスタートアップや中小企業では、フリーミアムでユーザー母数を大きくしてマネタイズするのが一般的です。
そんなフリーミアムも“無料でいくつかの(またはほぼ全ての)機能を提供する”という性質上、有料サービスへとユーザーを引き上げるための動線設計が何よりも重要となります。
しかしそれがなかなか上手くいかないのも事実。数多くのフリーミアム成功事例の陰には、その何倍もの失敗事例が隠れています。
ではフリーミアムを成功させるためにはどうすればいいのか?
今回は、Webサービスを提供するスタートアップや中小企業が避けては通れないフリーミアムについて、様々なビジネスモデルをもとに運用のコツを学んでいきましょう。
フリーミアムとは
フリーミアムについて簡単におさらいしておくと、“サービスにおける基本的な機能を無料で提供し、一部の有料サービスユーザーからマネタイズするビジネスモデル”です。「Free(無料)」と「Premium(割増金)」を掛け合わせた造語でもありますね。
フリーミアムには複数の収益モデルがあり、以下の6タイプに分類されます。
- 機能追加型
課金することで新たな機能を追加できるタイプ。 - 限定機能型
課金することで限定機能が解除されるタイプ。 - 容量追加型
課金することで容量を追加できるタイプ。 - 会員限定型
課金することで限定コンテンツが解除されるタイプ。 - 会員特典型
課金することでクーポンなどを受け取れるタイプ。 - 都度課金型
必要に応じて都度課金するタイプ
一般的なWebサービスでは大体が1~4の収益モデルを採用すると思います。それぞれのタイプによって打ち出すべき施策が変わってくるので、まずは自社が提供するフリーミアムについて熟知することが大切ですね。
Microsoftのビジネスモデルから“学ぶ”
以前ならライセンスを購入してPCへインストールすることで初めて利用できるMicrosoft Officeも、今やOffice 365の登場により一部の機能を無料で利用することができます。(モバイル版なら全機能利用可能)
そんなMicrosoftがフリーミアム戦略に力を入れ始めたのは、2014年2月にサティア・ナデラが歴代3人目となるCEOに就任してからです。
Microsoftがフリーミアム戦略へシフトしているワケ
Microsoftが着目したのはGoogleやAppleが提供しているエコシステム(※1)であり、同社はWindows・Microsoft Office・InternetExplorerといった大きな製品を提供しているにも関わらず連携性が乏しいという点に課題を持っていました。製品同士の連携は様々な相応効果をもたらし、ユーザーに新たな体験を提供することができます。
そこで大切なのは、あれもこれもと宣伝するのではなく特定の商品に集中しユーザーの間口を広げていくことです。Appleでは様々なサービスを提供しているにも関わらず、iPhoneとiPadの宣伝活動に注力しています。しかし搭載されているiOSにはiTunesストア・iCloud・Safariといったサービスが統合されているため、ユーザーはiPhoneやiPadを手にすることで自然と様々なサービスに触れることになります。
こうしてブランドを代表するサービスからエコシステムへとユーザーを引き込むことで、効率的なマーケティングが展開できるのです。
※1:エコシステムとは、もともとは科学用語で「生態系(生物をそれを取り巻く環境)」を指す言葉だが、マーケティングにおいては「連結されたシステム」という意味で使用されている。
Acquire(獲得)、Engage(関与)、Enlist(参加)、Monetize(収益化)の考え方
「フリーミアムを展開する上で、どんなコンセプトを持って展開すればいいか?」と悩んでいる企業では、Microsoftの考え方を参考にすることができます。
Acquire(獲得)
多くの機能を無料で提供することでユーザー母数を獲得する。Microsoftでは10.1インチ以下のデバイスにはOfficeソフトを完全無料で提供し、10.2インチ以上の生産的用途でOfficeを使うユーザーには全ての機能を使用するためにOffice365との契約を提供しています。
Engage(関与)
獲得したユーザーをより深く関与させる。どこまで無料機能を提供するか?というのを慎重に設計する必要があります。
Enlist(参加)
関与から参加に繋げる。フォーラムを作成したりユーザーがベンダーに対し意見できる場を提供することで、積極的に参加させることができます。
Monetize(収益化)
参加したユーザーはニーズが高まる可能性があり、収益化する。積極的に参加しているユーザーに対し一押しすること、効率的に有料サービスへ引き上げることができ収益化が実現します。
フリーミアムのコンセプトをこれら4つのステージに分け、それぞれに打ち出すべき施策を考案すれば上手な動線引きが可能となります。
デパ地下の試食コーナーから“学ぶ”
デパ地下に限らずスーパーや商店街など、ほとんどの小売店で見かけることができるのが試食コーナーです。正確にはフリーミアムではなく“無料お試し”に分類されるマーケティングですが、学べることがいくつかあります。
+αを提供することが大切
デパ地下の試食コーナーにおいてスタッフが試食品を配布しているシーンを想像してみてください。あなたは試食をして「美味しい」と感じたので、購入してもいいかなと考えましたがスタッフが何だか無愛想です。どんなに美味しかったとしてもそんなスタッフから購入したくないというのが多くの方の意見だと思います。
これをWebサービスに置きかえるならば“ただWebサービスを提供している“状態です。どんなに優れた機能を備えているWebサービスでも、ただ提供しているならそのベンダーは選ばれません。
では、試食コーナーのスタッフが張りのある声と笑顔で気持ちの良い対応をしていたらどうでしょう?これなら多少なり「美味しい」と感じれば文句なしに購入すると思います。さらにスタッフが「○○にするのも美味しいですよ」と付加価値を付けてくれたらどうでしょうか?購入に至るだけでなく満足度も向上しますね。
これをWebサービスに置き換えるなら“Webサービス+付加価値を提供している状態”です。ユーザー視点に立ったサポートや、有料サービスを提供することで解決できる課題を詳細に解説するなど、付加価値を付けることでユーザーの背中を一押しすることができます。
フリーミアムを展開している企業では「ユーザーが有料サービスを使いたくなるの待ち」というスタンスが多くあります。しかしそういった企業では恐らく、収益を最大化できていないことでしょう、
課金することで「こんな機能が使えますよ」「こんなコンテンツが閲覧できるようになりますよ」だけでなく、有料サービスを利用することで得られるベネフィットをしっかりと訴求しましょう。
色々なフリーミアムから“学ぶ“
少し周りを見渡してみれば、世の中は無料で提供されいているものが数多く存在します。街角で配布されているフリーペーパーやチラシ、立ち読み可能な書店なんかもフリーミアムの一つと言えますね。Amazonで販売されている書籍も最初の数ページを読むことができるので、広義ではフリーミアムです。
このように、少し視野を広げるだけで多くのフリーミアムを目にすることができるのです。そして前述したデパ地下の例のように、何かしらの教訓を得ることができます。もしも現在フリーミアムの成果がなかなか上がらずに悩んでいるのなら、周囲のフリーミアムに着目してみてください。そこから多くのことを学び現状の課題を把握することができれば、自然と次のアクションが見えてくるはずです。
まとめ
今回の要点をまとめます。
- フリーミアムはエコシステムの間口とすることで収益を最大化できる
- Acquire(獲得)、Engage(関与)、Enlist(参加)、Monetize(収益化)4つのステージで施策を打ち出す
- ユーザーのニーズを待つのではなく、+αを提供することで有料サービスへと引き上げる
- フリーミアム運用に迷ったときは身近なものに着目し、現状の課題を把握する
いかがでしょうか?現在多くの企業が提供しているフリーミアムですが、必ずしも全ての企業が成功しているわけではありません。成果が上がらず別のマーケティングにシフトしたことで成功した企業もいるくらいです。
単純にユーザー母数を集めれば収益を最大化できるわけではないのですね。また、有料サービスを使用してくれるかどうかはユーザー次第という一か八か的な施策でもありません。
成功するカギは各ステージごとにユーザーをセグメントし、それぞれに最適な動線設計を行うことです。ユーザーに選択させるのではなくこちから誘導することでフリーミアムは初めて成功します。
皆さんが提供するフリーミアムはいかがですか?もしかして、有料サービスのユーザー数に伸び悩んではいませんか?そんなときは今回紹介した内容をもとに動線設計を見直してみてください。また、多くのフリーミアムのビジネスモデルから学ぶことも大切です。
是非フリーミアムを正しく運用して収益を最大化させてください。