訪日外国人の旅行が規制されたことで、これまでインバウンド消費に頼っていた企業は大きな打撃を受けました。外国人向けの商品を提供している企業は、国内向けの商品に転換するか、海外で販売できる仕組みを構築するかが今後のポイントとなってくるでしょう。そこで越境ECであれば、インターネット上で日本製品を求めている外国人に販売することができるようになります。
本記事では、ECサイトのグローバル展開を目指している企業の皆様へ向けて、越境ECの概要やメリット、始め方などについて解説していきます。
世界で注目を集める「越境EC」とは?
越境ECとは、国境を越えて海外のお客様を対象に商品の販売を行うネットショップです。越境ECの市場規模は拡大の一途をたどっており、新たなビジネスチャンスを切り開こうと参入する国内企業が増えています。ここでは越境ECの概要について確認していきます。
越境ECの市場規模
越境ECの市場規模が拡大を続けている実態は、経済産業省が発表したレポートによると、越境ECの市場規模は2020年が9,123億 US(約99兆円)、2026年には4兆8,561億USドル(約530兆円)を超える規模になると予測されています。
引用:令和元年度内外一体の経済成長戦略構築にかかる国際経済調査事業|経済産業省
この数字からもわかるように、越境ECの市場規模は今後ますます拡大すると予想されています。成長率が高く将来性が期待できるため、今後多くの日本企業が越境ECの構築、運営に乗り出し、国内の越境ECの市場規模も拡大していくでしょう。
越境ECが注目を集める理由
越境ECが注目されている理由としては、スマートフォンの普及による市場拡大が挙げられます。かつて、インターネットでの検索やネットショッピングは、パソコンが主流でした。しかし、近年はスマートフォンが普及し、誰もが手軽にネットショッピングを楽しめる環境が世界的に整備されました。これは世界的な販売チャネルが著しく増加したことを示しています。
また、外国人リピーターが増加したことも、越境ECの市場規模が拡大している理由のひとつです。中国の方による「爆買い」からもわかるように、日本製品は信頼性が高く海外で高い人気を誇っていましたが、多くの外国人、特に物理的距離がある欧米の外国人には購入機会がありませんでした。近年になって日本に行きたくても行けない層が越境ECを利用してショッピングを楽しむケースが増えています。これらの理由からリピーターが増加しています。
さらに、動画投稿サイトで日本製品を紹介するコンテンツなども増えており、日本の文化や商品に触れる機会が増えた外国人の購買層が増加したことによる市場規模の拡大も影響しています。今後ますますこのような動きは加速化すると考えられ、越境ECに注目が集まっています。
越境ECサイトの運営方法
越境ECの運営方法は3つの種類に分けられます。それぞれ運営目的やサイト構造が異なるため、どの方法が自社で実現したいゴールにあっているのかを確認しましょう。
- 自社で運営する
- 海外の通販サイトに出店する
- 代行販売型を利用する
1.自社で運営する
デザインや機能を独自にカスタマイズしてブランド力を強化した越境ECを作るのであれば、自社で運営するのが最も自由度が高いです。国内向けのECサイトと制作方法はほぼ同じですが、ターゲットとする国や地域を決め、言語や決済システムなどを現地の一般的なシステムにあわせて作りこんでいきます。
越境ECをつくるためには、まずECサイトがどのような構成や仕組みでできているのかを知っておく必要があるでしょう。ECサイトのビジネスモデルや業務内容については「【2022年】ECサイトとは?制作方法や必要な5つの機能を解説」でも詳しく解説しています。参考にしてください。
2.海外の通販サイトに出店する
越境ECを運営する最も簡単な方法は、メジャーな海外通販サイトに出店する方法です。Amazonや中国のTmall Global(天猫国際)などが越境ECのできるメジャーな海外通販サイトです。
3.代行販売型を利用する
代行販売型では、運営を完全に社外の業者へ委託し、商品を買い取ってもらう方法です。業態としては卸売りに近いです。サイト制作や出品による社内コストが削減できますが、顧客情報を獲得できないことがデメリットになります。
越境ECを構築するメリット
越境ECに挑戦することで販路拡大を狙う企業が多いですが、実際にどのようなメリットがあるか理解できなければ、検討できないでしょう。ここでは越境ECを構築するメリットを3つ紹介します。
- ビジネス商圏の拡大
- 実店舗より出店が容易
- 日本製品の魅力が活かせる
1.ビジネス商圏の拡大
越境ECを構築するメリットとして商圏の拡大が挙げられます。日本国内だけではなく、海外のさまざまな国々を商圏として設定でき、ビジネスチャンスが拡大します。例えば、中国市場に参入すれば14億人にリーチできる計算です。実際はスマホを持っていない人や、ECでの買い物をしない人もいますが、日本よりも消費が活発な市場へ参入できるのは大きなメリットです。より多くの人々に商品を販売でき、売上のベースアップが可能です。
これは日本の人口は減少の一途をたどっており、今後ますます人口が減少する可能性が示唆されている事実も影響しています。人口減少によって必然的に消費力も低下していくと予想されます。国内のみを商圏とするよりも、世界に商圏を広げて売上の拡大を目指していく取り組みに注目が集まるのは必然的と言えるでしょう。
2.実店舗より出店が容易
また、店舗運営コストが必要ないのも、大きなメリットです。海外で商品を販売する場合、現地に出店する方法もありますが、これは相当な費用が発生します。具体的には現地で店舗を用意するコストはもちろん、人員の確保や教育、運営費用が該当します。
ECサイトを利用した販売活動なら、実店舗を必要としません。店舗の設置や運営などにかかる費用が発生せず、コストを抑えた運営が可能です。もちろん、ECサイトの構築にもある程度の費用はかかりますが、実際に店舗を構えて運営するのに比べると初期費用や運用費用、そしてリスクを大幅に抑えられるでしょう。
3.日本製品の魅力が活かせる
ほかにも販売できる商品が増えるのも特徴です。海外では、意外な日本の商品が人気になるケースも少なくありません。そのため、日本国内ではあまり売れ行きがよくなかった商品も、海外向けなら売れる可能性があります。扱える商品が増えれば、より多くの人々をターゲットにできるため、トータルの売上や利益の拡大につながります。
越境ECを始める前のチェックポイント
越境ECは魅力的なビジネスですが、国内向けのECサイトと運営方法や注意点が異なります。越境ECを始める前に確認しておきたいチェックポイントを紹介します。
- 商品が越境ECに向いているか
- 商品のニーズがあるか
- 異なる文化に対応できるか
- 輸送コストを考慮できるか
1.商品が越境ECに向いているか
まずは自社商品が越境ECに向いているのかを検討する必要があります。例えば、化粧品やサプリメントなどに含まれるアロエなどはワシントン条約によって規制されている種類もあり、税関手続きで明確に規制対象外成分であると証明できない場合は輸出できません。また、アルコール濃度が24%以上の化粧品などは引火性液体として判断されるため、航空輸送が選択できません。扱う商品にどのような規制が取られている可能性があるかを確認する必要があります。
そして、越境取引では商品に対して関税が発生します。国によっては、関税法で輸入が禁止されているものもあります。例えば中国では出版物が、インドでは牛肉を含む食品が規制されています。
2.商品のニーズがあるか
国が違えば文化も違います。例えば中国の総人口は14億人で日本の約14倍の市場規模だと思って出店しても、文化の違いで商品のニーズがなくまったく売上にならないことも考えられます。現地の情報を収集し、商品のニーズがあるのかをリサーチしてから参入しましょう。
3.販売先の法律に対応できるか
販売先の国によって法律が異なるため、対象の販売先にあわせた対応が越境ECでは求められます。例えば中国では2019年1月に中華人民共和国電子商務法が施行されており、中国国内で登記を行っている会社が運営する通販サイトを利用することが要件のひとつになっています。ターゲットとする国でどのような手続きが必要なのかを事前に調査しましょう。
4.輸送コストを考慮できるか
商品を輸出する際は、空輸や関税手続きが必要なため、配送料や手数料が日本国内よりも高額になり、消費者の負担金額は大きくなってしまいがちです。商品金額より配送料が高くなってしまい、高い配送料を払ってまで欲しい商品ではないと思われてしまえば、購入されるのは難しいでしょう。輸送コストが商品価値に見合っているかを見極めることも肝心です。
越境ECの始め方
ここまでで、越境ECを始めるには事前の準備が重要だとお分かりいただけたでしょうか?ここからは、越境ECの初歩的な始め方をご紹介します。
1.商品の選定
越境ECを構築して海外向けに商品を販売するには、まず商品を決定する必要があります。その際は事前にきちんとリサーチを実施し、ニーズがあるかどうかを見極めてください。日本では人気がなくても海外では売れる可能性がある反面、日本で高い人気を誇る商品であっても、海外ではまったく売れない、需要がない場合も考えられます。リサーチを十分に行わずに商品を用意してしまうと、多数の在庫を抱えてしまうおそれがあります。
2.法律などの確認
扱う商品が決まったら現地の法律や規制を確認します。日本国内では合法であっても、他国では法律に抵触するケースもあるため、注意が必要です。こちらについてもリサーチを怠ってしまうと、大きなトラブルに巻き込まれてしまうおそれがあります。現地の法律や規制に詳しい専門家やJETROなどに協力してもらい、知識を身につけておきましょう。
3.出店方法の選定
次に出店方法を考えます。方法としては、海外サーバーを利用して自社ECを構築する、海外のECモールへの出店、国内サーバーを使ってサイトを構築、海外対応の国内ECモールの利用などが挙げられます。
海外サーバーを利用したサイト構築は難易度が高いものの、現地のショップと同じ土俵で勝負できる魅力があります。海外ECモールへの出店は、自社でサイトを構築する必要がなく、集客力を期待できるのがメリットです。手数料はECモールごとに異なるため、事前の確認が必須です。
国内サーバーを利用すれば、言語の壁などを気にすることなくサイトの構築が可能です。ただし、そこから海外向けのECサイトへカスタマイズするには、それなりの知識や技術を要します。
海外対応の国内ECモールへの出店は、言語の壁に苦労することなく、サポートも受けられます。集客力も期待できますが、手数料が高く設定されているケースが多いため注意が必要です。
「SAP Customer Experience」で海外向けECサイトを構築
SAP Customer Experienceは、SAP社が扱っているCRMサービスです。顧客情報の一元管理を実現できるソリューションサービスで、海外向けECサイトの構築も可能です。豊富なコマース機能を実装し、ECサイトのグローバル展開を望む企業に適しています。多言語や多通貨にも対応しているほか、越境EC構築に必要なあらゆる機能が備わっています。
大手電機メーカーやスポーツ用品メーカーなど、多種多様な業界の企業が、同社のサービスを利用してECサイトを構築しています。実績が豊富であるため、初めて導入する企業も安心できるでしょう。
まとめ
海外の国々を商圏にできる越境ECであれば、現地に店舗を展開しなくてよいため、低コストでグローバルビジネスを実現できます。世界を相手にビジネスを展開できるため、これまで以上の売上、利益の拡大も目指せるでしょう。
越境ECを始めるにあたっては、法律や規制の情報も含めて現地のリサーチをしっかりと行ったうえで商品を準備してください。また、出店方法もいくつかあり、それぞれに特徴があるので、理解したうえでどの方法を選ぶのかを判断しましょう。自社で越境ECを構築するのであれば、SAP Customer Experienceなどグローバル対応のツールの導入もおすすめです。