日本においてもマーケティングオートメーション(MA)ツールの普及が進んできました。しかしながら、それと同時に費用に見合った効果を得られていなかったり、想定以上に運用に手間がかかってしまっていると感じることも増えているのではないでしょうか?
そこで今回は、MAツールの運用で気をつけたいポイントをまとめてみたいと思います。
MAツール利用の目的をどう位置付けるか
BtoBにおいてもインターネットの活用が進展し、マーケティング活動はより複雑に、そしてリアルタイムな対応が求められるようになってきました。従来のイベントなどによるマーケティング活動であれば、決まったタイミングで活動が行われ、まとまった数のコンタクトが生成されてそれをまとめて処理するのが一般的だったでしょう。しかし、コンテンツマーケティングを中心としたデジタルマーケティングの進展により、潜在顧客は24時間365日、いつでも自社の製品やサービスに関心を寄せてきます。
そのため、これらのコンタクトに都度対応するのは現実的ではなくなります。それを自動的に対応するのがもともとのMAツールのコンセプトです。
MAで何を行うか
多岐にわたるマーケティング活動で収集されたコンタクト情報をもとに、自社の製品やサービスを必要とし、見込み客をいち早くスクリーニングして案件化してゆくためのプロセスを提供するのが一般的なMAツールです。
より効率的にこのプロセスを行うには、できるだけ多くの範囲でMAツールを活用するのが得策です。
コンタクト情報の取得
MAツールにはコンタクト情報を取得するためのフォームの機能があります。自社が管理するWebサイトにおいてMAツールのフォームを埋込み、コンタクト情報を収集することで直接MAツールに取り込むことができ、リアルタイムな認識や担当者への通知を行うことができます。
これに対し、イベントなどで収集したコンタクト情報をMAツールにインポートすることもできますが、タイミングが遅れてしまったり、必要なフィールドの情報が異なっていたりすることもあり、データの変換などのプロセスが必要になることもあります。
ナーチャリングメールの送信
コンタクト情報の属性値や特定のページを閲覧したなどの行動をもとに、フォローやナーチャリングのための情報提供などを自動化することができるのがMAツールの最大のメリットです。
収集されるコンタクトは様々なステージにいます。たとえば将来的な検討のための情報収集をしている人もいれば、予算を確保しすぐに製品選定をしようとしている人もいるでしょう。
このような、コンタクトのステージを判別し、それぞれのフェーズに合ったフォローを行うことが重要です。そのためには、一般的な顧客の検討から購買に至るジャーニーを理解していなければなりません。
MQLの生成
マーケティングの最大の役割は、顧客になる可能性の高い見込み客の情報を収集し、営業担当者に渡すことにあります。この見込み客をMQL(Marketing Qualified Lead)と呼びます。MQLには2通りの生成方法があります。
1つはもともと予算や導入時期が決まっており、すでに具体的な検討に入っている場合です。これはいわゆるBANT情報(予算、決済権、ニーズ、導入時期)を確認したり、問い合わせに誘導することなどで顕在化することができます。
もう一つがMAツールの活用によって得られるもので、情報収集などの検討の初期段階から継続的に情報提供を行い、検討段階を上げていく育成(ナーチャリング)を行った結果、MQLとして判定するケースです。
設計のポイント
このように、MAツールの活用には、何を期待するのか、そしてそのためにどのような機能を利用するのかを明確にしたら、実際に設計して運用を開始します。
MAを効果的に活用するための設計のポイントは以下の通りです。
- 対象となる顧客像(ペルソナ)を明確にする
- ペルソナの検討プロセスを明確にする
- MQLとする条件を明確にする
- 各プロセスに必要なコンテンツを明確にする
- コンテンツオファーのフローを作成する
個別のアクション単位ではなく、全体の流れとゴールを意識してこれらの要素を設計することが大切です。
標準化と個別化
設計ができたら、それに従って必要な要素を作成します。運用効率を上げるためには、それぞれの要素の標準化から始めます。同じ目的や利用場面においては共通の要素を使うように設計することで、運用自体の効率化やパフォーマンスのトラッキングが行いやすくなります。
ここで想定しているおもな設計要素は以下の通りです。
フォーム
資料ダウンロードや問い合わせなど、目的や場面によって取得する項目を決めます。取得する項目は最小限にすることで離脱率を抑えます。
ランディングページ
フォームの入力を促すページを準備します。どのような単位で資料のダウンロードを提供するのか、入力後のページ遷移や次のコンテンツの誘導をどこにするかなどを決定します。
リスト
入力されたコンタクト情報を活用するためのグループを作成します。通常はコンタクトの属性に応じて自動的に分類するリストを作成します。用途ごとに都度作成すると管理が難しくなる場合がありますので、作成ルールも決めます。
CTA(Call-To-Action)
Webサイト内の各ページにおもにランディングページへの誘導を行うバナーやリンクの配置を設計します。ランディングページに対応したCTAを設計し、デザインも含めて決定します。
メール
メールは用途によって複数用意します。主な用途は、資料ダウンロードなどの直後のサンキューメール、個別の案内などを行うショットメール、継続的な関係構築を行うナーチャリングメールなどです。用途に応じて、送信者やタイトル、文面などを決めておきます。
ワークフロー
ナーチャリングのプロセスは、MAツールのワークフロー機能を利用します。対象者や条件設定を組み合わせて設定します。いくつのワークフローを設定するのか、どのくらいの期間にわたって行うのか、MQL化や問い合わせの誘導をどのタイミングで行うかなどを設計します。
Webページ/ブログ
MAツールによってはWebページやブログ記事などの設計も行います。Webページへの流入は、自然検索や広告、メールマーケティングなどを組み合わせることが一般的ですが、中長期的には自然検索からの流入を増やすことで関心を持っている潜在顧客に無理なくアプローチすることができます。このコンセプトを「インバウンドマーケティング」と呼び、インバウンドマーケティングを実現するMAツールでは、流入強化のためのコンテンツ管理やCMSの機能も提供します。Web集客を強化することで、MAツールの活用を最大限にすることができます。
ネーミングルール
運用を進めると、各要素は数多くの実装を行います。そのため、管理やパフォーマンスの分析のためにはネーミングルールを決め、確実に徹底することが重要です。たとえばメールであれば、メール配信の目的や対象製品名などを先頭に入れ、個別の名前を付けるなどのルールを付けることによって適切な管理ができるようになります。
担当者の違いによって名前の付け方などがまちまちになってしまうと、なにがどこに使われているのか分からなくなり、不要なものが残ってしまったり、必要なものを消してしまうなどのことが発生してしまいます。
テンプレートの活用
運用の効率化と品質の確保のためにはテンプレートの活用も重要です。Webページやメールを毎回ゼロから作成していると非常に手間がかかるうえに、担当者によって体裁が変わってしまったり、あとの修正が難しくなってくるなどの弊害が出てきます。
MAツールで扱うコンテンツの品質を保ち、効果的に運用するためにはテンプレートの活用も検討する必要があります。
パフォーマンスレポートと改善プロセス
運用上最も大切なのが、パフォーマンスのモニタリングと継続的な改善です。
しかしながら、そのサイクルをうまくできている企業は意外と少ないのではないでしょうか?
ランディングページやCTA、メールなどのパフォーマンスは定期的にトラッキングし、必要に応じて変更していくことがMAツールの運用では非常に重要です。というのも、同じ製品やサービスにおいても、顧客のニーズや競合環境などは常に変化しているからです。そのため、Webサイトを訪問したり、メールを受信する潜在顧客の関心や意識も常に変化しているという前提で運用することが必要です。
そのためには、MAツールの選択とともに運用体制の確立が必要です。必要なWebページの保守やメールの配信も重要ですが、いかにそれらの活動がMQLの生成に貢献しているのかという視点でデータ分析を行い、継続して改善することでMAツールの効果を最大限に発揮することができるでしょう。
インバウンドマーケティングを含めたMAツールの運用
代表的なMAツールの一つであるHubSpotはインバウンドマーケティングを実践するための機能がすべて提供されています。そのため、運用の範囲もWebサイトへの流入を促すためのCMSの機能を提供します。サイトのSEOのためにはコンテンツが非常に重要ですが、その効果を最大化するために利用されるのがブログです。
ブログでの効果を最大化するためには、流入を獲得するためのSEOや、ページからのコンバージョンを増やすための各ページのパフォーマンス管理が必要になります。
ブログ記事でSEOを行うためのキーワード設計や記事の投稿、各ページでのクリック率などを確認しながらフローの最適化を常に行います。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
MAツールの活用は、導入ではなく運用がその価値を左右します。MQLの醸成や問い合わせの促進というマーケティングゴールを効率よく実現するためにMAツールの運用があるという視点を忘れずに活用することが成功のポイントです。
すでにMAツールを運用されている方も、これから導入を検討されている方も、ぜひそのような視点で運用について検討し、成果を上げていただければと思います。