今日では誰もがスマホを持ち歩き、どこでもインターネットに接続できるようになりました。デジタル社会が発達した今、オンラインとオフラインの境界をなくすOMO(Online Merges with Offline)という新たなビジネス手法が注目を集めています。そこで本記事では、OMOの取り組み方と成功のポイントを、国内外の活用事例を通して解説します。
OMOとは
OMOとは、ECサイトなどのICTサービスと実店舗の垣根をなくし、顧客の購買体験(UX)の向上を目指すマーケティング手法を意味します。元GoogleチャイナのCEOである李開復(リ・カイフ)氏が提唱した概念で、従来の「O2O」や「オムニチャネル」といった概念に加え、ICT活用における新たなコンセプトとして注目を集めています。OMOの具体例としては、フードデリバリーサービスや無人レジなどが挙げられるでしょう。
従来のビジネスにおいては、オンラインとオフラインの境界がしっかり引かれ、その区別の上に各種ビジネス施策が成り立っていました。しかし近年の社会、とりわけOMO概念の発祥地である中国では、誰もがスマホを持ち歩き、露天での買い物まで含めてスマホ決済が当たり前に普及しています。日本でもスマホで商品情報を確認しながら、実店舗で実際の商品を探すといった買い物風景は、もはや普通のことといえるのではないでしょうか。
つまり、現代のデジタル社会においては、「もはや完全なオフライン空間など存在しない」とみなしたうえでビジネスモデルを構築したほうが実情に適っている、という視点がOMOの根底にはあるのです。OMOに取り組むことで、企業はオンラインと実店舗の双方から顧客情報を収集し、よりパーソナライズされたマーケティングや、一貫した顧客体験を届けることが可能になります。
OMO導入のメリット
OMOの仕組みはtoC商材を扱う企業にとって今後無くてはならないものになってくることが予想されます。もちろん業態によって導入するシステムは違いますが、OMOによって得られる主なメリットは、顧客満足度の向上と購買促進といえるでしょう。
顧客満足度向上
オンラインで消費者が行動を起こすと、そのデータをもとに消費者の購買傾向を把握しやすいため、より効果的に商品開発やセールス活動が行えます。フードデリバリーサービスやキャッシュレス決済などの新しく便利な顧客体験によって、顧客満足度が向上します。
購買促進
OMOを導入することで、消費者はオンラインを利用して時間や場所を選ばず買い物できるため、機会損失を最小限に抑えられます。消費者側も待ち時間が少なく店舗でサービスが受けられる、オンラインで注文して店舗で受け取れば送料がかからないなど、オンラインとオフラインの融合ならではのメリットを得られます。
消費者がより快適な購買体験を得られるため、OMOの導入によって購買促進につながるのです。
課題解決のためのOMO導入については「消費財(CPG)メーカーの課題を解消するECサイトとOMOについて」でも詳しく解説しています。参考にしてください。
OMOの代表的な施策
OMOはモバイルオーダーを始めとしたオンラインとオフラインの垣根をなくし、顧客の購買体験の向上を目指すマーケティング手法を総称した用語です。そこで、OMOにはどのような施策があるのかを4つご紹介します。
- モバイルオーダー
- モバイルペイメント
- チャットボット
1.モバイルオーダー
回転寿司店などを中心に、席に常設されたタブレットから注文するシステムが先に流通しましたが、近年は自身のスマートフォンを注文端末にしてしまうモバイルオーダーが流行りだしています。来店前にスマートフォンから注文し、店舗で受け取る方法や、レジに並ばず注文・決済ができる方法とその使い方も多様化しています。顧客は注文から受け取りまでにかかっていた無駄な時間を削減でき、企業は顧客が持つ個人IDと来店にともなう情報を紐付けできるようになり、OMOの視点でパーソナライズ化されたデータを取得できるようになります。
2.モバイルペイメント
2019年にPayPayが大々的にキャンペーンを行ったことを皮切りに、今やQRコード決済サービスは20以上にも増えています。決済はすべての経済活動に伴っているため、モバイルペイメントは現金を扱うよりもより楽に最適にデータの取得が可能になります。
3.チャットボット
チャットボットは顧客が入力した質問に対して、システムが返答するツールです。ホームページでチャットボットを組み込んでいるパターンは5年以上前から見られましたが、オフラインと融合したチャットボットがOMOの視点で話題となっています。店舗にチェックインした際はスマートフォン片手に、気になる商品の在庫状況や、購入履歴からコーディネートにあう商品がおすすめされるなど、ひとりひとりにショップ店員がつきっきりで接客してくれるような顧客体験ができます。
海外のOMO事例
OMOの導入は、日本よりも海外の方がOMOの仕組みは一般に普及しています。キャッシュレス決済を例にとっても、韓国や中国では利用比率が70%を超えています。
出典:キャッシュレス・ロードマップ 2021|PAYMENTS JAPAN
OMOをより具体的にイメージできるように、中国をはじめとする海外のOMO先進国の取り組みを見ていきましょう。
アプリで注文できる「瑞幸咖啡(Luckin Coffee)」
中国のコーヒーチェーン「瑞幸咖啡(Luckin Coffee)」は、積極的なOMO推進により2017年の創業以来、急速に店舗を拡大しています。
瑞幸咖啡の特徴は、注文をすべてアプリから行えることです。これによって、顧客が注文のため店頭で行列を作ることがないので、店舗スペースを最小限にとどめ、賃料などのコストを抑えてさまざまなところに出店できます。
また、アプリを通して注文させることで、企業側は顧客の消費行動を逐一確認できるため、顧客にパーソナライズされたマーケティングを効果的に実施できることも、瑞幸咖啡の成功を支えています。
アプリで医師への相談や予約「平安好医生(グッドドクター)」
「平安好医生(グッドドクター)」は、中国の平安保険グループが提供する総合健康プラットフォームです。ユーザーはアプリを通してAIドクターにいつでも健康相談ができ、チャットや映像を通して医師のオンライン診断も受けられます。もし、そこで実際の診療が必要と診断された場合には、アプリを通して医療機関に診療予約をしたり、オンラインで診断書や処方箋を発行してもらったりできます。
平安保険グループは、このサービスのユーザーデータをもとに最適な保険商品を提供することで、顧客の囲い込みを図っています。
QRコードで商品が買えるスーパー「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」
「盒馬鮮生(フーマーフレッシュ)」は、中国の大手IT企業「アリババ」の傘下にあるスーパーマーケットです。
盒馬鮮生では、商品に付いているQRコードをスキャンすれば、アリババ提供の決済サービス「アリペイ」でオンライン決済できるサービスを導入しています。また同店では、店舗の3km圏内であれば、最短30分で希望の商品を配送するサービスも展開中です。
これら利便性に優れたサービスの提供により、高い顧客満足度を実現しつつ、アリペイから得られる情報を在庫管理などに活かしています。
自動で支払いが完了できるスーパー「Amazon GO」
「Amazon GO」とは、大手通販会社「Amazon」が運営する無人スーパーです。同店には専用アプリをダウンロードし、Amazonアカウント(決済情報)を紐づけることで入店が可能になります。
Amazon GOの店舗内にはショッピングカートやレジがなく、顧客が商品を手に取ってバッグに入れさえすれば、店内各所のカメラセンサーがすべて商品を読み取って計上し、退店後にAmazonアカウントを利用して自動決済してもらえます。
一見してわかるように、Amazon GOでは店員が必要ないため、ほとんど人件費はかかりません。また、購買履歴をAmazonサイトと連携させることで、サイト上でも顧客にレコメンドできるなど、マーケティング上の利点もあります。
国内のOMO事例
日本国内においてもOMOに取り組む企業は増えつつあります。そこで続いては、国内のOMO事例をご紹介します。
スマートフォンから注文できるOMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA」|西武・そごう
大手百貨店を経営する「西武・そごう」は、2021年9月にD2Cブランドと連携して、メディア型アパレルOMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA(チューズベース シブヤ)」をオープンしました。同ストアではスマホが店員の機能を一部代替し、顧客はスマホ上でWebカタログを確認しながら商品をカートに追加したり購入したりと、新しい購買体験を楽しめます。
また、店舗のオープンと同時に立ち上げたECサイトでは、一部商品を除き店舗の在庫状況と連携されているため、たとえばECサイトで注文した商品を店頭で受け取ったり、店頭で見て気に入った商品を帰宅後ECサイトで購入したりといった使い方もできます。
ビデオ通話でショールーム体験|ニトリ
大手家具店「ニトリ」では「ニトリのリフォーム」サービスにおいて、ビデオ通話の「LiveCall(ライブコール)」を活用し、OMOに取り組んでいます。このLiveCallを利用すれば、ショールームが自宅近くにない顧客でも、自宅の様子を担当者に見せながらリフォーム相談ができます。
ニトリは、この取り組みによって店舗とリモートの境界をなくし、品質の高いサービスを顧客に提供することで、顧客体験の向上を目指しています。
LINEで注文できる「TOUCH-AND-GO COFFEE」|サントリー
食品事業の大手「サントリー」は、新感覚コーヒーショップ「TOUCH-AND-GO-COFFEE」にてOMOを実現しています。同店では、ユーザーはLINEを用いてコーヒーを事前に注文し、サービスを受けられます。このサービスは、コーヒーの味やミルクの種類、甘さなどを選べるだけでなく、オリジナルのラベルを作れることで話題になりました。
モバイルオーダー&事前決済という利便性の高さに加えて、思わずSNSでシェアしたくなる仕掛けを施すことでOMOを成功させた好例といえるでしょう。
OMOを成功させるには
OMOを成功させるためには、単にオフラインでできていたことをオンラインでもできるようにするだけではなく、顧客の購買体験(UX)の向上がセットになっていなければなりません。
そのためには、たとえば近所の飲食店で顧客が好みそうなメニューをピックアップして紹介したり、顧客の行動履歴から休日に合わせてクーポンを配布したりといった、顧客それぞれにパーソナライズしたマーケティング戦略が欠かせません。そして、ここでカギとなるのが「ビッグデータの活用」です。
ビッグデータを活用するにはDX化が必須
「ビッグデータ」とは、多様な種類・形式から構成される膨大なデータのことです。ビッグデータの主な特徴としては、さまざまなチャネルからリアルタイムに取得され、多方面に活用される点が挙げられます。
ビッグデータはOMOだけでなく、企業がさまざまな形でデータ活用するうえでの土台となります。しかし、企業のシステムが老朽化(レガシーシステム化)している場合は、AIやWebとインターフェースをつなぐにもデータ構造が異なるため、ビッグデータの収集を行えません。そこで必須となるのが、老朽化により現代のICT環境に対応できなくなったシステムのDX(デジタルトランスフォーメーション)です。つまりシステムの現代化は、OMO実現のための第一歩といえます。
ビッグデータの活用にはSAP S/4HANA Cloud
ビッグデータ活用に必要なシステムプラットフォームを構築するうえでおすすめなのが、SAP社の提供するITソリューション「SAP S/4HANA Cloud」です。これは、AI・機械学習・高度なアナリティクスなどのインテリジェントテクノロジーが組み込まれたERPシステムで、ビッグデータの効果的な活用を可能にします。
SAP S/4HANAは業務プロセスの標準化と自動化を実現し、業務効率化に寄与します。また、高度なアナリティクス機能を用いれば、制度の高い予測分析の実施も可能です。完全なDXの実現には継続的なアップデートが必要ですが、SAP S/4HANAはクラウドサービスという特性上、常に最新のシステムを利用できます。DXに取り組み、OMOを実現するためにも、まずはSAP S/4 HANAの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
OMOによって、顧客は従来よりも柔軟に企業のサービスを受けることが可能になり、購買体験(UX)が向上します。しかし、企業が各顧客のUXを真に向上させるには、ビッグデータの取得と活用を通して、顧客への理解を深めなければなりません。そこで重要になるのが、老朽化したシステムのDXです。SAP社では、ビッグデータの効果的活用を可能にする最新ERPソリューションを提供しています。OMOに取り組む際は、ぜひ導入をご検討ください。