Googleアナリティクスなどのアクセス解析ツールはWebサイトやアプリの「全体的な動き」を確認するのに便利なツールです。
例えば皆さんも「Webサイトのページビューは?」「直帰率は?」などと言った評価を行なっていることでしょう。
その一方で、昨今のデジタルマーケティングはパーソナライズ、つまり、「ユーザー個々の動きをつかみ、それぞれに対して施策をうつ」ことが重要になってきています。
この記事ではGoogleアナリティクス、Adobeアナリティクスの2大アクセス解析ツールで、いかに個々のユーザーの動きを探っていくかを解説します。
Googleアナリティクスの場合
Googleアナリティクスには「ユーザーエクスプローラー」という個々の動きを追うのに最適な機能があります。
これについては以前も解説しているため、簡単に紹介していきます。
レポートの「ユーザー>ユーザーエクスプローラー」を開きます。
「クライアントID」という番号リストが表示されます。このクライアントIDが、個々のユーザーに割り振られた番号です。これはGoogleアナリティクスのCookieで割り振った番号なので、管理者側で特別な設定をする必要がありません。
任意の番号をクリックしてみると、そのユーザーの行動が表示されます。
ユーザー単位なので、そのユーザーの訪問が3回あったならばそれぞれの訪問時の行動を確認できます。
リストには「セッション」「平均セッション時間」「直帰率」「収益」「トランザクション数」「コンバージョン率」という6つの指標があらかじめ表示されています。
たとえば収益を軸にロイヤリティが高いユーザーの行動を見る、という場合は収益の列を降順に並べ、上位にくるユーザーの行動を見て行くといいでしょう。
実際にはこの6つだけでなく、さまざまな切り口でユーザーの行動を確認していくことになります。このために一つひとつのクライアントIDをクリックして確認する、というのは効率の良いやり方とはいえません。
そこで「セグメント」を利用して、見たいクライアントIDのみ表示させます。
デフォルトで用意されている「コンバージョンに至らなかったユーザー」「新規ユーザー」などを使うことで、さまざまな切り口が確認できます。
「新しいセグメント」で、自分が必要とするセグメントを作れば、より切り口は広がっていきます。
ユーザーエクスプローラーで利用するクライアントIDはGoogleアナリティクスが割り振った番号ですが、管理者が自社で利用しているユーザーのIDを割り振ることもできます。
データマーケティングの実現、ビジネス的にはこちらの方が良いやり方です。クライアントIDは自社のIDではないため、それ以上のデータを結び付けユーザー像や行動を導き出すのが困難だからです。
Googleアナリティクスでユーザー個々のIDを設定する方法として、「ユーザーID」という機能があります。
これはGoogleアナリティクスのトラッキングコードに設定を加え、ユーザーがログインするIDを取得するものです。ですからログイン機能やMAツールのWebサイトでの利用が基本になります。
他の方法としては、企業内で持つユーザーIDをGoogleアナリティクス内にインポートするというのもあります。「カスタムディメンション」という機能を使い、インポートしたデータをGoogleアナリティクス内の各レポートで使うことが可能になります。
まとめるとクライアントIDを使ったユーザーの動きは簡易的なもの、きちんとやるならユーザーIDやデータのインポートをおこなう方が、データマーケティングの視点では望ましいといえます。
Adobeアナリティクスの場合
Adobeアナリティクスには、ユーザーエクスプローラーのような機能はありません。
クライアントIDのようにAdobe側で発番している番号はありますが、それを使って個々のユーザーの動きをレポート上で見ることはできません。
もしそれをやるとしたら、データウェアハウスでデータをエクスポートして、それをBIツールに入れて可視化させていくといった作業が必要になります。
Adobeの提供するレポート上でユーザーエクスプローラーに近いことをする場合には、「ワークスペース」のフロービジュアライゼーションを使用します。
出典:公式ヘルプページ:フロービジュアライゼーションの設定より
ただしフロービジュアライゼーションだけでは、サイト全体でのユーザーの動きまでしか追えません。そのためセグメントを利用して、個々のユーザーの動きを追うようにします。
この方法をおこなう場合には、GoogleアナリティクスのユーザーIDやデータのインポートのような作業を、変数を使ってあらかじめ設定しておく方が良いです。あるいは自社が発行するcookieで、そのユーザーの情報がレポート内で把握できるようにしておくと良いでしょう。
こうした準備をした後に、「コンバージョンを頻繫にしている(あるいはまったくしない)」「訪問頻度が高い(あるいは低い)」「訪問回数が多い(あるいは少ない)」といった視点で、設定されたIDの中から任意のユーザーをピックアップしていきます。
それを個別のセグメントとして設定し、フロービジュアライゼーションにあてることで個々のユーザーの動きが把握できます。
実際に私もいくつかの視点をもとに、5~8ユーザーほどでこのフロー作成をおこなったことがあります。
「訪問頻度が高いユーザー」を見る場合には、比較として「訪問頻度が低いユーザー」も見ますので、実際には倍の10~16ユーザー分のセグメントとフローレポートを作成する必要があります。
もちろん訪問頻度だけがユーザーの動きで注目すべきところではないので、さらに複数の視点で同じように作成していきます。そのためセグメントの量はかなり多くなりました。
この手間を考えると、Googleアナリティクスのユーザーエクスプローラーのような簡易機能がないAdobeアナリティクスは、個々のユーザーの動きを見るには手間がかかるといえます。
注意すべきこと
ユーザーの動きを追っていくうえで、注意すべき点があります。
2018年、EUでの「GDPR(General Data Protection Regulation)」の施行です。ヨーロッパの法律なので直接は日本には関係ないともされていますが、国内でもネットリテラシーが高いユーザーを中心に、cookieでの情報収集について厳格な目が向けられるようになっています。
実際にcookieの許諾を取っているWebサイトを目にしたという方も、昨年から増えているでしょう。
Googleアナリティクスがユーザーエクスプローラーのリリースをおこなったのは数年前で、アナリティクス系の関係者はこれからアクセス解析で個々のユーザーの動きを追う流れになる、と期待を高めました。
しかし実際にはGDPRの施行もあり、ユーザーエクスプローラー以降は大きな動きがありません。Adobeアナリティクスがこうしたユーザー個々の動きを見る機能の実装に動かないのも、こうした流れを考慮していると考えられます。
ツールの方向性とは別に、デジタルマーケティングの担当者は「cookieでの情報収集、取扱いに注意を払うこと」を大いに意識する必要があります。
もう一点の注意としては、アクセス解析ツール内でユーザー個々の動きを追うだけでは不十分になってきているということです。
最適な顧客体験を与えるUXでは、商品やサービスの提供後や店舗への来店、コールセンターへの問合せなどあらゆる接点でのユーザーの動きを把握する方が望ましいといえます。
それにはアクセス解析ツール内でデータを閉じ込めておくのではなく、エクスポートしてデータレイクやDMPなどで統合をし、それを分析や活用に利用するといった形を取るべきでしょう。
GoogleアナリティクスのクライアントIDやAdobeアナリティクスのAnalytics IDなど、ツール側の発行するIDではなく自社のIDを利用した方が良いと書いてきたのは、こうした幅広い活用を意識しているからです。
ユーザーの動きを把握して何をおこなうか
ユーザーの動きを把握することで、それを何に活用していけばいいのかがもっとも重要です。大きくは「分析」と「施策」です。
さまざまな視点でユーザーの動きを可視化することで、ペルソナづくりの材料になります。シナリオ(あるいはカスタマージャーニーマップ)へそのまま転用できる要素も数多く含んでいます。
顧客属性や嗜好の幅が拾いジャンルを取り扱うBtoCのビジネスの場合だと、一般的なペルソナやシナリオをいくつか作るくらいだと追いつかないため、複数の行動パターンを考える材料としての利用価値も高いでしょう。
マーケティングオートメーションや接客ツール、レコメンドはさまざまなパターンに対応できるので、こうしたユーザーの動きを担当者が把握していなくても施策としては回すことができます。実際のHubSpotでは個々の顧客のアクションに応じて施策を簡単に実施することが可能です。
ユーザー個々の動きはきちんとデータをもとに把握できるようにしましょう。
まとめ
アクセス解析ツールでユーザー個々の動きを見る方法をGoogleアナリティクスとAdobeアナリティクスの両方で解説しました。
ユーザーエクスプローラーがある分、Googleアナリティクスの方が把握するのは手軽といえますが、あくまでも簡易的なものに留まります。
やはり自社のIDを軸に、さまざまな保有データと結びつけていく方がきちんとしたユーザーの動きを把握できます。まずはこうしたデータ取得の仕組みをアクセス解析上でつくっておきましょう。
すでにこの仕組みができあがっている場合には、データレイクやDMPの基盤を整備して、BIツールやマーケティングオートメーションで実行を進めていきましょう。