現在、デジタルマーケティングが日本国内でどうなっているのか?このような単純な質問は意外と答えずらいものです。
今回は昨年公開されたデジタルマーケティングに関する調査データを2つご紹介しデジタルマーケティングの今を考えてみたいと思います。
最初の調査データ「企業のデジタルマーケティングの現状」は、課題についての実情がわかります。次の「デジタルとアナログ」に関する調査データは、施策の効果や取組みに関する実情が掴めます。いづれも色々な気付きを与えてくれますので、皆様のデジタルマーケティングライフの参考にしてください。
企業内のデジタルマーケティングの現状
現状を知るためのものとして、2018年の夏に発表されたデジタルマーケティングに関する調査データを紹介しましょう。独立系のITコンサルティング・調査会社、株式会社アイ・ティ・アールが発表した報告です。
デジタルマーケティング推進上の最大の課題
どの企業も気になるであろう、デジタルマーケティングを進めていくうえでの最大の課題については、「会社全体のマーケティングを統合的に見る人(CMOなど)が社内にいない」が一番に来ています。
ここでポイントとなるのは、予算、あるいは効果が一番ではなかったという点です。
「マーケティングのIT化予算が少ない」は9.8%、「導入効果が出ていない/期待できない」も9.8%で、どちらもトップ3の課題には入っていません。
従来マーケティングに関しては、予算と効果が真っ先に課題として挙がるケースが多かったものです。しかしある程度理解が進んだのでしょう。マーケティングに取組むのは当たり前、成果は取組み方により変わってくる。予算もそれにより増減があるといった感じで、より本質的な悩みに目を向けられるようになってきたといえます。
統合的に見る人材がいない、という悩みに次ぐのが「関係する部署間での連携がうまくできていない」です。これに関してはデジタルマーケティング以外でもよく課題に挙がります。マーケティングと営業の現場がうまく連携できない、商品やサービス部門との情報共有がなされない、会社によってはWebの運用とマーケティング部門がまったく独立していて、施策がきちんと反映されないなど様々な課題が出てきます。
各部門のデータを統合していくという動きも活発ですが、これも部署間の調整事が多くスムーズにいかない、時間がかかりすぎるといった話はよく聞かれます。
営業との連携ではSFAやMAツール、商品やサービス部門とはCMS、データ統合ではDMPなど、ツールはすでに対応可能なものが多くあります。
ネックになるのは部署が縦割り、横の関係性が希薄という状態が多いということです。統合的な人材とは広告、システムなど個別の分野に特化しているのではなく、幅広い知見を有し、かつ調整や交渉事に優れた人材と考えて良いでしょう。
三番目にきている「マーケティング施策を評価・分析する人がいない」というのも気にしておきたいところです。コンバージョンが取れているかいないかはわかりやすい指標ですが、多くの企業がそれだけでは評価にならないと気づいてきたのかもしれません。
アクセス解析やコンバージョンだけではなく、多くのデータを扱って評価や分析をしなければならない、という機運が高まっているのがこのデータから読み取れます。
この部分はBIツールが分析機能を強化しているので、人材だけでなくその進化もこれからの注目になるでしょう。
以前は「人・モノ・金」と言われていましたが、このデジタルが大きく進んだ時代に人に対しての注目が特に高まっているのは面白いところです。
デジタルマーケティングを推進している部門/チームの構成
同調査では、デジタルマーケティングを推進している組織についても調査されています。
1位となったのは「マーケティング部門、IT部門、営業部門などのメンバーから構成された社内の専門部門/チームを設置し推進している」で、38.6%でした。
2位の「社内専門部門/チームに外部人材(マーケティングコンサルタントやマーケティングITベンダーなど)も含めたチームで推進している」が14.2%です。
なおこちらは1位の社内の専門部門/チームに外部の人材を加える、いわばプラスアルファなので基本は「複数部門の人材で構成された専門チームで、デジタルマーケティングは推進されている」と考えて良いでしょう。
この調査はマーケティング関連製品の導入に積極的な国内企業、またはEコマース、サイトを運営している国内企業に対しておこなわれたものです。デジタルマーケティングのトップレベルの取組み方はこのスタイル、と考えていいでしょう。
以前は企業活動にマーケティングを導入したい、デジタルマーケティングをより強化していきたいという希望が出た場合は、マーケティングのみの専門部署を作ったり、人材を獲得するといったことがおこなわれていました。しかし、それだと広範囲な内容をカバーしきれない、結局は自社のことをよく知るそれぞれの専門分野の人間がいないと成果が出ないということがわかり、今のように総合的に進めていく体制に変わってきているのでしょう。
こうした複数の部門から集まってきた人材、その意見を統括するためにCMOのような存在が必要、また異なる部署の目的や意見を集約していくことの大切さがわかってきた、というのがデジタルマーケティングの現在の姿といえます。
なおデータを統合するというミッションを進めながら組織のつくり全体を見直し、成果をあげている企業もあります。デジタルマーケティングを推進するだけでは目的が曖昧です。集客や売上といった目標だと、部署間で温度差が出るケースもあります。データ統合をするというミッションを持ち、それに対して期限を定め進めていくという、データをもとにした組織づくりというのも良いかもしれません。
デジタルとアナログ
昨今はWebマーケティングという言葉が忘れ去られるくらい、デジタルマーケティングという言葉が使われています。
Webマーケティングとデジタルマーケティングの違いはご存知でしょうか。
WebマーケティングはWeb広告を中心にオンラインでの施策を指していましたが、デジタルマーケティングはCRMやコンテンツなど、広告以外の多くの施策を組み込んだものです。またオフラインも含めたマーケティングも視野に入れているのが大きなポイントになります。
ではオフラインと組み合わせたマーケティングの現状はどうなのでしょうか。2018年の3月に発表されたデータを見ていきたいと思います。日経BPコンサルティングの「デジタル・アナログ領域のマーケティング施策実態調査(第4回)」からです。
この調査は定点観測されているので、過去と比較することで今が見えてきます。
施策の実施状況
各施策の実施状況は、デジタル施策が増加、アナログ施策は微減となっています。これは予測通りでしょう。
デジタルとアナログの組合せ施策ですが、これは数パーセント程度の伸びなので微増です。施策の実施が35.5%まで増えているので確実に伸びてはいますが、昨今のデジタルマーケティングという言葉の広がりに比べこの伸びというのは、いささか寂しいところです。
売上効果に対する満足度、組み合わせ活用の効果に対する満足度
その理由がわかるのが、「売上効果に対する満足度、組み合わせ活用の効果に対する満足度」に関する設問です。
デジタル施策、アナログ施策の「効果をあげている」という回答には、それほど変化はありません。一方でデジタル施策とアナログの組合せ施策の効果については、明らかな減少が見られます。効果を感じない施策に対して取組みが減っていくのは、当然のことです。
加えてデジタルとアナログ施策の組合せは、「効果をあげていない」という回答が明らかな増加を見せていますので、深刻です。
デジタル施策の方に目を移すと、こちらは「効果をあげていない」が「効果をあげている」を毎回上回っています。デジタル施策は実施については毎回伸びていますから、効果だけを基準にしていないのでしょう。おそらくは実施の容易さ、費用の安さといったハードルの低さが要因です。ツールや新たな手法が次々に出てくるので、それらを試してみようと期待して追加しているという部分も大きいかもしれません。
この調査データからわかるように、デジタルマーケティングの肝ともいえるオンラインとオフラインを組み合わせた施策は、実際にはそれほどうまくいっていないようです。これには「どういうやり方が良いかわからない」「MAツールを入れているが、良いリードの管理ができていない」などがあるかもしれません。あるいはデジタルマーケティングとして他部門と取り組んでいるものの表面的な形で、成果が出るまでをきちんと握れていないのかもしれません。
このようにオンラインとオフラインを融合させたデジタルマーケティングの本質的な取組みはまだまだこれから、といった面もあります。しかしオンラインで獲得したユーザーに対して郵便を使ったDMの反応率が高かったケース、あるいは実際のイベントや店舗で名簿取得をし、さまざまなオンライン施策でナーチャリングをすることで継続化させているといった成功事例も多々あります。この調査データの本文には具体的に実施している施策の紹介もあるので、ぜひ参考にしてみてください。
出典:「デジタル施策」と「デジタル・アナログ組み合わせ施策」の実施企業は増加傾向、上場企業のマーケティング施策(日経BPコンサルティング 2018年3月ニュースリリース)
まとめ
AIが昨今トップクラスのトレンドワードですが、人材や部署間の調整という、テクノロジーでは解決しきれないアナログ的な課題がデジタルマーケティングには多くあることがわかる結果でした。
企業の大小、業種や業界に関わらず似た悩みは多く聞こえてきます。これらを共通の課題として認識し、成功事例を参考にしたり、施策をよく知るコンサルティングを入れて取組んでみるのも良いのではないかと思いました。