現在、企業では顧客データの収集・分析が当たり前になってきています。「顧客データ」の適切な収集・活用が、企業の発展に大きく寄与するからです。
本記事では、顧客データを活用するにあたり、まず必要な顧客データのデジタル化と、企業がどのようなポイントに注意しながら顧客データを管理・活用すればよいかを解説します。
顧客データのデジタル化と求められる理由
顧客データのデジタル化について「なぜデジタル化が急に注目されているのか」と疑問を持つ人もいるでしょう。まずは顧客データがデジタル化される背景や、顧客データが求められる理由について解説します。
顧客データのデジタル
アナログな時代において、インターネット上ではないリアル世界で顧客が取った「行動データ」の取得は難しいものでした。アンケートなどで調査するしかないため、リアルタイムに収集するのはほぼ不可能といっても過言ではありません。
しかし、現在はスマートフォンなどの電子機器や通信機器を利用したサービスによって、リアルな行動データをデジタルに取得可能です。これらのデータを顧客情報と紐づけることで、デジタルとリアル世界での顧客行動データをどちらも収集できます。
参考までに、デジタルとリアルの境界線が日本よりも曖昧な中国を例にご紹介します。中国ではモバイル決済が普及しているため、支払情報などから消費者のあらゆる行動データが取得可能です。これらの情報は個人のIDに紐づいたものとなっていて、企業はその膨大なデータをリアルタイムに解析し、消費者ひとりひとりに最適なサービスを展開しています。
このように、オンラインとオフラインを融合する概念は「OMO(Online Merges With Offline)」と呼ばれ、世界的に普及しつつあります。
顧客データが求められる理由
顧客満足度を向上し、売上を高めて事業成長を続けるためには、あらゆるデータの収集・分析による顧客理解が必要不可欠です。インターネットの高速化とスマートフォンの爆発的な普及により、デジタルはリアルの世界へとどんどん進行しています。
近年では、リアルな行動データをデジタル上の顧客IDに紐づけることで、デジタルとリアルの両面から顧客行動データを収集できるようになりました。顧客行動のデータ化が進んだことで、より深く顧客を理解できるようになっています。この技術は、マーケティングなどへの活用に期待されます。
また、社内の各部署に点在している顧客データを一元管理することで、業務効率化も見込めます。収集した顧客データを一元管理する仕組みがあるとより便利です。
マーケティングに必要な2種類の顧客データ
マーケティングで利用する顧客データは「定量データ」と「定性データ」の2つに分類できます。それぞれの性質の違いを理解してマーケティングに活かしましょう。
定量データ
定量データとは、具体的な数値で把握できる情報を指します。具体例を挙げると以下のとおりです。
- 顧客情報
- 購入履歴
- Webサイトのアクセスログ
数値で把握できるため、顧客属性ごとの細かな比較などが可能です。また、専用のツールなどを利用してデータの傾向を解析し、マーケティング戦略の基礎データとして活用する場合もあります。
定性データ
定性データとは、収集した段階では数値で表すことが難しい情報を指します。具体例を挙げると以下のとおりです。
- 顧客の口コミ
- クレーム内容
- 自由記述形式のアンケート結果
収集した段階で数値化できる定量データとは異なり、定性データは個人の意見や発言など、データ化しても文字列となるものが多く含まれます。また、口コミなど収集が難しいデータもあります。ただ、適切にデータ化できれば消費者の購買意欲などを分析できることから、顧客理解のために活用できます。
マーケティングに必要な顧客データの収集・蓄積方法
顧客の定量データと定性データは、それぞれで収集・蓄積方法が異なります。収集する段階から戦略を考えることで、より高度なマーケティングへの活用を実現しましょう。
定量データの収集・蓄積方法
定量データの収集方法は多岐にわたります。顧客情報は、会員登録や商品購入時に入力された必要情報を収集するのが一般的です。これに加えて、情報収集について同意を得ておき、収集した顧客情報に紐づく購入履歴なども蓄積されます。
顧客情報と購入履歴の顧客データまではセットで保管されていることが多くあります。しかし、Webサイトのアクセスログまで連携して収集できている企業は多くはありません。Webサイトの簡単なアクセス解析であればGoogle Analyticsでも十分です。しかし、顧客情報とアクセスログを連携した行動データを収集するためには、CDPなどのシステムが必要となります。顧客情報の統合管理に便利なCDPについては、下記で詳しくご説明します。
定性データの収集・蓄積方法
アンケートやインタビューを行うのが定性データの一般的な収集方法です。他にも、ビックデータ解析と呼ばれるインターネット上の口コミやSNSの投稿内容を分析する手法も活用されています。「生の声」を収集することで、消費者ニーズも調査可能です。
また、自社に寄せられたお問い合わせやクレーム内容も貴重なデータです。定量データで得た顧客情報や行動履歴とあわせて分析できると、さらなる顧客ニーズを深掘りができます。定性データを活用できるようになると、より高いクオリティの分析に貢献するでしょう。
顧客データを管理する7つの方法
顧客データを有効に活用するため、重要視したいのが管理手段です。顧客データは、定量データ・定性データの2種類に分けられるものの、さらに細かく住所や年齢、性別などの項目で見ていくと、数十・数百もの種類があります。また、定量データ・定性データで収集方法が異なるように、各データの収集に適したアプリケーションも異なっています。
これらの膨大な顧客データを帳簿で管理するのは当然ながら非現実的です。必然的に「システムでの管理」が要件として挙がります。そこで、顧客データの管理方法として想定される7つのシステムをご紹介します。
- Excel
- MA(Marketing Automation:マーケティングオートメーション)
- SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)
- CRM(Customer Relationship Management:顧客管理システム)
- CDP(Customer Data Platform:カスタマー・データ・プラットフォーム)
- ERP(Enterprise Resource Planning:企業資源計画)
- CIAM(Customer Identify and Access Management:顧客ID&アクセス管理)
1.Excel
Excelは、多くの企業で日常的に取り入れられているツールであり、Office製品を利用していれば無料で利用できるため、データ管理を始めやすいツールのひとつです。
しかし、Excelでは同時編集やリアルタイムでの更新がしづらく、バージョン管理も困難になりがちです。ともすると、同時編集中にデータが消失してしまうおそれもあるため、顧客データの管理には不向きです。
顧客の母数が少ないうちはExcelで管理できるかもしれませんが、今後母数が増えていくことや、マーケティングへのさらなる活用を見越して、あらかじめ適したシステムを導入しておくことをおすすめします。
2.MA(マーケティングオートメーション)
MAは、マーケティング活動を一部自動化し、進めやすくするためのツールです。広告やコンテンツマーケティングを通して顧客を集客し、その顧客情報を蓄積、管理して顧客に合わせたマーケティングを行い、その結果を分析するといった一連の活動をサポートしてくれます。
具体的には、離脱顧客に対して手動で送付しなければならないメールを、決められた時間に自動的に送付するなどの設定を組むことが可能です。顧客データを管理し、具体的なマーケティング施策を行うのに役立つでしょう。
MAを他のツールと連携させることで、より効果を発揮するケースもあります。具体的な例として、MAと顧客情報管理の連携を「MA(マーケティングオートメーション)に顧客情報管理を活用するメリット」で紹介しているので、参考にしてください。
(リンク:https://www.cloud-for-all.com/customer-data-cloud/blog/ma-and-cdc)
3.SFA(営業支援システム)
SFAは、顧客データ管理を中心として営業活動を効率化したり、顧客データを営業部全体の情報資産として管理するための営業支援システムです。ただし、あくまで「営業視点で設計されたシステム」であり、SFAで管理できる顧客データは、見込案件の進捗情報や商談履歴、営業担当者の行動履歴や顧客の属性情報(社名、事業規模、担当者、ニーズなど)です。主にB2B領域で使われるシステムなので、あらゆる顧客データを統合して管理するものとは少し意味合いが違います。
SFAの詳しい導入ステップは、「SFAの導入を成功させるには?必要な6つの導入ステップを解説」で説明しているので、ぜひ参考にしてください。
(リンク:https://www.cloud-for-all.com/customer-data-cloud/blog/6-steps-for-sfa-introduction.html)
4.CRM(顧客管理システム)
CRMは「顧客との継続的な関係構築」を目的とした顧客管理システムで、顧客データの管理と活用という点に優れています。デジタルとリアルにおける顧客データを統合的に管理し、システムに備わったマーケティング機能でさまざまな施策を展開できます。
ただし、マーケティング機能は限定的なものが多く、積極的にアクションを起こすのは難しいかもしれません。CRMの意義は蓄積した顧客データを他のシステムに出力することで、高度なマーケティング施策を展開することにあると認識しましょう。
CRMの詳しい内容や製品の選定については、「CRMとは?顧客関係管理で必要な基礎知識から製品選定まで一挙紹介!」をご覧ください。
(リンク:https://www.cloud-for-all.com/customer-data-cloud/blog/crm.html)
5.CDP(カスタマー・データ・プラットフォーム)
CDPは、企業が営業活動の中で集めている顧客情報を収集・統合・分析・管理する顧客管理プラットフォームです。「顧客の住所や氏名、性別、メールアドレス、電話番号」などの個人情報、顧客のサイト閲覧に関する情報、アンケートの回答、購買情報といった行動データが蓄積されます。これらのデータをCRMなどのツールと連携し、外部データと併合して分析・利用する場合もあります。
自社データを有効利用するためには、顧客データやマーケティングオートメーション、POSなどに集積されたデータにCDPを紐づけなければなりません。CDPは他ツールとの連携により、これら膨大なデータをさまざまな用途で使えるように設定したうえで、営業活動に役立てられます。
CDPについては「CDPとは?導入のメリットやCRM、DMP、MAとの違いを解説」でも詳しく紹介しています。参考にしてください。
(リンク:https://www.cloud-for-all.com/customer-data-cloud/blog/cdp)
6.ERP(企業資源計画)
ERPは個別最適化が進んできたシステムをひとつに統合し、あらゆる機能が連携された基幹系情報システムです。SFAやCRMをはじめ、会計システムや生産システムなどあらゆる機能が統合されており、相互に連携が取れるのでデータの二重入力などの手間を無くせます。
さらに、生成されたデータはERPにすべて一元的に管理されます。このデータをBI(Business Intelligence)ツールなどに取り込ませて分析し、経営状況をリアルタイムに把握したり顧客ニーズを掘り下げてさまざまな洞察を得たりできます。
7.CIAM(顧客ID&アクセス管理)
CIAMは近年新しく立ち上がった市場で、日本語では「顧客ID&アクセス管理システム」といいます。顧客がデジタル・リアルで生み出すあらゆるデータを個別のIDと紐づけて管理し、革新的なサービス提供やマーケティング施策の実施、あるいはユーザーセキュリティの強化などに貢献するシステムです。本記事のテーマである顧客データの管理・活用においては、最も目的にマッチしたシステムのひとつでしょう。
顧客データ管理は、「どう管理するか?」を議論するよりも「どの手法で管理するか?」を検討しなければいけません。最終的にはシステム導入を必要とし、システムによっても管理できる顧客データや活用方法が異なります。企業はこれを十分に理解したうえで、適切なシステムを選ぶことが重要になるでしょう。
「顧客データ管理に求められる機能と要件」では、システム選定においてチェックすべき要件をまとめているので、ぜひ参考にしてください。
(リンク:https://www.cloud-for-all.com/customer-data-cloud/blog/requirement-for-cdp)
顧客データを分析する4つの方法
顧客データを分析すれば、戦略的なマーケティングができます。顧客データを用いた代表的な4つの分析方法を紹介します。
- セグメンテーション分析
- バスケット分析
- RFM分析
- デシル分析
1.セグメンテーション分析
セグメンテーション分析は、次の4つの分類で顧客をグルーピングする分析手法です。
- 顧客の居住地などの地理的変数
- 年齢や性別・家族構成などの人口動態変数
- ライフスタイルや価値観などの心理的変数
- 購入履歴などの行動変数
これらの分析によって有利に事業展開できる市場を見つけることができれば、競合との競争を避けつつ売上向上が見込めます。
2.バスケット分析
バスケット分析とは、「買い物かご」を1単位として、特定の商品と一緒に購入される傾向のある商品を見つけることを目的としています。実店舗のPOSデータ、ECサイトの購入履歴などが分析対象です。
セットで売れている商品に注目すれば、買い物をする顧客に共通の傾向を見出せるかもしれません。特定の行動が発見されれば、それを活かしたアクションを起こせるようになります。例えば、店内の商品配置を変更したり、併せ買いで値引きするなどの販売強化キャンペーンを開催したりすると、客単価の向上が期待できます。
3.RFM分析
RFM分析とは、最終購入日(Recency)、頻度(Frequency)、購入金額(Monetary)の3つの指標を用いて顧客をグループ化する手法です。切り分けたグループごとにマーケティング戦略を考えることができます。
例えば、「RとFの数値は高いが、Mの数値は低い」グループは、「購入頻度の高いリアルタイムの顧客であるが、購入単価が低い」と定義できるため、客単価を上げる施策につなげられます。
4.デシル分析
デシル分析とは、購入履歴データをもとに全顧客を購入金額の高い順に10等分し、各グループの購入比率や売上構成比を分析する手法です。売上構成比率によって、優良顧客層を抽出できます。
例として、1,000名の顧客を10のグループにそれぞれ100名ずつ割り振ると、構成する人数は同じですが売上の比率がそれぞれ異なってくることが見えてきます。
また、売上を1,000万円と仮定して、上位2グループが売上全体の80%、3位以降のグループで売上の20%を構成している場合、上位200名の顧客が800万円の売上に貢献していることが判明します。この条件では、単純な顧客単価を売上と顧客数で算出すると平均顧客単価は1万円ですが、実際は上位200名の顧客単価が4万円、下位800名の顧客単価は2,500円という正しい顧客単価を割り出せます。
平均顧客単価 | 実際の顧客単価 | ||
グループ1~ ・ ・ ・ ~グループ10 |
1万円 | 上位200名 | 4万円 |
下位800名 | 2,500円 |
デシル分析で抽出した優良顧客に対して新商品の先行キャンペーン配信や限定クーポン配布などのマーケティング施策を講じることで、リピート率や売上向上につなげていくことができます。
顧客データ活用で意識したい4つのポイント
顧客データ管理のための基盤が整えば、次は「活用」に意識を向けます。顧客データを収集・分析する環境を整備できているにもかかわらず、それを十分に活用できていないケースは多く見られます。顧客データを活用するポイントは次の4つです。
- 分断的な施策とデータを統合する
- クロスセル・アップセルを狙う
- 個人情報の取り扱いを明確にする
- 分析に使う顧客データが客観的に正しいか確認する
1.分断的な施策とデータを統合する
顧客データの管理基盤を統合していても、デジタルメディア・マスメディア・店頭施策などのマーケティング施策が分断されたままでは十分な効果が得られません。各施策における担当者が連携を取ったうえで、システムに蓄積された顧客データをどう活用していくかを十分に話し合う必要があります。
また、利用する顧客データを自社で収集したもののみにとどめ、市場全体と分断されている状態も大きな問題です。社内外で蓄積される顧客データをあわせて活用すれば、実施した施策の効果測定や最適化が進められます。
しかし、市場全体が現状どうなっているかを理解するためのデータと分断されては、新しい付加価値向上につながる施策は難しいでしょう。市場全体の動きを捉えなければ、いくら顧客データを活用しても機会損失を生じかねません。まずは、全社一貫性の高いマーケティング戦略を立てることから始めましょう。
2.クロスセル・アップセルを狙う
既存顧客のデータを活用してクロスセルやアップセルを狙う方法はマーケティングの常套手段です。いわゆる「1:5の法則」では、新規の顧客開拓をするよりもコストを5分の1に抑えられるといわれるほど、既存顧客へのアプローチは営業活動の大きな基礎となります。
顧客データから優良顧客を抽出できれば、新商品やサービスの訴求、ロイヤリティに応じた優待サービスなどのアクションを起こせます。既存顧客に最適なマーケティング施策を提供することは企業が勝ち残っていくにあたって重要です。
3.個人情報の取り扱いを明確にする
近年、顧客は自分の行動データが収集され、個別の顧客IDに紐づけられていることを理解し、受け入れています。しかし「自分の個人情報の取り扱いがどうなっているのか?」という不安はなくならないでしょう。
この不安を可能な限り解消するために、企業は個人情報の取り扱いに関する説明責任をしっかりと果たすようにしましょう。顧客の安心感を獲得しなければ、顧客データの収集・活用の弊害となります。
ただ、近年は個人情報保護法が改正され「法律があるから大丈夫だろう」という心理も働いているでしょう。言い換えると「法律があるのに個人情報を保護しない企業」と認識されれば信用を大きく損なうことになるため、社会的責任の観点からも「利用方法」「保護方針」は明確にしましょう。
4.分析に使う顧客データが客観的に正しいか
顧客データを分析する際、もととなるデータに偏りがないかどうかを確認することも大切です。もし顧客データに偏りがあった場合には、それをもとに施策を展開してもうまくいく可能性は低いでしょう。「経験者」「未経験者」「愛用者」など、さまざまな顧客のデータがあるため、適切なデータを抽出し、分析しなければなりません。
客観的に正しいデータを扱うには、まずは何のためにデータ分析をしたいのかを明確にすることが大切です。目的から外れたデータを使っていないか、目的に対してデータが不足していないかを確認しましょう。
次世代のCDP「SAP Customer Data Platform」
SAP Customer Data Platformは、顧客データをひとつのプラットフォームで一元管理できるツールです。顧客データの統合や分析からビジネスチャンスの発掘、ベストなタイミングでのアプローチを実現してくれます。あらゆる顧客データを一元管理し、部門間でのスムーズな情報共有を可能にします。そのほかにも素早く見積もりを作成できる見積もり作成機能や、販売実績の分析を行える販売実績管理機能などが備わっていて、迅速な意思決定を後押ししてくれる点はメリットでしょう。
また、こうした機能によってコスト削減も達成されます。まず、データを可視化する手間が省けます。各部門内の会議、上層部への報告などで資料を作成する時間コストや分析コスト、データを管理する際に生じる管理コストの削減も可能です。営業コストの可視化を実現できるセールスオートメーション機能も実装されているので、事業活動の最適化も図れます。
まとめ
顧客データを蓄積し、ニーズを分析することで顧客満足度向上や売上につなげられます。そのため、あらゆる顧客データを収集し、マーケティングに活かせるように分析する「顧客理解」は必要不可欠です。
顧客データ管理のための基盤や、活用するためのシステムやノウハウはすでに幅広く提供されています。この機会に、自社の顧客データ管理・活用を見直して、一気通貫したマーケティング施策やサービスを展開できる方法を模索してみましょう。