ここ数年で提唱されているO2Oマーケティングでは「オンラインからオフライン」よりも「オフラインからオンライン」でのデータ移行の方が重要だとされています。
Webサイトの閲覧やメール送受信などデジタル上のライフログを取得し、それをマーケティングへと活用することはそれほど難しくありません。しかし、デジタル上の行動がユーザーの興味関心を決定づけるわけではないので、効果のほどは未知数です。
もしもこれらのデータのリアル上のライフログを紐付けることができたら?ユーザーの興味関心を深く理解し、より精度の高いマーケティングを展開することが可能でしょう。
そしてそんなマーケティングを実現する概念こそ「リアル行動ターゲティング」と呼ばれているものです。
今後必ず拡大していく新しいマーケティングとはどのようなものなのか?分かりやすく解説していきます。
人の行動を「点」ではなく「線」で捉える
位置情報(ユーザーが利用規約に同意したもの)などを活用したリアル上でのマーケティングは以前から存在しています。例えば最近のトレンドで言えばBLEビーコンなどを挙げることができます。
BELビーコンとは「Bluetooth Low Energy」と呼ばれる省電力無線通信規格を活用したモジュールを特定の位置に設置することで、モバイルデバイスのBluetoothと通信して位置情報やクーポン・情報配信などを提供することができます。簡単な例で言えばスマートフォンを持ってBLEビーコンに近づくとプッシュ通知でクーポンが配布されるといったものです。
これはリアルで展開されるマーケティングではありますが「リアル行動ターゲティング」とは言えません。なぜならデータ活用の起点がBLEビーコンにあり、ユーザーの行動を「点」で捉えているに過ぎないからです。
「線」で捉えるとはユーザーの行動から興味関心を探ること
例えばユーザーの位置情報を取得して、1週間でどのような行動を取ったかを記録していきます。
≪Aさん1週間の位置情報≫
- 毎週月曜~金曜の9:00~17:00まで都心部に滞在している
- 夕方から翌朝にかけては郊外から動かない
- 土曜日は都外に出ていることが多く、帰宅は21:00前後
- 日曜日は郊外にいることが多く、大した移動距離はない
上記の記録から、Aさんが都心部に勤めていて郊外に在住。土曜日は遠出することが多く日曜日は自宅周辺でゆっくりとしている。さらに行動履歴から既婚者であり中学生以下の子供がいる可能性が高いということが読み取れます。
これはユーザーの行動をデータを「線」として捉えているからこそ読み取れる情報でしょう。
そしてこうした情報を読み取りマーケティングを展開することこそが「リアル行動ターゲティング」なのです。
リアル行動ターゲティングの具体的な活用方法
例えばビールなどのアルコール飲料の広告配信をする場合、業界では「夕方からの広告配信が有効的」と言われてきました。実は近年国内のワークスタイルは変動しつつあり、この概念が覆りつつあります。
日本企業の多くは始業時間が9時以降と遅く、就業時間も必然的に遅くなる傾向があります。加えて残業が当たり前の時代でしたから19:00以降に帰路につくというビジネスパーソンがほとんどでした。これならば夕方以降の広告配信で十分効果があると言えます。
しかしここ数年で残業をできるだけ排除しようという動きや、始業時間を早めたりリモートワークを推進するといった動きが活発化しているのです。となるとビジネスマンの就業時間にばらつきが生まれ、夕方以降の広告配信ではターゲットが限定的になってしまいます。
そこでリアル行動ターゲティングを活用することで、セグメントごとに最適化された広告配信を実現することができるのです。
前述した≪Aさん1週間の位置情報≫のようにセグメントごとの帰宅時間を把握することができれば、それに合わせて最適な時間に広告配信を行うことができます。グループAには17:00~19:00、グループBには19:00~21:00など広告配信の精度を上げるだけでなく、セグメントごとに配信することが広告費を抑えられるというメリットもあるのです。
リアル行動ターゲティングが持つ課題
リアル行動ターゲティングは2016年に入り頻繁に耳にするようになったワードですが、言葉だけが先行し実際の活用例が非常に少ないと感じている方は多いと思います。というのもリアル行動ターゲティングはまだまだ実用段階になく、多くの課題が残されています。
最も大きな課題はユーザーの理解を得ること
いくら個人情報を特定できない範囲かつ、集団セグメントそしてのデータのみを取得すると言っても自身の位置情報を積極的に提供するユーザーはいません。誰だって抵抗感は必ずあります。
そしてこの抵抗感がリアル行動ターゲティングにおける最も大きな障壁であるのは間違いないでしょう。従って、企業側としてはまずユーザーに明確なベネフィットを提供する必要があるのです。
例えば米国の保険会社ではユーザーの自動車にセンサーを取り付けることで、総経距離に応じた保険料を策定するという取り組みを実践しています。こうすることでユーザーは適正価格で保険へ加入することができ、走行距離の少ないユーザーは必要以上の料金を払わなくていいというメリットがあります。
この取り組みではセンサーを搭載するユーザーが増えるほどより多くの行動データを取得することができ、リアル行動マーケティングへの活用を始めシステム改善へ役立てることが可能です。
しかし実際にはそれでもなおセンサーを取り付けるというのに抵抗感を持つユーザーが多いので、より強いベネフィットの訴求が必要になるでしょう。
リアルのライフログはとにかく膨大
インターネットが普及した現在、デジタル上のライフログはユーザーひとりにフォーカスしてみても非常に大きなものとなります。しかしリアルでのライフログはこれの比ではなく膨大なものとなるのは確実です。
そこで重要になるのがデータ処理の技術や方法でしょう。実際リアル行動ターゲティングを実践していくためのデータ分析プラットフォームの整備はようやく最近になりHadoopやIoT、ストリーミング技術などが発展してきました。
こうした背景からもリアル行動ターゲティングの本格活用までもう数年かかるというのが見て取れます。
まとめ
ビッグデータやビジネスインテリジェンスというワードが来たと思ったら、翌年には新しいワードが生まれているのがマーケティングです。それだけ変動が激しく成長段階にある分野だということが理解できます。
そしてそんなマーケティングをもう一つ上のステージへと引き上げるワードがリアル行動ターゲティングであるのは間違いありません。決して単なるバズワードではないということを理解しておきましょう。
まだまだ活用例はほとんどないマーケティング手法ですが、マーケターの皆さんは常々注目していく必要性が高いのではないかと思います。
Hubspotなどマーケティングプラットフォームで、リアル行動ターゲティングをどのように実現していくかもチャレンジしていきたいと思います。今後は事例などを積極的に紹介していきますので、是非チェックしてください。