スマートフォンの普及にともない消費者行動の多様化が進み、従来のようなチャネルごとに最適化を行うマーケティング施策だけでは顧客の満足度を高められなくなりつつあります。
この課題を解決するために、すべてのチャネルを統合した「オムニチャネル」と呼ばれる横断的なアプローチが注目されています。ここでは、オムニチャネルについて事例と合わせて紹介します。
オムニチャネルマーケティングとは?
最初にオムニチャネルマーケティングとはなにか、重要なキーワードである「チャネル」とは何かを解説します。
そもそもオムニチャネルとは
チャネルはマーケティング用語のひとつで「集客媒体」「集客経路」などを指します。一般的にチャネルが多いほど顧客を集めやすく、チャネルの強みを活かせば効率よく売上を高められると考えられています。
具体的なチャネルは非常に多く、例を挙げるならば以下のとおりです。
- チラシ
- テレビ
- 雑誌
- 新聞
- Webサイト
- SNS
- 屋外広告
- 電話
時代の変化に伴ってチャネルの変化はありますが、多くのチャネルが利用されています。
オムニチャネルマーケティングの概要
オムニチャネルとは、「すべての」を意味するオムニと「販売経路」を意味するチャネルを融合させた造語です。具体的には販売活動における顧客との接点であるチャネルを連携させ、購入経路の垣根を取り払ったマーケティング戦略を指します。実店舗とECサイトなどの情報をシステムで一元管理することで、顧客に対して様々な接点からアプローチをするのです。
従来のマーケティング戦略では、上記でご説明したような複数のチャネルが独自にアプローチを仕掛けていました。しかし、それぞれのチャネルにおけるユーザーの情報が連携されていないため、効率の良いマーケティングが不可能だったのです。そこで、あらゆる販売チャネルを統合し、チャネルを横断した「いつでも」「どこでも」というシームレスな購買行動を推進する考え方としてオムニチャネルマーケティングが考案されました。
例えば、「ECサイトで購入した商品を最寄りの店舗で受け取れるようにする」などの取り組みは、オムニチャネル戦略のひとつです。また、ECサイトで商品情報を閲覧した後、実店舗で購入するプロセスや、異なるデバイス、チャネルにおいても同一のユーザーとして紐づけてサービスを提供する手法も同様です。
なお、オムニチャネルは「実店舗ありき」の考え方です。ECサイトのみを展開する場合には適さないため、その点は考慮してください。
オムニチャネルが求められる背景
オムニチャネルが重要な理由として「顧客が利用するチャネルの多様化」が挙げられます。インターネットが発展する以前は、顧客が利用するチャネルはシンプルで限られていましたが、総務省の調査によるとこの5年から10年でスマートフォンやタブレットが急速に普及し状況は大きく変化しているのです。例えば、経済産業省が発表する「電子商取引に関する市場調査」ではBtoC-EC市場規模が以下のとおり増加しています。
引用元:経済産業省|電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました(2021年7月30日)
2013年と2020年を比較すると約1.7倍に増加していることが伺えます。スマートフォンなどの普及によりECサイトの需要が高まり、オムニチャネル化を避けられない状況なのです。
ただ、EC市場にのみ力を入れればよいわけではなく、オムニチャネルは「実店舗ありきのマーケティング」です。特定のチャネルから顧客へアプローチするのではなく複数のチャネルを横断したアプローチを行い、一人ひとりの満足度を向上させなければなりません。多様化する消費者行動に対する適切なマーケティング手法として、すべてのチャネルを統合して連携させるオムニチャネルマーケティングに注目が集まっています。
オムニチャネル・マルチチャネル・クロスチャネル・O2Oの違い
オムニチャネルに似た言葉は複数存在し、例えば以下が挙げられます。
- マルチチャネル
- クロスチャネル
- O2O
それぞれについてオムニチャネルとどう異なるかご説明します。
マルチチャネル
マルチチャネルは複数のチャネルで顧客と接触し、販売機会を増やす考え方です。それぞれのチャネルは独立し、顧客へ個別にアプローチします。チャネルごとに売上アップへの施策に取り組み、成果を出そうとします。
オムニチャネルとの違いは「複数のチャネルを束ねているか」です。マルチチャネルはオムニチャネルとは異なり個別に成果を出す考え方であり、両者の違いとなっています。
クロスチャネル
クロスチャネルはマルチチャネルの派生系で、複数のチャネルで情報連携するものです。それぞれが情報連携することで、効率の良いアプローチなどに取り組めます。
オムニチャネルと似ている考え方ですが、「すべてのチャネルが統一されているか」という観点で違いがあります。マルチチャネルとオムニチャネルの中間だとイメージすると良いでしょう。
O2O
オンラインで得た顧客をオフラインでの顧客につなげる考え方です。オンラインで獲得した顧客をオフラインである店舗などに誘導すると考えましょう。
O2Oではオンラインとオフラインを切り分けて考えますが、オムニチャネルではこれらの切り分けはありません。両方を組み合わせて顧客を獲得するか、個別に獲得するかの違いがあります。
オムニチャネルで得られる3つのメリット
オムニチャネルには多くのメリットがあり、今回はそれらの中でも必ず押さえてもらいたい3つをご説明します。
価格の統一
オムニチャネルでは基本的にどのチャネルでも同じ価格で商品を提供します。チャネルごとに料金を分ける必要がなく、価格の統一ができる点はメリットです。
特に顧客目線では「いつでも同じ値段であるか」は非常に重要です。例えばオンラインショップと実店舗などチャネルの違いによって価格差があると、顧客は価格を比較したくなり購入タイミングを逃してしまいます。オムニチャネルはこのような比較を必要とせず、いつ・どこで購入しても同じという安心感を与えられます。
機会損失の減少
顧客に多角的なアプローチが可能となり、販売機会の損失を少なくできます。これには以下のとおり複数の観点があります。
- チャネル間の情報を共有ができる
- 各チャネルにて顧客に最適な情報を伝達できる
- 在庫不足に悩まされない
オムニチャネルを取り入れることで、チャネル間の情報共有をしつつ、複数のチャネルから顧客の検討段階に応じた最適な情報の伝達ができます。結果、顧客が商品の検討を十分に行うことができ、販売機会の増加へとつなげることが可能です。
また、在庫を統一して管理することで、実質的には在庫不足に悩まされなくなります。仮に店舗やオンラインに在庫が無くとも、オムニチャネルで在庫が管理されていれば他から補充でき、販売機会の損失を防げます。
顧客満足度の増加
顧客は自分の手に入れたい商品を納得する形で入手できるため、オムニチャネルにより顧客満足度の増加が期待できます。満足する理由は複数あり、分類してみると以下の例が挙げられます。
- 好みの手段で商品を購入できる
- 同じ価格で商品を購入できる
- 在庫切れが少ない
- 購入する時間帯を気にする必要がない
オムニチャネルによって「いつでも」「どこでも」同じように商品が購入できるため、これが顧客満足度を高めています。企業側としては機会損失を減らせるだけではなく、顧客満足度の増加まで期待できる考え方なのです。
オムニチャネル化する4つの手順
ここではオムニチャネル化の4つのStepについてご紹介します。手順は以下の4つです。
- Step1.購買行動の分析、カスタマージャーニーマップを作成
- Step2.プロセスの整理と社内への共有
- Step3.顧客情報や在庫情報の管理システムの連携
- Step4.マーケティング施策としてPDCAを回す体制をつくる
Step1.購買行動の分析、カスタマージャーニーマップを作成
オムニチャネル化を進める際、様々なチャネルでの接点を連携する必要があるため、それぞれのタッチポイントで顧客がどのような心理状況で、どのような行動をとるかを理解をすることが非常に重要です。
対象となるペルソナ設定をもとに、顧客の購買行動に合わせた施策を盛り込むことで、オムニチャネル化を効率的に進めることができます。
Step2.プロセスの整理と社内への共有
オムニチャネル化を成功させるためには、複数の部署をまたいだ協力が必要になります。例えば、オムニチャネル化を進める際は、店舗販売とECモールなどのWeb媒体を顧客が円滑に行き来をする中で最適な購買行動を促す施策を行います。
そのため、プロセスの明確なゴールの設定や、付随する業務の連携を円滑にするために、社内で共通認識を持つ必要があります。
Step3.顧客情報や在庫情報の管理システムの連携
オムニチャネル化を成功させるためには、情報の一元管理が必要です。顧客の購買データや行動データ、、販売経路ごとの在庫情報等を連携して管理できるシステムを持つことで、初めてオムニチャネル化を進めることができるようになります。
Step4.マーケティング施策としてPDCAを回す体制をつくる
情報の一元管理が可能なシステムを導入しただけでは、オムニチャネル化が成功することはありません。実際に実行している施策が仮説通りに実行できているか、できていない場合はその原因は何かを改めて検証する作業が必要です。特に、オムニチャネル化は多様なチャネルを活用した複雑性の高い施策です。システムの連携によって顧客情報の獲得は容易になっても、変わりゆく顧客の購買行動に対して、正しい分析と改善を行うことが大切です。
オムニチャネルで意識すべき2つの注意点
ご説明したとおり、オムニチャネルにはメリットがありますが、導入にあたっては注意点もあります。続いては意識すべき2つの注意点をご説明します。
導入までの負担
オムニチャネルは短期間で導入できるものではなく、組織づくりやITシステムの構築などが必要です。企業の規模によっては時間をかけて対応する必要があり、導入まで担当者に負担がかかってしまいます。
例えば組織づくりでは、チャネルごとの垣根を超えられるような仕組みが必要となるかもしれません。店舗運営とオンラインショップ運営のチームが異なっていれば、両者が納得できる組織づくりやITシステムの導入が必要です。
また、ITシステム導入では、それぞれのチャネルが利用しているシステムの統合が必要となるかもしれません。一般的にシステムの統合は負担のかかる作業であるため、オムニチャネルの導入にあたっても大きな負担になる可能性があります。
投資の回収期間
全社的な仕組み作りが必要となるため、オムニチャネルの導入には費用がかかります。会社の規模が大きくなればなるほど、多くの投資が必要になると考えましょう。
投資が必要となるのに対し、オムニチャネルは短期間で収益を増加させる考え方ではありません。中長期的に効果を発揮するものであるため、どうしても投資の回収には時間を要してしまいます。短期的には赤字になる可能性もあり、資金繰りなど予算の立案には注意が必要です。
また、初期投資だけではなく状況に応じて継続的な投資が必要となります。このような投資が必要になると回収までの期間はさらに長くなるため、ここも注意点として認識すべきです。
オムニチャネルマーケティングの成功事例
オムニチャネルマーケティングを実践するにあたっては、企業の成功事例からの学びが重要です。ここでは国内の企業で成功した事例を紹介します。
事例1.イオン(ショッピングモール)
イオンはスマートフォンアプリを活用したオムニチャネルを推進しています。売り場に設置されている商品POPやチラシをスマートフォンアプリ「イオンお買い物アプリ」内にある「撮って!インフォ」で読み込ませると、対象商品を使ったレシピを提案してくれます。また、「A touch Ru*Run」というタッチタブレットを店内に設置し、店舗で取り扱いがない商品のお取り寄せから代金の精算、配送の手続きまで行える仕組みを提供しています。
事例2.無印良品(雑貨中心の小売)
無印良品はスマートフォンアプリ「MUJI Passport」をリリースし、アプリ内で店舗検索や在庫確認、最新ニュースの配信を実施しています。また、レジで会計時にアプリからバーコードを読み込むことで得られるマイルポイントが貯まるプログラムは、多くの顧客に購買体験を提供し、なおかつ実店舗への誘導も促しました。
さらに、マイルによって会員ランクが上がり、ボーナスポイントが付与されます。誕生日月にはリマインドとマイルプレゼントが提供されるため、顧客とのコミュニケーションも充実しました。これは顧客を店舗へ誘導する仕組みと顧客をファン化させる仕組みを実現している良い事例です。
事例3.資生堂(化粧品メーカー)
大手化粧品メーカーである資生堂のオムニチャネル戦略は、健康の専門家とのコラボレーションサイトである「Beauty&Co.」と、総合美容サービスである「watashi+」、そして百貨店などのリアル店舗を組み合わせで運用しています。これらのチャネルは、すべてECによる販売と店舗への集客を達成しています。
特に「Beauty&Co.」は、資生堂に関する商品訴求をするサイトではなく、美に関する提案をすることで「美容への関心」を高め、化粧品市場の拡大を目的として運用されています。一方、「watashi+」では資生堂色を前面に出し、オンラインショップへの誘導や専門家への相談ができる仕組みを構築しています。これは2つのサイトを屈指して市場拡大と、ECや店舗への集客および多角的な顧客体験を提供する戦略です。
事例4.セブン&アイ・ホールディングス(コンビニエンスストア)
セブン・フィナンシャルとセブン銀行が共同出資で、決済サービス会社の「セブン・ペイ」を立ち上げました。グループ内で利用できる決済機能と、系列店で買い物をすると貯まるセブンマイルプログラムを連携して顧客関係管理IDの一元管理を実現しています。それにより企業と顧客一人ひとりとの関係性を最大化し、より個人に向けたサービスの充実を図っています。これは顧客満足度と顧客ロイヤルティを向上させるCRM戦略を織り交ぜた成功事例です。
オムニチャネルマーケティングを成功させる3つのポイント
オムニチャネルを成功させるためにはポイントがあるため、3つのポイントに絞ってご説明します。
計画的な組織づくり
オムニチャネルはオンラインとオフラインを横断した顧客体験を提供できる反面、販売部門・物流部門・システム部門などが連結した組織作りが求められます。組織づくりにあたっては、「目的の明確化」と「組織全体への共有」が必要不可欠です。
目的を明確にしそれを共有できなければ、各部門の担当者は「何がしたいのか分からない」という状況に陥ります。このような状況が続くと顧客体験の低下を招きかねないため、意図を伝えた上での組織づくりが重要です。
適切なペルソナ設定
マーケティング戦略を立てる時には「顧客起点での戦略」が求められます。企業は自社にとって理想的な人物像である「ペルソナ」を設定し、ペルソナがオムニチャネルで購入するまでの道筋をカスタマージャーニーに落とし込むべきです。
一連の流れを可視化できれば、対象となる顧客の心情変化や商品検討のきっかけなどを仮説ベースで組み立てできるようになります。ペルソナがブレるとオムニチャネルでのアプローチ方法もブレてしまう可能性があるため、できるだけ細かく整理をすると良いでしょう。
ITシステムの導入
オムニチャネルの核は「仕入れから販売までの状況を総合管理可能な一元管理システム」です。店舗の在庫状況・ECサイトの売上・ユーザーの過去の購入履歴・アンケート結果・ログデータ・顧客情報などが個別のシステムではなく、ひとつのシステムで管理されていなければなりません。
取得できるすべての情報を統合できれば、チャネルに最適化されたマーケティング施策が明確になります。「特定のチャネルから得た情報」だけで施策を検討するのではなく「すべてのチャネルから得た情報」を検討することが重要です。
マーケティングを統括して管理するSAP Marketing Cloud
オムニチャネルを成功させるための核である「あらゆる情報の一元管理」を行うためにはeコマースに特化したプラットフォームの導入が必要です。また、管理システムの他に顧客関係管理 (CRM)やリアルタイムのビジネスインテリジェンス (BI)による分析機能も求められます。
これらの要請に応えるのが、次世代クラウド型CRMシステム「SAP Marketing Cloud」です。このソリューションは、オムニチャネルを導入する際に必要な機能をすべて備えており、様々なビジネスモデルに対応できる拡張性と柔軟性を兼ねそろえたプラットフォームです。
例えば、オムニチャネル戦略を成功に導くために必要な販売データを活用し、顧客のインサイトを予測した収益性の高いチャネルの策定や、すべてのチャネルにおける価格設定とプロモーションの最適化を実現します。
まとめ
オムニチャネルはすべてのチャネルを統合し一元管理することで、顧客に効果的なアプローチができるという考え方です。現在はチャネルごとに独立したマーケティングが多く見られますが、顧客の購買行動の多様化が進む現代において、オムニチャネルは重要なマーケティング施策の一つです。。これにより顧客はオンラインや実店舗を問わず「いつでも」「どこでも」商品の購入が可能になり、顧客の離脱を低下させることができます。
オムニチャネルを実現するためにはシステムの導入や既存システムの統合が核となります。しかし、ゼロからシステム構築する場合は莫大なコストがかかってしまいます。そのため、SAP Marketing Cloudのような単一のプラットフォームで情報を一元管理できるクラウドシステムの導入がおすすめです。eコマースマーケティングに特化したSAP Marketing Cloudであれば、購買で発生するすべてのプロセスをリアルタイムで計測でき、マーケティングに活かせます。オムニチャネルには「組織づくり」と「ITシステムの導入」が重要となるため、最初の一手としてSAP Marketing Cloudというシステムの導入をご検討ください。