電話やメールなどを利用した内勤型の営業活動がインサイドセールスです。従来の営業活動では、担当スタッフが外に出かけ、見込み客の発掘、クロージングなどを行っていました。このような手法は、フィールドセールスと呼ばれます。今回はインサイドセールスについて、その意味や意義、メリットなどをご紹介します。
インサイドセールスの意味
内勤でモノやサービスを売るこの手法は、アメリカで誕生しました。アメリカは日本と違い、非常に広い国土を有しています。そのため、取引先を担当スタッフが回ることが難しく、必然的に内勤型のセールス手法が発達したというわけです。
日本では、現在でもクライアントや消費者の自宅に足を運んで営業を行うことが多いのですが、内勤型のセールススタイルもじわじわと広まりつつあるのが現状です。また、内勤型と外勤型の営業手法を組み合わせる企業も少しずつ増えてきています。
これら2つの方法は、得意とするジャンルが異なるため、組み合わせることによってそれぞれの足りない部分を補えます。今後は、2つの手法を合わせた方法が主流になっていくことになるでしょう。そして、インサイドセールスを導入していない企業は、今からでも検討すべき営業手法といえるでしょう。
インサイドセールスによりできること
一つに顧客管理が挙げられます。ウェブで顧客や見込み客の行動、ステータスなどを把握することで、顧客情報を管理しやすくなります。自社サイトにアクセスしてきた人、リードをとれた人の情報を蓄積できれば、それぞれにマッチしたセールスもできるようになるでしょう。
また、すでに顧客情報を持っているのなら、わざわざ外に出る必要がなくなります。企業や自宅まで訪問しなくても済み、過去に取得したリストを見ながらアプローチできるメリットがあります。以前は商品を売れなかったケースでも、時間を空けて顧客の興味をナーチャリング(育成)してからアプローチすることで、よい返事がもらえる可能性を高めることができます。
インサイドセールスと対比される「フィールドセールス」について
外勤型の営業手法をフィールドセールスと呼びます。この手法では、担当者が取引先や見込み客、既存客などの自宅に足を運び、ダイレクトに営業活動を行います。対面してコミュニケーションをとるため、質の高い商談が可能になるのは一つのメリットといえるでしょう。
フィールドセールスでは、目の前にいる相手の表情や雰囲気、発言などから提案を変えることも可能です。相手の心理的なハードルを下げる、少し場を和ませてブレイクを入れる、といった臨機応変な対応ができるのも特徴といえるでしょう。
ただ、内勤型のセールスには、どうしても時間がかかるというデメリットがあります。ターゲットとなる人に割く時間だけでなく、そこに移動する時間、戻ってくる時間なども必要になるからです。訪問先が遠くなればなるほど移動距離も長くなり、トータルでの所要時間も長くなります。
また、1日に訪れることのできる件数が限られているのもフィールドセールスにおけるデメリットです。訪問先がそれぞれ近い距離で密集しているのなら問題ないのですが、そう都合よくはいきません。訪問先の距離が離れている場合、1件しか訪問できなかった、ということにもなりかねません。商談に時間がかかってしまい2件目に遅れてしまう、といったことも考えられます。
インサイドセールスが注目される理由
業種にもよりますが、多くの企業が抱える問題の一つに営業部署の人材不足が挙げられます。営業の仕事は大変なイメージがあり、ときにはクレームの矢面に立つ必要もあるため、敬遠されることも少なくありません。それだけが理由ではありませんが、実際に多くの企業が慢性的な人手不足に悩まされています。
内勤型の営業活動が注目を集めている理由の一つは、人手不足対策になるからです。インサイドセールスを導入すれば、見込み客や既存客の管理がしやすくなり、少人数でも効率のよいセールス活動が可能になります。
また、見込み客に対する効果的なアプローチが可能になるのも、注目されている理由といえるでしょう。相手の会社自宅に訪問するとなると、相手の都合に合わせる必要があり、移動の際のルートについても検討しなくてはなりません。双方の都合がうまく合えばいいのですが、合わない場合は何度も調整を重ねる必要があります。
しかし、電話やウェブ、Eメールを利用するインサイドセールスなら、お互いに時間の都合をつけやすくなります。「ちょうど今なら都合がいい」という見込み客に対して、「では今から商談を」という展開に持ち込むことさえ可能なのです。
インサイドセールス導入のメリット
インサイドセールス導入を検討している企業にとって、どのようなメリットが得られるのか、という点がもっとも気になるところでしょう。少数精鋭での営業活動が可能になる、人材を有効活用できる、担当者がコア業務に集中できるなど、実にたくさんのメリットがあります。
少数精鋭での活動が可能
従来型のフィールドセールスだと、少ない人員で多くの顧客のもとを回るのは至難の業です。少数の部署だと、対応できる人数に限界があり、一人一人のスタッフに多大な負担を強いることにもなりかねません。
インサイドセールスを導入すれば、少数精鋭での営業活動が可能になります。電話やメールなどでのアプローチがメインとなるため、人手は少なくても、十分に営業活動ができるのです。これは大きなメリットといえるでしょう。
人材を有効に使える
例えば、優秀な女性の人材がいるものの育児中で産休をとっているとします。このようなケースでも、内勤型の営業手法なら、在宅で業務を任せることができます。また、外を歩き回るのは体力的に厳しい、というシニアの方でも、このセールス手法なら問題ありません。さまざまな属性の人材を有効に活用できる。これも内勤型営業手法のメリットの一つです。
外回りの営業では車を移動手段に用いるケースも少なくありません。特に、地方都市では車がないとどうしようもない、ということも珍しくないでしょう。しかし、人によっては運転免許を取得していないこともあります。従来型の手法だと、運転免許無しで営業に回ることはかなり厳しいのですが、インサイドセールスなら車を運転することもありません。
社員が少ない場合、それぞれの人材を有効に活用しなくてはなりません。人はいくらでも足りている、という会社なら必要ないかもしれませんが、そうでないのであれば、インサイドセールス導入を検討する価値は十分にあるでしょう。営業スタッフが絶対的に足りていない組織ほど、検討する必要があります。
コア業務に力を注げる
営業担当の業務は多岐にわたります。顧客のもとへ足を運んで商談を行い、会社に戻ってからは見積書や資料などの作成、見込み客へのフォローを行うこともあります。このような多忙な日々だと、本来のコア業務であるプレゼンや商談のクオリティは下がる一方です。
インサイドセールスを導入すれば、営業担当者は多忙な日々から解放される可能性が高くなります。本来のコア業務である、商談や提案に力を入れられるようになり、顧客満足度の向上にもつながるでしょう。毎日遅くまで会社で業務を行っていた日々に終わりを告げ、トータルでの残業を削減する効果も期待できます。
インサイドセールスを導入することで、本来の業務に集中できるというメリットのほかに、担当者の肉体的、精神的な負担を軽減させる、というメリットも期待できます。営業に携わるスタッフは、連日遅くまで仕事をすることも多く、疲労困憊という人も少なくありません。これでは、仕事に対するモチベーションも維持できず、ミスを連発してしまう可能性すらあります。
プレゼンやクロージングといった、営業マン本来の仕事にのみ集中できるようになれば、トータルでの業務時間を短縮することにつながります。肉体と精神を酷使する必要もなくなり、仕事に対するモチベーションも高く保つことが可能となるでしょう。会社としては優秀な人材を失わずに済み、営業マンは伸び伸びと働けるようになります。
大量の顧客に対応可能
せっかくたくさんのリードを手に入れられても、効率的にアプローチできなければ意味がありません。宝の持ち腐れとなってしまい、売上の向上にもつなげることができません。少ない人数で対応しているケースでは、とてもすべてのリード顧客には対応しきれず、機会損失となってしまう可能性もあります。
内勤型の営業スタイルなら、こうしたケースにも少人数で対応可能です。集まったリードに対して内勤のスタッフが資料の送付などでアプローチを行い、クロージングにつながりそうな顧客をフィールドセールスに任せる、といったことが可能になるのです。
こうすることにより、一つのリードに対するコストを軽減できるので、コンバージョン率を高めることも可能です。これもインサイドセールスを導入する大きなメリットだといえるでしょう。
新人の教育もしやすい
外回りの営業は経験がものをいうことが少なくありません。もちろん、最初から成果を出す人もいるにはいますが、多くの方は経験を積みながら会話の方法や、クロージングにいたるまでのプロセスを学びます。
従来型のセールススタイルでは、ある一定のスキルまでレベルを上げないことには、顧客と顔を突き合わせて商談をすることすら難しいかもしれません。当然、新人のうちは先輩社員がそばにつくことになり、手とり足とり教えることになります。ただ、従来のフィールドセールスでは、1日にそう何件も回ることができず、新人のレベルを高めるのに時間がかかってしまいます。
その点、インサイドセールスだと新人教育も楽になります。基本的に指導は会社の中で行うため、ほかの業務と併せて指導を行えます。集中的に指導が可能となるので、レベルアップも速いでしょう。
インサイドセールスは、電話やメールを駆使する手法なので、1日に何度も経験を積むチャンスがあることもメリットです。新人の頃は、先輩の会話を近くで聞くばかりになりがちで、実践するチャンスはほとんどありません。しかし、この手法だと比較的早く実践が可能で、しかも1日に何度も経験を積めるので成長のスピードも速いのです。
インサイドセールス導入のデメリット
インサイドセールスはメリットの多い手法ですが、デメリットというほどではありませんが、注意するべきポイントがいくつかあります。
情報の共有が大切
従来の営業手法だと、1人の社員が見込み客の発掘からクロージングまでを担当するケースがほとんどでした。そのため、ほかのスタッフと情報を共有する必要はほぼなかったのですが、インサイドセールスを導入するとそうはいかなくなります。
見込み客の発掘や購買意欲を起こすためのアプローチは内勤スタッフが担当し、より具体的な提案やクロージングは外勤スタッフが担当することになります。そのため、適切に情報を共有できるシステムがないと、最悪クレームになってしまう可能性も考えられます。このような場合には情報共有可能なHubSpotなどのシステムで問題を解消できます。
対応できなくなる可能性
インサイドセールスは、少ない人員でも大量のリードに対応できるのが大きなメリットですが、さすがに限界はあります。あまりにも膨大な数のリードに対応するとなると、少なからずシステムの導入が必要になります。
インサイドセールスの具体的な方法
内勤型のセールスアプローチは、具体的には以下のような方法で行います。導入を検討、またはすでに取り入れている場合は参考にしてください。
電話やメールでアプローチ
見込み客に対して、電話やメールを利用してアプローチを行います。まだ顧客になってくれるかどうかわからない相手のもとに足を運ぶのは、時間の浪費です。電話やメールなら会社からアプローチを行えます。このケースだと、商談まではインサイドで行い、契約のときにはフィールドセールスで対応します。
全プロセスで活用する
見込み客へはインサイド、契約はフィールドと分けずに、全工程において内勤のスタッフが営業を行うケースです。低価格でそれほど難しい説明のいらない商品やサービスなら、十分売上の向上が期待できるでしょう。
インサイドセールス導入にあたり押さえておきたいポイント
今後、インサイドセールスを導入する企業は増加すると考えられます。そのため、今から導入を検討することは、将来を見据えると、とても有意義なことです。では実際、インサイドセールスを導入するにあたり、どのようなポイントを押さえておけばよいのでしょうか。
提案方法のルールを定める
例えば、飛行機や新幹線で遠方まで出かけた挙げ句、「まったく契約につながりそうになかった」ということは、フィードセールスにおいてはありがちなことです。しかし、これでは交通費を丸々損したことになり、得られたものは何一つありません。
事前にしっかりとヒアリングができていればいいのですが、それもしないままにプレゼンをしてほしいと求める顧客は実際にいます。このようなケースでは、顧客との距離で提案の方法を変えるのがおすすめです。
例えば、「県外の顧客への提案営業に関してはオンラインで行う」のようにルールを決めましょう。この例えの場合は、わざわざ遠方まで出向く必要がないので、時間や交通費の無駄を省きながらも営業活動はしっかり行えます。
部署決めが重要
インサイドセールスを行う部署の配置場所は意外と重要です。普通に考えると営業部ですが、マーケティングを担当する部署に配置したほうがよいケースもあります。
わざわざ対面で説明する必要がなく、価格もそれほど高くない商品やサービスなら、電話やメールなどオンラインでのアプローチだけで売れてしまうこともあります。この場合、見込み客へのアプローチからクロージングまでを、すべてインサイドセールスが担当することになります。実際に顧客のもとに出向くことはありませんが、やっていることは営業マンの仕事そのものなので、営業部への配置が自然です。
一方、価格が高く直接面と向かって提案や説明が必要になる商品やサービスの場合、インサイドとフィールド、両方のセールスが必要となります。インサイドが見込み客へアプローチを行い、契約できそうな顧客を選別してフィールドに渡すといった具合です。このようなケースでは、営業部ではなくマーケティングを担当する部署に配置するといいでしょう。
インサイドセールスに活用できるツール
インサイドセールス導入にあたり、絶対にこれがないといけないというものは特にありません。ただ、より効果的にインサイドセールスを活用したいなら、ツールの導入を検討してみましょう。ツールを導入することで効率的に実務を行い、より良い売上につなげることができます。
オンライン商談ツール
オンライン商談ツールは、文字通り、オンラインで商談ができる便利なツールです。電話ではダメなのか、という声も聞こえてきそうですが、音声だけだと伝えたいことをすべて伝えられない可能性もあります。画像や資料を見せたい、といったケースでは、このツールが役立ちます。
オンラインを介して対話ができるツールはこれまでも存在しましたが、商談で利用するには、やや高いハードルがありました。商談相手もマイクやウェブカメラなどが必要で、顧客とのやり取りで使うには、あまり現実的ではありませんでした。
しかし近年では、マイクやカメラを別途用意する必要がなく、サイトにアクセスするだけで画像を見ながら対話が可能になるツールも誕生しました。これなら誰もが利用可能で、まるで直接会っているような感覚で商談することができます。
音声だけでなく、営業マンの顔を見ながら対話ができるため、顧客には親近感を抱いてもらえます。売りたい商品やサービスに関する細かいニュアンスまで伝えられるので、中身の濃い商談が可能です。
マーケティングオートメーション
トータルでの営業効率を高める効果が期待できるのが、マーケティングオートメーションです。
内勤スタッフは購買意欲の高い見込み客を見極め、その情報をフィールドセールスに渡す、というインサイドセールスの流れはお話ししてきたとおりです。
ただ、内勤スタッフの見極めが甘く、購買意欲の少ない見込み客の情報をフィールドセールスに渡してしまうと、時間とお金を無駄にしてしまう可能性があります。そのようなことにならないよう、顧客の見極めは慎重に行う必要があります。ここで役立つのが、このマーケティングオートメーションです。
マーケティングオートメーションには、アクセスを解析する機能が備わっています。どのような属性のリードが、自社サイトのどのページにいつ、どれぐらいの頻度でアクセスしたのか、などの情報がわかるので、これらの情報から「何が目的で訪れたのか」を判断することに役立ちます。
情報を分析した上で、購買意欲の高そうなユーザーをリストアップし、電話やメールでより詳しい情報を入手します。その後、購買意欲がかなり高い、契約につながる、と判断が’できたユーザーの情報を、フィールドセールスに渡します。
つまり、マーケティングオートメーションは、購買意欲が高く、契約につながる確率の高いユーザーを見極められるツールだといえます。マーケティングオートメーションを活用すれば、フィールドセールスのスタッフの時間を無駄にすることもなく、効率的な営業活動が可能となります。トータルでの営業効率も高めることができるでしょう。
CRM
CRMは顧客管理システムのことです。インターネットがまだ一般的ではなかった時代には、顧客の基本的な情報だけを管理していましたが、必要な情報をすぐに取り出せず、データが古いまま更新されない、などのデメリットもありました。
現在のCRMは、顧客の基本的な情報はもちろん、購買履歴や頻度といった情報まで管理することが可能です。こうした情報を可視化することで、顧客へのアプローチの方法を変えることもできるでしょう。また、どのような手段で獲得した顧客の購買意欲が高いのか、といった情報もわかるため、見込み客を増やしやすくなるメリットもあります。
解析ツール
解析ツールは、リードの興味や関心を分析し、有望な顧客だけのリストを作成できるツールです。有望な顧客のリストを作ることができれば、営業の効率をぐっと高めることも可能になるでしょう。
現在は、こうした解析ツールがいくつかリリースされていて、中には、メールマーケティング機能を備えた製品もあります。ツールにより備わる機能はまちまちですが、上手に取り入れることで、営業の効率アップにつなげることができるでしょう。