DXや働き方改革に取り組む企業が増えている昨今ですが、そもそも自社の業務やビジネスプロセスの実態を正確に把握しないことには改善もできません。そこで重要なのが、業務プロセスなどの複雑な情報を直観的に理解できるように、「見える化」することです。本記事では、この見える化の概要やその目的、実施方法などを解説していきます。
見える化とは業務内容を目に見えるようにすること
「見える化」とは、業務の流れやその結果など、諸々の企業活動の情報を、グラフや図、チャートなどを用いて視覚的に分かりやすく変換し、関係者間で共有することです。言葉の使い方としては、たとえば「業務プロセスを見える化する」、「顧客情報を見える化する」のような使い方をされます。見える化という言葉は、もともと大手自動車会社のトヨタが製造現場で使い始めたのが由来とされていますが、今では広くビジネスの場で用いられるようになりました。
見える化と混同しやすい言葉としては、「可視化」という概念が挙げられます。可視化もまた、さまざまな情報を視覚的に分かりやすい形に変換するという点では、見える化と同様です。ただし、可視化の場合は、「情報の視覚的変換」の段階のみを指した概念に過ぎません。これに対して見える化の場合、そこからさらに一歩進んで、その視覚化した情報やその情報が示す課題などの認識を、関係者間で共有するところまでを概念的に含んでいることに違いがあります。
たとえば、営業部員の営業成績を縦棒グラフなどに変換してマネージャーが個人的に参照するだけなら、それは可視化の段階です。しかし、その営業成績の図表を壁などに張り出して、営業部全体が常にその情報を「見える」ようにするのなら、それは見える化になります。
見える化の目的
続いては、見える化の目的および利点を解説していきます。
業務の属人化防止や効率化を図る
業務情報を見える化する目的のひとつとしては、業務の属人化を抑止したり、業務の効率化を図ったりすることが挙げられます。業務情報を各社員がばらばらに管理・把握している場合、業務上必要な知識やノウハウを組織的に共有することは困難です。その場合、「この仕事はあの人にしか分からない」という業務の属人化が生じてしまいます。
この点、ベテラン社員が持つスキルやノウハウなども含めて具体的に情報を見える化することで、属人化を防ぎ、安定した組織運営が可能になります。また、業務の進め方をチャートなどで適宜確認できるようにすることで、無駄を省き、業務を効率的に進めることが可能です。
成果や進捗を見える化して現状把握に役立てる
見える化の目的としては、業務の成果や進捗状況の現状把握に役立てることも挙げられます。つまり、純粋に業務管理の観点です。たとえば取引先との商談の進捗状況を見える化すれば、管理職と担当社員のあいだでその商談についての認識を共有し、お互いに計画の齟齬が起きることも少なくなります。商談が難しい局面にさしかかったとき、上司や先輩が先回りしてサポートすることも容易になるでしょう。
また、業務上の成果を分かりやすく見える化することは、目標までの達成状況を認識しやすくして社員のモチベーションを向上させるために効果的です。あるいは、人事評価がしやすくなるというメリットもあります。
取引先を見える化して売上の向上を図る
見える化の目的には、取引先の情報を見える化して、売り上げ向上を目指すことも挙げられます。見える化は、自社の業務プロセスだけでなく、顧客情報などのデータに対しても適用される取り組みです。
たとえば、顧客の購買履歴や顧客属性を見える化することで、ニーズに合った製品やサービスを提供しやすくなります。また、各種のデータから優良顧客を抽出することで、どの顧客に対して集中的に営業をかければ効率的なのかを把握し、サービスの強化に役立てることも可能です。
企業のビジョンを見える化して一体感を出す
見える化の目的の中には、企業や部署のビジョンを社員間で共有して、組織としての一体感を出すことも挙げられます。縦割り構造の多い日本企業では、部署間の溝が深く、認識の共有が難しいケースがしばしば見受けられます。また、昨今では業務の専門化が進んでいることから、同じ部署内でさえ、ほかの担当者が何をやっているのか把握しにくくなっていることもあるでしょう。
その点、企業やチームの方針やビジョンを明確に見える化することで、課題意識や目的意識を共有して連帯感を高めやすくなります。これによって部署間・社員間の方向性の違いによる衝突を避けられる上、迅速かつ効率的な連携へ繋げることも可能です。
見える化の実施方法
上記のようにさまざまな目的のもとで取り組まれる見える化ですが、実際に取り組むにはどうしたらいいのでしょうか。続いては、見える化の実施方法を解説していきます。
マニュアルや図を作成する
見える化の実施方法その1は、マニュアルを作成することです。マニュアルを作成し、それにしたがって業務を進めることで、業務情報を見える化し、属人化を防いだり、業務品質を標準化したりできます。もちろん、新入社員などに対する教育も効率化できるでしょう。
マニュアルを作成する際には、図形やチャートなどを用いて、問題となる事業や組織のプロセスが視覚的に理解しやすいように注意することが大切です。また、なぜそうしたプロセス必要なのかといった「意図」まで言語化することで、属人化をさらに防ぎやすくなります。
統合的な業務アプリケーションを導入する
見える化の実施方法その2は、ERPを代表とする統合的な業務アプリケーションを導入することです。ERPとは、「ヒト・モノ・カネ」の観点から企業が保有する情報を一元的に管理し、効率的に組織運営を行うことを可能にする統合基幹システムです。
特に日本企業においては組織の縦割り構造を反映して、システムを部門ごとに個別運用しているケースが多くあります。しかしこうした場合、データは企業内のさまざまな場所に散在する形になってしまい、企業全体としてデータを見える化し、活用することも困難になってしまうのです。この点、ERPを導入して、そこにデータを集約して分析をかけることで、複合的な観点からビジネス上の意思決定などがしやすくなります。
ツールを活用する
見える化の実施方法その3は、個別のITツールを活用することです。ERPとは別に、BIツールなどを導入・活用することも見える化に役立ちます。BIツールとは簡単に言うと、膨大なデータ(ビッグデータ)を分析し、ダッシュボードやレポートなどの形にデータを見える化するツールです。
今日の企業が保有するデータは、人の手には負えないほど膨大なものですが、BIツールを活用することで、データの見える化を効率的かつ迅速に実現できます。また、マニュアルの作成に際しては、オンラインに業務情報を集約できる社内wikiなどのツールを活用するのもおすすめです。
見える化を導入する際のポイント
最後に、見える化を導入する際のポイントを解説します。
まず重要なのは、見える化する情報を精査することです。情報量が多すぎると、受け手は混乱してしまい、一番共有すべき重要な情報の認識さえ曖昧になってしまいます。したがって、見える化を行うに際しては、伝えるべき情報の優先度を意識して、目的に沿った必要な情報のみを厳選することが重要です。
また、マニュアルの作成などを通して業務の見える化をする場合は、現場の理解を得ることも重要です。当然ながら現場の業務を一番深く理解しているのは現場の人間なので、業務マニュアルを作成するのに現場の協力は欠かせません。それゆえ、なるべく現場の負担が少ない方法を検討した上で、丁寧に協力を仰ぐことが重要です。
まとめ
見える化とは、業務に必要な情報をグラフや図形などの視覚的に分かりやすい形に変換し、関係者間でその認識を共有することです。見える化は、業務の属人化の防止、業務効率化、業務管理の適正化など、さまざまなメリットを企業にもたらします。
見える化を実施する際には、ERPやBIツールなどのITソリューションを活用するのがおすすめです。たとえば、Microsoft社が提供する統合的な業務アプリケーション「Microsoft Dynamics 365」と、BIツール「Power BI」を連携させれば、ビジネスデータの一元管理と見える化を容易に実現できます。本記事を参考に、ぜひ業務情報の「見える化」に取り組んでみてください。