経済産業省が提唱した「2025年の崖(DXレポート)」が刻一刻と近づき、既存の基幹システムから新しい環境へ移行する企業が増えています。
DXレポートによれば、レガシーシステム(古い基幹システム)を運用し続けることで企業におけるITコストの9割が維持運用費に割かれ、競争力を高めるための新しいテクノロジーへの積極的な投資は難しくなるとしています。このことは、深刻な技術的負債を抱えることになるため、最終的にはデジタルビジネス時代の敗者になるとまで指摘しているのです。
それを受け、最新型のERP(Enterprise Resource Planning:エンタープライズ・リソース・プランニング)などのシステム製品を検討されている企業も多いでしょう。しかし、ERPの導入は骨の折れる作業であることは間違いありません。本記事でご紹介するのは、そんなERP導入に欠かせない「PMO」の存在です。ERP導入にPMOが必要な理由をご確認ください。
「PMO」って何?
IT系プロジェクトマネジメントに関わるビジネスパーソンの中では、知らない人はいないであろうPMOの存在。これは「Project Management Office(プロジェクト・マネジメント・オフィス)」の略であり、プロジェクトマネジメント全体のサポートを行うための部門・チームを表します。
プロジェクトには全体を統括し、品質管理等を行いながらプロジェクトをゴールに誘導するPM(Project Managemer/プロジェクト・マネージャー)の存在が欠かせません。しかし、ERPなど大規模なシステム導入のようなプロジェクトにおいて、一人のPMだけでプロジェクト全体を統括するのは困難です。そこでPMOは、PMを組織化したりPMが行うべき仕事のサポートを行ったり、プロジェクトで発生するあらゆる細かいプロジェクトやそれを構成するタスクを横断的に管理してプロジェクトを成功に導く組織です。PMOの国内普及に努める日本PMO協会(NPMO)によれば、PMOの役割とは次のように定義されています。
- プロジェクトマネジメント方式の標準化
- プロジェクトマネジメントに関する研修など人材開発
- プロジェクトマネジメント業務の支援
- プロジェクト間のリソースやコストの各種調整
- 個別企業に適応したプロジェクト環境の整備
- その他付随するプロジェクト関連管理業務
標準化、人材開発、業務支援、リソース・コスト調整、環境の整備、その他諸々の業務はプロジェクトマネジメントにおいて重要な仕事ですが、PMにとっては骨の折れる作業であるとともに、ほんの一作業にすぎません。PMにとって重要なのはプロジェクト全体を指揮する強力なリーダーシップと、問題が起きても冷静に現状分析を行い解決に向けて最適解を導き出すという能力です。
そのため、PMOを設定することで上記のような仕事をPMの領域から外し、もしくはサポートし、より優先度の高い仕事へ集中できる環境を整えてくれます。
ERP導入プロジェクトになぜPMOが必要なのか?
PMOを導入するにあたり2通りのパターンが存在します。1つ目はPMOを組織として配置するパターンで、IT系企業でよく見られる形態です。IT系企業では常に複数の顧客に対してシステム開発・導入を行っており、プロジェクトそのものが企業にとっての収益源です。そのため、PMがプロジェクトマネジメントに与える影響も大きく、営業や開発のようにPMOをひとつの部門として設置しているのが大半です。PMOは社内で走っているプロジェクト全体を横断的に管理して経営者や関係者に情報提供するという重要な役割もあります。
2つ目のPMOはプロジェクトごとに設置されるパターンです。企業の中でひとつプロジェクトが立ち上がると都度PMOが組織され、プロジェクトの始まりから終わりまでその円滑な進行をサポートする役割があります。ERPを導入する企業の多くは非IT系企業です。そのため、ERP導入プロジェクトにおいては同タイプのPMOが設置されることが多くなっています。
では、ERP導入プロジェクトになぜPMOが必要なのか?を考えてみます。
前提として必ずしもPMO設置が必要というわけではありません。しかし、PMOとはERP導入プロジェクト全体をサポートし、その成功率を上げるための組織ということを理解しておくと良いでしょう。
ERPには会計管理領域と人事管理領域、生産管理領域(生産計画、製造指示、原価管理、在庫管理、調達管理など)と販売管理領域(販売計画、受注管理、出荷管理、債権管理。マーケティングなど)、その他諸々のシステムが連なって1つの大きな環境を構築しています。このため、ERP導入プロジェクトでは経理・製造・品質管理・営業・調達・人事・マーケティングなどの部門からメンバーを選抜し、プロジェクトチームを組織化するのが一般的です。もちろん経営者も巻き込みます。
プロジェクトチームでは部門から部門へ、横断的に発生する課題をどうクリアしていくか?を検討しながら導入を進めていくわけです。しかし、それぞれの担当者は本来業務があるため、課題クリアに向けた取り組みをシームレスに行うことはなかなかに難しい現状があります。そこでPMOが調整することになります。PMOはERP導入プロジェクトに関わる各部門にまたがりながら部門横断的な課題のクリアに向けて様々な標準化や計画の調整・実行などを行ったりしながら、プロジェクトが円滑に進行するようにサポートします。
ERP導入プロジェクトにおけるPMOの役割
それでは、ERP導入プロジェクトにおける一般的なPMOの役割をもう少し具体的にご説明します。まず大まかな役割としては以下の7点があります。
- プロジェクトマネジメント手法の決定と定着
- プロジェクト進捗の可視化
- プロジェクトの課題とリスクの管理
- プロジェクト予算の管理
- 問題が起こった際のリカバリ案の策定
- データ移行や受け入れテストなどのタスク計画と進捗管理
- これらの業務に付随する事務作業
こうしたPMOの役割について整理すると、ERP導入プロジェクトにおいては「PM的な立ち位置にある」と言えます。実際に、IT系企業においてもPMの下にPMOを配置するのではなく、そもそもPMのような存在としてPMOを組織するケースも見受けられます。
ERP導入プロジェクトは往々にして大規模なものになり、全体の統制と調整が難しくプロジェクトが円滑に進まないケースが多々あります。また、関係者同士の意思疎通が図れずに想定外のシステムが完成する危険性も否めません。
PMOを設置することで部門間のコミュニケーションも円滑にする効果があるので、やはりERP導入プロジェクトに欠かせない存在だと言えます。皆さんもERP導入の際は、PMOの設置をぜひご検討ください。