ECサイト事業において「オムニチャネル」という言葉をよく耳にするかと思います。この言葉自体は新しいものではなく、2011年に米国百貨店のMacy'sのCEO(最高経営責任者)が「オムニチャネル宣言」したことで徐々に浸透しました。オムニチャネルという概念が誕生してから既に数年が経過しています。
では、今になってオムニチャネルが再注目されているのはなぜか?それはオムニチャネルを実現するためのIT環境が以前よりも整ったり、顧客が求めるモノの品質やサービスに更なる多様化が起こり、オムニチャネルへのニーズが高まったからです。
本稿では、そんなオムニチャネルを活用したEC事業戦略とは一体なんなのか?を分かりやすく解説します。
オムニチャネルってなに?
オムニ(Omni)とは日本語で「すべて」や「あまねく」という意味です。チャネル(Channel)とは「経路」という意味で、EC事業では「企業と顧客が直接関わるコンタクトポイント」という意味合いで使用されています。ECサイトも実店舗も、企業ホームページもSNSもすべて1つのチャネルです。2つの言葉を合わせてオムニチャネルとなりますが、「すべてのチャネル」とはどういう意味でしょうか?
これはECサイトや実店舗、その他のあらゆるチャネル間の違いを顧客に意識させることなくサービスを提供するEC事業戦略の1つです。
たとえば最近では、実店舗にて接客用タブレット・スマートフォンを所持しているスタッフが増えています。これは実店舗には在庫が無い商品の、ECサイトでの在庫有無を確認し、在庫があればその場で決済してもらうためのものです。このケースにおいて顧客は実店舗とECサイトの違いを意識させることなくサービスを提供しているので、1種のオムニチャネルだと言えます。
オムニチャネルはよく「マルチチャネル」と混同されがちですが、2つの違いは次の通りです。
マルチチャネル…2つ以上の異なるチャネルを横展開し、チャネルごとの連携は無い
オムニチャネル…企業が持つすべてのチャネルを連携して、チャネルの違いを意識しないサービスを提供する
オムニチャネルでは複数のチャネルを横断し、一貫性のある購買体験を提供することで、商品や顧客情報を一元的に管理することも目的の1つです。そうすることで顧客にさらなる利便性と質の高いサービスを提供でき、それが最終的には売上アップや顧客のファン化といった効果に繋がります。
O2Oマーケティングとの違い
オムニチャネルは「O2O(Online to Offline:Offline to Online)マーケティング」と混同されることもあります。O2Oマーケティングとはオンラインからオフラインへ、またはオフラインからオンラインへと集客を繋げるためのマーケティング施策です。
たとえばECサイトに訪れて商品を購入した顧客に対して、実店舗で使えるクーポン配布して実店舗への集客を促したり。実店舗で掲示しているQRコードを読み取ることでECサイトへ誘導したり、こうしたオンラインとオフライン間の顧客の流れをコントロールします。
近年は「ショールーミング化」といって、実店舗で下見した商品をオンラインで検索して低価格で提供しているECサイトで購入するという問題が小売業界で深刻になっています。特別なブランディングができていない店舗では、ショールーミング化によってどんどん経営が苦しくなっているところもあるでしょう。
O2Oマーケティングはこうした問題を解消するために、オンラインとオフラインでの顧客の流れをコントロールすることで顧客の囲い込み効果があります。
しかしO2Oマーケティングやクーポンやセール情報といった顧客にとって経済的なメリットありきのマーケティング施策なので、新しい顧客の集客には適していますがリピーターの創出や定着といった効果は期待できません。そこで、オムニチャネルによって今までにない革新的なサービスを提供し、リピーターの創出や定着といった事業上重要な効果を狙います。
オムニチャネル成功のポイント
オムニチャネルに成功することで企業は多大な利益を得られます。オムニチャネルの元祖とされているMacy'sは、2010年から2011年にかけてのオンラインでの売上を40%増加させ、さらに大幅な在庫圧縮に成功しています。さらに2016年に開催した「7月のブラックフライデー」では記録的な売上(米メイシーズの100店舗閉鎖から見える「店舗とEC」「オムニチャネル」の行方)を達成したようです。
企業がオムニチャネルを実践するためには組織全体で改革に取り組むことが大切です。ここでは主な成功ポイントを解説します。
ロードマップ策定
オムニチャネルを新しいプロジェクトとして成功させるためにはロードマップの策定がとっても重要です。具体的には「何をいつまでにやるか?」「どこまでオムニチャネルで対応するか?」を検討していきます。これらを正確に決定していくためには自社を取り巻く環境を分析する必要があります。
- 業界の中で企業はどういったポジションにあるのか?
- 企業の強みと弱みは何か?
- 競合他社の動向はどうなっているか?
- 顧客のニーズや購買行動にはどういった特徴があるか?
これらの分析を行い、現状把握を十分に行ったうえでロードマップを策定していきましょう。
社内体制づくり
小売業界の場合は店舗統括部門、EC運営部門、カスタマーサポート部門、情報システム部門などチャネルごとに部署が分断していることが一般的です。しかしながら「あらゆるチャネルを統合・連携して顧客に新しいサービスを提供する」という理念を現実にするためには、こうした縦割りで分かれている組織体制がオムニチャネルを阻害します。
店舗運営を担当する部署からするとEC事業に力を入れることで自部署の売上がEC部門に取られてしまうのではないかという意識があります。そのためオムニチャネルに取り組もうとする小売業の多くが、この課題に悩まされています。しかしここは社内体制を整えるという方法で乗り切らないと、オムニチャネルの成功はあり得ません。
販売チャネルごとに顧客を囲い込む意識をいったん取り除いてから、すべてのチャネルの役割を整理・定義した上で、チャネル間での顧客の流れをコントロールすることが大切という意識を植え付けないといけません。
データ連携、システム統合
オムニチャネル成功で欠かせないのがデータ連携とシステム統合です。商品情報や在庫情報、顧客情報、対応履歴、オンラインでの商品閲覧履歴・購入履歴・ポイント履歴といったすべての情報を統合し、店舗担当者もEC運営者も同じくこれを確認できる状態を整えます。
そうすることでオムニチャネルを事業戦略とからめて、効果の高い施策を展開することが可能です。
店舗用ハードウェアの刷新
既存のPOSシステムではECサイトやその他チャネルとの連携が難しいため、iPadなどのタブレット端末の導入を積極的に検討し、あらゆるチャネルとの連携と情報の記録を行うことが大切です。
オムニチャネルにDynamics 365を
いかがでしょうか?これまでオムニチャネルを実現できるのが大企業だけという認識が強かったものの、最近では革新的なIT製品の登場によって中小企業でもオムニチャネルを実現できる時代です。マイクロソフトが提供するDynamics 365はオムニチャネルの成功に貢献するクラウドERPです。オムニチャネルに取り組む際は、Dynamics 365の活用をぜひご検討ください。