Power Appsはプログラミングの必要なく、誰でも手軽にアプリが作れる画期的なツールですが、それを可能にしているのがシームレスなデータベースである「Common Data Model(CDM)」です。本記事ではデータモデルの基礎知識から、CDMの役割と利用方法まで、役立つ情報をくわしくご紹介します。
Power Appsにおけるデータモデル
CDMの役割を説明する前に、まずPower Appsとはどういうもので、データモデルは何なのか知っておく必要があるでしょう。ここではこの2つについて詳しく解説します。
Power Appsとは
Power Appsとは、ローコードで簡単にアプリを制作できる、ビジネスアプリ作成ツールです。ローコードとは、通常のアプリケーション開発に使われるコード量よりも、少ない量のコードを指します。記述する量が少なくて済むため、プログラミングの専門家でなくても、excelのような関数を入力するだけで、簡単にビジネスアプリを作成できるのがメリットです。
ビジネスの世界では、複数のビジネスアプリを統合したDynamics 365がよく使われていますが、ここで提供されるアプリケーションだけで組織全体が回せるわけではありません。Power AppsはDynamics 365ではカバーしきれない業務をDX化するため、たいへん有効なツールです。そのため、Dynamics 365との親和性も高くなっています。
データモデルとは
データモデルとは、ビジネスで使用するデータを格納・利用するために、関係や構造を特定の表現形式で示した図面になります。
データモデルは以下の3つで構成されます。
- アトリビュート
商品名や注文番号、取引先名や住所などデータを表す項目や属性のこと。 - エンティティ
アトリビュートよって説明される対象のこと。たとえば商品名や商品番号は商品を説明するためのものなので、エンティティは「商品」、顧客の住所や電話番号は顧客情報を説明するものなので、エンティティは「顧客」となります。 - リレーションシップ
エンティティ同士の関係を指します。
例を挙げると、Bさんがりんごを2個、みかんを3個購入したとします。「りんご、2個」、「みかん、3個」というのはそれぞれ別々の商品のエンティティですが、両方をBさんが購入しているので、この2つは双方ともBさんとリレーションシップがあることになります。このようにデータはそれぞれの関係性を紐づけた上で整理されて格納されていると、大変効率的に利用できるのです。
ビジネスアプリ作成に不可欠なデータモデル設計
上記に述べたように、データというのは数字の羅列では意味がなく、双方の関係性や構造が示されてこそ有効に活用できます。特にデータの分析や分類を行う、ビジネスアプリケーションの作成において、適切なデータモデルの設計は不可欠で、それはローコードのアプリ開発でも変わりません。つまり、ローコードでプログラミングの手間は省けても、データモデルの構築に時間がかかっていては意味がないのです。
Power Appsのすぐれた点は、ローコードでアプリを作成できるだけでなく、このデータモデルの提供も自動で行えるところにあります。それについては、くわしく次の項目でご紹介しましょう。
Microsoft Common Data Modelがデータモデルを提供
Power Appsにおいて自動でデータモデルが提供されるのは、Microsoft社の共通データベースである、「Microsoft Common Data Model(CDM)」を活用できるからです。ではCDMについて、以下にくわしくご説明しましょう。
Microsoft Common Data Model(CDM)とは
CDMとはPower Appsの中核をなすデータベースで、顧客情報や売上といったエンティティを管理・格納する上で重要な役割を果たします。
従来のデータベースは専門性が高く、たとえばexcelなどで作成したデータを別のアプリケーションで使用しようとすると、それに合わせたデータ形式に変換しなければなりませんでした。
それに対し、様々なアプリケーションで生成した業務データを統合的に格納し、書き換えなどの必要なく使い慣れたexcelやWordなどのデータを、Power AppsやDynamics 365、Office 365などのアプリケーションで活用可能にしたのがCDMです。
Common Data Modelのエンティティ
CDMは営業、調達、顧客サービスといった各分野に共通するエンティティのデータモデルを標準的に提供しています。サポートされるエンティティとしては、住所やメールアドレス、請求書や地理情報などが挙げられ、SQL Serverのデータ型を用いて実装されています。
さらにはスタンダードエンティティを拡張したり、カスタムエンティティを作成したりすることも可能です。こうしたデータモデルを活用することにより、これまで業務アプリケーション間で生じてきた様々なギャップを調整する手間が省け、特にプログラミングの知識がない人でも、簡単にアプリケーションを作成できるのです。
Power AppsにおけるMicrosoft Common Data Modelの利用
ではここからは、Power AppsでどのようにCDMを利用するのか、具体的に解説していきましょう。
Power Appsのアプリ作成方法としては、自動で作成する方法と、空白のアプリケーション画面からカスタマイズする方法があります。ここではシンプルにできる自動作成の方法をご紹介しましょう。
- まず、利用したいexcelデータを画面上に表示し、利用したいデータの範囲を選択してテーブルに変換します。
- 1をOneDriveなどクラウド上に保存し、いったんexcel画面は閉じます。
- それからPower Appsを立ち上げます。無料でトライアルも可能なので、まずはそれを利用するとよいでしょう。
- 最初の画面で「キャンバスアプリ」、「モデル駆動型アプリ」、「データから開始」の3つの選択肢が表示されるので、「データから開始」を選択します。
- 次の画面に表示される「新しい接続」で「OneDrive」を選択します。
- そこから該当excelデータにアクセスするだけで、アプリケーションが自動的に作成されます。条件ごとの検索なども可能です。
データをクラウド上に保存し、Power Appsから読み込むだけで、瞬時にアプリが作成されるのは、画期的なシステムです。これを上手く活用すれば、売上や顧客情報など大量のデータを部署間や事業所間で共有したり、連携したりすることも容易になります。
CDMの機能を活かして作成したアプリケーションの具体的な活用事例
では最後にCDMの機能を活かして、Power Appsでどのようなアプリケーションが作成されているのか、具体的な事例をご紹介しましょう。
社内決済承認システム
ある大手自動車関連企業では、Power Appsを活用し社内決済承認システムを構築しました。申請者がPower Appsから請求書をアップロードすると決済者に通知が届き、電子メールかPower Apps上で承認可否ができる仕組みになっており、承認可否決議後のファイルもSharepoint上に自動で保存されます。それにより、既存システムとデータが統合され、社内承認フローが大幅に効率化されました。
顧客情報一元管理システム
ある海外の大手通信企業では、顧客サポート情報の形式がスプレッドシート・紙など統一されておらず、社内の情報共有が徹底できないことが課題でした。そこで、顧客からの問い合わせを、社内の担当者がどこからでもアクセスできるチケットとして保存し、進捗管理・情報共有ができるアプリケーションをPower Appsで開発しました。顧客サポートに必要な情報を集約することで、より迅速な問題解決が可能になり、結果的に顧客満足度の向上につながりました。
店舗データ集計システム
ある海外の大手医薬品販売会社では、店舗ごとの報告レポートを手作業で複数のシステムにアクセスして作成していたため、データ収集だけで大変な手間と時間がかかるのが課題でした。
そこでPower Appsを活用し、どこからでもデータにアクセスでき、店舗の販売状況をリアルタイムに閲覧できる、店舗データ集計アプリを開発しました。必要なレポートを自動作成してくれるため、店舗責任者は煩雑な業務から解放され、より価値の高い業務に集中できるようになりました。
まとめ
CDMはこれまでばらばらの形式で保存されていたデータを統一し、一つの場所で管理できる画期的なシステムです。CDMをPower Appsで活用すれば、特別なプログラミングの知識がなくても、アプリケーションを容易に作ることが可能になります。それだけでなく、作成したアプリケーションにより、これまで手作業で行っていた業務を自動化でき、ダイナミックに効率化を進められます。
CDMとPower Appsは、今後の企業のDX化に大きな役割を果たすことになるでしょう。業務の効率化に課題を抱える企業は、ぜひ導入を検討してはいかがでしょうか。