経営戦略において、目標達成の確立を上げるために役立つソリューションとしてビジネスインテリジェンス(BI)ツールの利用がおすすめです。BIツールを活用すれば、データに裏打ちされた計画の立案によって、知識や経験のみに頼った事業運営からの脱却が可能です。また、企業内の各部門で利用することにより、業務効率や利益率の向上が期待できます。本記事では、BI及びBIツールについて解説します。
ビジネスインテリジェンス(BI)とは
Business Intelligence(BI)は、事業運営におけるデータを収集して経営戦略に活かす手法です。1958年にIBMの研究員が使用したことで始まり、その後、ビッグデータやAIといったICTの発達によって一般化しました。現在では、BIツールを導入して経営戦略に活かすことがスタンダードになりつつあり、さまざまなソリューションが提供されています。
BIツールの目的
ではなぜ近年、各企業でBIツールが使われるようになったのでしょうか。
これまで、経営における意思決定は、経験や勘に基づいて行われることも多く、仮にデータを用いたとしてもExcelなどを用いて手作業で分析する必要がありました。ただ、社会のデジタル化が進む中、やり取りされるデータ量は増える一方です。これでは、時間や労力的に限界があるでしょう。
こうした背景で生まれたBIツールは、種類により機能面などで細かな違いはあるものの、基本的には「データを使って、より効率よくビジネスに活かす」といった主たる目的があります。日々収集した膨大なデータそのものは、パッと見てみただけでは単なる数字に過ぎません。そうした生のデータをユーザーが分析しやすいようにグラフなどを用いて可視化し、最終的にスピーディーな意思決定や課題解決を支援することこそが、BIツールの役割です。また、IT部門など限られた組織や、専門的な知識やスキルを持っている人のみならず、誰もが使いやすいように設計されているのも特徴です。
このように、データを活用して業務を効率化させたい、新しいビジネスを創出したいといったニーズを満たすために、BIツールはさまざまな業界で導入、活用されています。
BIツールの主な機能
ここからは、BIツールの主要な機能について解説します。
データウェアハウス(DWH)
データウェアハウス(DWH)は、企業のさまざまなデータを一箇所に収集・保管するためのシステムです。通常、企業のデータはデータベースに保管されます。しかし、データベースは各部門に分かれており、データ体系に違いがあります。そのため、そのまま取り出しても分析に使用できません。
そこで、データ分析するために一度DWHという大容量の格納庫に入れてから取り出します。保存形態を定義することで、分析と取り出しを容易にするためです。
また、データウェアハウスは、並列処理アーキテクチャによってクエリ処理を並行で行えます。これにより低負荷で素早い抽出を可能にしています。
OLAP分析
OLAP分析は、On-line Analytical Processingを略称したもので、オンライン分析処理という意味合いがあります。ここでいうオンラインとはリアルタイムという意味があり、多次元構造のデータモデルを取り扱うことにより素早い集計が可能です。
多次元構造は、六面立体パズルのようなデータ構造となっており、ひとつのブロックで複数の情報を扱えるようになっています。集計した値(メジャー)はブロックに格納して、縦軸・横軸・奥行き(ディメンション)に別の情報が挿入されます。たとえば、店舗ごとの商品の売れ行きを構築する場合、「ブロックに売れた数」「奥行きに期間」「縦軸に商品」「横軸に店舗」というように四つの情報を格納できるわけです。
そして、こうした多次元構造は、以下の3つの解析手法で利用します。
- スライシング
キューブ状になっているデータを断面で切って二次元の表にします。 - ダイシング
縦軸・横軸・奥行きを操作して元とは別の表を作成します。ダイスを転がすようなイメージからダイシングと呼びます。 - ドリルダウン/ドリルアップ
ドリルダウンはディメンションの階層を掘り下げて、ドリルアップでは上位の階層に戻ります。たとえば、期間をドリルダウンした場合、年、月、日にちといったように単位を変更して集計結果を参照できます。 - ドリルスルー
集計の元となるデータを参照します。
データマイニング
データマイニング(Data Mining)はデータ採掘という意味があり、大量のデータをAIや統計学を用いて新しい法則性を見つけ出す手法です。人力では得られない法則性を発見できるため、新しい経営戦略に活かせます。
データマイニングで活用される主な分析方法は以下のようなものがあります。
- クラスター分析
- マーケット・バスケット分析
- ロジスティック回帰分析
クラスター分析は、データから類似性を導き出して分類分けをする手法です。たとえば、売れ行き商品を分析したときに年齢層、日付、天候などを分類して法則を見つけ出します。
一方、マーケット・バスケット分析は、一見関連性のない商品の関係を見つけ出す分析方法です。よく耳にする「おむつとビールという関係のない商品が同時に売れる」という逸話は、このような法則性が隠れています。
また、ロジスティック回帰分析では、ある事象が発生したときから遡ってデータを分析します。これにより未来の事象予測が可能になるでしょう。
レポート作成
分析によって得られたデータは、視覚的にわかりやすいよう、ダッシュボードに表示できます。集計結果は、二次元の表だけでなくグラフにもできて、レポートとして出力も可能です。
IoT製品と組み合わせれば、リアルタイムで遠隔地の情報をグラフ化したり、定型レポートとして定期的にデータを参照したりできます。
BIツール導入のメリット
BIツールを実際に導入した場合、どのようなメリットがあるのか気になる方も多いのではないでしょうか。ここでは、BIツールの導入で期待できる、主な3つのメリットについて解説します。
データ管理を効率化できる
データが各部署で管理されている場合、会社全体や部署横断的に業務をするとなれば、分散しているデータの受け渡し作業が必要になります。膨大なデータ量であれば、その分時間や手間がかかったり、セキュリティ面に注意を払ったりして、データのやり取りには負担がかかりがちです。
その点、BIツールでは、データを一元的に管理できます。社内にあるデータを一カ所に集めることで、各社員からのアクセスもシンプル化でき、必要なときに必要な分だけデータ抽出できるため、これまでのような労力はかかりません。業務効率化のみならず、情報漏えい防止など、セキュリティ面でも安心感が得られるでしょう。また、部署間で連携した施策やプロジェクトがより活発に実施できるようになれば、斬新なビジネスモデルの創出も期待できるかも知れません。
このように、社内の誰もがデータへの理解を深め、各人の業務に活かせるようになります。
レポート作成が容易になる
前述したように、BIツールの機能は、データの可視化や分析支援のみにとどまりません。分析した結果についてBIツール内でレポートまで作成できる点も大きなメリットです。
もしBIツールを使わない場合、たとえば定期的にExcelで表を作り、PowerPointに貼り付けて資料を作り、関係者へメールで送付する、といったように多くの作業が必要になるでしょう。このような、いわば半ルーティンのような作業に多くの時間や手間を割いてしまうと、データを見て深く分析するといったことに時間をかけられず、中途半端な分析しかできないリスクが発生します。
BIツールは、ツール内でレポートを作成できるだけはなく、関係するメンバーへの共有も容易に実現できます。ひいては、分析や考察といった、組織が意思決定するために重要な作業へ注力できるようになるでしょう。
迅速な意思決定・経営判断が可能になる
目まぐるしく変化する市場で他社よりも優位に立つためには、常に社内外の最新情報を入手し、迅速に対応していくことが不可欠です。その点、BIツールではタイムラグがほぼ発生しないため、リアルタイムで自動的に最新の状況を把握できます。
また、専門的な知識やスキルを持たずとも、直感的な操作で見たい部分にフォーカスして確認できるのもBIツールの強みです。自社や自組織にとって、何が課題なのかを迅速に見極められれば、早期発見によってトラブルを最小限に抑えられるようになります。
各部署における事業の進捗状況を一目でチェックしたい、ビジネスチャンスを逃さないように経営判断をスピード化したいと考える企業にとっては、BIツールの導入が適しているでしょう。
BIツールの導入デメリット
変化の激しいビジネス社会において、BIツールを導入することには、多くのメリットがあります。ただ、あらかじめ気を付けておかなければならないデメリットも存在するため、注意が必要です。ここでは、主な2点について解説します。
最適なツールを見つけることが難しい
BIツールは、ベンダーからさまざまな種類が提供されています。そのため、自社にとって最適なツールはどれなのか、何に注目して選べばよいのかわからないと感じるかも知れません。
導入前には、何のためにBIツールを導入するのかといった「利用目的」や、どの組織で何名ほどが使うのかといった「利用規模・人数」などをある程度確認することが大切です。また、ツールの紹介サイトでは多くの情報が載っているものの、現場で実際に使う場合の操作感や使いやすさなども、できれば事前にチェックしておきたいところです。
ただ、これらをすべて確認した上で選ぶことは現実的に難しかったり、思わぬ時間がかかったりすることが往々にしてあるでしょう。このように、BIツールは便利で多くのメリットがある反面、選び方については難しいところもあります。
運用するまでに手間がかかる
自社に最適なBIツールが見つかり、無事導入できたとしても、実際に運用するまでにはさらなるハードルがあります。BIツールを使う担当者は操作に関する説明会に参加し、PC設定を行い、日々の業務でスムーズに使えるように練習する期間が必要でしょう。万一、うまく使えない担当者がいれば、社内でフォローする体制の構築も検討しなければなりません。
つまり、BIツールが誰でも使いやすいものだとしても、まったく新しいシステムであるため、日常的に使い慣れるためには、やはり相当の期間や手間を要するということへの理解が不可欠です。ツールはあくまで手段であり、目的ではないことも意識しておく必要があります。
BIツールを導入する際は、最大限活用できるように社内体制を整えておきましょう。
BIツールを選ぶポイント
BIツールもさまざまなソリューションがあるものの、適切なものを選ばないと、思うように効果を得られない可能性があります。そこで、以下のポイントを参考にして自社に合ったサービスを選択してください。
- 自社の予算との適合
- 使いやすさ
- 既存システムとの相性
- 自社の業種との相性
- 必要な機能の搭載
- サポート体制
BIツールは、無料と有料のものがあるため、自社の予算に合ったものを選ばなくてはなりません。また、自社のシステムや業種との相性も確認が必要です。これらと適合しない場合には、導入しても意味をなさない可能性があります。
BIツールの活用事例
ここからは、すでにBIツールを導入している企業ではどのように活用されているのか、実際の業務に応じた活用事例について紹介します。業務によって活用方法はさまざまであるものの、一般的な事例を通して導入へのイメージがわきやすくなるでしょう。
経営・財務分析
企業にとって、財務分析は経営の根幹に関わるため、スピーディーかつ正確に実施することが不可欠です。ただ、データが分散していれば、それぞれの情報を確認するのにファイルを開き直す手間が発生したり、最新化されているかが分かりにくかったりするでしょう。
その点BIツールであれば、会計や販売管理、在庫管理といった最新の各種データを一元的に取り込み、ダッシュボードと呼ばれる表やグラフにまとめられます。それにより企業の状況を一目で把握できるようになり、経営や財務に関する真の課題に対して、素早くアクションを打てるようになるでしょう。
営業・売上分析
営業部門でも、BIツールはよく使われています。たとえば「この店舗では○月からある商品の売上が顕著に上がっているので、商戦期にはその商品に関連した広告を増やし、さらなる販売拡大を目指す」といった判断ができるようになります。
また、データ分析の結果をレポート化し、取引先との商談へ持っていくことで、データに基づいたより確かな営業提案が可能になるでしょう。各種分析をする際に、事実から導き出せる数値を用いてしっかりと根拠を示せれば、取引先からの信頼感が増し、受注につながりやすくなります。
人事データ分析
少子高齢化が進み労働人口が減る中、限られた人材をいかに最適配置し活性化させるかは、多くの企業で課題と認識されています。そこで人事部門に、BIツールを活用しているケースもよく見られるようになりました。たとえば各組織の出社率を可視化することで、さらなるリモートワークを進めたり、スキルチェックの結果をデータで一覧化し、ジョブ型評価に役立てたりする例もあります。また、人事データを使って、それぞれの人材が持つ強みを活かす配置も可能となります。このように、人事においても、データに基づいて何らかの意思決定を下す必要があるときに、BIツールは活用されています。
残業分析
働き方改革やワークライフバランスに取り組む企業が増える中、残業分析のためにBIツールが活用されている例もあります。経営側にとっては、社内で働き方改革を進めようとしてもうまくいかないときに何が問題なのかわからない、といった悩みはよく見られます。また、工場での工数管理と勤怠管理とを連携させた上で残業分析をしたいのに、異なるシステムのため、情報の統合に手間や時間がかかる、といった悩みもBIツールのデータ分析や集約機能が解決します。必要なデータをBIツールによって一元的に管理し、うまく組み合わせることで多角的に分析できるようになるでしょう。
まとめ
BIツールを使えば、社内に分散したさまざまなデータを一元的に集約し、可視化することで分析が可能です。業務効率化や迅速な意思決定を実現できるため、財務分析や営業分析、人事でも活用されるシーンが増えています。
人気のBIツールとしては「Microsoft Power BI」があります。抽出するデータは、オンプレミス・クラウドと環境を問わず使用できるため、さまざまな企業で使いやすいのが魅力です。また、高いセキュリティ環境でデータを厳重に保護してくれるのもメリットでしょう。無料トライアルも用意されているため、機能面を含め、操作性や使いやすさも実際に確認してみてはいかがでしょうか。