デジタルが様々な業界で大きなインパクトを与えています。その中でもとりわけ影響を受けているのが小売業でしょう。ここ数年では、消費者の購買行動がデジタル化したことにより、実店舗がショールーミング化するという深刻な問題があります。そのため小売業者の多くがオンラインショップを中心としたビジネス運営を余儀なくされています。
もちろん、オンラインショップを展開することはチャネルを広げるという意味では大きなメリットです。小売業者によってはオンラインショップを数年運用したことで、実店舗の利益を上回ったという事例もあるほどです。
こうしたデジタルの影響は今後も続くことでしょう。そこで今回は、小売業者が押さえておきたい7つのトレンドをご紹介します。
デジタル インストア エクスペリエンス
小売業者のオンラインショップが当たり前になったことで、消費者と企業の新しい接点が生まれ、消費者の購買プロセスを大きく変化させました。小売業が持つテクノロジーには破壊的な影響力があるにもかかわらず、その波及はほとんどオンラインに限定していたのです。
しかし最近になり、実店舗のエクスペリエンス(体験)にもようやく影響を及ぼし始めています。この変化を推進している要素が「テクノロジーコストの低下」と「ユビキタスインターネット」です。
従来に比べてテクノロジーコストが大きく低下していることは、皆さんが普段から感じているところでしょう。たとえば「大企業や官公庁が導入するもの」を考えられていたERP(Enterprise Resource Planning)は、クラウドサービス化が続き、中小企業でも導入が当たり前の製品になりました。
ユビキタスインターネットとは「あらゆるところでネットワークに接続可能な基盤」を指します。IoT(Internet of Things)と異なる点は、IoTがあらゆるモノをネットワークに接続することをコンセプトにしており、ユビキタスインターネットはモノに執着せず、さまざまなシーンや場所でネットワークに接続できる状態ということです。
たとえば、大手小売業者の多くは店舗でのタブレット活用を推進し、スタッフ1人1人がタブレットによってクラウド上のデータにアクセスし、接客している光景をよく見かけます。
ある酒店では、販売方法を対面からセルフサービスに切り替えたことから名前の読み方が難しい商品のマーケットシェアが8.4%増加したそうです。これは商品名を読み間違える心配が無くなったことによるもので、デジタルが実店舗に与える影響は着実に拡大しています。
ビッグデータがより身近に
一時期、爆発的に浸透した「ビッグデータ」ですが、最近になりそのブームが再熱しています。これまでビッグデータの活用は顧客効果の高い広告や、類似商品のレコメンド、オンラインマーケティングとオンラインショップに限定されていました。しかし、データの追跡/集計/処理の能力が向上したことで、小売業者がこれまで成し得なかったようなデータの活用方法が実現しています。
小売業者はビッグデータ活用において「商品管理」「店舗運営」「サプライチェーン」「損失防止」に大きな機会があると考え、ビッグデータは需要予測とサプライチェーンのモデリングに大きな効果があると考えています。優れた分析ツール(BIなど)を活用することで、これらの効果を現実のものにできます。
バリューチェーンをコントロールする小売り企業
SCM(Supply Chain Management)の重要性が以前から叫ばれていますが、最近ではそれに加えてバリューチェーンのコントロールが強く求められています。「価値連鎖」といって、製品製造/販売プロセスにおける仕入れから生産、販売にいたるあらゆるプロセスで何らかの価値が生まれていて、その価値が連鎖的に繋がることで消費者へ最終的な価値を届けられるという概念です。
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特に最近ではシェアリングエコノミーが小売業に与える影響が懸念されており、小売業者はバリューチェーンを全体的に管理し、高い価値を提供することが重要となっています。ちなみにシェアリングエコノミーは2025年までに3,350憶ドル(約36兆7,000億円)にまで成長するそうです。
小売りエクスペリエンスの再定義
小売業でショールーミング化が進んでいると前述しましたが、あえてショールーミングを活用してビジネスを展開する小売業者が増えています。消費者の購買プロセスを変化させることはもはや難しいフェーズに来ており、今後もニーズの多様化は止まらないでしょう。米国では男性53%/女性40%の人がショールーミングを経験したことがあるというのですから、このリスクを考慮したビジネスが欠かせない時代です。
たとえばギリシャヨーグルトを製造/販売するChobani社は、ニューヨークにChobani SoHoカフェをオープンしています。消費者はここで新商品や新しいレシピを試すことができ、ショールーミングありきのビジネスを展開しています。
オムニチャネルの到来
World Wide Webを表す「www」は、今やWhat(欲しいものを)/When(欲しいときに)/Where(欲しい場所で)手に入れることを意味しています。小売業者はこれに最大限応える必要があり、それが今後の事業拡大にも繋がります。
そこで注目されているのがオムニチャネル(Omni Channel)です。これはあらゆる販売チャネル/コミュニケーションチャネルを統合し、オンラインとオフラインの境界線を取り払ったエクスペリエンスを提供するという概念です。
小売業ではその売上がオンラインばかりに取られていると考えられがちですが、たとえば消費者の10,000円の出費のうち、9,500円はまだオフラインで出費されています。そのためオムニチャネルを実現することで、オフラインはもちろんオンラインでの収益を効率良く拡大することが可能です。
ソーシャルメディアによる新しいeコマース
Facebook、Twitter、Instagram、Pinterestなどソーシャルメディアを活用した小売ビジネスが拡大しています。消費者のSNSにける商品検索率などは年々上昇傾向にあり、この巨大なプラットフォームを無視できない状態です。
さらに、今後は小売業のための新しいSNSが続々と登場することが予測されており、ソーシャルメディアビジネスを視野にいれた事業戦略が必要です。
小売りのボーダーレス化
小売業界の売上高は世界的に増加しており、特にオンラインと合わせた売上高は急激に伸びています。そうした中で越境ECといった、海外市場を相手にしたオンラインビジネスが流行しています。
現段階で、多くの企業は越境ECに苦戦しているものの、今後は小売りのボーダーレス化が進み、越境ECで継続的に安定した収益を得られる基盤が整えられていきます。
以上のように、小売業界では様々なトレンドがあるため、小売業者としてこれらのトレンドを十分に把握した上で、それに沿った事業戦略を立てていくことをおすすめします。